日々の恐怖 6月20日 ミステリー
2年前の冬に男2人でA市内のビジネスホテルに泊まった。
部屋は上層階の隣り合わせのシングル。
翌朝の7時前オレがまだ部屋で寝ていると、激しい音でドアを叩く音がした。
眠い目をこすりながらドアを開けると、そこにはオレの相方が浴衣姿で真っ青な顔をして立っていて、その横には困惑気味の表情をしたフロントマンがうつむき加減で立っていた。
事情を聞くと、こんな話だった。
相方が6時半頃に目を覚まして、部屋の中を見渡すと何か様子がおかしい。
ハッと気付くと、まず荷物が無い。
ハンガーに吊るしてあったスーツがない。
まさか泥棒でもあるまいしと思った相方は、取り敢えず廊下に出て部屋番号を確認してとんでもないことに気付いた。
部屋番号が昨夜寝た部屋番号と違うのだ。
はっきりとした部屋番号はオレ自身記憶してないのだが、仮にオレの部屋番号が1025だとすると、相方は1026号室で寝たはずだ。
それが朝出てきた部屋のドアに表示された部屋番号が1027だったのだ。
相方は良く事情が飲み込めないまま1Fに降り、フロントマンに同行を依頼して、合鍵で1026号室のドアを開けてもらった。
するとそこには荷物もあり、ハンガーにはスーツがちゃんと吊るされていた。
そしてベッドのフトンには明らかに寝乱された形跡があった。
相方は間違いなく1026号室に入り、そこで眠りに就いたことがこれで証明された。
では何故相方は1027号室で目を覚ましたのか?
その場でフロントマンを含めた3人で様々なケースを考えてみた。
まず相方が夜中に室外に出て、間違って隣室に入ってしまったというケース。
これは当の相方が入室後室外に出た記憶は一切ないと言うし、何よりもフロントマンの話によると、その夜1027号室は空室でオートロックのために、中に入ることはまず不可能だと言う。
次は、相方が寝ぼけてベランダづたいに隣室に入り込んで、そこのベッドで寝込んでしまったという馬鹿げたケースだが、そもそもこのホテルは月並みなビジネスホテルでベランダなどない。
それどころか窓をあければ垂直に30m以上切り立った外壁だ。
ではどうやって相方は隣室に入ることができたのか?
寝ている間に隣室のベッドに瞬間移動したというのでも言うのか?
チェックアウト時に支配人の方が来られ、
「 このことはあくまでもご内密に・・・・。」
ということで5泊分の無料宿泊券をいただいたが、その後、A市出張は何度かあったものの、2度とそのホテルに泊まったことはない。
勿論当の相方もだ。
1027の部屋が使われた形跡の確認はどうだったかと言うと、まず、不審に思った相方は、廊下に出た。
その時ヤツの頭の中には、ルームキーのことなどはすっかり抜け落ちていた。
廊下に出てルームナンバーを確認したときに、1027号室のドアが閉まってしまい、オートロックがかかってしまった。
この時点で、彼は1026号室にも1027号室にも入れなくなった。
仕方がないので1Fのフロントへ降りて、フロントマンに事情を説明し、相方とフロントマンの2人は、1026の合鍵と1027のルームキーを持って10Fに戻った。
相方とフロントマンは、まず1026の室内に入った。
そこで2人が見たものは、前述のように相方の荷物とハンガーにかかったスーツ、明らかに相方が就寝したと思われるベッドのフトンの乱れ。
そして何よりも重要なのは、ルームデスク上に置かれていた1026号室のルームキーだ。
続いて相方が朝目を覚ました1027号室に2人は入った。
そもそも前夜は空室だった1027は、前日昼間の掃除でベッドメーキングはちゃんと行われていたはずだ。
しかしベッドには明らかに誰かが寝た形跡があった。
多分相方が寝ていたのだろう。
ちなみに当然のこと、1027のルームキーは室内には見当たらなかった。
ルームキーはその時、フロントマンの手に握られていた。
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