大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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☆(  しづめばこ P574 )                          

日々の恐怖 12月31日 潰れる理由

2015-12-31 18:17:46 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 12月31日 潰れる理由



 “潰れて空いた店舗は借りるな、潰れるには潰れる理由が店舗にあるからだ”と誰かの本で読んだことがあるが、まったくその通りだと思う。
 10年前、私は新築だったこのマンションに引っ越してきた。
1階は店舗フロアになっていて、駅前ということもあり、小洒落た店が次々とオープンした。
 その一角に、これまた洒落た感じのスパゲティ屋ができた。
愛想のよい明るい感じの若夫婦がやっていて、おいしいし安いしで繁盛しているようだった。
 ところが3年ほど経ったころ、急にこのスパゲティ屋の味が落ちた。
そして若奥さんの雰囲気がみるみる変わっていった。
あれほど明るくかわいらしい人だったのに、うつむき加減の暗い雰囲気をまとい、50代かと見間違えるほどの老け込みようだった。
 あまりの急激な変化を不思議に思っているうちに、店の中で奥さんの立ち働く姿が見えなくなり、そのうち、何日間か“臨時休業”のお知らせが貼りだされていた。
 事情通のマンション住人のおばさんから聞いた話では、

“ 旦那がアルバイトの女の子と浮気をして、悩んでいた奥さんがある日ヒステリーを起こし、発作的に自殺してしまった。”

と言うことだった。
噂は尾ひれがついて広まるもので、実際奥さんが自殺したのかどうかはわからない。
ましてや噂好きのおばさんの話だ。
 本当のところはどうなのか知るところではないが、再開したスパゲティ屋の店内に奥さんの姿はなかったし、なにより店の様子の奇妙な変化に、噂は本当だと思わざるを得なかった。
 赤を基調にセンスよくデザインされた小さなスパゲティ屋だった。
入り口はきれいに掃き清められ、花壇には手入れの行き届いた花々が咲いている。
窓も曇りひとつないように磨かれて、窓辺にはかわいい小物が抜群の配置でディスプレイされている。
 新築物件、開店三年ほど。
どれもピカピカのはずなのに。
奥さんがいた頃と何も変わってないのに。
店の外観がなぜだかすすけて暗く見える。
まるでこの一角だけが急に老朽化してしまったようだった。
 飾ってあるかわいい小物達が、潰れた骨董屋のような雰囲気を醸し出してる。
窓に蜘蛛の巣がかかっているような錯覚を覚え、店内の様子をのぞいてみて驚いた。
 店内を彩る塗料は色あせ、壁紙は破れ、めくれ上がり客のいない暗いフロアはまるで廃屋そのものだった。
白いコック服を着て立ち働くご主人は、廃屋をさまよう幽霊のように見えた。
 驚いて、そのまま店の中に入ってしまった。
ところが店に入ってみると、当然のことだが塗料もはげてないし、壁紙だってちっともめくれてない。
いつもどおりの店内だった。

“ いつもどおり・・・いや、照明はついているのにかかわらず異様な暗さ、カビのような訳のわからない匂い・・やっぱり変だ。”

主人の以前にも増した明るい態度が妙に不気味に感じられ、失礼だとは思ったが食事をする気になれず逃げ出してしまった。
 こんな奇妙な店が続くはずもなく、天井をぼーっと放心したように見上げているご主人の姿を何度か見かけるうち、“臨時休業”が多くなりそのうち開けられることもなくなって、気が付くと“貸店舗”の看板が立てかけられていた。
おばさんいわく、夜逃げしたんだそうな。
 駅前通りの最高の立地条件。大改装をして次の店がすぐ入った。
しかし、どんなに明るい色使いの店舗デザインをしても、廃屋の雰囲気がただよっていた。
そして数ヶ月で潰れた。
その後、いろんな業種が入るがどれも一年もった店はなかった。
 いくつめだったろう“時代遅れの喫茶店”という風情の、いかにもださい喫茶店がオープンした。
これもすぐ潰れるんだろうとマンション住人で噂していたところが、なんと1年以上もった。
 最高記録だね、と無責任に言い合っていたのもつかの間、店主が突然の心臓発作で店で倒れ、そのまま帰らぬ人となる。
不運にも、私もその場に合わせてしまった。
 当然喫茶店は閉店して、しばらく空家だった。
そして1年程前に漫画喫茶がオープンして三ヶ月で潰れて以来それっきりになった。
小綺麗なマンションに廃屋がはめこまれたような異様な外観を呈していたが、最近改装業者がやってきて店舗を覆い隠すようにシャッターを取り付けていった。
 もうだれも、あそこに店を出すことはないのだろう。
スパゲティ屋の若奥さんの怨念じゃないかと、マンション住人は噂している。











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日々の恐怖 12月30日 トイレの声

2015-12-30 20:22:22 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 12月30日 トイレの声



 去年の夏か秋口頃の話です。
ウチは4人家族です。
父は会社、弟は部活で夜遅くまで帰らない。
 夕方、晩ご飯の材料の買出しに母と私の2人でスーパーへ行った。
買い物を終え、家に帰ると父が帰宅していた。
 父は帰ってきた私と母、というより母を見て驚いたような顔をしました。

「 どうしたの?」

と私が聞くと、

「 お母さんはトイレにいるんだと思った。」

と言います。

“ トイレの電気でも点いたままだったから、そう思ったのかな?”

と思いましたが、父は、

「 それもあるが、中から声が聞こえたから・・・・。」

と言います。
 父が言うには、帰宅すると誰もいなかった。
鍵は開けっ放しで、電気が点いたままだった。
トイレの前を通ると中の電気が点いていた。
 そこで、誰か入ってるのかと思い、

「 入ってるの?」

と聞くと中から、

「 入ってる~。」

との声がした。
 随分とトーンの低い声だったので、今度は、

「 腹、痛いのか?」

と聞くと、また、

「 入ってる~。」

との声がした。
 おかしいとは感じたが、腹痛がひどいのかと思い、そのまま着替えて台所でタバコを吸っていたところ、数分後、私達が帰宅したといいます。
 冗談だと思い何度も確認しましたが、父は、

「 本当に聞こえたんだ。」

と言い、父自身も何度も首を捻っていました。
普通に考えるなら空耳か、父がボケただけなんでしょうが、とても怖かったです。









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しづめばこ 12月29日 P414

2015-12-29 18:11:24 | C,しづめばこ


しづめばこ 12月29日 P414  、大峰正楓の小説書庫で再開しました。


小説“しづめばこ”は読み易いようにbook形式になっています。
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しづめばこ 12月28日 P413

2015-12-28 19:17:00 | C,しづめばこ


しづめばこ 12月28日 P413  、大峰正楓の小説書庫で再開しました。


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日々の恐怖 12月27日 負けたわ

2015-12-27 19:13:43 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 12月27日 負けたわ



 主婦Aさんの話です。
まだ私が結婚する前、実家で祖父母も一緒に暮らしてたんだけど、祖父が脳梗塞で倒れて入院した。
祖母もそのころ具合良くなくて、日替わりで自分の病院と祖父のお見舞いに行ったりしてた。
もともと仲の良い夫婦ではなかったけど、

「 あんな、モノも言われへん寝たきりなってしまいよって!」

とか言ってしまう祖母のこと、昔から嫌いだった。
口答えするとさらに上から返されて、悔し泣きしたこともある。
 そんな祖母だったけど、ガンが進行して祖父とは別の病院に入院した。
調子の良いときは外出許可もらって叔母さんらと祖父のお見舞い行くんだけど、やっぱり文句ばっかりだった。
 私がたまに祖母のお見舞い行って、藤色の手袋ステキねと誉めると、

「 貴婦人に、よう似合うやろ。」

と不敵な笑みで答えるぐらい元気だったけど、そのうちカーテンレール指差して、

「 もう梅の花が咲きよるな。」

とか軽くボケだした。
体の方もベッドから降りれないくらいになってたから、

「 お父さん、まだくたばってへんか・・・。」

と、長らく見舞えてない祖父のことを心配したり、少しずつ弱気なところも見せるようになっていた。
 そして祖父がとうとう亡くなってしまって、祖母にどう伝えようかと親戚一同で話し合った結果、今は祖母には言わない方がいいと決めた。
なので祖父のお通夜・お葬式の時も、悟られないように着替えたり工夫して交代で病院へ行った。
 そんな折、母がお見舞いに行くと、

「 お父さん病室かわったんか?
昨日行ったらおらんかったんや。」
「 え?外出られへんやん・・・。」
「 いや、見舞い行ったがな。
お父さんのベッド、2階上がったとこの部屋の入って右やろ?
知らん人に変わっとったわ。
でも、奥のあのオッサンはおったなぁ。
やっぱり部屋かわったんやな。」

母は、なぜ寝たきりの祖母がそんなことを、と驚いてそれ以上聞けなかった。
でもまぁ、あり得ない話ではないなとも思った。
 母は実父が息を引き取ったであろう時間に突然大量の涙が溢れてきたり、虫の知らせレベルの経験はしている。
私もちょうどその頃金縛りに悩まされてた時期だったので、そんなこともあるんだな~と二人で変に納得してた。
 ある日私は、夜中にまた金縛りにあった。
さすがに3日ほど続いていたので恐怖よりも苛立ちの方が勝ち、

“ 毎晩睡眠の邪魔するな!今日はこの勢いで目を開けて見てやる!誰や!”


と思った瞬間、横から私の顔と肩を物凄い力で押してくる。
今までの金縛りとは何か違う。

“ 痛い!誰や!”

と動かない腕を必死で伸ばした先に触れたのは、手だった。
手袋をつけた、女性の手だった。

“ おばあちゃん・・・・!?”

その瞬間いっそう強い力で押され、苦しいと思った時に体が軽くなり金縛りが解けた。
 翌日、祖母のお見舞いから帰った母にその話をしようとしたら、母の方が、

「 今日、また変なこと言うてたで~。
“仏壇の前に置いてある白い箱なんや?”って。」

それは祖父の遺骨だった。
お葬式の後から置いてある。

「 うん、昨晩おばあちゃん来てたで。
なんか知らんけど、負けたわ。」
「 あんた会ったん?
で、何に負けたん?」
「 わからん。」

 その後少しして祖母は息を引き取ったが、亡くなる直前、意識が朦朧とする中で祖父が亡くなってることを聞かされ、一瞬驚いた表情を見せた後に涙を流しながら、静かに頷いていた。
なぜ、私に最後にケンカ売ったのかはまったく意味がわからんけど、祖母は安らかな顔で旅立っていった。










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日々の恐怖 12月26日 濃い人

2015-12-26 18:45:15 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 12月26日 濃い人



 居酒屋で会社の同僚数人と飲んでいた。
掘りごたつ式になった座敷があって、衝立で他のグループと仕切られているような所だった。
 時間は9時頃で、それまで生ビールを大ジョッキ3杯にあと酎ハイをかなり飲んでたから、もしかしたら酔っぱらって幻覚を見たのかもしれない。
 トイレに行こうとして通路で靴をはいたときに、俺らの右隣で衝立越しに飲んでたやつらの様子がたまたま目に入ったんだが、なんか違和感がある。
何だろうと思ってよく目をこらしてみたら、テーブルの端に一人だけ濃い人がいて奇妙なことをやっている。
 濃い人、というのがうまく説明できないんだが、そいつだけ回りの人や調度類よりくっきりはっきりしてて浮かび上がって見える。
画像の加工をやったことがある人ならわかるかもしれないけど、その人物の輪郭を指定して彩度を上げ、シャープをかけたような具合だった。
 そいつは50代くらいの男性で、染めたと思われる黒々した髪を真ん中分けして、最近はまったく見なくなった黒縁のメガネをかけている。
服装はかなりくたびれて皺のよった濃紺のスーツ上下で、これも今時見ない黒の腕ぬきを両腕につけている。
バラエティのギャグシーンに出てくる田舎の分校の先生といえば合点がいくだろうか。
 それから奇妙なことというのは、左のてのひらを広げて上に向けその上に懐紙が載ってて、さらにその上で何か妙なものが動いている。
15cmくらいの長さのミミズ、それも白っぽいカブトムシの幼虫のような色のミミズが数匹のたくっていて、それを右手の箸でつまんでは、隣の40過ぎくらいの茶色の背広のカッパハゲのサラリーマンの襟首から背中に落としている。
そんなことをされたらたまらないと思うが、サラリーマンはされるがままで、その男の行為自体気がついていないように見える。
 俺はしばらくの間その様子をあっけにとられて見ていたが、そのうち虫を入れている男と目が合った。
すると男は箸を置いて人差し指を口の前にあて、俺に向かって子供のやる、

“ しーっ。”

のポーズをしてみせた。
 それでばつが悪くなって、俺はトイレに行ったが戻ってきてみると男はいなくなっていた。
そのグループのテーブルを見ても、男のいた場所に料理の皿はなかったから、マジにさっきのをほんとうに見たのか自分でも怪しくなってきた。
 俺らはその後二次会でカラオケに行き、それでも終電に間に合うように11時過ぎには解散して、俺は皆と別れて最寄りの駅に行った。
 この界隈は飲み屋が多いんで、こんな時間でも乗客はそこそこいたが、電車を待ってると、ホームのすぐ近くで騒ぎがあった。
サラリーマンらしい男3人がもつれ合っているが、どうやら2人で1人の上着を引っ張ってるようだ。
 よく見るとさっき居酒屋で隣にいたグループに似ている。
上着を引っ張られているのは、変な男に背中に虫を入れられていた男、

“ ハゲ具合がそっくり・・・・。”

と思っているうちに快速がホームに走り込んできて、上着を引っ張られていた男は全身の力をこめて両腕をぶんまわし、2人の男を振り切ってその電車に飛び込んだ。











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日々の恐怖 12月25日 カーテンの足

2015-12-25 18:11:26 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 12月25日 カーテンの足



 介護施設に働いているNさんの話です。
うち(介護施設)のナース(Aさん)が病院勤務だった頃の実話を夜勤のときに聞いた。
 その日、Aさんは夜勤だったそうだ。
Aさんは、滞りなく業務をこなし、面会時間も過ぎ、ナースステーションでカルテ記入をしていた。
 その日は急変もなく、静かな夜だった。
ふと、顔を上げるとステーション近くの患者ベッドのカーテンから立っている足が見える。

“ あぁ、誰かトイレに行くのかな・・・。”

そう思い、カルテに眼を落し、しばらく記入を続けていて、ふと気がついた。

“ そんなはずがない・・・・。”

そのベッドがある所は集中治療室、全身チューブに繋がれた患者だらけだ。
誰一人歩ける状態じゃない。
こんな深夜に面会者だって1人もいやしない。

“ あの足は一体誰・・・・?”

眼を上げるとカーテンの足は消えていた。
 一瞬ホッとして、見なかったことにしてカルテ記入を再開。
しかし、その後暗闇から音もなく徘徊しヌッと出て来たジイチャン。

“ ええ、思わずそのとき夜勤2人で絶叫しましたとも!”

このAさんの話を夜勤中に聞いて、泣くかと思った。











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日々の恐怖 12月24日 四国の老舗ホテル

2015-12-24 18:19:13 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 12月24日 四国の老舗ホテル



 会社員Sさんの話です。
10年前、外回りの仕事していて出張とか当たり前だった。
それで、いつものように仕事を終えた後、会社が提携している某四国の老舗ホテルに泊まった。
 毎月のようにその県に行くと決まってそこに泊まっていたから、満室の時でも部屋を融通してくれるようになっていた。
いつもだと、シングルが満室だったらツインやダブルにシングル料金で格上げしてくれる。
しかし、常に即答なのに、その日は電話での空室の確認のとき、一瞬返事に間があった。 
 ホテルに着いて部屋を案内されたが、いつも泊まる部屋の場所とは違う方向だった。
まぁ、その時は満室なのを無理にあけてもらったんだなあ、という解釈をした。
 部屋に入った印象と言うか、何と言うか、不思議なことに何故か窓が無い。 
正確には、部屋の上の方に換気用の申し訳程度の小さな窓があるのみだった。
 そのときは、ホテルが大通りに面しているから夜でもネオンが眩しいのでこういう部屋なんだ、と自分に言い聞かせた。
東南アジアに海外旅行に行くようになって熱帯の日差しを避けるため、窓のない部屋があるホテルが存在するってのは後で知ったことなんだけど。
 出張旅費を浮かせて自分の金にしたいのと、酒を飲まないから出歩くこともなく、ホテルに着く前に買った弁当を部屋で食べていたとき、何だか奇妙な音が聞こえる。
 田舎でテレビ局も少ないんで、テレビを消してから最初外からの音って思っていた。
その部屋にはラジオもあったけど、部屋についてからラジオなんて触っていない。
 部屋の中から聞こえる気がしたが、エアコンを入れて部屋の気温の変化で、部屋の壁やベットが膨張や収縮して音が鳴ったんだと思った。
奇妙な音を聞きながら、

“ こういうのが、心霊番組とかで言うラップ現象なのか?”

と、怖いというより今起きている現象を自分なりに分析していた。
すると、光の玉のような物体が目の前を横切るのが見えた。

“ 錯覚か・・・?”

 仕事疲れによる光が目の焼き付きか何かかと思ったんだが、目の焼き付きとかって、こう空間に浮かんでいるものが動いている様子がはっきり見えるものなのか。
その浮かんでいる物体が人の顔に見えたり、聞こえている奇妙な音が人の声に聞こえていたのなら、きっと怖がっていたんだろうが、目の前の不思議な現象を正直理解できないでいた。
ただ本能というか直感が、この部屋で今起きていることは何かがおかしいと思えた。
 何だかわからないけど、とりあえず部屋を出ようということで廊下に出た。
隣の部屋に同僚が泊まっているのでそれとなく聞いてみたが、その部屋は特に何もないらしい。
結局、部屋に戻ってその奇妙な現象は収まっていたので、その部屋で寝ることにした。
 その後、何回か同じホテルの別の部屋に宿泊しても、とくにこれと言ったことは無く、またいろんな場所でいろんなホテルの部屋に宿泊したが、あの晩の現象みたいなのに遭遇したことはない。
老舗ホテルなら、部屋での自殺や事件なんか過去にあってもおかしくはないのだろうか。
今はその老舗ホテルは廃業して建物は取り壊され、別のホテルが同じ場所に建っている。
 肝試しとか嫌いな自分が、今まで体験した奇妙な経験3回のうちの中の1つです。
安易に何でも心霊現象に結びつけることは嫌いだが、今でも納得できるような答えが見つからない。
実際体験してみると、怖いと言うよりも、理解できない納得出来ないと言う感覚のほうが大きいと思います。










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日々の恐怖 12月23日 風変わりな女の子

2015-12-23 17:39:42 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 12月23日 風変わりな女の子 



 私が小学5年生の時の、学校中が大騒ぎになった体験談です。
舞台となった学校は福島県郡山市立柴宮小学校です。
 ある日の昼下がり、そう4時限目が終了した後の給食時間の時でした。
突然、校内放送が流れました。

「 え~、臨時放送を流します。
先ほどから北校舎の3階附近で、風変わりな女の子が徘徊しています。
もし見かけても、かかわり合いにならないよう注意してください。」

この放送は今でもはっきりと覚えています。
 こんな放送が流れて来て、僕らは皆キョトンとしてしまいました。

「 なんだ、今の放送?」

と友人達と、今の放送について様々な憶測を話し合っていた矢先、先生方が教室に入って来ました。
そして、突然ホームルームが始まり、今流れて来た放送についての説明が始まりました。
 その説明によると、北校舎の3階附近で明らかに学校の生徒とは思えない女の子が徘徊していて、それをいろんな生徒が目撃して混乱しているからとの事でした。
そして、先生までが目撃するに至り校内放送にまで発展したのです。
 なぜ、そこまで騒がれたのかは、先生が目撃した時に後を追っていっても必ず見失ってしまうからだそうです。
そこまで聞かされて、教室は大騒ぎになりました。
それから先生方は、校内の見回りをするので皆は給食を食べるように、と言い行ってしまいました。
 その時です、級友が、

「 あれを見て!!」

と教室の外を指差しました。
 すると廊下の窓越しに、北校舎の3階のトイレ窓から身を乗り出している女の子が見えました。
その様子は、今にもそこから落ちそうに見える危なっかしいものでした。
 廊下で先生もそれに気付き、

「 皆!教室を出るなよ!!」

と言いに戻って、走って行ってしまいました。
 しばらくして女の子は窓から離れて見えなくなり、すぐに先生が窓に見えました。
しかし、どうも様子がおかしく納得のいかない感じが見てとれました。
しばらくして戻ってくると、誰もいなくなっていたと言うのです。
 クラスのみんなは、入れ替わりに先生の姿が見えたと口々に言うと、先生は青くなって職員室に行ってしまいました。
その後、全校は放課後まで大騒ぎしていました。
 次の日、臨時で全校集会が行われ、悪戯に騒がないようにとの校長先生のスピーチが有りました。
女の子が現れたのは、その日だけで二度と現れませんでした。
今もって、あの女の子が誰で、なぜあの日現れたのかは分かりません。



 俺も体験者だよ。
俺が小6の頃、柴宮小の不思議な女の子騒ぎな。
 給食時間前の昼休みに、明らかに生徒に見えない女の子が、校内を徘徊してるからかかわらないでって校内放送があった。
 暫くして先生が北校舎の3階にある女子トイレまで追い詰めたらしい。
それを聞いて俺と友達はトイレの窓をみてたらそこに身を乗り出した女の子が見えたよ。
そしてスッとひっこんだ、そのほんのすぐ後に先生らしき人が同じ窓に見えた。
 後で聞いたら女の子を追い詰めたと思ったらふっと見失い、てんてこ舞いになったと。
それ以降は現れなくなったので一段落ついた。
 後日全校集会で悪戯に騒がないよう落ち着くようにと校長が話してそれで終わり。
後はまことしやかに、交通事故死した女の子がさ迷い出たとか座敷童だとか噂になっていた。
なるたけ騒がないようにって事で教職員しめしあわせて外に漏れないようにしたようだ。
外部で話すのは学童のみなので、特に騒ぎにならずに終わったみたい。
 今考えると、もし給食後だったら、飲食物等に幻覚を引き起こすモノが入ってたとかになりそうな出来事だけどね。
どうにも不思議な出来事だった。











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日々の恐怖 12月22日 T字路

2015-12-22 17:54:38 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 12月22日 T字路



 俺の実家は北海道の札幌近郊の小さな町なんだけど、正月休みだったから帰省していた。
それで家族3人(父、母、自分)で札幌に住んでる婆ちゃんの家にご飯食べに行こうってなった。
行きは父が車運転して、帰りは俺が運転したんだけど、ご飯食べて帰る時にはもう夜の8時過ぎてて周りは真っ暗だった。
 札幌と言えど、郊外に行くと結構な田舎だ。
俺が車を運転して帰るのに、あまり運転に慣れてないのと、その道を自分で運転して走ったことないのとで、父に隣に乗ってもらって道を教えてもらいながら運転していた。
 しばらく話しながら走って、俺が父に、

「 ここ、どの辺?」

と聞いたら、

「 今N町入ったとこだから、家までちょっとだよ。」

と言った。
 暗くてよくわからなかったけど、そこは隣町のN町のようだった。

“ ああ、そしたらあと20分くらい走れば家に着くなぁ。
やっぱり長距離の運転は疲れる。”

みたいなこと考えながらそのまま夜道走ってると、道に見覚えがなくなった。

“ いつも親に同乗して乗ってたけど、自分で運転したらこんなもんか、夜道だし。”

とか思って走ってたら目の前に急にT字路が表れた。
 家族みんなで?状態だった。
なぜなら、札幌からの帰り道、今までそんなT字路は一回も通ったことがない。

俺「 え・・・、父これどっち行くの?」
父「 み、右行け・・・。」 

父の顔見るとかなり焦った顔してた。
 それで父の言う通り右に曲がると細い農道みたいな砂利道だった。
そこからはもう街灯とかもないしUターンできないくらいの細い道だったから、怖くてかなりゆっくり走っていた。
 いくら走っても地元の町に着かないし俺も両親もかなり不安になってきた。
そんなとき横に座ってた父が、

「 まるで狐につままれたみたいだな・・・?」

とか言い出した。

“ 狐か・・・、まぁ幽霊とかじゃなければいいか・・・。”

とか思ってそのまま走ってると、右前方に小さな動くものが見えた。
 動物みたいだけど、こんなときに気持ち悪って思ってたら、それは本当に狐だった。

俺「 あ、狐だ!」
父「 猫かなんかだろ、あ・・・!」

減速して近づいて行くと、狐がこっちを見ながら砂利道を横切っていった。
 北海道では別に狐が道路横切るなんてことは、そんなに珍しくないんだけど、それでもなんか気味が悪かった。
 それからちょっと走ったらまたT字路に当たって今度も右に曲がった。
それで、やっと舗装してる道に出て、周りの景色を見ても、どことなく見覚えのある場所だったからやっと安心した。
 それからはどこにも迷うことなく実家に帰れたんだけれど、帰ったあと家族で一杯やりながら話してたら父が気になることを言った。
 砂利道を走ってるとき、父は言わなかったけど、実はあのとき確かに父の知ってる場所を走ってたらしい。
そこは地元近郊のゴルフ場近くの道なんだけど、N町の入り口つまり俺が父に、

「 ここどこ?」

って聞いた場所から何十キロも離れた場所にある。
 俺が父に訪ねた場所から砂利道に迷い込むまでの時間は経ってても5、6分くらい。
到底そんな時間で何十キロも走れるわけないし、ましてその道を走り慣れてる父を隣に乗せて走ってるのに、そんな場所に迷い込む筈がない。
 父曰く、俺が場所を尋ねた場所から少し行ったところに歯医者さんがあるので、その角から右折させたかったらしいけど、気がついたらT字路だった。
 後日、不審に思って車で最初のT字路を探して行ってみたが、何故か見つからなかった。
狐が出て来たのは偶然だと思うが、訳の分からない出来事だった。









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日々の恐怖 12月21日 優先席の老人

2015-12-21 21:27:26 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 12月21日 優先席の老人



 Kさんが就職する前、大学生だった頃の出来事だ。
当時のKさんは大学からバスで30分程の場所で一人暮らしをしており、バイトに友人付き合いなど充実した日々を過ごしていた。
 夏盛りの夜だったとKさんは言った。
その日は友人との呑み会があってドンチャンと騒いでいたが、翌日にバイトが控えていた為、Kさんはバスの最終が出る前に一人帰路についたそうだ。
 むわっとするような熱気の中、なかなかやって来ないバスを待っていると、暗がりからゆっくりとバスの灯りが近づいてきた。
遠目から見ても車内には人がおらず、

“ 誰もおらんのに、何でこんな時間かかってんだよ!”

と、内心で悪態をつきながらも停車したバスに乗り込んだという。
 一番後ろの席を一人で陣取ると、前の方の優先席に二人の老人が座っているのが見えた。
何やらモゴモゴと話しているが、バスのエンジン音がうるさくて良く聞き取れなかった。

“ 何話してんねやろ?”

と、考えていると急にバスのアナウンスが流れた。

『 次は○○前、○○前……次、止まります。』

Kさんは言った。

「 酔っていて最初は気付かなかった。」

先を促してみれば、

「 だってその老人たちも私も、誰もブザー押してなかったんですよ?」

と、Kさんは眉を寄せた。
 やがてバスは停車して、一人の老人が代金も払わずに降りていった。
残されたのは、もう一人の老人とKさんのみである。
 その頃になると、

“ おかしいな・・・?”

くらいに疑問を感じ始めていたKさんだったが、次の停留所で自分は降りてしまうので、深く考えるのを止めたそうだ。

『 次は○……次、止まります。』

 アナウンスが流れるや、Kさんはすぐにブザーを押して席を立った。
すると老人も席を立ち始めた。

“ げ~、この老人も降りんのかよ!”

と思いつつも、老人の後に付いて運転席の脇を通るとき、また気付いたことがあった。
 今度の老人もお金を払わずにバスを降りたのである。

「 あの~、さっきから爺さんが降りてってると思うんスけど・・・。
このバスって先払いとかありましたっけ?
定期ってわけじゃなさそうだし・・・?」

酔いの勢いも手伝ってか、つい運転手に向かってそんな事を聞いた。
 すると、思わぬ答えが返ってきたのだそうだ。

「 ああ・・・、あの人たち、バックミラーに映らないから料金はいらないんだ。」

運転手は事も無げに、疲れた笑顔でそう答えたという。

「 深夜のバスが遅れてくる時は気をつけた方がいいですよ、乗ってる可能性ありますから・・・。」

と、最後にKさんは締めくくった。
 バスのブザーが鳴ってもいないのに、アナウンスが、

『 次止まります。』

と言ったら、運転手はバックミラーを確認することがある。
それは乗っている人たちが、どちらの人なのかを確認するためだそうだ。










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日々の恐怖 12月20日 25番検査室

2015-12-20 17:53:00 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 12月20日 25番検査室



 医療器械の納入業者をしています。
ある日夜9時過ぎに病院から、

「 臨時の治療で物品を大量に使ったので、すぐ補充して!」

という連絡が入ったので、帰宅ついでに病院へ行った。
そんなのは割とよくある話で、連絡の来た部署の25番検査室に物品を持って行ったのが10時ごろだった。
ちなみにその部屋は循環器で使う心臓カテーテル室という検査室である。
 連絡が入ったと言っても、担当職員はみんなその場からは引き上げていて誰もいない。
検査室は真っ暗だったので電気を点け、さっさと納品しようと検査室内の機材庫に入った。
 その時だった。
いきなりスピーカーから、

“ ビーッビーッ。”

という大きな音が聞こえてきて、続いて、

「 コードブルー発生!コードブルー発生!25番検査室です!」

という院内放送が入った。
 コードブルーというのは、緊急で蘇生の必要な患者が発生した、という意味の放送である。

“ こんな時間にコードブルーかよ。
大変だな。
25番検査ってどの部屋だろう。”

と、音にビックリしたもののあまり気にすることなく、納品を続けた。
 気づいたのは、同じ放送がもう一度繰り返された時だった。

“ 25番検査室って、ここじゃないか・・・?”

普段は25番とは呼ばないため、気づかなかった。
 再度検査室内を見回すも、当たり前のように人っ子一人いない。

“ それなにの、なぜこの部屋でコードブルー?”

それっきりその放送は無かったが、非常に気味が悪くなったため、超適当に納品して、そのまま逃げるように検査室の外へ出た。
 そしたら、ちょうどその時に、よく知っている循環器の医者が、こっちに向かって歩いてくるのが見えた。

“ 今のコードブルー、聞いてきたのかな?”

と思い、その先生に

「 臨時もあったのに、こんな時間にコードブルーって大変ですね。
でもカテ室、誰もいませんよ。」

と声をかけると、医者はきょとんとした顔で、

「 何言ってんの?
コードブルーなんて無いよ。
臨時はあったけど、もう終わってるし。」
「 えええ?
今、聞いたんですけど?」

自分の耳を疑いながら申し立てる俺に、先生は、

「 夜だから全館放送に制限かかってんのかな?
それ、気づかなかったけど・・・。」

と、その場で放送をする部署に電話確認をしてくれた。
 しかし結果として、そんな放送はどっからも依頼されていない、とのことだった。

「 聞き間違えたんじゃないの?」

と笑って、先生はその検査室へ入っていった。
もともとそこに用があったらしい。
 普段の営業としての俺なら追って入って話の一つでもするところだけど、それはもうカンベンな気持ちだったので、そのまま帰宅した。










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しづめばこ 12月19日 P412

2015-12-19 18:45:54 | C,しづめばこ


しづめばこ 12月19日 P412  、大峰正楓の小説書庫で再開しました。


小説“しづめばこ”は読み易いようにbook形式になっています。
下記のリンクに入ってください。
小説“しづめばこ”




大峰正楓の小説書庫です。
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日々の恐怖 12月18日 顔を薙ぐ

2015-12-18 18:22:25 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 12月18日 顔を薙ぐ



 自衛隊に勤務していたKさんから話を聞きました。
これは、何年か前、Kさんが当時所属していた中隊の先輩から聞いた話です。
 まもなく昭和の時代も終わろうとする夏のことです。
先輩は、輸送班に臨時勤務中で、休日の広報業務支援のため、土曜の夜に一人営内で残留していた。
翌日は早朝からの運転業務のため、酒も飲まず早い時間からベッドに入っていた。
 しかし、そうそう早く眠れるはずも無く、もやもやと時間ばかりが過ぎていった。
ふと気が付くと、部屋の片隅にゆらゆらと揺らぐ空間がある。

“ 何だ?”

と目を凝らすと次第に揺らぎは消え、あとには女の姿があった。
 クリーム色に青と緑の格子柄のパフスリーブのワンピースに、つば広の麦藁帽子をかぶった若い女だった。
 不思議と、先輩は、

「 なぜ女が?」

とは思わなかったという。
 やがて女は次第に先輩のベッドに近づいて来た、近づくほどに腰をかがめながら。

「 最後には、ほとんど四つん這いだったな。」

それでも、なぜか女の顔だけは霞んだ様にはっきりとは見えない。
 やがて、女はベッドの縁に手を掛け、覗き込むように顔を近づけたという。

「 その瞬間までは、不思議と恐怖感は無かったんだ、これっぽっちも。」

しかし、突然に女の顔がはっきりと見え始めた様な気がした。

「 これは見ちゃダメだ、そう思ったよ。」

先輩は、全力で半身を起こし、左の拳で女の顔のあたりを薙いだそうだ。

“ ぐしゃり。”

という、なんとも言い様の無い感触を最後に先輩の意識は途切れた。
 翌朝、目を覚ました先輩に残されたのは、尋常でない寝汗で濡れたベッドと、左拳全体の青痣があった。
 そして、先輩は途切れ途切れに言った。

「 まあな、寝ぼけて暴れてどっか殴ったのかもな。
でも、痣の酷さのわりに全然痛くなかったし。」

「 今思うと、あの女、なんだか悲しそうな、寂しそうな、そんな感じもしたなあ・・。」

「 話、聞いてやっても良かったのかな?」

「 殴ったりして、悪かったのかな?」

「 でも、そうしてたら、俺、どうなってたろう?」

「 なあ、お前なら、どうしてた?」










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日々の恐怖 12月17日 ルームサービス

2015-12-17 18:48:09 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 12月17日 ルームサービス



 今はもう取り壊されたホテルでバイトしていたときの話です。
そのホテル、老舗の高級ホテルで建物は古いが、格式は高くプロ野球チームの常宿でもあった。
俺はルームサービスとしてお客さんの対応をしていた。
 古いホテルと言うのは必ず何かしらあるもので、先輩から色々聞いていたが、幸い怖い思いは殆どした事が無く、いくつか知らされていたヤバイ部屋に行っても、何も怖いと思ったことはなかった。
 22時頃、フロントからお客がわけの分からないことを言ってるから、見てきてくれと連絡が入る。
名簿で調べるとその部屋は航空会社の利用、すなわちお客はキャビンアテンダント。
部屋は先輩から知らされていたヤバイ部屋の一つ。
 ヤバイ部屋というよりCAの部屋と言うことでドキドキしながらノックをすると、裸にバスローブを着たCAがガバッと扉を開け、

「 とにかく入って、お風呂見て!」

と言う。
 違う意味でドキドキしながら部屋に入るとき、まるでお風呂の湯気で押される様な圧迫感を感じた。

“ どうせゴキブリでも出たのだろう・・・。”

と風呂場に入るといい匂いがした。

“ いやいや、別に何も問題は無さそうだ。
ゴキもいないし、なんなんだ?”

と思っていると、

「 洗面台の鏡を見て!」

とCAが言う。
 曇っていて気が付かなかったが、良く見ると鏡に10㎝位の無数の髪の毛が貼り付いていて、思わず、

「 うぉっ!」

と声が出た。
 この部屋、嫌な感じがするし部屋を換えて欲しい、とCAに言われた。
この状況を見て拒否することも出来ないので、フロントに電話をして別の部屋を用意させた。

「 準備が出来るまで、一人じゃ怖いから一緒にいて。」

と言われ、CAが言うには業務用で割り当てられる部屋は曰く付きのことが多く色々怖い思いをしたけど、ここまではっきり変なものが見えたのは始めてだと言われた。
 そして、

「 髪の毛以外にも見えたものがあるけど、怖がらせるから言えない。」

と言われた。
 部屋を移った後の片付けは俺の仕事、風呂場の掃除も俺の仕事だった。
CAの言葉に影響されて俺はビビッていた。

“ イヤだなァ・・・。”

部屋に入り鏡を見ると、何故か髪の毛は増えていた。
そして、鏡の状態を見てゾッとした。
 それは、たまたまビビッていたから、そう見えたのかも知れない。
顔型に曇りが残り、その頭部に髪の毛が付いていた。
それも3、4人。
目を閉じ、口を大きく開けた何とも無念そうな、例えれば突然の事故で死ぬ瞬間の様な顔だった。
 俺は腰を抜かしそうになり、掃除もほったらかしにして逃げ出した。
スタッフルームに逃げ帰り暫くするとまたフロントから、例のCAに連絡する様に言われ、電話をした。
 すると、

「 本当は黙っているつもりだったけど、どうしても気になったから言うね。
気が付かなかったみたいだけど、実は鏡には髪の毛の他に5人の顔が写ってて、あなたが風呂場に入ったら、その5人が一斉にニヤッと笑った。
そしてあなたが風呂場から出てきたら、その中の一人だと思う人がついてきて、あなたを上から見下ろしていた。
今日は塩を身に着けて、出来れば線香の1本でもあげてね。」

と言われた。
変な部屋に泊めさせられた腹いせでは無さそうな気が俺はした。











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