大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

☆奇妙な恐怖小説群
☆ghanayama童話
☆写真絵画鑑賞
☆日々の出来事
☆不条理日記

大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

☆分野を選択して、カテゴリーに入って下さい。

A,日々の出来事

☆( 1年間366日分の日々の出来事  )

B,日々の恐怖

☆( 日々の恐怖 )

C,奇妙小説

☆(  しづめばこ P574 )                          

日々の恐怖 8月31日 粉

2014-08-31 18:17:46 | B,日々の恐怖



     日々の恐怖 8月31日 粉



 夜遅くに仕事から自宅のマンションの部屋に帰ったら、玄関の前に粉が落ちていた。
なんだろうと思って屈んだところ、玄関ドアの異常に気づいた。
 穴が空いていた。
爪楊枝が2本入るくらいの小さな穴で、位置的には腰くらいの高さだ。
貫通はしていない。
 粉はその穴の下に落ちている。
その穴を開けた時の粉末みたいだった。
 しかもよく見たら一つじゃない。
蝶番の近くと膝くらいの高さに一つずつで合計三つあった。
ピッキングか何かだったら怖いと思ったけれど、部屋は無事だし、その日はチェーンロックをして就寝した。
残業で疲れていたし、明日不動産屋に連絡すればいいやくらいのつもりだった。

 なんだかんだで次の日も残業やってから帰宅して、泣きそうになった。
穴が増えていた。
やっぱり腰くらいの高さに一つ追加されていた。
 半泣きでマンションの入り口に戻って、管理会社に電話した。
被害が微妙すぎて通報は躊躇った。
 管理会社の人が来て、翌日に不動産屋といっしょに対応を考えることになった。
その日は同期に泣きついて泊めて貰った。

 その翌日、不動産屋が警察に通報し、警察が調べたところ犯人はあっさり捕まった。
うちの玄関に穴をあけた犯人は、隣の部屋の住人だった。
 仕事中に犯人逮捕の知らせを受けたので、その日は残業なしで警察署に行った。
不動産屋もいて、事情説明を受けた。

「 実は一年ほど前にも、同様の被害がありまして・・・。」
「 はあ・・・!!???」

ってリアルに声に出した。

「 そんな危ないヤツが住んでいるのなら、最初から言っておいて下さい!」

って言ったら、

「 いえ、その方は器物破損で書類送検された後、退去していただいたのですが・・。」

俺、きょとん。

「 退去した?」
「 その後に新しくあの部屋に入った方が、その・・・、今回の悪戯の犯人でした。」

 物音を聞かなかったか隣に警察が質問に行ったら、挙動不審だったもんで、厳しめに聞いたら自白したらしい。
前の犯人は所在も確かめ、そっちはそっちで別の場所にいるそうだ。
 二人に接点はないっぽいと警察が言っていた。
犯人の動機は二人とも異口同音ってやつで、“見ないと見られる”と意味不明らしい。

“ あれ、覗き穴だったのか・・・、貫通してなかったのに・・・。”

自分の部屋か隣の部屋が実は事故物件なんじゃないかって聞いたら、不動産屋は否定していた。

“ いや、同じ部屋に住んだ別人が同じ風におかしくなるって、明らかに異常だろ。
そして異常があるとしたら、うちと犯人のどっちの部屋なんだよ。
こっちの部屋の何に見られてたんだよ!”

もちろん自分はすぐに引っ越して、最近ようやく気分的に落ち着いてきたところです












童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ




コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

しづめばこ 8月23日 P319

2014-08-30 22:04:48 | C,しづめばこ

( 表示を編集し直しました。)


しづめばこ 8月23日 P319  、大峰正楓の小説書庫で再開しました。


小説“しづめばこ”は読み易いようにbook形式になっています。
下記のリンクに入ってください。
小説“しづめばこ”


大峰正楓の小説書庫(FC2小説)です。
大峰正楓小説書庫


童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日々の恐怖 8月29日 天袋

2014-08-29 19:28:04 | B,日々の恐怖



     日々の恐怖 8月29日 天袋



 俺は、子供の頃、今は亡き伯父夫婦に可愛がられていた。
母方の長兄である伯父は、祖父から土地山林の大部分を受け継ぎ、特に定職をもつでなく、世俗と交わるのを拒むように、土地の管理と賃借収入で悠々自適に暮らしていた。
 人里より少し離れてある代々の古い平屋を受け継ぎ、何故か子供もなく夫婦2人きりで、広い家を持て余し気味に暮らしていた。
共働きで忙しかったうちの両親に代わって、我等姉弟をよく自宅に呼び寄せては、ご馳走し、珍しい菓子を振る舞い、小遣いを与えて、親になった気持ちを味わっていたと、歳の離れた伯父とは少し疎遠気味の母は言っていた。
 高校に入り部活が忙しくなるまで、俺はよく土曜日の昼に伯父宅へ行き、菓子を食い、小遣いをせびっていたのを覚えている。
それでも高校生になって部活や補習で忙しくなり、あまり寄り付かなくなった。

 そんな高校2年生の春に、伯母が亡くなった。
急な脳溢血で、病院に運ばれる前に事切れていたと母は言っていた。
 高校生になり、伯父の家に寄り付くことは正月と盆の挨拶程度になっていた俺は、伯母の葬儀で久々に訪ねた伯父の家の荒れように驚いた。
障子はぼろぼろ、襖は色あせて、洗い物は貯めっぱなし。
確か祖父の代からの通いのお手伝いさんがいたはずだが、姿も見えない。
聞くと、伯母が亡くなる少し前に高齢を理由に去られたのだとか。

「 伯父さん、大丈夫ですか?」

伯母がいなくなっての意味も含めて、生活全般大丈夫なのか、と言うつもりで訪ねたが、よく考えもされず、虚ろな表情で、

「 ああ・・・。」

とだけ答えられた。
 たった一人の家族を亡くした伯父の落胆ぶりは、見るに絶えない程だった。
それからうちの父が家政婦さんを何度か手配したようだが、皆長続きすることなく去られていったと、最近になって知った。

「 竹林の中の古い一軒家は、どうも人間以外の何かがいるようで・・・・。」

と、ある家政婦さんが言っておられたと。


 暫く経ち、俺は東京の美大へと進学が決まった。
地元を離れる前に伯父に挨拶に行けと両親に言われ、地元を離れる数日前のとある夕方、伯父宅へ向かった。
 久方ぶりに訪ねた伯父の家は、あの伯母が亡くなった直後の荒れ放題な様子とすっかり反して、綺麗に整頓されていた。
俺は新しいお手伝いさんはうまくやってくれてるのだなと思い、伯父に、

「 お元気そうで。
新しい家政婦さんは良い方ですか?」

と尋ねると、伯父は読みかけの書籍から目線を上げることもなく、

「 ああ、家政婦さんはずいぶんといい人だったけど、秋前に辞めてったよ。」

と返された。
 家の様子は綺麗に掃かれて整理されている。
洗い物もない。
伯父が自分でやっているのだろうか?
そもそも食事の世話はどうされているのか?
まさか老人が店屋物だけで暮らせるはずもない。
 俺が、“この整頓のされようは誰がやっているのですか?”を、どう伯父の気に触らないように尋ねようかと考えていると、

「 そうだカズ坊、伯母さん作った天麩羅好きだったろう?
冷蔵庫に残ってるから食っていけ。」

と、俺の疑問にかぶせてくるように伯父が言ってきた。
 炬燵に入り、書籍に目をやったまま顔を上げようともしない伯父。
表情で真意を測ることも出来ない。

「 伯母さんの天麩羅が、あるんですか?」

俺は閉じられたままの仏壇に目をやりながら聞いた。

「 ああ、夕べも来てな、作って残して行ってるはずだ。
冷蔵庫を見てみろ。」

そう言いながら、指だけ台所の方を指差した。
 暫しの沈黙。
伯父の横顔を見つめるも、伯父の目は書籍の文字を追っている。

「 電気点けましょうか?」

 薄暗くなってきたこの家に死んだはずの伯母がいる、という得体の知れない状況に飲み込まれそうになった俺は立ち上がった。
 しかし、蛍光灯の紐が何処にもない。
見ると、蛍光灯の紐が根元で切られている。

「 ああ、電気はな、あいつが嫌がるからいいんだ。」

俺は意を決したつもりで、もう一度座りなおし伯父に聞いた。

「 伯父さん、伯母さんがいるのですか?
伯母さんが夕べ来られて天麩羅を作られたのですか?」

 もし伯父がボケてきているのなら、父母に報告してそれなりの処置を取らねば。
もし伯父が正気なのだとしたら、何かおかしなことが起こっているに違いない。
 伯父は俺の思惑を打ち消すように声を強めて、

「 ああ。」

とだけ言うと、はじめてこっちを向いた。

「 でも伯母さんは・・・。」

亡くなられたのでは、という疑問を伯父の顔を見て飲み込んだ。
 老眼鏡の奥の伯父の虚ろな瞳、黒目はきゅっと締まり白目は黄色く濁り、焦点が何処にあるのか分からない。
伯父のボケをほぼ確信した俺は、

「 俺、明日早いので今日はもう・・・。」

と言うと、

「 おお帰るか。
帰る前にな、離れにな、庭仕事用の梯子があるからな、あれ持ってきてくれんか?」

と言った。

「 脚立を、ここへですか?」

と言うと、

「 ああ、毎晩伯母さんがな、あそこから降りてくるのが大変そうなんだよ。」

と、仏壇の上の天袋を指差した。

「 え?」

亡くなった伯母が天袋から降りてくる?
言葉の意味を飲み込めずにいると、伯父は濁った目で俺を見据え、

「 伯母さんな、夜になるとあの天袋からぬうっと出てきて、あの横の杉柱を伝って降りてくるんだよ。」

伯父は天袋の横の杉柱を指でなぞるように指し示した。

「 伯父さん、伯母さんは・・・。」

1年前に亡くなられましたよと続けずにいると、伯父が分かっていると言わんばかりに、

「 俺も焼いたつもりだった。
けどな、いたんだよ。
隠れてたんだ、あそこにな。」

と焦点の定まらない目で俺を見据え、天袋を指し示した。
 仏壇の上にある天袋を見上げる俺。
古ぼけた襖は閉じられたままだ。

“ あの奥に伯母さんがいるって・・・? ”

伯父は俺に、言葉を挟ませるのを拒むように続けた。

「 毎晩帰ってくるんだけど、あの杉は磨かれてつるつるだろ?
滑りやすくて大変そうなんだ。
だからあそこにな、梯子を立てかけてといてやろうと思うんだ。」

 取り合えずここは伯父の言うことを聞き、一刻も早くここを出たい。
そして父母にこの件を報告せねばと思い、古ぼけた脚立を居間へ持ち込み杉柱に立てかけると、逃げるように伯父宅を後にした。
時間は既に5時を回って薄暗かったが、伯父は居間で灯りも点けず、座椅子に座り古い書籍をめくっていた。


 帰宅後、両親に顛末を話した。
伯父をホームに入れたほうがいい的な報告をしたが、

「 もう何度も家政婦の世話もホームの話もしてるが、けんもほろろで全く聞いてもらえないんだよ。」

と、父も困った顔で言っていた。
 家政婦の費用も全て我が家の持ち出しで、何かと大変だと言う愚痴も吐いた。
また、伯母が帰ってきたという妄想は、母も聞き及んでいたらしい。
結局、母が時折様子を見に行くと言うことでその場を取り繕った。


 それからまた数年が経ち、ある春の日、伯父が亡くなった。
座椅子に腰掛けたまま静かに息を引き取っているのを、郵便配達の方が見つけたのだと言う。
その日のうちに連絡があり、昼過ぎに伯父宅へ駆けつけると、既に伯父は安らかな顔でお棺に納まり、仏壇の前に横たえられていた。
 仏壇の横の杉柱には、数年前に俺が立てかけたままの古ぼけた脚立がそのまま残してあった。

“ 今なら天袋を覗けるな・・・・。”

ふと好奇心がわき、脚立に手をかけようと見ると、埃の積もった脚立には、確かに降りる方向に握られた手形がついていた。
俺は脚立を握ろうとする手を止め、天袋を覗くことを諦めた。


 結局、伯父の葬儀埋葬も全て我が家でお世話させてもらった。
その後、伯父の家については、母が育ちの家にも関わらず“この家は気味が悪い”と言うこともあって、何度か人に貸すと話はあったものの実現はせず、今では手付かずの無人の廃屋になっている。











童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日々の恐怖 8月28日 不愉快

2014-08-28 19:43:32 | B,日々の恐怖



    日々の恐怖 8月28日 不愉快



 幼稚園のときの話です。
幼い頃の話なので細部の記憶が正確では無いし、また思い込みもあると思いますが話します。
 うちの幼稚園では、“きんきんさん”と言う人がいるらしかったのです。
というのも、必ず誰でも見えるわけではなく、クラスの半分くらいの子しか見ることができませんでした。
 私は見えない方だったので、その話題になる度にどんな人か聞きました。
ですが、見える友人達は皆よく分からないという答えばかりで、詳しく聞いたことはありませんでした
 最初は私に教えたくないんだと思っていましたが、どうやら本当に分からないようです。
確かに見えるんだけれど、それを言葉にしようとすると難しい。
これが見える友人達の意見でした。

 ある時、先生にそのことを話してみました。
これだけクラスで話題になっているのだから、きっと先生も知っているだろうと思っていましたが、

「 何その話、初めて聞いたなぁ・・・。」

と言われました
 それで、先生にその人のことを聞かれましたが、私自身見たことがないので答えようがありません。
仮に知っていたとしても、言葉に表すことはできなかったと思います。
なので、私もよくは分からないが、こういう人がいるらしいということだけ言いました。


 それから結構日が経った頃です。
夕方に数人の友達と残っていて、鬼ごっこをしようということになりました。
幼稚園の裏には大きな石段や木があって、恰好の遊び場だったのですが、昔事故があってからはそこで遊べなくなっていました。
それでも鬼ごっこをするにはスリルのある場所だったので、バレないようにこっそりと裏へと行きました。
 最初は鬼ごっこを楽しんでいましたが、その途中に1人の子が、

「 きんきんさん、きんきんさん!」

と叫び出しました。
皆も、

「 本当だー、きんきんさん!」

と同調していました。
 どうやら皆見える子達だったらしく、私しか見えていないようです。
でも、ここで見えないと言っても決してバカにするような子達ではありませんでしたが、1人だけというのは少し恥ずかしい気持ちでした。

「 見えないのー?」

と訊かれて、いつものように、

「 うーん、まだかなー。」

と曖昧に答えました。
すると、皆が一斉にこっちを真顔で振り向きました。
皆同じような表情で、いつもとは違う気がしました。
 私は怖くなって、つい、

「 やっぱり見えるよー。」

と嘘をついてしまいました。

「 だよね。」

とニコッと笑いかけられ、すぐにまた友達達は、いつもの状態に戻りました。
それで、しばらくはそのきんきんさんに手を振ったりしていました。
 そのうち、私達がいないことに気付いた先生がこっちにやって来ました。
その先生は、前に私がきんきんさんについて質問した先生です。
 先生にダメと言われていた所に行って叱られ、ちょっとシュンとしていましたが、その後に、

「 何してたの?」

と訊かれて、友達達は、

「 鬼ごっこしてたらきんきんさんが来た。」

と答えました。
 先生は興味深そうに、

「 何それ?」

と訊いていました。
 普段なら、えっとねーと友達達は先生に話すのですが、何故かその時だけは両目を両手で覆い、

「 見えませんー、知りませんー。」

と言うのです。
 私は初めて見た友達の様子に驚いて、きょとんとしていました。
1人だけではなく全員がしています。
そして、突っ立っているだけで同じことをしていない私を、皆が指を少し開けて真顔で見つめるのです。
それに驚いて、私も焦って同じことをしました。
 先生はますます気になったらしく、

「 教えてよー。」

と詳しく訊こうとしていました。
 すると、いきなり1人の女の子が先生の目に親指を突き出しました。
先生は尻餅をついて避けましたが、今度はその女の子が自分で親指を目に突っ込み出しました。
 先生も私もびっくりして、

「 やめてやめて!」

と叫びましたが止めません。
周りの子達はまた空に向かって、

「 見えませんー、知りませんー。」

と言っています。
そして、1、2分もすると、その子も元の状態に戻って、目が痛い痛いと涙目になっていました。
それでも、周りの子達は別段気にする様子もなく、ポーッとしていました。
 驚いた先生が急いでその子を救護室に連れて行こうとしたので私もついて行こうとすると、皆から、

「 んーーーー!」

と言葉にならない声で、行くなと言うような圧力を掛けられました。
それから少し騒ぎになり、親も呼ばれたりしましたが、結局理由は分かりませんでした。
 その後、一週間程すると、彼女が転校になりました。
朝、急にそのことを言われて私はびっくりしましたが、その彼女はお別れの挨拶だけをしに幼稚園に来ていました。
そのとき、彼女は両目を包帯で覆っていて、お母さんもついて来ていました。
 挨拶が終わり、帰り際に私が、

「 今までありがとう、違うところでもがんばってね。」

と言うと、

「 きんきんさんに、嘘ついちゃダメだよ。」

と言われてドキッとしました。
お母さんも何度か見たことありましたが、そのときは何だか違う人のように見えました。
 最後に手を振ると、小声で、

「 死んじゃえば良かったのに・・・。」

と言われてスゴク不愉快でした。
話はこれで終わりですが、今でもあれが何のことだったのか、よく分かりません。
とりあえず、今でも不愉快です、あ~、もう、思い出しても、腹立つ!










童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日々の恐怖 8月27日 七五三続

2014-08-27 19:24:02 | B,日々の恐怖


    日々の恐怖 8月27日 七五三続


 以前、七五三の前に祖父母の家の奥の間で、青い袴の人に連れて行かれかけたという話をしました。
その後、青い袴の人の正体が気になって、改めて両親や親戚に心当たりがないか尋ねてみました。
すると上の従兄が、今だから話せるんだけど、と話してくれました。
 従兄は、幼い頃の私が奥の間で遊ぶのを、あまりよく思っていなかったそうです。
当時、祖父母と同居していた従兄は、誰もいないはずの奥の間から気配がしたり、かすかに琴か何かを弾いているような音が聞こえることがあって、あの部屋には何かいるのではないか、と疑っていました。
 特に弦の音が聞こえるのは、私が遊びに来ている時やその日の夜が多く、当時の従兄は、私が何か関係しているのではないかと思って、様子をうかがったりしていたそうです。
 七五三を過ぎて私が奥の間で遊ばなくなると、奥の間の気配も徐々に静かになって、従兄はしばらくそのことは忘れていました。
ところが何年かたって、再び奥の間から琴の音が聞こえるようになりました。
 家族にそんなものは聞こえないと言われ、従兄は意地になって奥の間に何かないか探したそうです。
しかし琴など見つからず、あったのは親父の昔のエレキギターだけだったそうです。
他に怪談や因縁話もなく、従兄はお手上げ状態になりました。
 しかし、音が復活して何年かたったある年のこと、伯母が奥の間の箪笥から一枚の着物を出しました。
私が成人式で着るための振袖です。
 振袖を風に当てるため、従兄は伯母の手伝いをしていました。
衣紋掛けに振袖を広げ、伯母が他の用で部屋を出ていき、奥の間に従兄一人になった時に、なんとはなしに振袖をながめていると、後ろに確かに人の気配が立って、男性の声が呟くように言ったそうです。

「 サキテチリニシハナナラマシヲ。」

驚いたけれど不思議と怖くはなかったそうです。
それよりも、なぜか無性に泣きたくなって困ったと言っていました。
 私は成人式の日、祖父母の家に挨拶に行きましたが、従兄にはその日の夜、ずっと奥の間から琴の音が聞こえていたそうです。
そしてその日以来、音は一切聞こえなくなりました。
今はもう祖父母の家は取り壊されており、あの奥の間も無くなったことから、もう話しても大丈夫だろうと思って話してくれたそうです。
 あの青い袴の人が何を言っていたのか、後で調べろと従兄に言われてググりましたが、 正直、複雑な気分になりました。
正しくは『咲きて散りにし花ならましを』だそうで、『自分の身がすぐに咲いて散ってしまう花だったらいいのに』という意味だそうです。
 奥の間で一人で寂しかったのかと思えば、可哀想な気もします。
でも、不用意に親しくすれば、七歳以降でも連れて行かれていたのかもしれないし、無事だった今だからそう思えるのかもしれません。
あのおかげで今でも人形がトラウマですから。
 ただ、気になることが一つあります。
従兄は琴など無かったと言っているのですが、私の記憶では琴はありました。
 祖父母の家を壊すことが決まった時に、私は祖母の琴を貰っているのです。
奥の間の壁にずっと立てかけてあったものです。
あんなに大きな物を従兄が見落とすとは思えません。
 今、我が家で琴の音が聞こえることはも勿論ありませんし、私の貰った琴が、あの青い袴の人が弾いていたものかもわかりません。
結局、あの人が何者だったのかはわかりませんでしたが、もう会うことも無いと思います。












童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日々の恐怖 8月26日 七五三

2014-08-26 20:13:35 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 8月26日 七五三



 昔のことなので曖昧なところも多いけれど話します。
小さい時の私は、髪も肩でまっすぐに切りそろえていたから、着物を着たら市松人形のようだった。
そのせいで怖い目にあったことがある。
 時期は七歳の時、場所は祖父母の家だった。
七五三に行く少し前で、七五三のお参りに来ていく着物を祖母に着せてもらう練習かなんかだったと思う。
 ともかく、本番前に一度着物を着せてもらった。
私はきれいな着物を着せてもらって嬉しくてしょうがなかった。
それを見た母は、絶対に汚さないという約束で、家に帰るギリギリまで着物を着てていいよと言ってくれて、私は着物姿のままで、祖父母の家をぱたぱた歩き回っていた。
 祖父母の家はいわゆる旧家というやつで、家の奥には今はもう物置になっているような部屋がいくつかあった。
私はそこに入り込んで、薄暗い中、古い道具の入った箱の中を見るのが大好きだった。
 それでいつものように奥の部屋に入り込んで、古い道具や何かを見ていると、不意にすぐ後ろに誰かが来て、

「 楽しいか・・。」

と声をかけてきた。
 若い男性の声だったから上の従兄かなと思って、

「 うん。」

と振り向きもせず遊びながら返事した。
すると、

「 かわいいね、お人形がおベベ着て遊んでいる。」

もっと古風な言い回しだったような気がするけれど、そんなことを言った。
振り向こうとすると、

「 だめだ。」

と言う。
目の端に青っぽい模様の入った袴が見えたので、

「 お兄ちゃんも着物着たの?」

と訊くと、

「 いつも着物だよ。」
「 わたしね、今日はお正月じゃないのに着物着せてもらったんだよ。」

しばらくの間、その後ろの人を相手に、着物がいかにうれしいかを話していた。
なぜだか後ろは向けなかった。
 すると、じっとそれを後ろで聞いていたその人は、

「 着物がそんなに嬉しいの?
じゃあ、ずっと着物でいられるようにしてあげようか。
この部屋で、ずっと着物で遊んでおいでよ。
お兄さんも一緒だよ。」
「 ほんと!遊んでくれるの?やった!」

と嬉しそうな私に、後ろの人は続けて言った。

「 じゃあ、ずっとここで一緒に遊ぼうね、約束だよ。」
「 でも、わたし、お外でも遊びたいよ、木のぼりとか虫取りもしたいよ。」
「 だめだよ。お人形がそんなことをしてはいけない。」
「 やだよ、お外で遊ぶもん、友達とも遊ぶもん。」
「 だめだよ、外に出てはいけないよ。」

こんな感じの問答をずっと繰り返していると、後ろの人はすっと私の後ろにしゃがみ込んだ。
そして私の髪にさわって、静かな口調で言った。

「 かわいいねえ、かわいい、いい子だから言うことを聞きなさい。」

 ここでやっとおバカな私は、この着物のお兄さんが従兄ではないことに気が付いた。
手元の古い道具ばかり見ていて気付かなかったけども、
いつの間にか部屋は暗くなっていて、うっすら白いもやまで立ち込めていた。

「 かわいいお人形だ、かわいい、かわいい・・・。」

やさしい手つきで髪をさわっているけれど、背中が総毛立った。

「 かわいい、かわいい、いちまかな、禿かな、かわいい、かわいい、かわいい・・・。」

少し怖くなった私は頑張って言った。

「 わたし、人形じゃないよ。」
「 かわいい、かわいい、かわいい・・。」
「 この着物は七五三で着せてもらったんだよ。」

手がぴたりと止まった。

「 七五三?」
「 うん、着せてもらったの。」
「 もう七つ?」

 ここで私は、嘘でも七つと答えなければいけないような気がした。
実際にはまだ六つで、七五三には次の週かなんかに行く予定だったんだけれども、嘘でも七つと答えなければいけないような気がした。
だから答えた。

「 七つだよ。」

すると後ろの人はすっと立ち上がり、今度は頭をなでて、

「 かわいいね、でも、もうお帰り。」

そのとたん、部屋がふっと明るくなった。
 慌てて後ろを振り向いたが誰もいない。
変なの、と思ったが、その後は特に気にせずそのまま遊んでいた。
でも夕方だったのですぐに母親に呼ばれて、部屋からは出た。
それでその時は洋服に着替えさせられて家に帰った。
親には一応話したけど、遊んでるんだろうと思って本気にはされなかった。
 それで、次の週かその次の次だったかもしれないが、七五三に行った。
神社の帰りに祖母の家に寄ったけれども、奥に行く気にはならなかった。
もしあの時、ここにいる、六つだ、と答えていたら、一体どうなってたんだろう。
 可愛いからというより、気に入られたのかもしれないけれど、それ以来、かわいいという言葉には自然と身構えるようになってしまった。
後ろに立っていた人については、いまだに何もわからない。
もうお帰り、って言った時の声はすごくさびしそうで、当時はちょっと罪悪感も感じたけど、今では彼の言う人形ってなんだったのか、あんまり分かりたくない。











童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日々の恐怖 8月25日 蜘蛛

2014-08-25 19:40:23 | B,日々の恐怖



   日々の恐怖 8月25日 蜘蛛



 我が家は東北の片田舎にある古い一軒家です。
ウチでは昔からクモを大事にする習慣があって、家には沢山のクモが住み着きクモの巣だらけ。
殺すなんてもっての外で、大掃除の時もクモの巣を必要以上にとったりしちゃダメって言われていた。
 兄貴も自分も、学校で掃除中に殺されそうになったクモを虫かごに入れてお持ち帰りする程度には大切にしてた。
おかげで近所じゃ、クモ屋敷って呼ばれてたけど、夏場にハエが発生することもなけりゃ、ゴキブリも出ないという有益さも持ち合わせてたので、家族の一員みたいな感じで生活している。
たぶん、ゴキブリハンターのアシダカ軍曹もいるんじゃないかな、見たことないけど。

 それで、高校の時に、同級生で授業中の居眠りがひどいヤツがいたんだ。
話を聞くに、どうも毎晩、悪夢を見る。
夢の内容は残念ながらあんま覚えていないんだが、毎日同じ内容で、スゲー怖いとのことだった。
それを見るのが嫌で嫌で、結局夜に寝られなくなり、日中居眠りって形で睡眠を取るようになったらしい。
 高校三年の夏にそりゃマズイだろってことで、仲間内で何とかならないか相談した。
そしたら兄貴が、留学先で買ってきた土産を持ってきて、

「 コレ良いんじゃね?」

って話になった。
 その土産ってのが、ドリームキャッチャーっていう、悪夢を見なくするお守りみたいなインディアンの装飾品だ。

「 このクモの巣みたいな網目が、悪夢をからめとってくれるんだとよ。」

と兄は言った。

「 クモの巣で悪夢を取れるなら、リアルクモならもっと良いんじゃね?」

と自分も言った。
 丁度、我が家はクモ屋敷だ。
というわけで、翌日そいつの家には虫かごに入った我が家のクモ様1匹とドリームキャッチャーが授与された。
 クモ様が新居に入ったその翌日のこと、そいつは何故か学校を休んだ。

“ え、まさかクモ様のせいとかじゃないよな・・・。”

と不安になって、兄貴と一緒に学校帰り、そいつの家に行ってみた。
 何かあったらどうしようと不安で仕方なかったのに、なんとそいつは朝から夕方までずーっと惰眠をむさぼっており、単に寝坊で学校を休んだだけだった。
親御さんもそいつの不眠を知ってたから、可哀想に思って起こさなかったらしい。

「 なんか良くわからんけど、悪夢は見なかった。
クモ様まじスゲぇ!」

とそいつは興奮気味だ。

「 ほれみろ、クモ屋敷だの何だのバカにしやがって!
クモ様の本気、まじパネェ!超クール!」

輪をかけて興奮気味の我ら兄弟。
 それじゃクモ様のご尊顔を拝見させていただきましょ、と虫かごをオープンした途端、そいつの手が止まった。

「 あれ・・、お前らからもらったとき、こいつこんなにデカかったっけ・・・?」

自分らが渡したクモは、指の爪くらいのサイズだった。
 でも、虫かごに入っていたのは明らかにデカイ。
ジョロウグモとまではいかないけど、渡したクモより2倍以上はデカかった。

「 もしかして、悪い夢くってくれたんかなぁ・・・。」

そうしみじみと言ったそいつは、それからクモ様が死んでしまうまでメチャクチャ大切に飼っていた。
 最後には虫かごが熱帯魚用のデカイ水槽にグレードアップしていて、冷暖房完備の部屋で餌も十分にもらうクモ様は実に幸せそうだった。
今はもうそのクモ様は死んじゃったけど、未だにそいつから、

「 クモを譲ってほしい」

って電話が定期的に来る。












童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日々の恐怖 8月24日 温泉宿

2014-08-24 18:22:10 | B,日々の恐怖



   日々の恐怖 8月24日 温泉宿



 女二人で温泉宿に行ったんだが、そこで奇妙な体験をした。
温泉宿に着いてから、しばらくして温泉に浸かりに行くことにした。
友人が部屋に忘れ物したため、一人で先に温泉に入ることになった。
 幸いにも、温泉は貸し切り状態だった。
友人を待ちつつ体洗ってたら、ガラッと扉が開いて5歳位の男の子が入ってきた。
男の子はにこにこしながら、そのまま体を洗わず外風呂へ行ってしまった。

“ おいおい母親はどうした・・・?”

と思ったが、まぁ後で来るんだろうと思ってスルーした。
直後、友人が入ってきた。
 友人と二人で内風呂に浸かり、外風呂へ行ってみた。
けれど、そこには男の子の姿が無かった。

“ あれっ・・・?”

と思ったが、自分たちが知らない間に出てったんだろうとスルーした。
友人にも特にその事は言わなかった。
ちなみに、母親は来た様子が無かったように思う。

 温泉を十分堪能した後、私達は普通に就寝した。
が、友人はそうはいかなかったようだ。
 朝、揺さぶられて目が覚めると、友人は涙目だった。
しかも、いきなり馬鹿よばわりだ。
私は寝ぞうが悪いので、てっきりけっ飛ばしでもして怒ってるんだろうと思ったんだが、どうやら違うらしい。
 友人が言うには昨日の夜中、

・部屋のシャワー、トイレが延々流れる音が聞こえる(近くの部屋のものではないとのこと)。
・てっきり私が使ってるんだろうと横を見たら、私が布団から離れた所で爆睡。
・怖くなって起きあがって私を起こそうとしたが、途端金縛り。
・止まないシャワー、トイレの音。+近くで誰かの笑い声。
・気づいたら朝。

 何で馬鹿と言われたかというと、途中声が出るようになって私を呼んだが、見事に爆睡してスル―してしまったためだ。
ちなみに、部屋のシャワーは一回も使ってないのに濡れていた。
 友人は怪談の類が駄目なため、

「 いや、気のせい、気のせい、ただの悪夢、悪夢!」

と適当に慰めておいたが、個人的には風呂場のあの子かなぁと思っている。










童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日々の恐怖 8月23日 右目の他人

2014-08-23 20:43:06 | B,日々の恐怖



   日々の恐怖 8月23日 右目の他人



 俺は視力が左右で結構違う。
小さい頃に事故でぶつけてそうなったんだけど、それが原因で斜視になるときがある。
意識して両目で見ているとそうはならない。
でも、ふと気を抜くと、よりよく見える左目だけで見ようとする。
 視力のバランスが取れていない人間にとっては、両目でものを見るのは意外と疲れることだったりする。
視力の悪いほうをいいほうに無理矢理合わせるわけだから、眼筋が疲れる。
この逆は割と楽なんだけど、そっちに慣れるとせっかくいいほうの視力も悪くなるのでしないようにしている。
 例えば、パッとなにかに注目するときは、高確率で片目で見ている。
それと、新聞や雑誌の小さい文字を読もうと集中したときにも片目になる。
片目と言っても片方目をつむるのではなくて、よく見えるほうの目に無意識に意識を合わせる、という感じ。
 意識を合わせていないほうの目にも当然景色は映っているし、ダブって見ていることになるのだが、まったく意識していないので、気にならないし記憶にも残らない。
そういうときに、見ていないほうの目はどうなっているかというと、外側を向く。
あさってのほうを向いている。
 鏡や写メで確認したが、これは自分で見てもなかなか気持ちの悪い表情だ。
だから、他人と一緒にいるときや外出しているときは、めちゃくちゃ気をつけてそうはならないようにしている。
他人を不愉快にさせたくはないし、奇異の目で見られるのも嫌だから。
 そして、それは鏡を見ているときに起きた。
鼻毛が出ていないかチェックしたり、眉毛を整えたりした経験は誰でもあると思うが、ああいうのって意外と集中する。
毛って小さくて細いし、見えづらいところに生えていたりするとかなり集中してしまう。
それで、俺の場合は斜視になる。
 普通はそういうとき、よく見えるほうに意識を集中するから、もう一方の視界はまったく気にしない。
それに、斜視の側が外側を向くとはいっても、顔の方向的には同じ方向を向いているんだし、ほとんど同じ物を両目とも見ている。
だから、斜視側が見えていなくても視力のいいほうできちんと見えている、という安心感があるから、普段は気にならない。
でも、そのときは違うものが見えた。
 鏡の中の、斜視側のおれが、もう一方のおれとは違っていた。
目にゴミでも入ったかと、目をつむったり軽くこすったりしてみたあと、もう一度見てみる。
 それで、よく見てみるとやっぱり違う。
なんか動いてる。
というか、違う動きをしている。
 斜視側はもう一方より視力が悪いんだから、少しぼやけて見えることが普段からある。
でも、多少ぼやけていようが暗く見えたりしようが、見ているものが違う動きをするなんてことはありえない。
鏡見てて鏡のおれが左の眉毛をクイッと上げたら、右目左目どっちで見ようが、左の眉毛をクイッと上げて見えるはずだ。
 でも、なんというか、少し遅れて見える。
それで、普段は意味が無いからやらないんだが、斜視のほうに意識を合わせて見てみた。
視力の悪いほうだから、当然ぼや~っとして見える。
 その後、そのまましばらく顔の表情をいろいろ動かしていたら、視線がずれた。
鏡のおれと現実のおれが、違う方向を見たような気がした。
よく見てみようとして、始めのほうで言ったように、思わずパッと視力のいいほうに視界が切り替わった。
 そうすると、今は外側を向いているはずの斜視側の目がこっちを見て、目が合った。
そしたらそいつが、バレちゃったみたいな顔して、一瞬だけほんの微かに笑ったような表情になった。
 自分で見たものが信じられなくて、ギューっと目をつむってバチバチバチっと2、3度強めに瞬きをして、今度は両目で見てみた。
そしたらもう、何度眺めても見慣れた自分の顔だった。
 あれ以来、鏡や電源を切ったあとのTV、ガラス窓など映るものの前で、絶対に斜視にならないように気をつけている。
これだけだと、なんだそれだけかと思うかもしれないけれど、“誰よりもよく知ってるはずの自分の顔が、自分のものではなくなった”という感覚は、なんとも嫌なものだった。












童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日々の恐怖 8月22日 お得な体質

2014-08-22 19:26:02 | B,日々の恐怖



   日々の恐怖 8月22日 お得な体質



 まだ学生の時分に、研究室の飲み会からお約束な流れで、肝試し大会することになった。
自分はかなりのビビリで、幽霊とかオバケとかの手合いなんかに出会ったら絶対にチビる自信がある。
けど怖い話を聞いたり読んだりするのはわりと好きだったから、今回は人数も多いし大丈夫と言われて付いてくことにした。
 先輩1人と同学年の仲間4人の計5人で、先輩の運転する車1台で近所の心霊スポットに出かけた。
その心霊スポットってのは、昔は病院があったっていう場所で、今じゃ建物があったような名残も何もない更地になっている。
昔は病院だったせいか、死んだ患者の幽霊がでるという噂が立ってしまって、買い手がつかないらしかった。
 車の中で先輩からその話を聞かされただけで本気でチビりそうだったけど、実際に着いてみるとそう怖い場所でもなかった。
本当に普通の更地って感じで、手入れが行き届いてないのか雑草が生えまくりだったけど、特に嫌な感じもしない。

「 なんだ、たいしたことないじゃないですか。」

って笑いながら隣の運転席の先輩の顔を見たら、先輩の顔、真っ青。

「 お前、何も感じないのかよ?」

とか言われたけど、何のことやらサッパリ。
 一緒に来てた仲間も何やら感じているらしく、ここはヤバいだとか寒いだとか次々に言い始めたので、車から降りるのはやめて引き返すことになった。
そしたら今度は、車のエンジンがかからない。
何度も何度もキーを回してもかからない。
 先輩は半狂乱になって、

「 なんでかかんないんだよ、くそ、くそ!」

とか叫ぶし、後部座席の3人も青い顔して震えあがってるし、仕方がないので助手席にいた自分がキーを回すと、一発でエンジンがかかった。
 いきなり猛スピードで発進する車に、

「 危ないじゃないですか!」

と抗議をしたら、

「 そんなこと言ってる場合か!!」

と同乗者全員に罵られた。
解せぬ。
 それで、自分の乗った車は無事に大学まで帰ってこられた。
4人とも脱力したって感じで、しばらく車の中で突っ伏していた。
先輩によると、良く分からないが何かに追いかけられていた、とのことだった。
 後部座席の3人はその何かを見たらしい。
黒い影みたいな体に赤ん坊の顔が乗っかっていて、こちらに向かって手を伸ばしていたそうだ。

「 なんか、足をひっぱられたような感覚がした。」

と言っていた先輩の足には、翌日、手形のような痣が出来ていた。
 他の同乗してた仲間も次々に体調不良を起こしたり、事故ったりと悪い事が続いたので、近所の神社に5人でお祓いをしてもらいに行った。
 宮司さんに事情を説明して、いざお祓いとなった時に、なぜか自分だけ別室に移された。
不思議に思って聞いてみたら、

「 付き添いの方まで祓う必要はありませんでしょう。」

などとのたまわれた。

「 いや、自分も一緒に行ったんですけど・・・。」

と言ったら、宮司さんちょっと考えて、

「 祓うようなものは何も憑いてない。」

と教えてくれた。
確かに自分には何も悪い事は起きてない。
事故にも遭ってないし体調もすこぶる良好だ。
 せっかくなので、何で自分だけ平気なのか宮司さんに訊いてみたのだが、そこまではわからないそうだった。
俗に言う守護霊とか御先祖様のご加護とかいうのとはちょっと違うみたいだってのは分かるんだけど、それ以上は判断がつかないそうな。
 そこまで聞いて、そういや自分は心霊現象を一度も体験したことがないなって事に改めて気がついた。
怖い話を読んだり聞いたりして体験したつもりにはなってたけど、自分で体験したってことが無かった。
 その話を霊感のある友人に冗談混じりで話したら、

「 言わないでおこうと思ったんだけどさ。」

と前置きして、以前、その友人と2人で旅行に出かけた際に宿泊した旅館で、友人は霊を見たという。
 夜中に金縛りにあい、ベッドの足元に青白い女が立っていて、じっとこっちを見ている。

“ 嫌だな、怖いな。”

と思っていると、隣に寝ていた自分が起きだし、スタスタと冷蔵庫に向かって歩き出しだのだそうだ。
 冷蔵庫と自分の間にはちょうど件の女の幽霊が立っている。

“ どうしよう・・・。”

と思ってる内に、自分とその女が重なって、するっと通り抜けた。
それはもう自然に、するっと。
 女の幽霊の方は自分のことをガン無視で友人ばかり見てるし、自分もまるで女には気づいてない素振りで、冷蔵庫の中からビールを取りだし、腰に手をあてて一気飲みすると缶をごみ箱に投げ捨てた。
 缶は壁に当たって鈍い音を立てて床に落ちた。
その音に驚いたのか何なのか、女はすうっと消え、友人の金縛りが解けたのだそうだ。

「 幽霊に気づかない人間は知ってるけど、幽霊に気づかれない人間ってどうなの?」

と友人は言っていたが、そんなのこっちが知りたい。
幽霊に気づかれない人間て、そんなに影が薄いのか自分よ。
 しかし、幽霊からしたら取り付く取っ掛かりもないので、どうしようもないって凄くラッキーと思う。
今後もそういう怖い体験をしないで済むなら、かなりお得な体質なんだろう。
それに、見えない人間には祟るだけ損というわけなら、意外と合理的なのね、幽霊も。












童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日々の恐怖 8月21日 要石

2014-08-21 18:24:40 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 8月21日 要石



 一週間ぐらい前の話です。
確か夕方の4時ごろだったと思うんだけれど、その日は盆休みで帰ってきていた友人と久々に飲みにでも行こうかってことで待ち合わせをしていました。
 場所は繁華街近くの駅前のベンチで、友人が来るのぼんやり一人で待っていました。
すぐ傍には、同じく待ち合わせなのかすごいチャラい感じのにーちゃんがいたんだけれど、その時は特に気にも留めていませんでした。
 ところが、少ししてからチャラいにーちゃんが突然、

「 あれ、これヤバイかも、ヤバイ、ヤバイ!」

みたいなことひたすら呟き出しました。

“ 何がヤバイいんだろう・・・。
忘れ物でも思い出したのか・・・?”

そう思って、聞くとはなしに聞いていたんだけれど、少ししてから、

“ グラッ、グラッ、グラッ。”

て感じで地震が来ました。
結構デカイって思って身構えていたら、チャラいニーちゃんが、

「 ・・・かなめいし・・、かしまのかみ・・・・・。」

と一部しか聞き取れない言葉を唱えて、

“ バンッ!”

って地面を踏んだ瞬間、揺れが治まりました。
 突然のことで俺がポカーンってなっていると、こっちを見たにーちゃんは照れたみたいにヘラヘラ笑いながら去って行きました。
 それで、その直後にやって来た友人に、

「 今、結構でかい地震あったよな?」

って聞いても、

「 そんなのなかったよ。」

とか言うし、周り見てみても誰も気づいてるような様子がありません。

“ ええ~っ!”

って思いながら、携帯で地震の情報を調べても出てこないし謎です。
 後で、ネットで検索すると、

“ ゆるげども よもや抜けじの要石 鹿島の神のあらんかぎりは ”

のことかと思いますが、違っているかも知れません。








       要石



 要石は、茨城県鹿嶋市の鹿島神宮と千葉県香取市の香取神宮にあり、地震を鎮めているとされる、大部分が地中に埋まった霊石です。
地上部分はほんの一部で、地中深くまで伸び、地中で暴れて地震を起こす大鯰あるいは竜を押さえている。
そのためこれらの地域には大地震が無いと言われます。
 鹿島神宮の要石は大鯰の頭、香取神宮の要石は尾を押さえている、あるいは、2つの要石は地中で繋がっているとも伝えられています。
要石を打ち下ろし地震を鎮めたのは、鹿島神宮の祭神である武甕槌大神だと言われ、鯰絵では、大鯰を踏みつける姿や剣を振り下ろす姿がよく描かれます。
 古くは、

ゆるげども よもや抜けじの要石 鹿島の神のあらん限りは

と詠われ、江戸時代には、この歌を紙に書いて3回唱えて門に張れば、地震の被害を避けられると言われました。











童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日々の恐怖 8月20日 生霊

2014-08-20 18:49:32 | B,日々の恐怖


   日々の恐怖 8月20日 生霊


 10年付き合って同棲していた彼が浮気をして、女の所から帰って来なくなった時の話です。
自宅に戻っていないのは明白なのに、彼は、

「 夜勤で働いていて、お前が家を出た後に帰って寝て、帰ってくる前に家を出ているんだ。」

と言い張っていました。
 当時は帰宅していないのは分かっていましたが、浮気かどうかは確信がなかったので、単に私に飽きて別れたいだけなのか、他に好きな人が出来たのか、随分と悩みました。
夜は殆ど眠れず、食欲も、何かをする気力も無くなって、会社に行く以外は横になって天井を眺めるだけの日々を、2ヶ月も過ごしました。
 そんな状態でも仕事だけはしていたのは、彼の嘘を決定的にするのが怖かったからです。
本当に彼が言うように、私が居ない間に帰ってきているのかもしれない、思い過ごしなのかもしれないと。
それと同時に、嫌いなら嫌いになった、好きな人が出来たならそれでも良いから、ハッキリして欲しいと願うようになりました。
 気持ちは徐々に変化して、

“ 私がこんなにも苦しんでいるのに彼は楽しく遊んでいる。
悔しい。
憎い。”

そんな事を考えるようになりました。
すると、不思議と女の存在がハッキリと感じられ、彼女の顔までは分からないけれど髪型や体型、彼と二人でシングルの布団で寄り添って寝ている姿までも、頭に浮かぶようになったのです。

 そうなってから数日、半泣きの彼から電話がありました。

“ 嘘をついていた。
女の所に寝泊まりをしていた。
家には帰っていない。
悪かった、許して欲しい。”

そんな内容でした。
 何故急に本当の事を言うのか、最後まで嘘を付き通して女の存在を隠したまま別れる事もできたのに、と問い詰めました。
すると、毎日、昼といわず夜といわず、私が現れるると言うのです。

“ 昼は視界の隅にいて、振り返ると居ない。
眠っていると、いつの間にかすぐ側にいて金縛りになり、耳元で、

「 嘘つき、嘘つき、嘘つき。」

と呟き続けるのだそうです。
 嘘がバレている、もう隠し通せないと思った。
好きな女性が出来たけれど、長く付き合ったお前とこんな別れ方をして良いものか悩み、別れを言いだせなかった。
 でも、もうお前の元には戻れない。
お前が怖い。
そうしてしまったのは自分の責任だけれど、怖い。
許して欲しい。”

そう言って彼は泣きました。
 彼の罪悪感が私の影を見せたのではないか、よりによって私の生き霊のせいにするなんて、私を悪者にしたいのかと憤りを覚えたのですが、ふと私が見ていた彼女の特徴を口にしてみました。

“ 明るい茶髪のショートカット、身長155cmくらいでポッチャリ体型。
鎖骨のあたりにホクロが二つ並んでいて、左腕に火傷の跡がある。”

その通りだと、号泣してゴメンナサイと言い続ける彼の震える声を聞いて、私も別れを決意しました。












童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日々の恐怖 8月19日 鬼

2014-08-19 18:15:14 | B,日々の恐怖



   日々の恐怖 8月19日 鬼



 里帰りしてて、姪を保育所に迎えに行った時に思い出した。


 4歳の姪を保育所に迎えに行くと、庭で走り回って遊んでいた。
その保育所、俺も卒業生なんだけど、神社と同じ敷地内にある。
数人の子と走り回ってるんだけど、見た感じ鬼ごっこ。
でも、鬼の子が分からなかったというか、見当たらないというか、キャーキャー言いながら何かから逃げてる感じ。
 先生に挨拶して姪を呼んで貰って、手を繋いで帰る途中、聞いてみた。

「 誰が鬼だったの?」

そしたら姪っ子、

「 鬼の役は鬼に決まってるでしょ!」

“ エア鬼ごっこか?”

って思って、深く追求しなかった。
鬼役が足遅いとずーっと鬼だったりするから、苦情でもきてルール変えたのかなとか。
それで帰宅して夜、姉と母がいるところで聞いてみた。

姉「 いや?そんな話は聞いてないけど。
てか、あんたも小さいころ同じようなことしてたじゃん。」
俺「 へ?エア鬼ごっこ?」
姉「 うん。
鬼ごっこのルールも知らないで遊んでるんかと、姉ちゃんは情けなくなったもんよ。」
母「 何言ってんの、あんた(姉)もやってたわよ。」
姉「 うっそ、あたし覚えてないわ。」
母「 あの保育所に通ってた子は皆、鬼無しで鬼ごっこしてた。」

 そこで、ふと思い出した。
俺がここに通っていたころ、毎日のように鬼ごっこして遊んでいたこと。
鬼は何時も同じヤツだった。
 ジャンケンで決めるとかなくて、鬼は決まったヤツがやってて、誰も捕まえられた事が無い。
だからソイツはずっと鬼だった。
それで、捕まったら死んじゃうってルールだった。
本当に死ぬとは思ってなかったけど。
 鬼が何時も同じヤツだったのは、イジメとかじゃ無いと思う。
ソイツはいつも神社の方からやってきて、姿を見かけたら鬼ごっこスタート。
小さい頃は全く疑問に思わなかったけど、鬼ごっこ以外の室内遊びのときはソイツはいなかった。
 全員同じ小学校に上がったけど、ソイツはいない。
そういえば名前も知らない。
それどころか、顔も姿も思い出せない。
 姉にその話をしたら、全く記憶に無いと言われた。
気になったんで幼馴染に電話してみたけど、誰も覚えていなかった。
ソイツの存在自体、誰も覚えていないと言う。
 姪っ子に、

「 鬼の子は神社から来る子?」

って聞いてみた。
 姪は、

「 んー?なぁに?」

そう言ったまま、会話にならなかった。
 よく、“小さい頃遊んでたけど自分の記憶にしかない”って話があるけれど、あれって二人っきりで遊んでたパターンが多い。
沢山の友達が一緒だったのに誰も覚えていない。
しかも、まだソイツはあの場所にいて、鬼をやり続けているようだ。


しかし、なんで俺だけ、そのことを思い出したんだろう?











童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日々の恐怖 8月18日 焼香

2014-08-18 18:50:00 | B,日々の恐怖


  日々の恐怖 8月18日 焼香


 昨日の葬儀社の話の続きです。
ある梅雨のころ、とある寝たきりの独居老婆が心不全で亡くなられた。
不審な点はあれど、そこは田舎の警察。
まあ事件性はないでしょうと、検死もなく葬儀を許可。
 葬儀の当日、80余名ほどの列席者が参列の中、式はつつがなく執り行われた。
読経が始まり、

「 それではご焼香を。」

喪主を最前列に焼香が始まる。
 親族が続き、集まった参列者が列をなし、個人を偲びながら焼香する。
義妹も、式の様子と優しげに微笑むお婆ちゃんの遺影を見比べて、

“ 良い式だなあ。
お婆ちゃん良かったねえ。
私もいつかこういう風に見送られたいもんだよ。”

と感じ入っていた。
 ところが、とある親族の方、遺影のお婆ちゃんの甥っ子にあたる中年男が焼香の列に加わった途端、壇上の蝋燭全てが激しくゆらゆらと揺れだした。

“ すわ風か?”

空調を仰ぎ見る社長。

「 いや風じゃない?」
「 窓開いてない?」
「 大丈夫です。」
「 何だ何だ?」

と、スタッフ一同ざわつく中、件の中年男が遺影前に立ち、お香を取り額まで持ち上げた途端、全ての蝋燭がフッとかき消えた。

“ 何事ぞ・・・?”

と参列者スタッフ全員が壇上を見上げる。
 我介せずと読経を続けるお坊さん。
すると、左側に掲げてあった重い真鍮あしらいの蝋燭立てが、かき消えた蝋燭を乗せたまま、勢いよくばーんと見えない手にはたき飛ばされるが如く吹っ飛んだ。
 凍り付く空気。
あうあううなる中年男。
ざわつく会場。
 しかし、お坊さん少しも慌てず、ひときわ大きな声で、だけど優しい口調で読経を続けた。
お坊さんの声にハッとなる中年男。
そそくさと焼香だけ済ますと、親族のくせに逃げるように帰って行った。
 目の前で起こった怪現象に、微妙な空気に包まれる会場。
喪主の長男が、お坊さんに、

「 何事だったのですかねえ?」

と問うと、お坊さん、

「 私の口からは申し上げられないけれども、まあ一月もすれば分かるでしょう。」

との話だった。
 果たして件の中年男、お婆さんの通帳と実印他文書を勝手に持ち出したかどで御用となり、追ってお婆ちゃん殺害の件でも起訴された。
それは、ほぼ1ヶ月後のことでございました。
 このお坊さん、挨拶説話の類が下手で、今まで檀家さんにはあまり人気無かったそうなのですが、この事件を境に大きく評判を上げ、田舎のご老人方が多く相談に詰めかける寺になりました。










童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日々の恐怖 8月17日 扉

2014-08-17 18:15:40 | B,日々の恐怖


     日々の恐怖 8月17日 扉


 義妹が地元の短大を出て暫く葬儀社に勤めてたんだけど、そこで色々面白いことがあったと言っていました。
 この葬儀社、社員6~7人程度。
田舎にある平均的な古い葬儀社で、それなりの大きさの斎場を持っていた。
 斎場には線香の番で泊れるようにいくつか部屋があって、一番奥の小部屋は、葬儀に使う設備や仏様の身の回りの品を、一時的に収納する場になっていたらしい。
そこの扉、普段は立て付けも悪く、締め切ってもガタガタゆれるくらいの安普請らしいんだけど、ごくたまに、まるで壁と一枚板になったように、閉じたままピタっと動かなくなるのだとか。
 ある葬儀の前夜、社員も泊まり込みで遅くまで作業してる折、入社間もない義妹が、納品されてきた香典返しの段ボールを閉まっておこうと小部屋へ向かい、初めてこの現象に遭遇した。
長い廊下の奥、薄暗い電灯の下、ぴくりとも動かない引き戸と暫し格闘する義妹。

“ おかしい?
中に誰か居るわけでもないだろうに、何か引っかかってるのかしら?
いつも締め切っていてもガタガタ動くくらいのボロ戸なのに?”

困り果てた義妹、古参の社員に相談。

義妹「 あの~、奥の部屋の扉が動かなくなってるんですけど・・。」
古参社員「 ・・・ああ、今使ってらっしゃるんだね~。」(ニッコリ)

頭が???状態の義妹に、追い打ちをかけるように、

「 小一時間もしたら開くだろうから、またあとで行ってらっしゃい。」

言われた通り1時間も経った頃に再度向かうと、引き戸は何事もなくスーッと開いたらしい。
 義妹曰く、

「 閉じた時の扉の向こうはどうなってるんだろ?
別世界とか?
それとも故人が、必死こいて引き戸開かないように押さえてるのかな?」

必死こいて反対側から故人に押さえられてるとしたら怖いです。



         






童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

☆童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。

-------大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ-------