大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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B,日々の恐怖

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☆(  しづめばこ P574 )                          

日々の恐怖 12月31日 カカシ

2013-12-31 18:50:25 | B,日々の恐怖



     日々の恐怖 12月31日 カカシ



 年末から年明けにかけて、俺は実家の在る群馬に戻って郵便局でバイトをしていた。
高校2年の時から長期休みの時は必ずこの郵便局でバイトをしていた。
田舎な事もあって、その郵便局の配達ルートを全て覚えていた。

 そんな事もあって、局員には「即戦力が来てくれた」と喜ばれた。
今回初めて郵便局でバイトするという工房Sの引率を任されてしまった。
早い話が、2,3日一緒に配達して、配達ルートを覚えさせろという事だ。

 このS、かなりの御銚子者で、俺とは直ぐに冗談を言い合える仲になった。
こいつが配る所は50ヶ所程度。
配る家は少ないが、次の配達場所まで滅茶苦茶遠い、俗に「飛び地」と呼ばれている地域だ。

 バイトを始めて8日目だった。
俺とSの配達地域は隣同士だった事もあり、局に帰る時にバス停横の自販機で待ち合わせをしていた。
 その日、Sは目を真っ赤にして涙を流しながら、猛スピードで自転車を漕いで現れた。
時間は17時になろうとしていて、バイトは局に帰らないといけない時間を大幅に過ぎている。
 転けたらしく、顔も服も自転車も泥まみれだった。

「 どうしたんだ?」

と聞くと、

「 ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ。」

を繰り返すだけで要領を得ない。
俺は配達物を破損・紛失したのかと思って、

「 とりあえず局に戻るぞ。」

と言って、Sを引っ張って局まで戻った。

 Sの姿を見た集配課の課長が何事かと駆け寄って来た。
課長が、

「 どうした? 手紙をなくしちゃったのか?」

と聞くと、Sは

「 全部配りました。」

と言った。
 どうにもこうにも要領が得ず、俺が、

「 何があったんだ?」

と聞くと、

「 信じてくれないから。」

とSは言った。

 その後、数名の局員が帰って来て同じ様な事をSに聞いたが、“信じてもらえないから”の一点張り。
一人の局員が、

「 もしかして、真っ黒のカカシを見たのか?」

と聞くと、Sは何度も頷いた。
もう一人の局員が、

「 ああ、森で?それとも川?」

と聞くと、Sは、

「 両方。」

と答えた。


 Sの配達ルートに、Aという家がある。
配達物を見る限り、中年の夫婦が2人で住んでいるようだ。
其処に行くには、300mほどの暗い森を抜け、小さな小川を渡り、畑の中道を通らなければならない。

 ぶっちゃけ、こんな所に家建てるなと言いたくなるような所だ。
そのA宅は20年くらい前に火事になったらしい。
その火事で夫婦の子供と年寄りの3名が亡くなったそうだ。
年寄りの爺さんは子供を病院に運ぼうとして、森の道で力つきて婆さんは黒こげで小川に浮かんでいて、子供は救急車で病院に運ばれたが、移送先の病院で死亡したそうだ。

 今、A宅があるのは畑の中道を通った所になっているが、前は今の畑があった所らしい。
局員の話では、爺さんは子供を捜して、婆さんは今も熱さから逃げようとしているんじゃないかという事だ。
 Sは言った。

「 最初はカカシだと思った。
だけど真っ黒な頭の目が開いた。
真っ白だった。」

俺もふと思い返してみた。
確かあの畑にはカカシは無かった。
だけど、今年になって一回だけ川に浮かぶカカシを見た気がする。












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日々の恐怖 12月30日 ドッペルゲンガー

2013-12-30 19:47:57 | B,日々の恐怖



     日々の恐怖 12月30日 ドッペルゲンガー



 中学生の頃、A山の天辺を平らに切って乗っけたような校舎に通っていた。
眺めはいいが登校に一苦労。


 中1の時、いつものように部活で第2音楽室へ向かった。
校舎の最上階で廊下側からは町全体と海が見える。
音楽室はピアノを中心に生徒側の席が段々になった構造。
特に第2音楽室は段差があって、一番上の席から見下ろすとピアノが谷底にあるような感じ。

 その一番高い中庭側の席に、Y先輩が一人ぽつんと立っていた。
先に来ていた先輩に挨拶するが応答無し 無表情で中空を見つめ続けている。
普段から一人でも騒がしく、明るい笑顔の先輩なのに変だなと思ったが、そんな時もあるだろうと隣接した楽器置き場に入った。

そこでY先輩がクラリネットを組み立てていた。

「 え?!」

と変な声を上げた私に、先輩は顔を上げてハーイと挨拶。

「 さっき、向こうにいませんでしたか?」

と問うと先輩は第2音楽室を覗いて、

「 誰も居ないよ。」

続けて、

「 もー、冗談ばっかり。」

と言いながら、先輩は体当たりで私を弾き飛ばした。
他に目撃者もいないし、あんまり食い下がるのも失礼かなと思ってその件はうやむやになった。


 中2の3学期、当時、変な遊びが流行っていた。
グループで歩いていて突然誰かが走り出す。
競争のように教室に飛び込み、最後の者が閉め出される。
この遊びは、扉に激突した生徒がガラスを割ってケガをする事故が多発したので禁止されていたが、それでやめる生徒は居なかった。

 第一音楽室を使っていた打楽器組の1年生が、何故か木管組の私を呼びにきた。
例の遊びで第一音楽室の楽器置き場に、金管組の1年生達が閉じこもって楽器が出せないという。
見に行くと、取り残された一人が半泣きで引き戸を開けようと踏ん張っている。
中からはクスクスと笑い声。
他の2年生は未だ来ていないようだった。

 私を打楽器組の2年と間違えたのか、半泣きの1年はヒュッと息を吸い込んで固まってしまった。
引き戸をノックし、

「 そろそろ準備しないと先生が来るよ。」

と言うが、

「 誰~?」

と笑っていて話にならない。

「 Nだよ。」

と言うと、更にテンションの高くなる笑い声。
ついこっちも笑い出してしまいそうなほど楽しそう。
そうして帰ってきた返答。

「 Nさんならここにいるよ。」
「 嘘はいかんぞ、私はここだ。」

と言うと、

「 だってここにいるもん。」

と勝ち誇ったような声。

「 いや、だから私だよ、Nだよ。」

と食い下がると、笑い声がピタッと止んだ。

 次の瞬間、引き戸が開けられ、もの凄い形相をした1年生達が悲鳴を上げて飛び出してきた。
ギリギリでなんとか身をかわしたが、後は阿鼻叫喚。

以下泣きじゃくる1年生の証言。

・廊下を歩いていたら突然Nさん(私)が走り出した。
・例の遊びが始まったと思い、楽器置き場に飛び込んだNさんの後に続いた。
・さっきまで楽器置き場のカーテンに隠れていて一緒に笑っていた。
・話しかけようと振り向いたらカーテンの膨らみが消えていくのが見えた。

Nさんだったもん、Nさんだったもん、と泣きじゃくり、
私が近付くとヒステリーを起こすので、後から来た別の2年に任せることに。

 最初はドッペルゲンガーとか思ったけど、彼女達が落ち着いた後に聞いてみたら、なぜか滅多に話したことのない「Nさん」と一緒にいて凄く楽しかったらしい。

座敷童だったのかな…。












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日々の恐怖 12月29日 写真

2013-12-29 19:17:50 | B,日々の恐怖


    日々の恐怖 12月29日 写真


 以前、バイト先の店長から聞いたです。
その店長の兄が10年ぐらい前に経験した話らしい。
その兄は当時とある中小企業に勤めてたんだけど、まだ2月の寒いある日、後輩の女の子が無断欠勤した。
休むとの連絡も無いんで、上司がその子の自宅(アパートで一人暮らし)に電話をしても出ないし、携帯にかけても出ない。

 次の日も欠勤したんで、普段まじめな彼女が、2日続けての無断欠勤とはおかしいという事で、彼女の実家に電話した。
電話に出たのはその子の母親だったが、娘からは何の連絡も無いと。
とりあえずご両親がその子のアパートに行って見るという事になった。
その子のアパートは実家から電車で1時間ほどなので、後でまた会社に連絡くれるとのこと。

 で、その日の夕方、会社にその子の父親(以後Aさん)から電話があったんだが、大家さんに鍵を開けて貰い部屋に入った所、娘は居ないとの事。
部屋も別に荒らされている様子も無いし、書置き等も無いし、ご両親もかなり困惑している様子で、警察に届けるべきかどうか迷っているらしい。
電話の対応をした会社の上司も、誘拐等の犯罪に巻き込まれたんじゃないかと不安になったが、とりあえずご両親に会社に来て頂いて、そこで話し合って対応を決めようという事に。

 暫くしてご両親が来社し、社長交えて話し合った結果、やはり警察に通報した方が良いと言う事になり、警察に電話した。
そして、警察が来るまでの間、彼女の机やロッカーを調べて何か手がかりが無いか探そうという事になり、まずは机を調べたところ、引出しから一枚の写真が出てきた。
 写真には、人で賑わうスーパーの前で、半袖のTシャツとジーンズ姿でこちらを向き、ピースサインで微笑んでる彼女が写っていた。
いつ撮られた写真かもわからないし、今回の事に関係あると思えないんだけど、Aさんは何故か知らないけど違和感を覚えたみたいで、しきりに写真を見つめ考えこんでいたらしい。

 そうこうしている内に警察がやってきたんで事情を説明し、社員への軽い事情聴取の後、(店長の兄はその子の同期で、結構仲も良かった為に疑われたのか聴取が長くて凹んだらしいw)ご両親と社長が署に同行し、捜索願いを出すことになった。
先程の写真も、警察に事情を説明したところ、何かの手がかりになるかも知れないと言うことで、預かってもらった。
 で、小さな会社がちょっとした騒ぎになりつつも何とか業務をこなし、それから2日経った日、Aさんから会社に電話があった。
娘らしき人物が警察に保護されたようなので、今から病院に行くと。

 病院は彼女の実家から電車で3つほど先の駅の近くにある病院で、とりあえず社からは上司と店長の兄がその病院に向かう事になった。
病院に到着した上司と店長の兄が病院の待合室に居た母親から話を聞いたところ、保護された人は娘で、目立った外傷も無くやや衰弱しているだけで意識はハッキリとしているとの事。
 母親もホッとしたのか、涙ぐみながら本当にご迷惑おかけしてすいませんと平謝りだったらしい。
今ちょうど警察の人が娘に事情を聞いている最中で、面会はまだ出来ないとの事なので、上司と店長の兄も、無事で良かったとホッとして社に戻った。

 その数日後、Aさんがお礼とお詫びをかねて来社し、今までの経緯を報告してくれた。
それによると、彼女は保護されるまでの記憶が全く無いらしい。
仕事の後、帰宅して食事を取り、入浴後睡眠したところまでは憶えているが、それからの記憶が全く無く、気が付いたら見知らぬ住宅街の歩道を歩いており、急に恐ろしくなり、道端で座り込んで泣いている所を、近所の人が通報して保護されたとの事。
 精密検査の結果も、暴行された痕跡は勿論、目立った外傷も無く、脳にも異常は見られないが、とりあえず、あと2~3日は大事をとって入院するらしい。
まぁでも、とにかく無事で良かったと社長含め一同で話をしていたが、Aさんが、でもちょっとおかしな事があるんですよと切り出した。

 娘らしき人が保護されたと警察から連絡があったので病院に急いで車で向かったんだけど、その途中で思わずあっ!と声を上げてしまったと。

 あの写真に写っていたスーパーが通り沿いに見えた。
立ち寄って確認したかったが、娘の安否が気にかかるし、とりあえずその場は病院に急いで、夜に妻を娘の病室に置いて、一人で確認しに行った。
 スーパーの前の路肩に車を止め、降りて確認すると、時間も遅く閉店してるし、夜で景色は違うけどあの写真のスーパーに間違いない。
住所を確認し、急いで病院に戻り警察に電話して、担当の刑事さんに調べて欲しいと訴えたけど、今回の事については、室内で争ったり拉致された形跡も無く、異性との交友トラブルも無い等、事件性が薄い上に、あの写真も今回の件との関連性は薄いので難しいとの事。
 警察の対応にやや憮然とはしたけど、やはりあの写真には気になることがあったので、娘にそれとなく聞いても、そんな写真は知らないし、何の事かわからないという。
んで、翌日そのスーパーをもう一度尋ねてみたが、そこで見た光景に背筋が凍ったらしい。

 写真では小さく写っていてわからなかったけど、スーパーの入り口にのぼりが立っていて、そこには、「2月○日~△日まで、OPEN記念セール中!」みたいな事が書かれてあった。

 ○日といえば、彼女が行方不明になった日。
店内に入り店員に話を聞くと、そのスーパーは間違いなく4日前に開店したばかりだと言う。
そんな馬鹿な話がと思いつつ、その時点でAさんが写真に覚えた違和感がわかってハッとしたんだって。
 あの写真、彼女は半袖だけど、写ってる周りの人は皆ジャケットなりセーターなりの防寒服着てたと。
んで、止めが、あの写真・・・一体誰が写して、いつあの子の机に入れたのか・・・と。

 その場の一同、唖然を通り越して絶句。
スーパーを訪れた翌日、警察署に立ち寄って事情を話したけど殆ど相手にされず、例の写真も返却してもらった。
んで入院中の娘にその写真を見せても、やはりと言うかこんな写真は知らないし、こんなスーパー行った事も無い。
それに、こんな服はあたし持ってないと。
 もう一家揃ってかなり気味が悪くなったので、写真は燃やして捨てたそうな。
ちなみに、彼女はその後元気になり無事に退院したけど、小さい会社でこういう騒ぎになったので、流石に居づらくなり辞め、父親の家業(飲食店)を手伝っているとの事です。













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日々の恐怖 12月28日 兄の子

2013-12-28 19:28:24 | B,日々の恐怖




    日々の恐怖 12月28日 兄の子




 私の兄には今年5歳になる長男がいる。
先日、兄と兄の嫁と長男とで食事をしていたところ兄嫁が変な話をしだした。
幼い時期って幽霊が見えたり前世が分かってたりって噂があるが、その長男がまさにそれらしい。
興味深い話なので直接その長男に聞いてみた。
 5歳なのであまり難しい話はできなかったが、兄の家に父母長男の他に誰か住んでいるか?と尋ねたところ、いるよと答える。
どんな人?と聞いてみると戦隊ヒーローのレッドと答えた。
 やっぱり子供の言うことはあてにならないなぁって苦笑していると、更に続ける。
そのレッドはいっつも痛い痛いってゆってるよと。
多分悪者にやられたんだと言う。
 iPhoneでゴレンジャーの画像を検索し、こんな人?って聞くと違うという。
最近の戦隊ものは分からないので、その話を切り上げようとしたんだが長男がぼそぼそと何か言う。
赤くないところもあるし変身前の状態なんだよと。
 兄嫁が絵に書いてごらんと紙ナプキンとボールペンを渡した。
さすがは5歳児の絵だと思ったけど、おかしなところが非常に多い。
足と腕が変な方向に曲がっている。
顔面を黒く塗りつぶしていてこれは赤ねという。
 どう見ても戦隊もののヒーローなんかではなく、交通事故や飛び降りなんかをやった人間の絵だった。
兄も兄嫁も同じように思ったと思う。
 今度その人が来たら何がしたいのって聞いてごらん?と兄が 息子に言った。
息子はうんと答えて私の方を向いて何がしたいの?と問いかけてきた。
 長男いわくずっと私の後ろに立ってたんだって。
子供の言うことでも流石に気が滅入った。
最近の近況は聞いていないが、まだその人は兄の家にいるのだろうか?














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日々の恐怖 12月27日 天井裏

2013-12-27 18:45:04 | B,日々の恐怖


     日々の恐怖 12月27日 天井裏


 昔、5階建てのカラオケでバイトしてた時のお話です。
3階の部屋が客で埋まったら4階に、4階が埋まったら5階にって感じで部屋を回すのがお決まりだった。
 一つでも部屋を使うと最後に閉めって言ってそのフロアを全部掃除しなきゃいけないもんで、3階が埋まってても5分ぐらいで部屋が空きそうなら、「今満室なんですよー5分程…。」って感じで、客待たせて4階を使わないようにする努力してた。
流石に待ちが二組以上だったら、4階開放してたけど。

 その日は平日だってのに、めずらしく4階まで埋まってて、出てくるような客もいなかったから仕方なく5階を開放した。
つっても、5階に入ったのは父母子供二人の4人家族一組だけ。 
 んで、部屋案内して1時間ぐらいたった時かな。
その家族部屋から苦情が来た。
何やら5階を走り回る子供がいるらしい。
インターホンに出た店長はすぐに注意しにいきますのでってな感じで謝ってた。
 んで、店長が部屋の人数とか年齢をチェックしたんだけど、5階の家族部屋以外に小学生以下の子供がいるような部屋は無かった。
俺らにも、

「 今日って子供入ってたっけ?」

って聞いてきたけど、

「 今日は子供入ってないっすね。」

って感じで返した。
取りあえず3、4、5階見回りしたけど子供は見つからなかった

「 やっぽ子供はいないですねー。」

って報告してたらインターホンがなった。
もちろん家族部屋から。
 曰く、子供が益々騒がしく走り回ってるとのこと。
こりゃまいったなーと思い、取り合えずお飲み物でも出そうって事になった。

「 申し訳ありません、これ、サービスになります。」

って飲み物渡して一階に下りると店長が、

「 ちょっとフロント見てて、俺上言ってくる。」

って小走りで上行った。
 まさか5階か、なんて思ってたら、家族部屋からトゥルルルって…。
出てみると店長で、

「 N(俺)ちょっと脚立と懐中電灯もって、部屋きて。」

って頼まれた。

「 うほっ!」

て思いながら脚立もって5階の家族部屋に行った。
 部屋につくと何やら店長と父親が話してた。
上見ると、普段は鍵がないと開けられない天井裏に行くためのドアが開いてた。
蓋がプラ~ンとなってて、溜まった埃がフワフワと降ってきてる感じだった。
汚ねぇ~、って思った。

「 N、脚立押さえてて。」

って言うと、店長が脚立に上がってそこの穴に上半身突っ込んで何やら点検してる感じ。

「 鍵が壊れちゃってるみたいですね~、申し訳ありません・」

って、店長が申し訳無さそうに言った。
 しっかし子供がうるさいわ、天井のドアが開くわ、でこの家族も災難だな、今日は料金頂くわけにはいかないな、とか考えてた。

「 どこの部屋の子かしら、親御さんは心配してないかしら?」

って子供二人に抱きつかれた母親が俺に聞いてきた。
天井の事で文句言われると思ってたから反応が遅れた。

「 3階の方かもしれないですね(嘘)、あはは・・・。」

って感じで返してたら、

「 どうやって上がったのかしらね、そんなに簡単に上がれるものなんですか?」

って言われた。

「 エレベーター以外にも階段がありますから、なので階段を使って上に来ちゃったんじゃないですかね。」

と返した。
一呼吸おいて父親が俺に向かって言った。

「 歌ってたら急にバン!って上の蓋が勢いよく開いて、ビックリして(家族四人共)上見たら知らない子供が頭出して部屋を覗いてたんですよ。」

“ ゾワっとしたわ!
ブルっとしたわ!
おいマジかよ。
店長言えよ。
馬鹿、こえーよ。
俺、早く下戻りてーよ・・・。”

って思った。
 母親が、

「 私達ビックリしちゃってしばらく何も言えずにじーっと見詰め合ったんです。」

父親が、

「 ボク危ないよ?って言おうと思ったらスっと顔引っ込めて逃げちゃったんです。」

そのとき俺には、

「 うううううう~!」

って子供のような声が聞こえた。
今思えば、あれは俺の心の声だったのかもしれない。
 店長が、

「 誠に申し訳ありません、すぐ別の部屋を用意させて頂きます。」

と言うと俺に別(3階か4階)の部屋に案内するよう指示した。
 飲み物などは全てそこに置いて新しい部屋に案内し、

「 今回は御代の方は結構ですので。」

と新しく飲み物をサービスした。
思わぬ展開に家族は喜んでた。
思わぬ展開に俺はブルってた。
 5階の部屋に指示通りやった事を報告しに戻ると、店長がニヤニヤしながら、

「 こえええ~~~~~!」

って言ってきた。

“ 俺もだ、馬鹿・・・・。”

って思ってたら、

「 いやさ、鍵壊れてるつったけど、実は鍵壊れてないんだよね、うはは!」

って。
俺はあの時、チビったのかな?
どうやら何とか誤魔化そうと鍵が壊れてるって事にしたらしい。
 上半身穴に突っ込んでるときは、正直、

“ やべええ・・・、こんなとこ覗きたくねぇ・・・・。”

って思ったとか。
 取りあえず蓋閉めて、鍵閉めなおして、部屋片付けてフロント戻った。
何がこえーってさ、俺思い出したんだよ、店のルール。
一部屋でも使ったらそのフロアは掃除しなくちゃいけないってこと。
一人で、店を閉める夜中の3時付近に・・・。
 店長が何か言いたそうに、じ~っとこっち見てたのを覚えてる。
俺は0時で帰った。

 翌日、出勤すると店の中はその話題で持ちきりだった。
何やらあの後、遅番の人が5階閉めに行ったら天井のドアがまた開いてたらしい。
技術専門スタッフに来るよう本社に連絡入れた後、しばらく5階に客は入れなかった。














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日々の恐怖 12月26日 メキシコ

2013-12-26 18:18:11 | B,日々の恐怖




   日々の恐怖 12月26日 メキシコ




 忘れられない海外旅行がある。
20年以上前、メキシコに行った時の話だ。

 メキシコってのは物価が安い。
もちろん、レートも安価なので、日本の感覚でお金を持ってくと大金持ちって感じで。
当時、友人がメキシコにいたので遊びに行った時、あまりに日本と違うのでビックリした。

 メキシコの国際空港に着いたのは夜の10時を過ぎていた。
成田なんかだと、夜でも電気が煌々とついていて、着陸寸前の飛行機から窓を眺めると「光りの路」みたいな感じでとても綺麗だが・・・・メキシコの空港は真っ暗なのだ。
えっ、こんな所に着陸するんですか?・・・と、ちょっと不安になるくらいの暗闇で。
滑走路にともる明かりもやけに薄暗く、よく見ると、電気じゃなく、タイマツみたいに火が燃えていた。

 空港内にはおでんの屋台みたいな店が数件並んでいて、裏路地の飲み屋みたいな雰囲気。だがホテルはかなりイイ感じで、中庭に綺麗な池があり、そのウォーターサイドのガーデンレストランではギターの生演奏を聞きながら安価でリッチな食事が楽しめる。

 メキシコに着いた日の夜は空港近くのホテルに泊まり、翌日、友人の運転する車に乗ってわたしは彼のアパートへ行った。
 アパートとはいっても、日本のように6畳二間の2DKとかじゃなく、ちゃんとした一軒家。
建物自体は古いが、しっかりとした石造りで、7部屋もあった。
おまけに家賃は月に3千円というから驚きだ。

「 いいねぇ、こんなにいい家が月に3千円なんて・・・。」

わたしが言うと、友人はちょっと苦笑いし、

「 慣れるまで、大変だったけど・・・・・。」

と答えた。


 意味ありげなその返事を理解出来たのは、その夜ベットに入ってからだ。
ベットに入ってウトウトし始めた頃、妙な気配を感じて目が覚めた。
目を開けると部屋の天井が見える。
その天井に、びっしりと“人間”が四つん這いでくっついているのだ。

 よく見ると、壁や床にも大勢の人たちが這いずり回っている。
わたしは心臓が止まる思いでしばらくその光景を眺めていた。
あまりに予想外な光景・・・いや、こんなに堂々としている怪奇現象にはお目にかかったことがなかったので、状況が理解できなかったと言った方がいいかもしれない。

 5分~10分くらい、ベットの上でそんな光景を呆然と眺めていたわたしは、とにかく友人の所へ行かなければ、と思いついて部屋を出た。
壁や天井や床や、あらゆる場所を這いずりまわっている人(モノ)たちは、まるで「わたしという存在」が見えていないように、ひたすら四つん這いでモゾモゾ動いている。

 廊下や階段にも彼等はいた。
やっと辿り着いた友人の寝室にも、同じ様に異様な光景が広がっていた。

「 大変だ、目を覚せ!」

眠っていた友人を叩き起こすと、彼はわたしの顔、周囲の無気味な光景を見比べて、やけに落ち着いて言った。

「 大丈夫、べつに何もされないから・・・。」

 わたしは友人の寝室にいさせてもらったまま、一睡もできずに這いまわる大勢の人間たちを怖々眺めて夜を過ごした。
太陽が昇り始めると同時に、彼等は蒸発するように薄くなり、やがて消えてしまった。

 友人のアパートは現地でも特別格安で、それにつられて契約したものの、ありがちな訳アリ物件だったのだ。
初めてこの光景を見た時は怖くて引っ越そうと考えたが、夜な夜な這いずり回る無気味な人間たちは別に悪さもせず、こちらに悪意もないようなので、そのまま住んでいると友人が言った。
 メキシコに一週間滞在する予定だったわたしは、次の日からホテルに泊まることにした。
無気味な人間たちも怖かったのだが、それに慣れてしまった友人の方が、ちょっと怖かった。
人間の適応能力は恐ろしい













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日々の恐怖 12月25日 クリスマス

2013-12-25 18:13:42 | B,日々の恐怖



   日々の恐怖 12月25日 クリスマス



 母さんが俺に言った。

「 ・・・よしっと。 
これで全部だね。
忘れ物は無いかい?」

 大学生活も無事終了し、今年の春から俺は東京で働く事となった。
正直、母さんを一人残して東京へ行くのは抵抗が有る。
母一人、子一人でここまでおれを育ててくれた母さん。
そんな母さんを一人残してはるばる東京へ行く。
 母さんに最初東京へ就職したいと話をした時は、一瞬戸惑った表情をした。
でも母さんはそれを必死に隠し、

「 裕史の事は、裕史が決めたらいいから・・。」(俺の名前は裕史です。)

と、後ろ髪を引っ張るような事はしなかった。

 思えばこの22年間
母さんは、おれがやりたいと言った事を遮った事は一度もなかったような気がする。
むしろ、何をやるにしても母さんは応援してくれた。
ありがとうな、母さん。

 母さんは今、荷造りの手伝いが終わって夕食を台所で作っている。

“ 小さくなったな、母さんの背中・・・。”

そんな母さんの背中を見ながら、おれは22年間過ごしたこの部屋で大の字になって寝そべった。
 天井を見る。

“ あ、あの染み・・・。”

天井の、入り口から見て右奥に小さな染みがある。
父さんとの思い出の染みだ。

 小学2年生の頃、友達がやっているというのを聞いて、おれはクリスマスパーティーをやってほしいと両親にダダをコネた事があった。
父さんは、

「 うちは仏教徒だから、そんなの関系ねぇ!」

って、前かがみになって、左ウデを上下させながら言ったっけ。

おれはワケもわからず、

「 オッパッピー!」

って怒ったんだ。
そしたら母さんが、

「・・おとうさん。 
やってあげましょう。 
できるのも、今のうちしか無いんだから。」

って、説得してくれた。
 しぶしぶ父さんはクリスマスパーティーをやってくれた。
あの天井の染みは、父さんがビビリながら開けたシャンパンの蓋がぶち当たった時に出来たもの。

“ 懐かしいな・・。”

そんな思い出を思い出しながら、おれは目を閉じた。
 目を閉じた暗闇の中、ふと、左の方に青白い光を感じた。
目をあけてその方向を見てみる。
家族の写真・・・。 
そのクリスマスパーティーの時に、家族三人で撮った写真があった。
少し照れる父さんと、左に笑顔の母さん。そして真ん中手前に満面の笑みで、赤いとんがり帽子をかぶったおれ。

“ もうあれから10年以上経つんだな・・・。”

 父さんを撮った写真は、この写真が最後になった。
この一ヵ月後に、父さんは入院し、そして数週間後にあっけなく息を引き取った。
おれは詳しく聞かされてはいないのだが、ひょっとしたら何か病気でそう永くない事を、両親共に知っていたのかも知れない。
今となっては、おれが知っていようが知っていまいが仕方の無い事だ。

「 裕史~、夕飯できたよ~。」
「 うん、今行くよ母さん。」

おれはゆっくり立ち上がり、さっきの写真を見て、

“ 今までありがとう、父さん。 
母さんをこれからもよろしくな。”

と、心で呟いた。
 照れ顔の父さんの表情が、一瞬微笑んだように見えた気がした。
母さんと一緒に生活する最後の夕飯を食べながら、いろんな話をした。

坂上がりの練習を、父さんと母さんが必死に公園で手伝ってくれた事。
参観日に白目を向いて寝てた事。
その時に父さんもつられて寝てた事。
鎌男に襲われた事。
給食のパンが机の中でカビだらけになったのをもって帰った事。
給食が食べれず、放課後まで机の上に置いたままという仕打ちを担任にされて、母さんにちくったら、母さんにも怒られた事。
中学になって引きこもりになりかけた事。
中学の暴力教師に反抗したら、ヤンキーが家にお礼を言いに来た事。
高校の頃、けっこう学校をサボってた時に母さんが悲しんでた事。
大学から帰ってきて、母さんが「あら? おばさんの顔が一瞬見えた気がしたけど・・・。」っていって、ビビッた事。

話し出したらキリがない。

「 向こうへ行ったら、体に気をつけるんだよ。」

母さんは、ずっとおれを心配してくれている。
今までも、そしてきっとこれからも。

 その夜、おれは自分の部屋では無く、母さんの隣に布団を敷いて、居間で寝た。
今日で、おれはこの家を出る。
最後くらい、小さい頃家族三人で布団を敷いて、話をしながら寝たこの部屋で寝ようと思ったからだ。
 いざこうやって布団をしいて寝てみると、少しばかり照れもあり、ほとんど会話も無いまま眠ってしまった。
そして、ふと夜中に目が覚めた。

“ 今何時だろう?
外はまだ真っ暗だ。 
三時くらいだろうか・・・。”

そんな事を考えていると、目に青白い光が入ってきた。
見てみると、バレーボールくらいの大きさでボーっとした、青白い塊だった。
 それが部屋をふわふわと浮遊していた。
不思議に思いながら、おれはそれを見ていた。
すると、その光はおれに気付いたからか、おれにゆっくり近づいてきた。
そしておれの頭を小さく三回ほど回り、そのまままたゆっくりと部屋の端に進んで行き、壁の中に吸い込まれるように消えて行った。
 不思議と怖さは無かった。
奇妙な事に、安堵感があった。
おれはそのまま眠りに入っていった。



 次の日、台所の方から母さんの声がする。

「 裕史!朝よ~。」

味噌汁のいい香りも漂ってきた。
 俺は起き上がり、ボサボサの頭をクシャクシャってして、ふと昨日の夜の青白い光の事を思い出した。

“ あれ・・何だったんだろう・・・。”

何気に、青白い光が消えていった壁の方を見てみた。
あの、クリスマスに家族で撮った写真があった。

“ あれ・・・、父さんだったのかな・・・?”

 顔を洗い、歯を磨き、台所に行って母さんと朝ごはんを食べる。
その時に母さんはこんな事を言った。

「 そういえばねぇ、裕史。 
父さんは、アンタが何かやるときは、必ず頭を三回、クシャクシャって撫でて、‘がんばれよ‘って言ってくれてたよ。 
きっと、もし生きてたら、今日も励ましてくれたろうねぇ。」

そうか、あの光は父さんだったんだ。

“ ありがとう、父さん。
おれ、東京に行っても頑張るからな。
ありがとう。”

 荷物をかかえ、俺は家を出た。
たまに振り向き、横目で後ろの母さんを見る。
 母さんは、見えなくなるまでずっと立って見送ってくれていた。
曲がり角を曲がって、母さんが完全に見えなくなってから、おれはハンカチを取り出して涙を拭いた。

「 ありがとう、母さん。」

二人の暖かさを胸に、おれは生まれ育ったこの町を出た。













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日々の恐怖 12月24日 化け物

2013-12-24 18:51:49 | B,日々の恐怖


     日々の恐怖 12月24日 化け物


 まだひいばあさんが生きていたころ、確かまだ幼稚園の頃だったと思う。
ひいばあさんの家があるのは、観光にも狸を利用しているほど県内では狸で有名な土地で、もちろん今でも狸は良く出る。
狸を扱った絵本なども出ており、俺は狸の絵本が大のお気に入りだった。
 ある日、ひいばあさんの家に遊びに行った時、俺はひいばあさんに聞いてみた。

「 狸って化けるって本当?」
「 狸は化けねな。」
「 えー。」

夢を壊されふてくされかけていたら、ひいばあさんが続けて言った。

「 狸は化けねども、なんかしかが狸に化ける。」
「 狸に?」
「 おめ、動物園の狸が化けるのみたこどあっか?」
「 なーい。」
「 狸は化けね、ケモノっこだもの。」
「 化けらァずはバケモノよ、バケモノがケモノさ化けらぁずや。」
「 バケモノが狸に化けるの?」
「 狸だけでね、けづねさも、いたぢさも、いぬさも化ける。」
「 人さもな。」
「 ・・・・・・。」
「 んだがら○○ちゃん、おがさんがたのゆごどきがねば、バケモノよってくど?」

最後の言葉は俺を戒めるために言ったんだろうが、どうしても“バケモノはケモノに化けるからバケモノだ”と言う言葉が、心に残って仕方ない。












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日々の恐怖 12月23日 手紙

2013-12-23 18:48:29 | B,日々の恐怖


      日々の恐怖 12月23日 手紙


 私は編集者をしており、主にイベントや食べ物屋さんなどの紹介記事を書いています。
こちらから掲載をお願いする事もあれば、読者からの情報を参考にしたり、その他お店からハガキFAXや、電話などで掲載以来を受ける事もあり、その場合、なんとなく興味がわいたら取材に行くという感じです。
お店を選ぶ基準は、このお店なら色々書くことありそうだな~、こっちのお店はなんかいまいちだな~といったフィーリングによるものが大きいです。

 ある日、締め切り明けで暇になり、みんなどこかに遊びに行ったり、得意先まわりに行ったりで編集部からほとんど人が消えました。
私は特に行く所もなく、何か面白いことないかな~と、その日届いた読者からのハガキを眺めていました。
 その中にあった一通の封筒の中には、1枚の写真と便せん。
写真にはいかにも老舗って感じの古めかしい和菓子屋さんが写っていました。
便せんには、なんだかインクのしみというか、書いて乾かないうちにこすってしまったような、とにかく汚い字で、

「 おいしいですよ、ぜひ来てください。」

と書かれているだけです。
 なんだか気味が悪かったんですが、逆にちょっと興味を引かれ、

“ 暇だし、のぞくくらいならいいか・・・・。”

という気分になりました。
 来てください、というなら恐らく自薦だろうと、便せんに書かれた住所を見て、だいたいの位置を把握しました。
いつもは道路地図やネットで(最低でも店の名前くらいは)調べてから行くのですが、その時は暇だったのもあり、なんだか調べるのが面倒にだったんです。
見つからなければそれでいいや、くらいの軽い気持ちで出かけました。

 1時間ほど車を走らせ、目的地周辺まで到着した私は、近くにあったスーパーに車を止め、そこからは徒歩で探す事にしました。
写真を見ながらてくてく歩く事、十数分、だいたいの住所はこの辺だな、と見回すも、そこは閑静な住宅街といった感じで和菓子屋さんなんてありゃしません。
 裏道かな?とわき道にそれると、一軒の(恐らく)空き家がありました。
雨戸は閉められ、庭は荒れ果て雑草が生い茂り、一目見ればわかるじめっとした雰囲気。
なんだか気持ち悪くなり目を逸らすと、突然上の方から視線を感じました。
 はっとその方向を見ると、2階の一室だけ、雨戸が閉められていない窓がありました。

“ まさか、人がいるのか・・・?”

と、余計に気味が悪くなり、早々にその場から立ち去りました。

 しばらく周辺を歩くもやはり写真のお店は見つからず、そのまま少しはなれた商店街まできてしまいました。
私は近くの雑貨屋さんに入り、ジュースを買うついでに店主のおじいさんに写真を見せ、詳しい場所を聞いてみました。
おじいさんは写真を見るなり怪訝そうな顔でしばらく考え込み、思い出したように言いました。

「 ああ、これ、○○さんとこか!
で、あんた、この写真どうしたの?」
「 あ、私Aという雑誌の編集者なんですよ。
それで、そのお店の取材に行こうと思いまして。
写真はそのお店の方が送って来てくれたんですが・・・。」
「 んん?そんなわけ無いよ。
この店、10年くらい前に火事おこして焼けちゃったから。」
「 え!?お店の方は・・?」
「 みんなそれで焼け死んじゃったと思うけどなあ・・。」
「 それで今はその場所、どうなってるんですか?」
「 そのあと新しく家は建って、誰かしら引っ越して来たんだけど・・・。
いや、まあ、その家族なんだかで長くしないうち引っ越しちまったから、いまは空き家だよ。
しかし、タチの悪いイタズラだなあ。」

“ 空き家・・・。”

 先程の家かもしれませんが、視線を感じたこともあり、確認するのが恐かったので、おじいさんにお礼を言い、そのまま編集部に帰りました。
帰って来ていた編集長に事の経緯を話し、例の封筒を見せようとカバンの中をあさりましたが、なぜか無いんです。
どこかに落としたのかもしれません。
 車の中か?と戻ろうとすると、

「 多分無いと思うよ、それ。」

と編集長に引き止められました。

「 5、6年前かな。
俺が新人の頃さ、同じようなことがあったんだよな。
そこに行ったのは、俺じゃなくて先輩だったんだけど・・。」
「 あ、そうなんですか。
行ったのは、どなたですか?」
「 いや、もういない。
取材に行ったきり帰ってこなかったんだよ。
××町の和菓子屋さん行くわ、ってふらっと出掛けたっきり。
 当時はけっこう大騒ぎになったんだよね。
車ごと消えたから。
先輩も車も、結局見つからなくてさ。
 で、俺は先輩が行く前にその封筒も中身も見たんだけど、お前が言ってたのとだいたい同じ感じだったかな。
先輩のは確か、“きてください”としか書いてなかったんだけどね。
もちろん、いたずらかもしれないけどさ。
気味が悪いよなあ。」

その後、車の中を探しましたがあの封筒は見つからず。
 誰があの封筒を送って来たのか、なぜその先輩が消えたのか、私が呼ばれたのはなぜなのか、結局わからないままです。
それから3年経ちましたが、郵便が届くたびにあの封筒が来ないか、ビクビクしています。














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日々の恐怖 12月22日 勧誘

2013-12-22 18:30:05 | B,日々の恐怖



     日々の恐怖 12月22日 勧誘



 叔母さんから聞いた話です。
何年か前に、法事で久々に叔母さんの家族や親戚連中と会って皆で酒飲んでたんだけど、どういう流れか忘れちゃったがしつこい勧誘の電話の話題になった。
どんだけ悪質でムカツク勧誘を経験したかって自慢話みたいになった。
 未だ携帯も普及してなくて、着信番号表示のサービスも無い時代だったから、いとこ姉妹の1人が友達か勧誘か分からなくて電話に出るのがイヤになった、とかこぼしてた時にオレが使った撃退法を披露した。
 それは、勧誘電話にある程度話を合わせておいて、相手が乗ってきたらやっぱり止めますってバッサリ断る。
その間10分くらい話に興味が有る振りしててバッサリ。
これは相手もがっくりくる。
 当然勧誘のヤツはエキサイトするから、興奮してぎゃあぎゃあ言い始めたら、

「 文句が有ったら電話じゃなく家まで来い!」

って言ってやる。
で、マジで家まで来やがったら速攻で110番してやると。
 実際に、不動産の店からのしつこい勧誘で新築しませんか、ってのに腹が立ってたときにやったことがある。
ま、そん時には勧誘のヤツは来なかったけど、来たら本当に110番してやろうって思っていた。
結構親戚連中には受けて、みんな爆笑してたんだけど叔母さんが言った。

「 Tちゃん(オレのこと)、本当に来なくて良かったよ・・・。」

 叔母さんが昔住んでたアパートの玄関のドアには、今じゃ殆ど姿を消してしまってるけど、新聞受けが付いていた。
オレが小学校の頃、確かに見た記憶が有るから30年くらい前だ。
 その頃の高級なタイプはドアの内側にボックスが付いていて、ボックスの中に新聞とかが溜まるんだけど、叔母さんの家に付いてるのは単純なタイプで郵便や新聞を外から突っ込むとドアの前にポトンと落ちるヤツ。
 ある日のこと、お昼のワイドショウ見てた叔母さんはかかって来た電話に出たんだけど、これが新聞屋からの勧誘で、しつこいったらなかったらしい。
常套句のセリフ「結構です」とか「間に合ってます」とか言うと、「何で結構なんですか?」とか「間に合ってるかどうか分からないでしょう」と来る。
 叔母さんを始めオレのオフクロの家系は伝統的に勝気で気が強い女が多い。
「電話じゃ何ですから、お宅まで」と言う新聞屋に、「来れる物なら来て見やがれ!」風な勢いでカッとして電話を叩き切ったらしい。
 いつもならそのままTVに戻るんだけど、その時は妙に引っ掛かる気持ちがあったらしく“本当に来たら面倒だな・・・”って思ったらしい。
それで、TVの前に有ったA新聞を、新聞受けに入れておこうと考えた。
新聞屋が来てもライバル新聞を見れば諦めるだろう、って思って。
 新聞を持って玄関に立つと、目の前で突然、

“ ピンポン!”

ってブザーが鳴った。
冗談抜きで飛び上る程ドキっとしたらしい。
 いくら気が強いって言っても女だし、思いがけないタイミングの良さに体が痺れてしまって黙ってドアを見てた。

“ ピンポン、ピンポン、ピンポン、ピンポン・・・・・。”

ブザーがずっと鳴り続けている。
 それで、しばらくしたらブザーが鳴り止んだ、と思った瞬間、例の新聞受けがパタンと開いて指がニョキっと出て来た。
片手の指が4本、バタバタ閉じたり開いたりしてる。
何かドアの向うの人に気付かせようってしてる様だった、こっち見ろって感じで。
 叔母さんが固まったまま見てるとそのうち4本指がスッと新聞受けから消えた。
ほっとするとすぐさま人差し指が1本だけ差し込まれて来て、叔母さんの方をジッと指差している。
 これを聞いて、親戚一同、ぎょえーってなった。

「 マジかよ~。」
「 信じらねぇ・・・。」
「 新聞屋じゃねえかも・・・。」

そしたら叔母さん、

「 止めれば良かったんだけどさ・・・。」

って言う。
本当に後悔してるって。
 指が引っ込んで、少し間を置いてから、

“ もう帰ったかな・・・。”

叔母さん新聞受けを手前に引いて覗いた。
そしたら、目の前に男の口があった、“ニカッ”て笑った男の口が。













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日々の恐怖 12月21日 海水浴

2013-12-21 21:53:17 | B,日々の恐怖


   日々の恐怖 12月21日 海水浴


 ある家族が海水浴に出かけた。
父親が子供の頃、両親や兄弟と一緒に毎年泳ぎに行った小さな海水浴場。
自分にも子供が生まれ、そろそろ海水浴に連れて行ってやろうということになり、家族四人で出かけることになった。

 父親と母親、6歳になる長女と3歳の次女は、老夫婦がやっている海の家でパラソルを借り、浜辺の真ん中あたりに荷物を置いた。
 小さな子供を遊ばせるのに、この海水浴場はとても良い条件だった。
100mばかりの小ぢんまりした砂浜の両側は岩場になっていて、潮が引くと磯遊びもできる。
地理的には、大きな湾の中にある小さな湾で、外海と違って波も穏やかだ。
海水浴に来ている人間も地元の人が多く、チャラチャラした若者たちが行きかう観光者だらけの浜と違って静かだった。

 昔とちっとも変らない海水浴場に、父親は嬉しくなった。
奥さんも、人が少なくて目が行き届くし、波も荒くないからいいわね、と上機嫌だった。
初めて泳ぐ海に娘たちも興奮気味で、長女などは、浮き輪が膨らむのを待ちきれない様子で、早く海に入りたいと大騒ぎ。

 準備ができると、家族は荷物をパラソルの下に置いたまま、皆で海に入った。
3歳の次女を浮き輪に入れ、妻がその面倒を見た。
父親は6歳の長女を連れて泳いだり、岩場に上がって磯遊びをした。

 長女は、潮だまりに閉じ込められた小魚が欲しいとせがんだが、動きが早くて思うように捕まえられない。
娘の為に小魚を捕まえてやろうと奮闘しているうち、そろそろ浜に上がって休憩しようと妻が言いに来た。
初めての海に興奮しすぎて、子供が疲れすぎるといけないから、と。

 全員でパラソルの下に戻って休憩し、ジュースを飲んだり、トイレに行ったり。
やがて3歳の次女が疲れてウトウトし始めた。
次女のかわいい寝顔に見入っているうち、運転の疲れが出たのか、父親も眠ってしまったらしい。
 気が付くと、次女と妻の寝顔が隣にあって、静かな寝息を立てている。
同時に、寝ぼけ半分の父親の頭には6歳の長女のことが浮かんだ。
彼は長女の姿が見たあらないので、連れ去られたか、あるいは、勝手に海に入って溺れたのではと飛び起きた。

 浜辺や海を見渡すと、岩場の方から長女がひとりで歩いてくる。
その手には、ジャムの空き瓶のようなものを大事そうに抱えていた。
長女はパラソルの所まで来ると、満面の笑顔で父親に言った。

「 おさかな、捕ってもらったよ。」

瓶の中には、青い小さな魚が泳いでいた。

 誰に捕ってもらったのか訊くと、おともだち! と、明るく長女が答えた。
家族全員がウトウト眠りはじめてしまったので、長女もしばらくはそこに座ってジッとしていた。
すると、知らない女の子が長女に声をかけてきて、一緒に遊ぼうと誘ってくれたらしい。
長女は女の子と一緒に海で泳いだり、潮だまりで小魚を捕ったりした。
女の子はこの海のことをよく知っていて、小魚を捕まえるのも上手かったらしい。
長女が「青い魚が欲しい」と言うと、あっという間に捕まえて、落ちていた瓶に入れてくれたのだという。

 何とも不思議な話だと思った。
自分はそう深く眠ったつもりはないのだが、時計を見れば、いつの間にかお昼だ。
長女がいなくなったことにも気づかず、2時間も寝ていたことになる。
隣のパラソルでは、海の家から買ってきたらしいカレーライスを、知らない家族がおいしそうに食べていた。

 長女がカレーが食べたいと言ったので、父親は長女を連れて海の家にカレーを買いに出かけることになった。
起きたばかりの妻は、次女を連れてトイレの列に並んだ。
パラソルを離れる時、夫婦はお互いに「子供から絶対目を離さないようにしよう」と確認し合った。

 ところが・・・・。

 お昼時ということもあり、海の家はとても混んでいた。
この店を切り盛りしているのは、腰の曲がった老夫婦。
父親が子供の頃、両親に連れられて海水浴に来た時も、すでに老夫婦だった気がする。
穏やかな人柄で、手際よく様々な注文に応えてくれるが、動きが遅い。
注文の列に並んだが、自分たちの番が来るには時間がかかりそうだった。
 順番を待っている間、父親は長女によく言って聞かせた。
知らない人について行ってはダメ、お父さんとお母さんに何も言わないで出かけてはダメ、子供だけで海に入ってはダメ、知らない人に物をもらってはダメ・・・だめだめ攻撃に、長女はふてくされた顔をした。

 長女をたしなめている間に、やっと自分たちの番が来た。
カレーライスを3つ注文し、飲み物を3本買った。
カレーライスができるのを待っていると、妻がやってきた。
次女を抱いて、眉間にしわを寄せ、長女はどこにいるのか、と妻が強い口調で言った。ここに一緒にいるだろ・・・と周囲を見たが、長女の姿がない。
ついさっきまで隣にいたはずの長女が、どこにも見当たらないのだ。

 父親は焦った。
その場を妻に任せると、彼は砂浜に戻って長女の姿を探した。
同じ年頃らしい子供たちがウロウロしているので、小さな浜と言っても簡単には見つけられなかった。
 目を凝らしてよく見渡したが、砂浜にも、岩場にも長女の姿はない。
まさか・・・と思って海を見ると、ポツポツ浮かぶ浮き輪の中に、長女の姿があった。
長女の浮き輪は砂浜からかなり遠くまで流されており、遊泳区域のブイを超えるところだった。

 どうしてあんな所にいるのか、なんて考えている余裕はなかった。
父親は顔色を変えて海に入ると、猛然と泳いだ。
長女の浮き輪は沖へ沖へどんどん流されていく。
泳ぎは得意な方だが、流れに乗って沖へ移動する長女に追いつくのは大変だった。
 懸命に海水をかきながら、波間に見え隠れする長女の浮き輪を追った。
早く捕まえて浜に戻らなくては、それだけを考え、波をかき分け、海水を蹴った。
やがて父親は長女の浮き輪に追いついた。
浮き輪の真ん中に、長女が沖のほうを見て摑まっているのが見える。
 浮き輪の周囲に巻いてある紐にやっと手が届くと、彼はそれをグイッと引っ張り寄せ、長女の浮き輪に取りすがって娘の名を呼んだ。

「 もう大丈夫だぞ! 」

娘を安心させるように父親が言うと、沖を見ていた長女が振り返った。

 そこから、彼には記憶がない。

気が付くと、彼はパラソルの下にいた。
暑かった砂浜は西日に射され、帰り支度をしている人たちが数人いた。
何が何だかよく判らないまま目だけ開けていると、海の家のご主人が、借りていたパラソルを回収にしに来た。

「 旦那さん 起きたみたいだね。」

海の家のおじいさんはそう言い、慣れた手つきでパラソルをたたむと、肩に担いで帰って行った。

 娘たちは人のひけた砂浜で城を作っていた。
妻は黙々と荷物をまとめ、帰る支度をしていた。
彼は起き上がって妻に声をかけた。
いったい何が起きたのかと。
妻は答えず、とにかく早く帰ろうと夫をせかし、家族は帰路に就いた。

 その夜、子供たちを寝かしつけた後、彼は妻に訪ねた。
なにしろ、長女を助けようと沖まで泳ぎ、長女の乗った浮き輪を捕まえたところまでしか覚えていないのだから。
 次に記憶があるのは夕方で、いつの間にか自分がパラソルの下で寝ているところで、釈然としないままこうして帰宅したのだから。
妻は何ともいえない不思議な顔つきをし、とにかく無事で良かったと言った。

 妻の話はこうだ。
次女を連れてトイレを済ませ、カレーライスを運ぶのを手伝おうと思って海の家まで行くと、夫だけがそこにいて長女が見当たらなかった。
そこで夫に声をかけると、夫は顔色を変えて砂浜のほうへ走って行った。
ちょうどカレーライスが出来上がり、妻は店の人にカレーの乗った盆を手渡された。
抱いていた次女を立たせてカレーを受け取り、次女を見ると、長女が次女と手をつないで立っていた。
お父さんにしかられたので、ちょっと隠れていた、と長女は言った。

 二人を連れ、カレーを運びながら、いったい夫はどこに行ったのかと砂浜を歩いていると、沖のほうでゴムボート遊びをしていた人たちが、浮き輪で流されて気を失っている人を助けた、と騒ぎながら戻ってきた。
まさか、と思ったが、人垣の後ろからそっと首を伸ばしてみると、それは自分の夫だった。
普通に息をしていたし、特に水を飲んだ様子もないので、周囲の人たちがとりあえずパラソルの下まで運んでくれたのだという。

 何事もなくてよかったけど・・・・という妻の言葉の後に、どんなに恥ずかしかったか!!、という無言の非難が隠れている感じだった。
結局、目の覚めない夫の傍らに座って娘たちとカレーを食べ、午後はまったく海にも入らずに一日が終わった海水浴。
来年は違う海水浴場にしよう、と妻が言った。
彼もそのつもりだった。

 娘の浮き輪には、確かに娘が乗っていた。
だが、実際の娘はいなかった。
あの時、浮き輪に乗っていた長女だと思っていた女の子は一体誰だったのか?
長女がおともだちに捕ってもらったという青い魚も、いつの間にかなくなっていた。















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日々の恐怖 12月20日 夢占い

2013-12-20 18:18:37 | B,日々の恐怖



   日々の恐怖 12月20日 夢占い



 数年前の出来事です。
当時、俺は夢占いにハマって見た夢をメモに取っていた。
不思議なことに、メモを取るようになってからは無意識にメモにとるためにと努力しているのか、夢の中のことをよく憶えていられるようになった。
 妙に夢の中もクリアな世界になっていく。
起きてから、今のは夢か?今が夢の中か?とか、本人が一瞬理解できなくなるレベルだった。
 と、ある日の夢の中で俺は祖母の家の玄関にいた。
祖母は数年前に死去、家は隣家の方が購入されてリフォームされているとか。
 次の瞬間には一階の六畳ほどはある大きな浴場にいたかと思えば、その次の瞬間には二階のトイレ、と瞬間移動するように場面が変わり、気付くと体の弱かった祖母がいつも寝ていた祖母の部屋にいた。
 ベッドの上には正座をする祖母がいた。
久しぶり、と声をかけようとしたけれども一瞬ためらう。
 祖母の俺を見る目が、顔が無表情すぎて一瞬怖く感じた。
生きていた頃とはちょっと感じが違う祖母に戸惑っていたら、ベッドの上にいたはずの祖母が俺めがけて飛び掛ってきた。
 俺は、

「 うはっ!」

と叫びながらやっと目覚めた
 久しぶりに、夢の中とはいえ祖母に出会えたはずなのに印象が最悪の夢。
胸もドキドキいってるし息も荒い、変な汗もかいている。
 なにか変だ、と思い祖母の娘である母に、こんな夢を見た、と正直に打ち明けてみた。

「 やっぱり怒ってるんだろうなぁ・・・・。」

と母はがっかりしたような表情を見せた。
 まったく俺は知らなかったのだが、一階のでかい風呂場は祖母のお気に入りの場所だったそうで、わざわざそこにあった井戸を潰してまで作った最愛の場所だったらしく、また二階のトイレというのも、体の弱い祖母が階下に下りずに用を足すために作ったもの。
なんでも風呂場もトイレも、隣に住んでる方たちには無断で作ったものらしく、けっこうもめたっぽい。
 新しく住む方たちがリフォームをするんだとしたら、たぶん風呂やトイレにも手を加えているはずなので、自分の作ったものが壊されるのがイヤで腹立てて訴えてるんじゃないか、という話だった。

「 もう自分の家じゃないのにねぇ・・・・。」

と母はちょっと寂しそうに付け加えた
 なんで俺のところにばあちゃんが訴え出てきたのかは皆目見当がつかんのだが、それ以来、夢をメモにとるのは辞めた。
夢って忘れたほうがいいんだろうなぁ、と初めて思える出来事だった。
俺に飛び掛ってきたばあちゃんの、あの無表情な目が忘れられない。














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日々の恐怖 12月19日 釣れ始め

2013-12-19 18:29:13 | B,日々の恐怖



      日々の恐怖 12月19日 釣れ始め



 数年前、千葉のある堤防に友人達と釣りに行った時の話です。。
夏なので夜釣りをしたかったのだが、初めて行く堤防だったので、様子見をかねて明るいうちから始めて、夜釣りに入る事にした。
 日中は何も釣れず、周りの釣り人もただ竿を出して、常連さん達と話してるだけの状態だった。
しばらくして日が暮れはじめると、常連さん達が、

「 じゃ、また明日。」

などと言いながら、次々と帰ってしまい最後は俺らだけになった。
 土曜日で堤防貸し切りなんてラッキー過ぎるわーなんて話していたら、日暮れ時のゴールデンタイムに突入。
入れ食い状態でアジやらイワシがかかってくる。
 久々のラッシュでテンション上がってたら、チャリに乗った地元のおっさんが話しかけて来た。

「 釣れてる?」
「 昼から粘ってやっと釣れ始めましたよー。」
「 そうかぁ。でも真っ暗になる前に帰りなよ。ここ出るから」
「 え?」
「 向こうの角さ、一段下がってる所があるんだけど、そこに花があるんだよ。」
「 さっきまで常連さん達がいて見えなかった・・・・。」
「 ここ前から事故が多いから、その時も声かけたんだけどね、やっと釣れ始めたから、もう少しやってから帰る、って言われてね。」
「 マジですか、だから常連さん達、皆帰ったんだ・・・。」
「 地元じゃ割と有名だからねぇ、ま、一人じゃないから大丈夫だと思うけど、念のためね。
夜釣りするなら、穴場教えてあげるよ。」

で、穴場を教えてもらいながら平静を装いつつ、全員竿に仕掛けをつけっ放しで慌てて片付けて移動した。
 この時のみんなの慌て様は笑い話になるのだが、何故常連さんがいなくなって、俺ら新参だけになった途端釣れ始めたのかと考えると、今でも少しゾーッとする。














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日々の恐怖 12月18日 公園

2013-12-18 19:12:55 | B,日々の恐怖



      日々の恐怖 12月18日 公園



 4月に大学付近のアパートで一人暮らしを始めて、近所を散策してたら祠が沢山あった、普通の住宅街なのに・・・・。
で、異様なのが祠がある場所に夜に電気つけてたり、顔のない地蔵みたいな祠に手を合わせてる妊婦とかがいた。
挙句には建てたばかりの一軒家の庭に小さな祠が異物的に存在してる、地蔵祠に面して向かうカタチで。

 しばらくして、俺のアパートは大学に近いので、自然と溜まり場になった。
それで、6月ごろ、大学の友人3人と俺のアパートで夕食のプチ宴会していたとき、この神社の話題が出て、面白がって、その不気味な神社に行こうという話になった。
どうせなら遅いほうが雰囲気があるだろうと言うことで、俺のアパートの部屋で時間待ちで酒飲んでた。
 で、そろそろ行こうかとなり、夜の12時ぐらいに神社に出発した。
だからテンション高いし、俺もその時は結構ノリノリだった。
 ただ、Aだけは酒を一滴も飲まなかったし、やっぱり乗り気じゃなかったから神社の向かいにある公園で待ってるって言った。
友人二名は文句たれたれだったけど、とりあえず俺とその友人二名で神社に入る事になった。

 4月には桜並木が凄い綺麗な神社だったんだけど、綺麗過ぎて逆に怖かった。
で、桜並木抜けて、三人とも本殿にたどり着いたんだけど、夜なのにぼんぼり照らしてて薄気味悪い。
だから、俺としてはビビッてしまい、早くその場を離れたかったんだけど、テンションたっかい二人は、神社の鈴鳴らして、

「 幽霊さん、いるんすかぁ~?」

とか、あほな事言うもんだから、俺が真剣に、

「 もう止めろよ!帰ろうぜ!」

って言ってたら、ぼんぼりの灯りが急にふっと消えた。
 俺たち大パニック。
とにかく逃げようと足を動かすにも動かせない。
それで、何かと思わず下を見たのがいけなかった。
無数の小さな子供が俺たちを取り囲んでて、一番恐ろしかったのは、顔のパーツがぐちゃぐちゃな小さいのが体にはい上ってきてた。
もう、動けない、怖い、で失禁寸前だったんだけど、鳥居の前の大きな灯籠にAがいつの間にか立ってて、

「 走れ!!」

って叫んでくれた瞬間に、体がちょっとだけ軽くなって、あとは猛ダッシュ。
子供の笑い声が聞こえる並木道をひたすら走った。
 友人二人も、なんとかAの声で体が動かせる様になったらしく、灯籠の前で、俺と友人二人はAを前に腰を抜かしていた。

「 おいA、お前公園で待ってるって言ってたじゃないか。」
「 お前たちが、なんかやばそうだったから・・・・。」

そう言ってAは苦笑いをした。
確かに、Aの一声のおかげで俺たちはあの場所から脱出出来た訳だけど、なんとなく腑に落ちなかった。

 次の日、Aに改めて、

「 どうして、公園にいなかったのか?」

と聞いてみた。
すると、あの時体験した事より恐ろしい返事が返ってきた。

「 公園にもうじゃうじゃいたもんだから、最初から公園にも行かなかったし、神社なんか見るのも嫌だったから、本当は帰ろうと思ってた。」

Aが帰らなくて、本当に良かったと思った。
 A曰く、俺の住んでる付近は何があったのかは知らないが、子供や水子の幽霊がうじゃうじゃいるらしい。

「 お前、良くあんなとこ住んでるな・・・・。」

何も言えなかった。
 あれから考察してみると、確かに違和感があるほど公園と神社は向かいに面している。
供養の為の公園なのかと思うと、普段何気なく遊んでる子供たちを見る度に複雑な気分になる。

















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日々の恐怖 12月17日 山口さん

2013-12-17 19:01:17 | B,日々の恐怖




     日々の恐怖 12月17日 山口さん




 以前住んでいたアパートのことです。
土曜日の夕暮れ時に居間でまったりしていると、不意にインターフォンのチャイムが鳴ったので受話器を取った。

俺:「 はい!?」
訪問者:「 山口さんのお宅ですか?」
俺:「 いえ、違います。」

その後、詫びの言葉もなくそのまま切れたので、何だよコイツと思って居間へ戻ろうとしたら再びチャイムが鳴った。

俺:「 はい?」
訪問者:「 山口さんのお宅ですか?」
俺:「 いや、だから、違いますって、どちらさんですか?」

 最初の訪問者と明らかに同じ声だった。
陰鬱な感じの女性の声。
話し方も最初の時とまったく同じだった。
 表札はフルネームでドアの前に出してある。
しかし、俺は明らかに山口さんでは無い。
それどころか名前が一文字もかすっていない。
 そして間髪を置かず3度目のチャイムが鳴ったので、今度は受話器を取らずに直接玄関口へ行った。
ドアスコープを覗いたのだが、見えるはずの相手の姿がまったく見えなかった。
不審に思ってチェーンのみ残し、鍵をはずしてドアを開けてみたのだが、見える範囲には誰もいなかった。

「 ピンポン・ダッシュかよ!!」

とムカついてドアを閉め、背を向けた瞬間に何故かチャイムがまた鳴った。
そこで背筋がゾッとした。
 すぐに振り向いてドアスコープから見ても誰の姿もそこには見えない。
そんな馬鹿な、と思ってチェーンも外してドアをあけ、慌てて外の様子を直接目で確認する。
ドアの後ろ側の死角の部分も見てみたのだが、やはり誰もいない。
アパートの外は長い廊下になっていて、隠れる場所なんて何処にも無い。
 呆然と玄関口で突っ立っていると、突然、

「 開けて・・・・。」

と、女の小さな声が背後から聞こえた。
その時の背後というのは俺の部屋の中の方向なのだが、怖くてまったく振り向くことなんてできなかった。
 声を聞いた瞬間飛び上がって、サンダルのまま外へ飛び出し、近くのコンビニに駆け込んだ。
震える手でズボンのポケットから携帯電話を取り出し、不動産屋に電話を掛けた。

俺:「 ヤ、ヤマモト・ハイツ101号室の今野ですけど、不審人物が、不審人物が僕の部屋に入ってきちゃったんです。」
不動産屋:「 あの、警察に連絡されたほうが良くないですか?」
俺:「 いや、そ、その、なんて言うか、人じゃないというか・・・・。」
不動産屋:「 あっ、少々お待ちください。今、社長と代わります。」

 不動産屋で対応してくれた女性は、俺の煮え切らない言葉から何かを察したようで、すぐに社長と代わってくれました。
その後、社長と話をしたのだが、どうやら俺のアパートには以前から時々、そういう妙な訪問者が訪れることがあったらしい。
社長が言うには、ここ最近はずっと、その被害に遭った人がいなかったので、もう大丈夫だと思っていたらしい。
 ちなみに以前「山口さん」という男性が確かに、このアパートに住んでいたらしいのだが、ある時を境に家賃が滞るようになり、連絡も取れなくなったので部屋を調べてみたら、荷物もそのままに行方不明になっていたらしい。
 その人が住んでいたのは俺の部屋とは違う部屋ということだったのだが、それからしばらくして、山口さんを訪ねてくる奇妙な訪問者が度々現れるようになったとのことだった。
 結局それ以降は特にその訪問者が訪れてくることはなかったのだが、いつまた来るかと思うと、夜一人で居るのが耐えられなくなり、そのアパートを早々に引き払って引っ越してしまった。














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