日々の恐怖 3月22日 曲がり角
私が大学生の夏休み、知り合いに頼まれて個人の産婦人科の病院にアルバイトに行ったことがある。
病院はこじんまりとしてまだ新しく3階だか4階建てのきれいな建物だった。
夫婦で切り盛りしてる感じで、病院の一番上に住居を構えていて24時間体制の自然分娩を行っていた。
資格を持っていないので、掃除だの配膳だのひたすら誰かの手伝いが仕事だった。
その中で泊り込みでの電話番の仕事もあり、看護婦さんと交代で仮眠を取ることができた。
寝つきの良い私は仮眠室のベッドに横になるとすぐ眠れたのだが、ある日急に目が覚めたことがある。
ホントにパッと一瞬で目が覚め、はっきりした頭でなんで目が覚めたんだろうと不思議に思った。
その後すぐに異変に気がついた。
アニメのように毛という毛が逆立っていたのだった。
何も見えないし聞こえないのにぞーーっとしてるのが続いた。
気持ち悪かった体験はこれだけなんだけれど、バイトが終わってからは病院には行っていない。
それから6、7年後。
奥さんは自殺して、医院長は行方不明、廃墟となった病院には幽霊が出るという話を聞いた。
誰もいないはずの病院の窓から歩く人影が見えるらしい。
そして、そこはいつの間にか心霊スポットとして有名になっていた。
話を聞いて、懐かしくなり張り切って行ったのだが、どうしてもその病院にたどりつくことが出来なかった。
大通りまでの道とだいたいの方向は覚えているけれど、曲がるところが解らない。
夏休み中、自転車で通ったのに曲がるところも、その後の道のりもすっぽり抜け落ちていた。
その後10年も、その大通りをたびたび通っていたが思い出せないでいた。
ところが、今年になって大通りを通ったときにふいに思い出した。
“ そうだここだ、曲がってすぐ神社があって鳥居が目印だったんだ。”
何で忘れていたのかも分からない。
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