世界の体外診断薬市場は 年間2兆2千億円(日本は米国に次いで約15%の市場)。
その中でも、ゲノミクス、プロテオミクス、グライコミクス、メタボロミクス
等「オミクス(Omics)」分野のバイオマーカーを用いた分子診断市場は 近年
2ケタ成長で発展している。臨床検体等を用いてタンパク質等の構造解析を行
うための前処理法の開発にこのほど島津製作所(田中先端技術研究所)は成功
した。これは多種多量に存在する分子の中から、抗体を用いて微量ターゲット
分子のみを特異的に選択する「フィッシング」を行い、次世代質量分析システ
ム全体の感度を向上させるための革新的前処理法だ。これまで使われていた抗
体は生体が作り出したものや生体関連物質を用いて構造を変化させたものを利
用していたが、抗体のヒンジ部に自由度がほとんど無いため、抗原を捕捉する
能力が限られていたが、同社も抗体ビーズと質量分析装置を用いた高感度測定
法に、生体試料中の目的ペプチドの濃縮法や安定同位体での発現タンパク質標
識・ディファレンシャル解析法の開発に加え、抗体の Fab領域(Y字型の"V"の
部分)に相当するペプチドとして 化学合成したベータアミロイドを用い 動物
細胞で作成したFc領域(Y字型の"I"の部分)との間を、人工関節に相当するバ
ネ状構造を持つ非ペプチドをリンカー(ヒンジ部に相当する)を結合・合成し
た物質(ベータアミロイド/非ペプチドリンカー/動物細胞で作成したFc領域)
を同社の質量分析装置(MALDI-TOF-MS)で確認後、ベータアミロイドに特異的
に結合するモノクローナル抗体との結合能力を表面プラズモン共鳴法で検出す
方法を新たに開発した。「フィッシング」の概念図
この方法を用いることで、結合能力が飛躍的(百倍以上)に向上し、ヒンジ部
の自由度の拡大で抗原を幅広く「面」で捉えることができ、捕捉効率が飛躍的
に高まったという。いわば「抗体のヒンジ部の非ペプチド置換法」で抗体のFab
領域を伸張性も含むフレキシビリティーの高い「可変抗体」に変換することに
世界で初めて成功。その化学構造は質量分析装置(MALDI-TOF-MS)によって評
価できることも明らかとなったという。
図 従来の抗体と今回開発した「可変抗体」との違い
これにより、1滴からさまざまな病気の早期診断ができ、がんや生活習慣病な
どの特定のたんぱく質(抗原)をバネ状の人工物(ポリエチレングリコール)
を組み込み、前後左右に腕が伸びて抗原を幅広く捕まえるよう設計することで
微量でも漏れなく捕まえる抗体をつくることで、多くの抗原をしっかり捕まえ
抗原と抗体の結合力が高まり、例えば、アルツハイマー病の発症にかかわる抗
原を捕まえる抗体にこのバネを組み込むとで診断が可能となるという。
※「表面プラズモンの基礎と応用」
■
島津製作所の大きなニュースと同時にオリンパスの粉飾決算のニュースも飛び
込んできた。それによると英国人社長の解任で表面化した不透明な企業買収は、
1990年代からの投資損失を処理する偽装工作だったという。弁護士らによる同
社の第三者委員会の調査で判明したという。オリンパスは内視鏡で世界トップ
という日本を代表する優良企業だが、わたしたちの研究開発でもオリンパスと
いえば顕微鏡やデジタル写真装置、画像処理装置の中核メーカだったのだが、
一連の不正経理疑惑は、海外でも大きく報じられた。オリンパス1社にとどま
らず、日本企業全体の統治能力やコンプライアンス(法令順守)への信頼を失
墜させかねない状態だという英米の報道論調は、なんとも奇妙な感覚で受け取
ったが「悪銭身につかず」「朱に染まれば赤くなる」などの言葉を連想させる
反面、医療機器メーカ買収の長期的戦略が頓挫するだけでなく、欧米からの企
業買収によるオリンパス技術の散逸ダメージの影響が大変心配されるところだ。