日々の恐怖 11月9日 R163(5)
私は大急ぎで降りました。
そしてそのまま車の進行方向と逆の方へ、一目散に逃げました。
一瞬たりとも振り返らず、息もせず、もうこれ以上走ったことがないくらい走って走って、先ほど通過してきたトンネルが見えた辺りで立ち止まって、泣きながら親に電話しました。
親は電話越しにとても心配しており、迎えに来てくれとの連絡から一時間以上も帰ってこないので、警察に連絡しようかというところだったそうです。
何度も連絡をくれたらしいのですが、私のスマフォにはそのような連絡は一切入っていませんでした。
それから親がスマフォのGPS機能で場所を特定してくれましたが、私のいた場所は京都府の山の中だったそうです。
実家は奈良県なので、あの最寄り駅からこれだけの距離を知らない人の車に乗せられて来たのだと思うとまた怖くなり、あの男の人が車に乗って追い掛けてくるかもしれないという不安も重なって、道路の端っこの方で隠れるように小さくなりながら、迎えが来るまでひたすら泣きました。
男の人は幸い追い掛けては来きせんでした。
従姉妹夫婦がたまたまが私のいる場所の近くにいたそうなので、暫くして迎えに来てくれました。
私は従姉妹夫婦の顔を見た瞬間、大声をあげて泣いてしまい、車の中でもずっと泣いていました。
落ち着いてきたころに従姉妹夫婦に事情を説明すると、従姉妹夫婦は、
「 たちの悪い不審者ではないか・・。」
と言いました。
それから家まで送ってもらい、私は無事に帰ることが出来ましたが、一晩たった次の日でも恐怖が拭いきれずにいました。
何だか不思議な感覚ですが、男の人の声や後姿は今でも鮮明に思い出せますし、車の匂いやラジオから流れていた女の人の声もはっきり覚えています。
あのままどこか知らない場所に連れていかれていたらと思うと、背筋が凍るような思いです。
それと、私は男の人とは会ったことは勿論見かけたことすらなかったのですが、男の人は私のことを知っている感じでした。
私が色々と気付く前に日常会話をしていたとき、普通に大学の名前や勉強のことについて言われたり、私が好きなお酒が家にあることを言ってくれたりしていたのです。
ですが、私には妹はいますが、男兄弟はいません。
祖父はとっくに亡くなっています。
やっぱり男の人は私を誰か別の女性と間違えていたのでしょうか?
でも何度思い返しても、あの男の人は私を誰かと間違えて会話していたのではなく、私のことを私だとちゃんと認識した上で話していたように思うんです。
私の話は以上です。
皆さんのご意見きかせてください。
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