日々の恐怖 6月12日 鎌倉(2)
数日後、契約に至り、さらに日時が開いて着工日になった。
解体工事がはじまり、壁や床が撤去されていく。
やがて例の空間の解体に手をつける。
まず壁を壊しにかかった。
壁にハンマーを当て、モルタルを壊し、木部を蹴り壊す。
職人たちは、
「 アタァッ!」
と、北斗の拳ごっこをしながら壊す。
いつもの風景だった。
木部が壊れ内部が見えた時、空気が凍った。
誰もが口を開かなくなり、何も指示はなかったが、いっせいに工具を置き休憩にはいってしまった。
みんな重苦しい顔をして、うつむいたまま出て行く。
丁度その時に別の場所を担当していた俺は、3時の休憩には早いためおかしいと思い、例の空間を覗き込んでみた。
投光機で中を照らすと、正面の壁に般若の面があり、壁は一面御札で埋め尽くされていた。
施主のいたずらじゃないかと疑いたくなるほどに、演出されたような部屋だった。
般若の面の下、床の上には箱が一つ置いてあった。
演出ではできない長い年月で溜まった埃が、古くからそこに安置されていたものと想像させた。
俺は手に触れることなく、外の職人たちに話を聞きにいった。
職人たちの話では、
「 壊したら出てきた。
気味が悪く、これ以上はしたくない。」
との話だった。
それ以上は何もわからない。
当然といえば当然だ。
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