日々の恐怖 4月13日 夏の終わり
十数年前になる。
俺は3流大学に通う苦学生だった。
週4日のバイトと仕送りで、やっと人並みの食い物が食える程度の収入があった。
それは大学2回生のある夏のことだ。
俺は夏の暑さに参っていた俺は、バイトがない日はほぼ毎日エアコンの効いた市民センターで大学のレポートを仕上げるのが日課だった。
そして、そこには地域の交流掲示板という、勝手に張り紙してもいい掲示板があった。
俺はいつもその掲示板をチェックしていた。
というのも、高校受験に限っては自信があったので、
“ 家庭教師募集でもあれば・・・・。”
と思っていたのだ。
しかし、
“ 外国語を一緒に勉強しませんか?”
とかいったものがほとんどで、家庭教師の募集はあまりなかった。
そんなある日、俺がいつものようにその掲示板をチェックすると、こんな張り紙があった。
“ 7月○日~○日の間の日でお部屋の片付けを手伝ってくれる方募集 半日5千円~ TEL XXXX-XX-XXXX 山田(仮名)”
ちょうどその間の日は大学がテスト終わり直後で休みでバイトも入っていない、さらに帰省する予定の数日前で都合が良かった。
“ 5千円なら帰省費用の足しになるだろう。”
と思い即決、すぐさま電話をかけた。
「 掲示板で片付けのお手伝い募集してるようで、それに応募したくて電話したんですが・・・。」
というと、男は少し戸惑った感じだったが、少しして、
「 分かりました、何日ならいけますか?」
と言って来た。
そこで、
「 ○日以降なら、どの日にちでも大丈夫です。」
というと男は、
「 じゃあ○日で、朝からいけるなら9時からでお願いします。」
と返してきた。
そして、こちらの連絡先や男のアパートの住所を聞いて応募は完了した。
電話に出た男は声から察するに、30代半ばくらいで少し元気がなさそうだったのは印象的だった。
そうこうしている間に日は過ぎ、約束の日になった。
天気は快晴で朝でも暑い日だった。
「 山田さんの家、クーラー効いてるといいなぁ~。」
なんて思いながら、俺は山田さんのアパートに向かった。
8時50分ごろ、山田と書いた表札がある部屋の前にたどり着いた。
ピンポーンと呼び鈴を鳴らすと男が出てきた。
「 よくきたね、いらっしゃい、入って入って。」
男は他人と話すのが苦手なのか目をそらしながら俺に挨拶し、部屋の中へと入っていった。
俺は、
「 お邪魔します。」
と靴を脱ぎ男の後を追った。
クーラーの効いた涼しい部屋だった。
その後、改めてお互い自己紹介した後、片付けの段取りや何を手伝って欲しいかと伝えられた。
重い物を持つときに運ぶ手伝いと、ゴミをゴミ捨て場に捨ててくる、簡単な清掃、というのが俺に求められた役割だった。
ゴミは結構多くて、苦学生の俺が欲しいと思うようなお宝も数多くあった。
それを察したのか、山田さんは、
「 欲しいのあったら持って帰っていいよ。」
と言った。
俺は喜んで持って帰るものは選別しカバンにつめていた。
そうこうしている間に片付けは進んだ。
山田さんの部屋は見る見る綺麗になった。
というか、最初からそこまで物が多い部屋ではなかったので、かなりガランとしてしまった。山田さんは、
「 そろそろ・・・。」
と言って少し考えた後、ハッと俺のほうを見た。
そしてさらに考えるそぶりをして、
「 そろそろ終わりにしようか。」
と言った。
そして、一日働いたからと1万円のピンサツをくれた。
山田さんは、
「 できれば明日半日くらい空かない?
もう少し手伝って欲しいことがあって・・・。」
と言った。
俺は、
“ あと5千円もらえる、ラッキー!”
と思い快諾した。
そしてお宝を満載にした自転車で家に帰った。
次の日、山田さんの家に来ると玄関が空いていた。
「 すいませーん、山田さんいますかー?」
というと奥から
「 いるよ、入ってきて。」
と声が聞こえた。
俺は玄関を閉め、
「 お邪魔しまーす。」
と言って部屋に入った。
“ 山田さんどこだろう、こっちから声が聞こえたな?”
そう思って奥の部屋に向かうと山田さんがニヤニヤしながら近寄ってきた。
山田さんは、
「 今日は半日でいいから5千円入れた封筒ここに置いとくから。」
と机の上に置いた。
そして、
「 こっちきて。」
と俺の手を引っ張り部屋の奥に連れて来た。
実はこの部屋のウォークインクローゼットの中に重い荷物があって、それを1人で出すのが大変だから手伝って欲しいとのことだった。
山田さんは、
「 中から押すから、合図したら外から思いっきり引っ張って欲しい。」
と言って山田さんはクローゼットの中に入った。
クローゼットにはジャケットやスーツが掛けられており、山田さんの姿は見えなかった。
少しして山田さんが、
「 引っ張って。」
と言ったので、その荷物の取っ手を思いっきり引っ張った。
“ ズルズル・・・ズルズル・・・・。”
少しずつ荷物が動く。
重い、60キロくらいありそうだ。
すると、ズコッと荷物が抜けた。
“ あれ?空じゃん。”
クローゼットからバタバタバタンと音が聞こえる。
「 山田さん?」
何度か声をかけたが返事がない。
バタバタという音が徐々に消えかけた。
「 え?え?」
その時、状況が全く把握できなかった。
そして、ハッとしてスーツやジャケットをどけた。
実際ここまで十数秒だっと思うが何分も経ったような感じがした。
山田さんはクローゼットの中で首を吊っていた。
踏み台をどけたのは俺だった。
すぐに降ろそうとしたがロープが硬くて外れない。
“ 切る物・・・、全部捨てた記憶がある・・・。”
正直パニクっていた。
山田さんは動かない。
“ 降ろさないと・・・、太いロープだ、鋏じゃ無理・・・、どうしよう・・・。”
隣人に助けを求めたのは1分以上経った後だった。
それから救急と警察が来て一日事情聴取だった。
実家からは親が来てなぜか号泣された。
山田さんは救急車で搬送されたが、降ろすのに時間が掛かりすぎその日のうちに病院で亡くなった。
遺品はほとんどなかった。
綺麗なもんだ。
いっぱい片付けたから。
結局、俺に渡そうとしていた封筒に5千円札と一緒に遺書めいた紙が出てきた。
リストラにあったこと。
妻が他の男と逃げたこと。
借金があったこと。
などが書かれており、
“ 最後に俺君には迷惑をかけた。”
など書いていたため、なんとか自殺幇助の疑いも晴らすことができた。
そして事情を理解した警察が、一時期押収していたその5千円もくれた。
結局、自殺の際の身辺整理をしたかっただけ、そう思っていた。
その1週間くらい後、昔山田さんと縁を切ったという、山田さんの姉が来た。
そこには自分にとって嫌な真相があった。
山田さんは某宗教の熱心な信者だった。
それが原因で家族と仲違いしたようだった。
その宗教では、自殺すると地獄に落ちる、など言われている。
そこで、死にたいけど自殺は駄目だ。
だから今回のような方法で死ぬことを選んだらしい。
そして最後に、
「 これ少ないけど迷惑かけたから・・・。」
と10万円をくれた。
山田さんの解釈だと、俺は人を殺したことになるのか?
俺は11万5千円で地獄行きなんだろうか。
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