大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 8月29日 輸入雑貨の卸業(4)

2022-08-29 13:17:48 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 8月29日 輸入雑貨の卸業(4)





 やがて、両開きのクローゼットがバーンと開いて、中にはSさんの上着しかかかっていないのが見えました。
扉はバタンバタン、バタンバタン、何度も何度も強く開閉して、Sさんのほうに風が漂ってきたそうです。
生臭い血のニオイがしました。

” あ、もしかしてさっきの事故のやつか。
血は出てなかったけどな・・・。”

と思いましたが、Sさんには恨まれる心あたりはまったくなかったので、心の中で、

” 俺は何の関係もねえだろ、車のやつと介抱した野次馬を恨めよ。
俺、関係ナシ。”

こう何度も唱えました。
 体はやっと指が動き始め、右手の肘も曲げることができたそうです。
Sさんは、

” これはもしや、昔の組時代の俺を恨んでるやつかもしれない。”

そうも考えたので、

” ありゃしかたねえことだった、お互い様で恨むのは筋違い。”

そのうち、体が動く感じがしたので、

「 俺を舐めるな、クソ野郎!!」

と絶叫してベッドの上に跳ね起きました。
そのとたん、クローゼットの扉がバターンと閉まりました。
 Sさんはベッドの下から金属バットを引っ張りだすと、持ったままクローゼットを開けて中を確かめ、そのときは何もおかしな物は見つからなかったので、クローゼットの前で、

「 舐めるんじゃねえ、コノヤロウ!」

と叫びながら、何度も何度もバットを振り回したそうです。
そのうちに他の部屋から苦情がいったのか従業員が来まして、Sさんは着替えてホテルのロビーに行き、そこで朝まで過ごしたということでした。
 で、8時ころにチェックアウトしたんですが、そのときクローゼットをしっかり調べると、一番下の引き出しに、ホコリにくるまった小さな頭蓋骨、たぶんネズミの仔のものがあったそうです。
結局、クローゼットが夜中に開閉した原因はわからずじまいでした。
 こういう話を聞かされまして、Sさんは、

「 ずっとヤバイ橋を渡って、海外も何度も行って、不可思議なことはこれだけ。
やっぱホテルの客か従業員が、何かたくらんでた可能性が一番高いよな。」

と言ってました。











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日々の恐怖 8月21日 輸入雑貨の卸業(3)

2022-08-21 11:26:31 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 8月21日 輸入雑貨の卸業(3)





 10時頃まで飲んで、そのとき根城にしてたビジネスホテルに戻りました。
安ホテルですが、これは有名な大ホテルであっても、従業員が悪いやつと結託している場合もあるので、危険の度合いはそう変わりません。
 Sさんは貧乏旅行者を装って、あらゆることを値切ったりして、悪いやつにマークされないようにしてたんです。
それと、2日か3日かでホテルも変えていました。
 さらにベッドの下には知人宅に預けてあった、その国では非常に珍しい(野球をやる人は超希少)ケース入りの金属バットを転がしておきまして、何かあったらそれでぶん殴ろうというわけです。
 鍵をかけた上に、ドアの前に旅行バックを置いて、12時過ぎに寝たんですが、夜中に目が覚めて、そしたら体が動かなかったそうです。
最初に考えたのは、縛りあげられたとか、クスリを飲まされたってことですが、そのわりには体は痛くない。
 薄目が開いて、電気はつけっぱなしにしてたので自分の体が見えましたが、おかしな様子はない。
それで、

” これは金縛りというやつか・・・?”

と初めて考えがいきました。
 それまで経験したことはなかったそうです。
とにかく指先に少しずつ力を入れて、なんとか脱出しようとしていると、足元のほうのクローゼットの中がカタカタいい始めました。
 それでも、

「 幽霊だったら怖くはない。
何にもできねえからな。」

と言ってました。
むしろ、隣の部屋とかから穴を開けて侵入されることを怖れてたそうです。
ま、そのくらいでないと東南アジアを渡り歩くのはできません。










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日々の恐怖 8月17日 輸入雑貨の卸業(2)

2022-08-17 12:58:20 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 8月17日 輸入雑貨の卸業(2)





 倒れている人のところに数人が駆け寄ると、うつぶせのものを仰向けにし、なおかつ一人が上半身を抱き起こし、揺さぶり始めました。
Sさんは、

” あちゃ~、あんだけ頭打ってるのに動かすなよ・・・。”

と思いましたが、そういうときはかかわらないことが最善の選択なので、だまって見ていました。
 その後、被害者を動かしている拍子に、被害者の顔だけがクルッとこちらを向きました。

” ウワッ・・・、ヤバッ・・・・!
俺、見られてるような・・・・。”

Sさんは、被害者と目が合ったような気がしました。
でも、

” いや、気を失っているし、気のせいか・・。”

とも思いました。
 その後も、倒れたままの被害者に平手打ちをするわ、無理やり口をこじ開けて水か酒を飲ませようとするわで、

” こりゃ、黙ってれば助かるかもしれないものを、こいつらが殺してるよな。”

と思ったそうです。
ま、現地人は善意でやってたんでしょうけども。
 そのうちに派手なマークの入った救急車が来ました。
が、救急隊員が降りてくる前に加害者の男が駆け寄って、運転席に向かって何やら言い、救急車は引き返しちゃったんです。
 これは、その救急車はおそらく目撃してた通行人が呼んだもので、私設のというか、大病院に付属してて、契約者しか助けにこないやつ。
つまり有料だし、車体に入ったマークの高級病院に搬送されることになります。
加害者の男はそれを嫌って返したんでしょう。
 それから10分ほど見ていても、警察も公営の救急車も到着せず、その間、被害者はまったく動かず、加害者は見下ろしながら煙草を吸い出しました。

” これはアカンだろうな・・・。”

さすがに胸くそが悪くなってきて、Sさんはそこの屋台を離れて、もう一つ奥の通りに入って飲み直しました。







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日々の恐怖 8月11日 輸入雑貨の卸業(1)

2022-08-11 19:40:57 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 8月11日 輸入雑貨の卸業(1)





 これは自分の知人で、輸入雑貨の卸をしているSさんから聞いた話で、ほぼ実話というか、聞いたとおりの内容です。
触れないほうがいいかとも思ったんですが、Sさんのひととなりを説明すると、若いころは、あるところの正式な組員になってまして、懲役、刑務所暮らしも経験しています。
今はカタギなんですけど、日本ではカラシ色のスーツに雪駄、金縁眼鏡で、金のブレスをつけてます。
 ところが仕事で東南アジアに行ったときには、地味な、どっから見ても現地の貧乏人という格好で、髪も脂ぎった黒に染めなおして、すっかりまぎれ込んでしまってるんです。
学歴とかはわかりませんが、東南アジアの現地語を数か国語、日常会話程度できます。
自分とはインドネシアで知り合ったんです。
 某国でのことです。
午後からSさんは屋台に出かけ、イスでココナッツミルクをアルコールで割ったものを飲んでいると、通りでドガーンという音がして、ふり向いて見ると、通行人が宙に舞っていました。
せまい通りを無茶なスピードで飛ばしてきた車に轢かれたんですね。
 その人は布のアーケドの上で一回バウンドし、さらに地面に落ちて激しく転がり、やっと回転が止まってうつ伏せのままになりました。
血は流れていなかったんですが、ピクリとも動きません。
30代くらいの男でした。
 轢き逃げではなく、車は停まって(トヨタだったそうです)小金持ちそうなやつが降りてきましたが、被害者を介抱するなどのそぶりはまったく見せず、壁にもたれて携帯で話し始めました。
で、動き出したのは屋台村のSさんのそばで飲んでいたやつらです。










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日々の恐怖 8月3日 八重咲きの桜(2)

2022-08-03 21:41:15 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 8月3日 八重咲きの桜(2)




 ぎょっとした祖父が近づこうとすると、祖母の隣にすうっと人影が浮かび上がった。
若い男だったという。
 涼やかな目元の美男子だった。
それが、まるで恋人のように祖母の傍らに立ち、そしてすうっとその下腹部を撫でた。
 祖父は、その男が人間ではないと直感したらしい。
その上で、自分の嫁に馴れ馴れしく触ったことに激怒した。
同時に、なにかおかしなことをされたのではと恐怖した。
 怒鳴り付けて庭に降りると、男は現れた時と同様に、すうっと消えた。
後に残されたのは、ぽかんとした顔で立ち尽くす祖母だけだった。

「 大丈夫か!」

と聞くと、祖母はなぜ自分は庭にいるのかと祖父に聞いたそうだ。
 祖母は布団から出た覚えもなく、庭に降りた記憶もなかった。
気がついたら庭にいたのだという。
 祖父が今しがた見たものを説明しようとすると、祖母は突然、腹痛を訴えた。
下腹部を押さえてしゃがみこみ、痛い痛いと訴えた。
 祖父は慌てて祖母を部屋まで連れていき、寝かせたそうだ。
もっとも、痛みはごく短時間で、部屋に戻った頃にはほとんど治まっていたという。
 騒ぎを聞き付けた曾祖父母が起きてきて、医者を呼んだりしているうちに、祖父は自分が目撃したものを話すタイミングを見失った。
祖母の身体に異常がなかったこともあり、そのまま話すことなく現在に至る。

「 それで、なんでばあちゃんが桜を産んだなんて話になるんだ?」
「 桜が咲いてるのを見つけたのが、その翌年の春だったんだよ。」
「 それだけ?」
「 いんや。
あの晩、母ちゃんが立ってたのが、今、桜がある場所なんだ。」

 祖父はあの夜、祖母が桜を産み落としたと考えていた。
産み落とした桜の成長した姿が、今ある桜の木なのではないか。
祖母が訴えた腹痛は、陣痛だったのではないか。
あの男は、祖母の腹に桜を宿したのではないか。
そんな風に、考えていたそうだ。

「 つまり、庭の桜は君の伯父ってことになるのか?」

話を聞き終えた私のしょうもない冗談に、友人は大真面目な顔で、

「 伯母かもしれないだろ。」

と答えた。









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