大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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A,日々の出来事

☆( 1年間366日分の日々の出来事  )

B,日々の恐怖

☆( 日々の恐怖 )

C,奇妙小説

☆(  しづめばこ P574 )                          

霧の狐道195

2009-02-28 18:14:49 | E,霧の狐道
俺は速攻で、両親に手術はダメと念を押しておいた方が良さそうだと思った。
 俺が疑念の眼で見ていると、タヌキは突然左手で右の腕を掻き始めた。

“ ポリポリポリポリ。”

俺は右の腕を見た。

“ 蚤でもいるのかな?”

特に蚤が隠れるほど毛むくじゃらではない。
タヌキは俺が右手を見ているのを見て、ニコッと笑って言った。

「 この右手が神の手です。」
「 え、神の手?」
「 そうです、神の手です。」
「 孫の手だったら知ってますけど。」
「 いや、孫の手じゃなくて神の手。」
「 はあ・・・。」
「 ゴッドハンドですよ、ゴッドハンド。」
「 ゴッドハンドって、何ですか?」
「 ホラ、手術の神様ですよ。
 この右手が奇跡を呼ぶのですよ。
 奇跡を呼ぶから神の手です。
 スゴイ技術を持ってるとかのとき言うでしょう。」
「 はあ・・・。」
「 私は手術の神様ですから、安心して手術を受けられますよ。」
「 いや、ヤッパ、手術はちょっと・・・・。」
「 う~ん、そうですかァ・・・・。」

 突然、タヌキは両肩をグルグル回してから右手に拳を作り、人差し指を一本立てて天井を指差した。

“ 何かのまじないか?”

俺は思わず天井を見た。
特に天井に神様はいない。
そして、タヌキの右手は俺の方にゆっくりと下げられ、人差し指が俺の顔の正面で止まった。
タヌキは確信を持って俺に言った。

「 君は最高の医者に巡り合ったのだ!」

俺はタヌキの人差し指を右に避けながら斜めにタヌキの顔を見た。
タヌキは自信満々の顔を右に向け、人差し指をベッドに向けて言った。

「 じゃ、一応、鎖骨固定帯で肩の形を整えて固定しますからね。
 それから、三角巾でも腕を固定しますから安静にしていて下さい。
 ジタバタすると、ポッキリ折れちゃいますからね。
 ポッキリ折れたら、確実、手術するんだけどなァ・・・。
  まあ、左足は打撲だけですから、湿布をしておけば治ります。
 それから、痛み止めも出して置きましょう。
 じゃ、処置をしますからこっちに来て下さい。」



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霧の狐道194

2009-02-24 18:59:46 | E,霧の狐道
 主治医の狸小路は、妙にニコニコして俺の顔を見た。

“ タヌキだ、こいつは絶対タヌキに違いない!”

俺は確信した。

“ この場を何とか脱出しなければ・・・・。”

俺は慌てて言った。

「 えっと、あの、手術は怖いですからダメです。
 僕は生命力が強い方ですから、サロンパスを貼って置けば治ると思います、ハ
 ハ・・・。
 それに、ホント貧乏で、手術するお金が無いんです。
 毎日、タマゴ掛けご飯とパンの耳で飢えを凌いでいます。
 もう、ホント、入院するだけで精一杯です。」

タヌキは上目遣いで俺を見た。
タヌキの眼の端が笑っている。

“ ヤバイなァ・・・。”

どうも、まだ、手術を諦めていないようだ。
 タヌキは身を乗り出して笑い顔で俺を脅迫する。

「 そうですかァ、却って治るのに時間が掛かりますよォ~。」

タヌキのドアップになった笑い顔を見て俺はたじろいだ。
眼だけが笑っていないところがとても恐ろしい。
俺は仰け反りながらも何とか防戦した。

「 死んだ爺さんに、手術だけは避けろと言われていますから・・。
 これ遺言みたいなもんでして・・・・。」
「 う~ん、そうですかァ・・・・。
 ま、ご両親の意見も聞いて見ましょうか・・・。」




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霧の狐道193

2009-02-21 18:06:35 | E,霧の狐道
俺は主治医の顔を見た。

“ どうも、胡散臭いな・・・・。”

 主治医の狸小路は、妙にニコニコして俺の顔を見てから、ボールペンでレントゲン写真を指しながら説明を始めた。

「 えっと、ここの骨、ホラちょっとヒビがいってますね。
 ホラ、ここから、ここに、こう来て、こう来ると・・・。
 これは、手術の方が良いですね。
 もうちょっとで骨折だったんですがね。
 惜しいですね、折れてないんですよ、うん、うん。」
「 あの、折れてないんだったら・・・・・。
 手術は、ちょっと・・・・。」
「 手術の方が早く治りますけどね。
 金属で固定すると、スッキリ治りますよ。」
「 手術、あの、怖いんですけど・・・。」
「 アハハハ、大丈夫ですよ。
 この手術だったら、私も出来ると思いますよ。」
「 えっ!」
「 いや、大丈夫ですよ、簡単ですから!」
「 手術せずに直せますか・・・。」
「 あ、一応、固定すれば治りますけどね。
 手術した方が良いと思いますがね、久し振りですから。」
「 何が、久し振りなんですか?」
「 いえ、こっちの話ですから、気にしないで下さいよ。
 手術した方が、早く治りますよ。
 ホント、絶対手術が良いですよ。
 うん、うん・・・・。」



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霧の狐道192

2009-02-19 20:08:30 | E,霧の狐道
 エレベーターは二階に止まり、俺は通路を看護婦の井上さんに連れられて外科の診察室に移動する。
いくつかの診察室の扉を通過し、主治医の診察室に到着した。
井上さんが扉の前で言った。

「 ここよ。」

井上さんが扉を開いて、車椅子を中に押し入れる。
 診察室の中には、机に向こうを向いて座っている小柄で丸っこい男がいた。
机の前にある、ライトが裏から照らされているスクリーンには、レントゲン写真が貼り付けてある。
どうやら、俺の写真らしい。
主治医は、向こうを向いたまま唸った。

「 う~ん。」

 俺は、主治医の様子から不安になりながらも、車椅子から丸椅子に座り直した。
主治医は、レントゲン写真から眼を離し、俺の方に自分の座っている椅子をクルッと回した。

“ ん・・・・。”

俺は、一瞬、信楽のタヌキが座っているのかと思った。
そして、タヌキは俺の顔を見て言った。

「 ハイ、主治医のタヌキコウジです。」
「 えっ、タヌキ?」

俺はタヌキがタヌキと名乗ったのに驚いた。
そして、タヌキは話を続けた。

「 いえ、狸小路です。」
「 えっ、姓がタヌキで、名前がコウジ?」
「 いえ、姓が狸小路です。
 名前はジュンです。
 続けて言うと狸小路 純です。」



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霧の狐道191

2009-02-17 18:49:37 | E,霧の狐道
 俺はチラッと井上さんを見た。
井上さんは俺がベッドを見ているのが分かっている。
でも、それについての話は出て来ない。

“ 当然だよな・・。”

俺たちはエレベーターに一直線に進む。
エレベーターの前で井上さんは言った。

「 2階まで行くわ。」

 俺は扉の上にある階の表示を見る。
エレベーターは1階に止まっていた。
井上さんがエレベーターのボタンを押す。
扉の上にある階の表示がゆっくり上がり始める。

“ 1,2,3・・・・。”

俺は振り返ってナースステーションの横の奥まった所にあるベッドを見た。
ベッドは一つだけ切り離され、別のものとしてポツンとそこにあった。
 後ろでエレベーターの扉が開く音がする。

「 乗るわよ。」

井上さんが後ろを見ている俺に言った。
 俺は正面を見た。
エレベーターの扉が開いている。
エレベーターの正面奥の壁には大きな鏡がついていた。
そこには車椅子に乗った俺と井上さんが映っている。
 俺は井上さんに押されてエレベーターに乗り込んだ。
鏡に映った俺の顔が大きく見える。

“ 俺、ちょっと表情暗いな・・・・。”

 井上さんが車椅子の向きをクルッと扉の方に変えた。
また、ベッドが見える。
扉が閉まり始め、ベッドが視界から消えて行く。

“ こんな風に、人も消えて行くのだろうな・・・。”

俺は沈んだ気分で、目の前のピッタリ閉じた扉を眺めていた。
そして、エレベーターは低く音をたてながら下がり始めた。



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霧の狐道190

2009-02-15 19:17:41 | E,霧の狐道
 病室を出て通路を移動する。
キュルキュルキュルと車椅子の車輪の音がする。
少し錆びているようだ。
 通路の移動途中、俺はキョロキョロと辺りを見回す。
そして、入院患者の何人かと擦れ違う。
顔色はあまり良くない。

“ ヤッパ、元気、無いよな・・。”

 ついでに扉の開いている病室も覗いて行く。
左側の大部屋は扉が開け放たれて、患者同志話をしている人やベッドで寛いでいる人が見える。
右側の個室部屋は扉が閉まっている部屋ばかりだ。

“ あ、開いている部屋がある。”

俺の病室から出て三つ目の個室の扉が開いていた。
前を通過するとき、俺は首を回して部屋の中をじ~っと見た。

“ ガランとしてるな・・・。”

部屋の中にはロッカーやテレビが見えるがベッドは無い。

“ ベッド、無いよな・・・。”

ナースステーションを通過して、もう直ぐエレベーターだ。

“ あ、ベッドがある・・。”

 俺はナースステーションの横の奥まった所に、ベッドが一つポツンと置かれているのを発見した。

“ あれって、個室部屋のだろうな・・・・。”




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霧の狐道189

2009-02-13 19:18:29 | E,霧の狐道
 俺は部屋から出て行く田中爺の後ろ姿を見ながら思った。

“ あのベッド・・、生きては退院できないのか・・・・。”

俺は曰く付きのベッドを見た。

“ ホント、あのベッドじゃなくて良かった。”

 曰く付きのベッドを見ると、自然と隣のベッドの山本爺が眼に入る。
山本爺は相変わらず布団から眼だけを出してこちらを見ている。
俺は山本爺とモロに眼が合った。

“ な、何か、ヤダなァ・・・。”

俺は気まずい気分で山本爺から眼を逸らせた。






      主治医


 俺は、今日、午前中主治医の診察を受ける予定となっていた。
朝食を取った後、休憩を挟んで診察を受けに行く。
 朝食後、ベッドで30分ほど寛いでいると、看護婦の井上さんが車椅子を押しながら遣って来た。

「 じゃ、診察に行こうか。
 車椅子に乗ってね。」
「 ハイ。」

 井上さんは車椅子をベッドの横に持って来て、俺は井上さんに介助されながら車椅子に座る。
足と肩の痛みが残っているし、腫れているのか体を動かし難い。
それに車椅子に慣れないから勝手が分からず、イデデ、イデデと喚きながら何とか座った。
 井上さんが笑いながら言った。

「 大袈裟、大袈裟!」
「 でも、ホントに痛い。」
「 若いんだから、我慢、我慢。」
「 若くっても、痛いものは痛い!」
「 じゃ、出発、出発!」

井上さんに車椅子を後ろから押され、俺は病室を出発した。



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霧の狐道188

2009-02-11 19:16:05 | E,霧の狐道
俺は不安になって田中爺に聞いた。

「 俺のベッドは大丈夫?」
「 ああ、大丈夫。」
「 俺が入って来たときは空いていたけど・・・。」
「 アハハハハハ、怖がっとるな。
 心配せんでええ。
 おまえのベッドを使っていたヤツは、おまえが入って来る二日前に出て行き
 よったがな。」
「 そうか、良かった・・・。」
「 あらっ・・、今、生きて出て行ったとは言うてへんで・・・。」
「 えっ・・・。」
「 アハハハハ。
 冗談やがな。
 心配せんでもええで。
 前のヤツな、元気になって出て行きよったわ。
 ホンマホンマ、嘘やないで。
 安心しい。」
「 脅かすのナシ!」
「 分かった、分かったがな。
 それでやな、そのベッドの話の続きなんやけどな。
 わしには見えんにゃけど、山本さんがな、最近、黒い影が夜中にそのベッド
 から起き上がって来るちゅいよんねん。」
「 えっ・・・・。」
「 わしはな、夢でも見とんのとちゃうかって言うてんのにな。
 ほんで、わしな、ホンマかいなと思てな、前に起きてたことあるねん。
 一晩中起きてても、そんなこと起こらんかったわ。
  まあ、途中、ちょっと居眠ってたときあったけどな。
 そやから、わしにはよう分からんにゃ。
 でもな、山本爺には、時々見えるんやて、夜中にな。
 それでやな、もう、我慢できんって言うてな、看護婦さんに言いよったんや。
  看護婦な、そんなバカなって言いよったけどな・・・。
 そら、悪い評判たったら大変やろ。
 そうです、何て言えへんがな。
 それでもな、わし、看護婦の顔色見てたんや。
 何か、怪しい気がするわ。
  あ、そろそろ、朝飯の時間やな。
 ほな、ちょっと、朝飯何か見てこォ~。」

田中爺は言うだけ言うと部屋から出て行った。



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霧の狐道187

2009-02-09 19:51:34 | E,霧の狐道
 俺はひとまず昨日のことは伏せて、しらばっくれて訊いてみた。

「 どう、変なん?」
「 そやな・・・。
 まあ、同じ部屋になったのも何かの縁かも知れへんな・・・。」
「 だから、どう、変なん?」
「 うん、よっしゃ。
 ちょっと、待ちや・・・・。」

田中爺は通路の方に行って外をキョロキョロ見てから、人がいないことを確かめて戻って来た。

「 看護婦、おらんし言うたるわ。
 あのな、このベッドな、使ったヤツ、生きては退院できひんで・・。」
「 えっ、ホント?」
「 ホンマやで。
 わしも山本さんもホンマにこの病院長いんや。
 そやから、知ってるねん。
 知ってるヤツだけで、四人はおるんやで。
 これ、ホンマのこっちゃがな。」

 俺はシゲシゲと曰く付きのベッドを眺めた。
その隣のベッドでは、相変わらず山本爺が布団から眼だけ出して、こちらの様子を窺っている。
田中爺はアゴでそのベッドを指して話を続けた。

「 で、そのベッドなんやけどな。
 来たヤツ、始めは結構元気なんやけどな、そのうち段々弱って来て個室行き
 なんや。
 そんで、個室行ったらもう帰って来んわな。
 ホンマ、お陀仏さんやがな。」
「 それって・・・・。」
「 ああ、始めは分からんかったんやけどな、最近、何か変やなって、山本さん
 と話してたら、うわ~って気が付いたんや。
 そんなら、案の定、そうなんやわ。」



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霧の狐道186

2009-02-07 20:20:42 | E,霧の狐道
俺は田中爺に訊いた。

「 今、龍平ってのが入ってきたけど、誰?
 入院患者?」
「 あ、龍平な。
 あれは、入院患者や無いで。
 龍平はな、この病院の院長の息子や。
 この病院の院長、やり手でな。
 コンビニみたいに、あっちこっちに病院作って、大儲けやがな。
  あの龍平は、院長の息子やがな。
 この病院に、よ~来よるんや。
 何でやろな、他にも病院いっぱいあるのに・・・。
  まあな、わしも山本さんもこの病院長いやろ。
 何回も龍平と顔合わしてるし、知り合いやん。
 まあ、お友達やがな。
  今日は、土曜日やろ。
 学校休みやから、昨日から院長室に院長と泊まっとるんや。
 この病院の最上階の角っこにビップルームがあるねん。
 ホテル並みのスゴイ部屋らしいで。
 わし、入って見たこと無いけどな・・・。
 そこから、来とるんや。」
「 へえ~、そうなん。
 それで、何でこの部屋に来たん?」
「 あ、それはやな。
 山本さんがな、そこのベッドが変やって看護婦さんに言ってやな。
 それを聞き付けて来たんやと思うわ。」

俺は、空きベッドをチラッと見た。
ベッドとしては特に変わったところは無い普通のベッドだ。

“ 昨日の夜、黒い塊がベッドから出て来たけど、田中爺は前からそれを知っ
 てるのかな?
 今のところ、山本爺が変やと言っていたってことしか言ってないけど・・・。”




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霧の狐道185

2009-02-05 18:54:05 | E,霧の狐道
 俺はその子供に言った。

「 山本さんは、昨日の夜、俺がその女の子を連れて来たと言ったけど。」
「 ふふ、どうもそうらしいな。」
「 どうしたもんかと・・、考えてるんだけど・・・。」
「 うん、まあ、それは、ええわ。」
「 まあ、それは、ええわって、かなりヤバイような気もしてるんだけど・・・。」
「 アハハ、かなりヤバイやろな。」
「 そうか、やっぱりかなりヤバイのか・・・。
 弱ったなァ。」
「 まあ、まだ、はっきりしてないけどな。
 で、おまえ、名前は何ちゅうんや?」
「 神谷貴志だよ。」
「 わいは、山藤龍平。
 龍平と呼んでもええで。」
「 じゃ、俺も貴志でいいよ。」
「 うん、じゃ、貴志、また来るわな。
 わい、ちょっとベッドの様子を見に来ただけやから。
 また、後で来るわ。」
「 うん、そう・・・。」
「 ホンジャ、な。」
「 じゃ、また後で・・。」


龍平は軽く空きベッドを一瞥して病室を出て行った。
俺は部屋を去って行く龍平を見て思った。

“ なんだか、とても元気そうなヤツだけど・・。
 でも、人は見掛けによらないとも言うからな・・。
 あいつも、入院患者だろうな・・。”

それでも、今の俺には同年齢の子供がいるだけでも心強く感じる。
入れ替わりに、体操を終えた田中爺が部屋に戻って来た。


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霧の狐道184

2009-02-03 19:31:21 | E,霧の狐道
布団から眼だけを出している山本爺の声がした。

「 龍平・・・。」

山本爺が手招きをして子供を呼んでいる。
 子供が山本爺に近付くと、山本爺はもっと近くに寄れと手で合図した。
子供は少し屈んでベッドの山本爺に顔を近付けた。
二人で、何かゴニョゴニョ話をしている。
何を言っているのか、ここまで聞こえて来ない。
 話が終わると、子供がこちらにやって来た。
そして、横になっている俺に話し掛けてきた。

「 わい、龍平って言うねん。
 昨日、入院したんか?」
「 そうだよ。」
「 ふ~ん・・。
 で、怪我?」
「 そう、川に落ちた。」
「 どうして?」
「 鞠を避け損なって・・。」
「 鞠?」
「 うん、小さな女の子が持っていたんだ。」
「 その子、昨日の夜中、来たんやろ。」
「 来たような気もするけど、夢でも見ていたと思ってるけど・・・。」
「 山本さんが、今、来たって言ったよ。」
「 そう・・・。」
「 それに、そこのベッドの影を連れて行ったって言うてんにゃけど・・・。」

山本爺を見ると、布団で顔を隠して眼だけでこちらの様子を窺っている。



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霧の狐道183

2009-02-01 19:42:13 | E,霧の狐道
 朝早くからウルサイなあと思いながらも、俺は田中爺の歌をボンヤリ聴いていた。

“ スタスタスタ・・・・。”

田中爺の歌が途切れた。

「 あれ・・・、誰か、来たのかな?」

田中爺と誰かの話し声が通路から聞こえる。

「 爺ちゃん、いつも元気やなァ~。」
「 お、龍平、オハヨウサン。」
「 ちょっと、山本さんと話するわ。」
「 ああ、奥にいるで・・。」

相手は子供のようだ。
 直ぐに、扉の影から俺と同じくらいの年の男の子が現れた。
そして、俺の方をチラッと見てから山本爺のベッドに進んだ。
子供はベッドで布団を被ったままの山本爺に話し掛けた。

「 ねえ、ねえ、山本さん!」

山本爺は布団をずらして眼を出した。

「 あ、龍平・・・。」
「 看護婦さんから聞いたんやけど、ベッドはどれや?」

山本爺は右手を布団から少し出し、空いたベッドを指差した。
子供は空いたベッドに向きを変え、ベッドに近付いた。

「 そうか、このベッドか・・・・。」

子供はそう呟くと、ベッドの表面を右手で丸を描くように摩った。
俺は何をしているのか分からず、その動きを眼で追っていた。



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