大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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☆( 1年間366日分の日々の出来事  )

B,日々の恐怖

☆( 日々の恐怖 )

C,奇妙小説

☆(  しづめばこ P574 )                          

霧の狐道209

2009-03-30 19:43:31 | E,霧の狐道
 気を利かせて引っ込んでいた龍平が窓際からこっちに来て、夜の打ち合わせの話をしようとしたとき、病室の扉が開いた。
そして、扉の影から由紀ちゃんが現れた。
 俺はムフフフフと嬉しかった。
でも、ここは喜んでいることを悟られないようにしなければならない。
俺は平静を装って由紀ちゃんに言った。

「 あれっ、もう、みんなと一緒に帰ったと思ったのに・・。」
「 ううん、ちょっと忘れ物をしたって言って戻ってきたの・・。」
「 ん・・・・。」

由紀ちゃんはチラチラと龍平を見ている。
それに気が付いた俺は由紀ちゃんに言った。

「 こいつは龍平って言うんだ。
 病院友達だし、気にしなくていいよ。
 ちょっと、変なヤツだけど・・・。」
「 何処が変なんや!」
「 あちこち・・。」

由紀ちゃんが笑いながら言った。

「 関西の人?」
「 そうやで。」
「 由紀ちゃん、もうちょっと喋らしたら面白いよ。
 コテコテの関西弁ばっかり喋るから。」
「 何、アホなこと言うてんねん。
 関西は文化の中心やで。
 関西人は偉いんや。」
「 ホラ、吉本みたいやろ。」
「 生粋の関西人?」
「 あったり前田のクラッカーや。」
「 それ、何?」
「 昔、てなもんや三度笠ちゅう番組があって・・・。
 何でこんなこと説明せんならんにゃ!
 もう、ええかげんにせェ、ホントにね!!」
「 ほら、ボケと突っ込みやってるよ。」
「 ふふ、おかしい・・・。」



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霧の狐道208

2009-03-28 18:13:20 | E,霧の狐道
 俺は静かになったクラスの連中に言った。

「 今日は、ありがと。
 早く良くなるから、また、遊ぼうぜ!」

クラスの男どもは頷いた。
 男どもの後ろには、クラスの女の子三人がこちらを見ている。
由紀ちゃんもその内の一人だ。
話はしていないが、男どもの後ろで俺の言葉に頷いていた。
 山下先生が話を打ち切って言った。

「 よし。
 じゃ、みんな、行くぞ!
 長くいると、神谷が疲れるからな。
 早く学校に戻って来いよ。」
「 うん。」

男どもが口々に言った。

「 じゃあな。」
「 ああ。」

俺は軽く返事をして、みんなをベッドから見送った。
 最後の一人が病室の扉を閉めて出て行った。

“ 昼間は開けたままなんだけど・・・・。
 まあ、いいか。”

クラスの連中の騒がしさが去って病室は静かになった。
椅子の上には、お見舞いの果物がポツンと置かれていた。



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霧の狐道207

2009-03-26 19:29:09 | E,霧の狐道
「 あ、先生、パソコンのウイルスはどうなりました?」
「 ああ、あれか。
 最後まで行く前に駆除出来たみたいで、中ボスの辺りで突然プシュッと消えて
 しまったよ。
 ま、それほど凶悪なものでは無かったと言うことだろな。」
「 それは、良かったですね。」
「 ああ、やはりウイルス駆除ソフトモグモグ7は値段が高いだけあって素晴ら
 しい。
 ほら、お見舞いの果物!」

“ あら~~。
 まだ、この人、パソコンの電源プラグがコンセントに入っていないことに気が
 付いていないんだ・・・・。”

 俺が呆れた顔をして見ているのをよそに、山下先生は果物カゴを空いている椅子に置いた。
クラスの男どもがそれを見て言った。

「 こんなに、たくさんの果物、おまえ一人で食えるか?」
「 無理だろ~~!!」

俺は連中に言った。

「 ああ、やるよ。
 食べたいんだろ。
 一人、一つだぜ。」
「 やった~!」

でも、山下先生はクラスの連中の方を向いて怖い顔をして言った。

「 こらっ、少しは遠慮しろ!」

不満そうな顔だが、仕方が無いと思ったのかみんな黙った。



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霧の狐道206

2009-03-24 19:28:28 | E,霧の狐道
 龍平と俺が話をしていると、通路の方からガヤガヤと話し声が近付いて来た。
複数の足音も聞こえて、俺は病室の入り口を見た。

“ ドタドタドタ・・・。”

担任の山下先生の声が聞こえる。

「 ここだ、ここだ!」

どうやら、クラスの連中がお見舞いに来てくれたようだ。
 賑やかな塊は病室にゾロゾロ入って来た。
扉の影から最初に現れたのは山下先生で、クラスの友達がそれに続いた。
 来てくれた友達は男が五人で女が三人だ。
前にごちゃごちゃいる男達の後ろに由紀ちゃんの顔が見える。
俺は由紀ちゃんが来てくれたので、ちょっと嬉しい。
龍平は気を利かせ窓際まで移動し、窓から外の景色を眺めている。
 山下先生がベッドに寝ている俺に言った。

「 お~、神谷、どうだ?」
「 骨折してしまって・・・・。」
「 おまえ、川に飛び込んだって聞いたぞ。」

俺は橋の上にいた女の子の話は止めておいた。
また、尾ひれがついて、何を言われるか分かったもんじゃない。

「 自転車が滑って・・。」
「 ホントに色々なことを起こすヤツだなァ。」
「 いや、それ程でも・・・。」
「 それで、学校に来るのは、いつ頃になる?」
「 まだ、退院予定は聞いてないけど・・・。」
「 そうか、じゃ、仕方が無いな。
 また、分かったら連絡してくれ。」



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霧の狐道205

2009-03-22 19:38:43 | E,霧の狐道
   お守り1

 午後4時ごろ、龍平が病室にやってきた。

「 おい、貴志、相談や。」
「 何だよ?」
「 今日、おまえのベッドで寝かせろよ。」
「 じゃ、俺は何処で寝るんだよ?」
「 だから、一緒に寝るんやがな。」
「 どうして?」
「 女の子と黒い影が見たいんや。」
「 俺は見たくない。
 龍平がここで寝て、俺はどっか他で寝させろよ。」
「 あのなァ~。
 一人やったら、怖いやん。
 二人で、見ようよ。」
「 そこのベッド空いてるよ。」
「 おまえ、なんちゅうこと言うねん。」
「 何が?」
「 わいは、知ってるんやで。
 このベッドが危ないこと。」
「 あ、そうか。
 残念!!」
「 おまえ、わいを殺す気か、アホ。」
「 アハハハ、言ってみただけ。
 俺もどうしたらいいのか分からないし、二人の方が心強いな。」
「 一回、見てから対策を考えよかと思とるんや。」
「 それにお揚げ婆さんも来そうだし・・・。」
「 なんや、それ?」
「 俺に逆恨みしてる婆さん。」
「 夜中に?」
「 そう。」
「 おまえ、友達多いんやな。」
「 まあな。」
「 とにかく、俺、来るで。」
「 うん、分かった。」




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霧の狐道204

2009-03-19 19:14:44 | E,霧の狐道
俺は不信感でいっぱいだった。

“ 人が相談してるのに・・・。”

俺は不満な顔をしてトメさんを見た。
 トメさんの後ろにある大きな木から、風に吹かれて落ち葉が散っている。
そして、そのうちの一枚がトメさんの頭に乗っかった。
トメさんは、それを手で払い除けもせず眼だけで上を見た。

「 あら、落ち葉だね。
 何回、箒で掃いてもきりが無いねぇ。」

そして、それは顔の方にずり落ちて地面に落ちて行った。
トメさんは俺を再び見て、ニヤッと笑った。
 看護婦の井上さんが近付いてくるのが、トメさんの後ろに見える。

「 あ、トメさん、ありがとう。」
「 いや、この子と話が出来て良かったよ。」
「 そう、急に呼ばれたから・・・。」
「 風が吹いて来たよ。
 そろそろ、病室に連れて行った方がいいね。」
「 うん、そうだね。
 じゃ、戻るか!」

井上さんは、車椅子の後ろに回って車椅子を押し始めた。

「 じゃ、またな!」

トメさんは箒を持ったまま、そう一言言って俺たちを見送ってくれた。


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霧の狐道203

2009-03-17 20:20:34 | E,霧の狐道
「 あんたも見えるんだね。
 私には分かるよ。
 たぶん、龍平にも見えていると思うんだけどね。」
「 トメさんって、龍平も知っているの?」
「 ああ、小さい頃から知っているよ。
 あの子は、こう言う方面は鋭いよ。
 青み掛かった白い光が、あの子の体の残像に見えたことがあるんだ。
 そう言う人は同類だね。」
「 トメさんも、同類?」
「 ああ、もう、慣れっこだけどね。
 井上さんも、微かだけれどそれがあるんだ。
 でも、あんたはちょっと違うね。
 さっき、中庭に出て来たとき、あんたの残像は青じゃなくて紫が掛かっていた
 からね。
 以前に、一度だけ見たことあるけどね。」
「 それって、俺に何か危険が近付いているってこと?」
「 いや、そうじゃないと思う。
 でも、それ以上は分からないね。」

俺は、トメさんなら理解できると思って橋で出会った女の子の話をした。
そして、トメさんに質問した。

「 女の子は、俺に付いて来た?」
「 そうだよ、おまえは気に入られたんだよ。」
「 ゲッ!」
「 いいじゃないか、モテモテで・・。」
「 いや、ちょっと困るんだけど・・・。」
「 アハハハハハ。」
「 笑ってる場合じゃないよ、ホントに・・・。」
「 そうだね、どうしたもんかね・・・。」
「 追っ払うには、どうしたらいい?」
「 そんなに無下に追っ払うのは可哀想かも知れないよ。」
「 でも、ずっと遊べるって、かなり危険なんじゃないかなァ~。
 ず~っとって、一生ってことかなァ~。」
「 一生って、あっと言う間さ。」
「 えっ、それって命を取られて、あっと言う間に連れて行かれるってこと?」
「 いや、人によるんじゃないかな・・・。」
「 えっ、人によるって・・・。
 俺の場合はどうなの?」
「 さあ・・・。」
「 あ~、もう・・・。
 はっきり、しないんだからァ~。」
「 まあ、そのうち分かるさ、ハハ。」
「 そのうちなんて、手遅れになるかも知れないんだよ。」
「 いや、あんたの思い付くままにやってみればいいんだよ。
 それで、いいんだ。」




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霧の狐道202

2009-03-15 19:11:14 | E,霧の狐道
トメさんは箒を掃く手を止めて、こちらにやって来た。

「 ふふふ、ようやく呼んでくれたね!
 わたしゃ、いつ呼んでくれるのかと待っていたんだよ。」
「 ちょっとの間、この子見ていてくれる。
 この子、神谷貴志君って言うの。
 直ぐに戻ってくるから・・・・。」
「 ああ、いいよ。」
「 じゃ、お願いね。」

井上さんは、一棟に走って行った。

「 いつも忙しい人だわい・・・。」

掃除のトメさんは、井上さんを眼で見送りながら呟いた。
そして、俺の方を見て、ニヤッと笑った。
口の奥の方にある金歯が一瞬光った。

「 あんただろ、処置室で赤い口紅の看護婦を見かけたのは。」
「 えっ、どうして、それを知ってるの?」
「 看護婦の井上さんに聞いたんだよ。
 他の人には見えないのに、井上さんだけには見えるようで悩んでたみたいなん
 だよ。
 でも、他にも見える人がいたって教えてくれたんだ。
 ちょっと、安心したみたいだね。
 あれは、悪さはしないよ。
 気にすることは無いって言ったんだけど、気にしているようだね。」
「 そうか、悩んでたのか・・・。」



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霧の狐道201

2009-03-13 20:27:57 | E,霧の狐道
 俺は落ち葉を掃いている初老のおばさんを見た。

「 おばさんも同じだね。」
「 そう・・・。」

おばさんはチラチラこちらを見ている。
 俺はそれを不審に思って井上さんに言った。

「 掃除のおばさんが、こっちを見てるよ。」
「 あの人は、昔から病院の掃除をしてくれているトメさんよ。」
「 トメさん・・・?」
「 あ、ホントの名前は容子さん。
 木下容子って名なんだけど、みんな、トメさんって言ってるから。」
「 どうしてトメさん?」
「 ん、分からない。
 昔からトメさんよ。
 掃除のトメさん。
 みんな言ってるから。」
「 掃除のトメさんか・・。」

そのとき、一棟の一階の窓が開いて若い看護婦さんが顔を出した。

「 井上さ~ん、ちょっと、手伝って下さ~い。」
「 えっ、何?」

井上さんは手を挙げて行くと合図をした。

「 えっと、ちょっとだけ待っててね。
 そうね、トメさんに相手をしてもらおうかしら。
 ちょっと、呼ぶね。
 トメさ~ん!」



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霧の狐道200

2009-03-11 19:11:37 | E,霧の狐道
   憩いの広場


 昼に痛み止めを飲み、痛みが和らいだ。
まだ、肩と足に痛みはあるが、痛み止めが効いて動きが楽になるのは有り難い。
昼食が終わると、看護婦の井上さんが車椅子で病院内を案内してあげようと言うので、俺はご好意に甘えることにした。
 俺は車椅子に乗り、井上さんに押されて病院内のあちこちをウロついた。
特に俺にとっては、一階の売店の位置が分かったことが収穫だ。
日用品や新聞や本、その他のゴチャゴチャしたものが売ってある。
レジのオバちゃんが、挨拶代わりに飴を一つくれたのも嬉しかった。
 売店を通過した後、病院の中庭に出た。
病院の建物は口の字の形をしており、真ん中に中庭がある。
藤棚やベンチがあって、散歩している人も見受けられる。
柔らかな日差しで、風が少し吹いて気持ちが良い。
木々が植えてあって公園のようだ。
 高い木から葉っぱが、ヒラヒラと落ちて来る。
地面にも、落ち葉はかなり落ちている。
木の下で、初老のおばさんがホウキを持って落ち葉を掃き集めている。
車椅子を押している井上さんが言った。

「 ここは、憩いの広場ね。」
「 憩いの広場・・?」
「 そう、いろいろな人がここに来て休憩して行くわ。」
「 いろいろな人か・・・。」

俺は人が座っていないベンチに眼をやった。
井上さんが言った。

「 患者さんばっかりとは限らないわよ。」
「 あ・・・・。」

俺は患者と医者や看護婦は違うものだと思っていた。

「 みんな、同じなんだ・・・。」
「 そうね、みんな同じね。」



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霧の狐道199

2009-03-08 20:21:01 | E,霧の狐道
「 主治医が手術をしたがっているから、手術を勧める電話があっても承知しち
 ゃダメだよ。」
「 ああ、分かった、分かった。」
「 何だか、不安だなァ~。」
「 大丈夫だって、手術しないって言えばいいんだろ!」
「 そう、そう、ようやくホッとした。」
「 あ、それから病院まで送ってくれた人に礼を言っておいたぞ。」
「 あ、ありがと。」
「 口だけじゃなくて、現物が欲しそうだったよ。」
「 えっ!」
「 仕方がないから、物を送っておくよ。
 どっちか言うと、現金の方が好きそうだったけど・・。
 おまえ、もうちょっとお金の掛からない人に助けられろよな!」
「 他に誰も居なかったんだよ!」
「 ホント、金の掛かるヤツだなァ。
 家は貧乏なんだから。
 入院の費用も掛かってくるし・・・。」
「 仕方無いだろ、なっちゃったんだから!
 じゃ、頼んだよっ!」
「 ああ、分かった、分かった。」

“ ガチャ!”

思った通りブツクサ言われた。

“ 父親の方は、これで大丈夫だな・・・。
 狸小路から電話が掛かって来たとき、母親が出るとちょっと不安な気もする
 が・・・・。
 う~ん、でも、ま、大丈夫だろう・・・・・。”

 これで一応、俺は手術は逃れられると思った。
少しホッとすると、腹が減って来る。
昼食の臭いが通路に漂って来ている。

“ あ、メシの時間だ。
 部屋に戻らなきゃ。
 とにかく、メシだ、メシだ!”

俺は、急いで病室に戻った。




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霧の狐道198

2009-03-06 18:53:30 | E,霧の狐道
 受話器を置く音がした。

“ ガチャ!”

待ち受け音楽が始まった。

“ 寂しさにぃ~、負けたァ~♪
 いいえっ、世間に負けたァ~♪”

「 ああ、また、この音楽かァ・・・。」

“ この町を、追われたァ~♪
 いっそ、死のうと思ったァ~♪”

「 何か、気分が暗くなって来たぞ・・・。」

“ ちか~らの限り生きたのにぃ~♪
 未練などないわァ~~~♪“

「 うう、手術はイヤだァ・・・・。」

“ ガチャ!”

「 おう、貴志、手術するのか?」

父親が出て来た。

「 しない、しない!
 電話の待ち受け音楽、いい加減に変えて欲しいんだけど・・・。」
「 いいじゃないか、これで。」
「 気分が暗くなるよ。」
「 俺は、これを聞くと元気が出るんだ。
 “昭和枯れススキ”だぞ。
 我が家にピッタリだ。」
「 ピッタリと思ったら、貧乏から脱出しろよォ~。」
「 まあ、これはこれで、しみじみしていいんだよ。
 それで、手術はいつするんだ?」
「 しないんだって!」
「 どうして?」
「 ヒビが入っているだけで、固定しておけば治るんだよ。」
「 何だ、しないのか。
 それで、タヌキの友達が出来たらしいが・・・?」
「 それは、主治医の名前で、狸小路って言うんだよ。」
「 ふ~ん。」



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霧の狐道197

2009-03-04 19:09:30 | E,霧の狐道
 家に電話を掛けると母親が出て来た。

「 もしもし、貴志だけど、狸小路から電話はあったか?」
「 えっ、タヌキから電話があるの?」
「 違う、違う、主治医だよ。」
「 うん・・・・?
 貴志の主治医は、タヌキ?」
「 違う違う、人間人間!
 とにかく、騙されて手術すると言っちゃダメだよ。」
「 貴志、私は、タヌキに騙されるほどモウロクしとらんよ。
 で、誰から電話が来るのよ?
 人間かタヌキかハッキリしてよ。」
「 人間のタヌキだよ。」
「 人間は人間で、タヌキはタヌキだよ。」
「 だから・・・・・。
 もう、誰でもいいから、手術はしないって言えばいいんだよ!」
「 おまえ、手術をしなければならないのかい?」
「 いや、手術はしなくても治るんだよ。」
「 じゃ、どうして手術するって言うのさ?」
「 だから、信楽のタヌキがやりたそうにしてるんだよ。」
「 手術は、信楽でするの?」
「 いや、信楽じゃなくて、この病院だよ。」
「 ああ、良かった。
 そんな遠い所まで行けないよ。
 そこの病院で手術するの?」
「 違う違う、手術はしないの!」
「 ああ、大変だ。
 手術をするのか・・・。
 じゃ、父さんにちょっと言ってくる。」
「 待て~っ、こらァ~~~!!」



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霧の狐道196

2009-03-02 19:47:26 | E,霧の狐道
 俺はベッドに座って左肩を処置され、イデデデデと叫びながら、所謂“天使の羽根”を装着した。
そして、タヌキはニヤニヤしながら言った。

「 後の予定については、ご両親と相談しますから心配しなくていいですよ。
 じゃ、今日は、こんなもんで終了!」

やはり、まだ、ぜ~んぜん手術を諦めていないことが分かる。
まあ、取り敢えずは診察が終わったのでタヌキから脱出だ。
 俺は再び看護婦の井上さんに補助され、車椅子に乗って診察室を出た。
通路を進んでエレベーターに移動する。
まだ、タヌキのニヤニヤした顔が頭に浮かぶ。

“ あいつ、ヤバイなァ・・・。
 あいつ、直ぐに家に電話したらどうしよう・・。
 とにかく、病室に戻ったら家に速攻電話を掛けよう。”

 俺は井上さんと共にエレベーターで4階に上がった。
4階に着いてエレベーターの扉が開き、通路を見るとナースステーションの横にあったベッドが消えていた。

“ もとの個室に戻したか・・・。”

 俺は車椅子を井上さんに押され、ナースステーションを通過し病室に戻った。
そして、井上さんが病室を出て行ったことを見届けると、早速、車椅子で病室を飛び出し家に電話を入れた。
何も知らない両親が、タヌキに騙されて手術を承諾したら大変だ。




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