日々の恐怖 5月21日 じーちゃん
前にじーちゃんが亡くなった時の話です。
俺ん家とじーちゃん家は隣り町で、ジジババっ子の俺は小さい時は毎週末のように遊びに行って、
サザエさん見てみんなで飯食って帰るのが日曜の楽しみだったんだけど、
社会人になってからは仕事が忙しいのと住んでるトコも離れちゃって、
ここ4、5年は盆暮れ正月くらいしか顔を出さなくなってた。
それでもジジババは満面の笑みで迎えてくれたりして、もっと短い間隔で来れたらなぁとか思ってた。
んである日の朝、会社行く支度してたら突然ばーちゃんから電話があって、
『朝起きたらじーちゃん突然冷たくなって全然動かない』って震えた声で言われて、
会社に連絡すんのも忘れて飛んでった。
じーちゃん家についたら、俺の両親とばーちゃんと親戚の人が先に来てて、
じーちゃんの寝てる布団の周りに座って泣いてた。
最初はいつもと変わらないじーちゃんの顔で布団に寝てる姿を見て、ぜんぜん実感がわかなかったけど、
そばによってじーちゃんの額をさわったらヒヤッとして、
” あぁ、ほんとに死んじゃったんだ。”
と思ったら、ボロボロ涙が出てきてめっちゃ泣いた。
それから滞りなく葬儀の準備が進んで、自宅から葬儀場に移動する前日の夜、じーちゃん家側のイトコ家族がやってきた。
俺と歳の近いイトコの兄ちゃんと奥さん、2歳になる娘さんの3人で。
線香あげて飯食って、歳の近いイトコの兄ちゃんとはよく遊んだりしてたんで、
思い出話なんかして、また2人してちょっと泣いてってしてたら夜も遅くなったので、
イトコの兄ちゃんは子供寝かせなきゃだから一旦帰るってなった。
俺は手伝いなんかもあるから、じーちゃん家に寝泊まりしてたんで、
「 また明日、斎場で。
明日は泣くなや。」
なんて言って、玄関先まで送ってったんだけど、そのとき2歳の娘さん(Aちゃん)が突然玄関出て2歩くらいの所で、いきなり、
「 じーじ!じーじ!」
と言い出した。
名残惜しいのかなと思って、俺が、
「 じーじ、さよならなんだよ。」
ってAちゃんに言ったら、またAちゃんが、
「 こりゃいいや!こりゃいいや!」
って、人差し指を立てながら、
「 じーじ!こりゃいいやー!」
って言いながら笑った。
俺はうんうんと言いながら、Aちゃんに、
「 じーじ、まだその辺にいるのかなぁ?」
なんて冗談を言ってみた。
ちなみに”こりゃいいや”ってのはじーちゃんの口癖で、子供とか見てて嬉しくなるととすぐ言うので、
やっぱ子供に印象に残りやすいんだなって思った。
俺はAちゃんのおかげで少しほっこりして、そのままイトコ家族は帰っていった。
次の日はお通夜、俺と俺の父親と数人の親族は斎場で寝ずの番の役になった。
寝ずの番てのは俺の地元だけなのか、全国共通か分からんが、
朝まで棺桶の前のロウソクの火を絶やさないようにしないといけないので、
時折様子を見る役、ゴッツイロウソクなので朝まで余裕で火は消えないけど、風習として残っている。
寝ずの番と言っても交代で寝る。
その寝ずの番の中にはイトコの兄ちゃんもいて、控室みたいな別室で、
最初は数人で酒を飲みながら談笑したり泣いたりしてたんだけど、
2~3時間くらいしたら親父含む親族は皆寝てしまった。
起きてるのが俺とイトコの兄ちゃんだけになって、兄ちゃんが突然、
「 なぁ、昨日はちょっとビックリしたな。」
と言ってきた。
「 は・・?」
と思って、
「 何が?」
って聞き返したら、兄ちゃん、
「 そうか、気づいてなかったか。
いや、昨日Aが”こりゃいいや”って言ったろ。」
「 うん」。
「 ウチのAは物心がついてから後、じいちゃと会ってないんだよ。
それに”こりゃいいや”なんて普段日常で使わないだろ?
それに家でも一回も言ったことないんだよ。
だから、びっくりした。」
俺はやっぱり、
「 は・・?」
ってなって、そんで、やっぱりじーちゃんは昨日あの時玄関にいたんだ、
いま考えるとAちゃんが指差してたのもじーちゃんだったんだ、
と気づいて、こんな体験をしたことが無い俺はちょっと、
” ゾクッ!”
とした。
でも、よくよく考えたら、Aちゃんをあやしてたじーちゃんはきっと笑顔だったんだろう。
そうゆうじーちゃんだったからなぁ、と思ったら、幸せに逝ってくれたんだなと思って、先ほどのゾッとした気持ちは吹き飛んで、またちょっと泣けた。
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