日々の恐怖 12月31日 輸入雑貨(1)
今の彼女と付き合い始めたばかりの頃の話です。
とある駅前で彼女と待ち合わせをしていたのだが、その日は時間より早く着いてしまった。
近くに喫煙所があったのでそこで煙草を吸っていると、すぐ近くで黒人男性が露店の準備をし始めた。
並べているのは、カラフルなビーズで作られたネックレスやブレスレット。
どれも鮮やかな原色が多用されており、大ぶりなビーズが多く使われた派手なものばかりだ。
退屈なので横目で品物を見ていると、その黒人が視線に気付いて声をかけてきた。
「 オニイサン、見テッテヨ。
コレ、アフリカ本物ネ。
ケニア、コンゴ、スーダン、イロンナ国ノヨ。
安イ安イヨ。」
いや俺そんなの付けないし、と断ろうとした時、運悪く彼女が来てしまった。
「 お待たせ~、あ、カワイイ!」
俺の顔もろくに見ないうちから、彼女の目は色とりどりのアクセサリーに釘付けとなった。
すぐに幾つかのネックレスを手に取ると、置かれた小さな鏡の前で自分の胸元に当て始める。
「 最近フォークロアが流行りなんだよね~。
私もこういうの一個欲しいなって思ってたんだ。」
まずい流れだなと思っていると、案の定彼女はキラキラした笑顔で俺を見つめた。
「 買って!」
「 やだよ、自分で買え。」
「 今日、記念日じゃん!買って!」
「 何の記念日だよ。」
「 付き合って、えーと・・・、5週間ちょっと記念日!」
凄まじく半端な記念日を提示され、俺は言葉を失った。
俺の沈黙を勝手に肯定と判断した彼女は、どれにしよっかな~とひとしきり悩んだ後、ひとつのネックレスを手に取った。
「 これ・・・・。」
と呟いた後、笑顔だった彼女の顔から、すっと笑みが消えた。
この瞬間、俺は彼女が別人に変わってしまったかのような感覚を覚え、言いようのない不安を感じた。
彼女はどこかうつろな表情でネックレスを見つめたまま、
「 これにする。
これがいい。」
と黒人に差し出した。
「 アリガトネ~、サンゼンエンネ~。」
と言いながら、黒人がネックレスを袋に入れて彼女に手渡す。
正直俺は、このネックレスを彼女に買ってやりたくはなかった。
さっき感じた不安が頭を離れなかったからだ。
だが、黒人に、
「 オニイサン、サンゼンエン!」
と真顔で催促され、俺は流されるまま金を支払ってしまった。
「 ありがとう、大事にするね!」
そう言って振り返った彼女からは、先ほどの異様な雰囲気はすっかり消え失せていた。
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