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日々の恐怖 6月26日 お盆(2)

2016-06-26 20:27:59 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 6月26日 お盆(2)



 母を見ると、みるみる表情が変わっていく。
そしてボロボロと大粒の涙を流し泣き始めた。

「 じいちゃんがそう言ったの?」

母が尋ねると長男はコクリと頷き、テレビに視線を戻した。
母は30分近く泣き続け、意味の分からない俺達に事情を話し始めた。
 父と母は大の旅行好きで、小さい頃は家族でよく旅行に出掛けた。
俺を始め子供達が大きくなって部活などで忙しくなっても、夫婦二人でよく旅行に行っていた。
質素な生活の中でそんなちょっとした旅行が両親の趣味だった。
 父が亡くなる前の晩、母は父に何気なく尋ねたそうだ。

「 今まで行った所で、どこが一番楽しかった?」

父は、

「 いろいろ行ったし、どこも楽しかったからなぁ・・・。」

と明確に答えなかったらしい。
そして翌日の夕方、事故で亡くなった。
 父はずっと保留していた返事を、初孫である長男に伝言を頼んだのだろうか。
母は、

「 どうして私に直接言ってくれないんだろうねぇ。」

と泣き笑いだった。
 祖母はニコニコしているだけだった。
しかし父が出てきたのはその時だけで、見たのは長男だけだ。
 後日、長男に父の事を聞いてもいまいち要領を得ないし、中学生となった今ではその時の事は全く覚えていない。
それから毎年お盆の期間には俺達夫婦を始め俺の弟達も帰省して、みんなで両親のアルバムを見るのが恒例となった。
 長崎のどこが楽しかったのかと母に聞いた事がある。
母は、秘密とニコニコして答えるだけだ。
新婚旅行で訪れた長崎でどんな思い出があったんだろうか。
今年もお盆が近づいてきた。











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