大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 6月29日 寂れた旅館(2)

2021-06-29 11:06:48 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 6月29日 寂れた旅館(2)




 小走りで本館に戻って、女将に動力回路が漏電しているから、やはり配電盤を見る必要がある事を伝えた。
先の回答通り、配電盤の場所は分からないとの事だった。
 漏電の測定値が非常に大きかったので最悪、火災の可能性があると判断した私は、女将に旅館内を回って配電盤を探してもいいですかと訊ねた。
 すると女将は、

「 いいですよ。
でも、別館の方には行かないで下さいね。」

との回答が返ってきた。
 旅館は誰一人として客が居ないから、廊下に灯りもついてなくて時間も時間だし、かなり暗かった。
 配電盤を探して旅館内を彷徨っていると、大きな扉があった。
開けてみると、そこは本館と別館を繋ぐ渡り廊下だった。
渡り廊下をちょっと進むとまた大きな扉、と言うか磁石でくっ付く仕切りがあって、その仕切りは南京錠2つで強固に閉ざされていた。
 仕切りは微妙に隙間が開いていて、冷たい風がこちらに吹いているのが分かった。
私は配電盤がないのを確認したので戻ることにした。
女将が言っていた別館の方には行かないでと言うこともあり、早めに立ち去ろうと別館に背を向けたとき、先ほどの視線を感じた。
 私はすぐに渡り廊下を出た。
情けない話しだけれど、その時の私はもう怖くて祈るような気持ちで配電盤を探していた。
 結局、動力回路の配電盤は、本館の地下に行くための階段を降りた先にあった。
そこも薄暗くて怖かったけれど、もう勝手に電気をつけて点検する事にした。
とにかく、明るくしないとやばいと思っていた。
 配電盤の点検の結果、動力回路の漏電箇所は別館動力(回路名)だと判明した。
この別館動力回路は、別館に動力用の電気を送っている回路なので、当然別館にも配電盤があるのだ。
 つまり、別館に有るであろう動力配電盤を点検しなければならない。
私は女将に、別館の配電盤が漏電しているので見せていただけないかと交渉した。









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日々の恐怖 6月26日 寂れた旅館(1)

2021-06-26 14:23:52 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 6月26日 寂れた旅館(1)




 低圧の電気設備の点検で、山の中にある寂れた旅館に行った。
その旅館に着いたのが16時ちょい過ぎで、時間的にも最後のお客さんで、終わったら引き上げようと思っていた。
 そのときの季節は夏だったんだけど、山の中ってこともあって、あたりは薄暗かった。
訪ねると女将らしき人が出てきてくれたので、業務内容を説明して了解を得て点検を始めた。
 その旅館は結構広くて、女将に配電盤の場所を訊ねたんだけど、女将は設備に疎いらしく分からないという答えが返ってきた。
当然、私も広すぎて分からないので、まず外に付いてる電気メーターのところで漏電を測定する事にした。
 電気メーターを探して外を歩いてたら、旅館は二つに別れてるのが分かった。
所謂、別館ってやつだ。
 電気メーターを見つけるのも一苦労で、やっとのことでメーターを見つけた。
メーターは別館の壁に付いていた。
壁に付いてると言っても、ぱっと見は分からなくて、扉を開けると見える感じ。
その扉を開けた時、サーッと冷たい風が吹いた。
 なんとなく、

” イヤだなぁ・・・・。”

と思って、さっさと漏電の測定だけして戻ろうと考えていた。
漏電の測定をやってみたら電灯回路は異常なかったけど、動力回路は漏電しているみたいだった。
 扉を閉めて本館の方に戻ろうと別館を背にしたとき、視線と言っていいのだろうかなんか見られてる感じがして振り返った。
でも、振り返った先には特に何かがいるわけではなかった。
 ただ別館をよく見てみると、ガラスが割れたり壁が剥がれているのを確認できた。
正直使用している感じではなかった。











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日々の恐怖 6月22日 食糧(2)

2021-06-22 13:35:03 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 6月22日 食糧(2)




 次のアパートも古かったけど駅からわりと近くて快適だった。
ワンルームは変わらず、でもトイレも風呂もあった。
彼女は相変わらず出来なかった。
 1ヵ月くらい住み続けていた頃、またしても不思議な事があった。
冷蔵庫に身に覚えのない食糧がある。
食パン、牛乳、タマゴなどの何気ない物だ。
 前回のこともあるし、怖くなってまた管理人に連絡した。
しかし、今回は二重貸しではないらしい。
管理人も盗られた物は無いかなど色々相談にのってくれたが、何も盗られていないし様子をみるという感じで話は終わった。
 それから特に何も無く、

” もしかして自分の勘違いだったかな・・・・?”

と思い始めてきた。
 夏休みになり2週間くらい実家へ帰省した。
そしてアパートに戻った時、自分の勘違いではないと確信した。
またタマゴが冷蔵庫に入っていて、その製造月日が俺が留守にしている時と重なっていたからだ。
 これは誰かが俺の部屋に入っている、間違いない、と思い近くの交番へ駆け込んだ。
警官は俺の話を真剣に聞いてくれたけど、住所氏名などを書かせ、報告しておきますと言うだけで帰された。
 今みたいにスマホもないし近くに公衆電話も無く、友人に助けを求める事も出来ず。
部屋の窓の鍵を確認し玄関のチェーンをしっかり掛けて、その日は寝た。
 次の日、大学でその話をすると、

「 あしながおじさんじゃない?」

みたいに言われ相手にされなかったが、俺が真剣に話し続けているのをみて、

「 本当の話なのか?」

と信じてくれた。
そして、わりと近所に住んでいたAが俺がバイトで不在時に来てくれると言ってくれた。
 Aに留守番を頼んだのは数回だった。
しかし特に何事も無く、誰かが尋ねて来た事も無かったらしい。
 Aはその後、突然大学を辞めてしまい疎遠になった。
何をしているのかも分からない。
 不思議なのは、当時の大学の同級生みんなに聞いても誰もAを覚えていない。
そんなヤツ知らないと言う。
俺のその不思議な話も覚えていないと言う。
 あの時、その話をしたのはAを含めた4人だったが、他のヤツらは全く覚えていないと言う。
冷蔵庫に食糧を入れていたのがAだとは思わないが、俺の中でたまに思い出しては納得出来ない話だ。
 Aが大学を辞めた後、2回は食糧現象があった。
黄緑色のカラーボックスの上に、キャラメルコーンが未開封で置いてあった。
 ずっと不思議に思っていて、自分でも消化しきれずにいた。
変なヤツだと思われるのが嫌で、結婚した今は誰にも話していません。









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日々の恐怖 6月19日 食糧(1)

2021-06-19 12:13:25 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 6月19日 食糧(1)




 今から30年くらい前の大学生の頃の話だ。
当時、ワンルームの古いアパートを借りて住んでいた。
 風呂なしでトイレは共同。
それでも特に困ることなく暮らしていた。
 そこに住み始めて半年くらい経った頃、ある違和感に気づいた。
帰るとやかんにお湯が沸かしてあったり、空っぽの冷蔵庫に食糧が入っていたり、身に覚えの無い出来事が何回も起きるようになった。
 もちろん彼女はいなかったし親が来ている訳でもない。
万年床、汚部屋はそのままだった。
俺はその食糧を食べることもなく、やかんは丁寧に洗って使っていた。
 しかし、またしばらくすると冷蔵庫に食糧が入っている。
さすがに気持ち悪くなり管理人へ相談してみた。
 そこで発覚した。
二重貸しの手違いだった。
俺と同じくらいの年齢の大学生の男性らしい。
 その時は原因がわかってホッとしたんだけど、よく考えたらその男性と鉢合わせしたことがなかった。
部屋も綺麗になるわけでも汚れるわけでもない。
ただ、お湯が沸かしてあったことと冷蔵庫の食糧だけだ。
 管理人に平謝りされ重なっていたのは数週間だからと説得された気がする。
少しだけど謝礼金も貰った。
その後、相手の男性は別のアパートに行きましたと言われた。
 たとえ数週間だとしても1度も会わず、少なくとも自分は置いてある家具や洋服などは、全て自分の物だったので変に思わなかったが、相手側にしてみれば、家具付アパートにしては変だと思うはずだ。
訳も分からず、数ヶ月後くらいにそのアパートは引っ越した。









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日々の恐怖 6月17日 流星群

2021-06-17 21:31:39 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 6月17日 流星群




 警察官で思い出した話がひとつある。
趣味で天体観測のサークルに入っているんだが、内容の性質上、活動は日が暮れてから深夜、明け方になる。
しかも、より光の少ない闇を求めて、月のない夜にわざわざ人気のない山の展望台に出掛けたりする。
 ある夜、皆でかなり田舎の山頂の駐車場まで登った。
たしか流星群かなにか天体イベントのある夜だったと記憶している。
 すでに観測マニアの車が数台停まっていた。
夜も更け、車は1台減り、2台減り、日付が変わってしばらくしたら、我々の車以外に1台を残すのみとなった。
 何台かある間は気にしなかったが、その車、明らかにおかしい。
車から降りて観測するでもなく、なんというか、人の気配がしない。
よく見ると、夜露に濡れたあとに葉っぱなどへばりついて、乗り捨てられて何日も経っているような雰囲気なのだ。
 こんなところに車を置いて、中の人はどこへ?
イオンの駐車場ならいざ知らず、乗り合わせて別の車で山を降りたとも考えにくい。
想像を掻き立てられ、我々は星どころではなくなった。
 我々の仲間のひとりに刑事さんがいる。

「 通報したほうがいいでしょうね?」

と尋ねると、彼は、

「 確認してからでいいでしょう。」

と言い、スマホのライトを点けて躊躇なく車へ近づいていった。
 一通り検分し、どこかへ電話を掛けて戻ってくると、

「 緊急ではないので大丈夫です。
朝になったら来てもらうよう、連絡しておきました。」

我々は安心し、何より闇のなかを普通にあの車に近付いて、中を覗きこめる度胸に感心した。
 そして観測を楽しんで下山したのだが、何ヵ月も経ってから、例の山頂の駐車場で車中で練炭を焚いて自殺した人の話を聞いた。
流星群を見に来た人が通報してきたそうだ。
あの車の中にいたんだ。









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日々の恐怖 6月15日 おっかねえ神様(3) 

2021-06-15 13:04:06 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 6月15日 おっかねえ神様(3) 




 翌日、私は近所に住む婆さんを訪ねた。

「 なあ婆さん、犬の死ぬ道ってあるじゃん。
あそこって、なんで犬が死ぬんだ?」
「 あっこにゃ、犬嫌いな神様がおるっち話だで。」
「 神様?」
「 お社はないけんどな、ほれ、覚えとらんか?
曲がりっ角のとこに、岩があるで。」

言われてみれば、そんな気もする。

「 あれが、神様?」
「 ありゃ御神体よ。
人が住む前からあっこにあって、あっから動かんっち話だ。」
「 動かんって、なんで?」
「 あっこがお気に入りっちことだでな。
動かそうとすると、決まって悪いことが起きる。
屋根も嫌いらしくてな。
祠を作ったら、雷落ちてぶっ壊れたって話だで。」
「 おっかねえな。」
「 神様なんて、本当はみ~んな、おっかねえもんだで。
優しいだけの神様なんぞおらん。
優しい神様は、おんなじくらい、おっかねえ神様だでな。」
「 そうだったか・・・。
ところで、なんでその神様、犬が嫌いなんだ?」
「 むか~し、ションベンかけられてから嫌いなったち話だで。」
「 ・・・・・・・・。」

 確かに小便をかけられたのは、不愉快だったろう。
犬も嫌いになるだろう。
 でもだからって、無関係な、ただ通りすぎただけの犬までたたり殺すのは、ちょっと理不尽じゃないだろうか。
そんなことを思った。
 そして、同時に思う。

” もしも人間が同じことをしたら、神様は人間も嫌いになるだろう。
そうなったら、あの道は・・・・・。”

そこまで想像して、怖くなった。
 ところで件の夫婦だが、あの後も集落で暮らし続けている。
当時はしばらくペットロスで塞ぎこんでいたそうだが、翌年、縁あって新しい犬を引き取ってから、徐々に回復していった。
 その犬は長く生き、何年か前に老衰で死んだ。
犬の死ぬ道とは無関係に、天寿を全うしたそうだ。









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日々の恐怖 6月12日 おっかねえ神様(2) 

2021-06-12 18:54:59 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 6月12日 おっかねえ神様(2) 




 次に帰省したのは年末だった。
その時、母から嫌な話を聞いた。
 件の若夫婦は犬を飼っていたらしい。
移住前から飼っていた犬で、マルチーズかなにかの小型犬だった。
その犬が、死んだという。
 まだ四歳だったというから、元気の盛りだったろうに。
夫婦はずいぶん落ち込んでいるそうだ。

「 なんで死んじゃったんだ?事故?」
「 それがね、例の犬の死ぬ道を通ったらしいんよ。」

 犬の死ぬ道というのは、集落の近くにある、なんの変哲もない道だ。
リンゴ畑の真ん中を突っ切る、ありふれた農道である。
 徒歩二十分のところにある商店に行くのに便利なので、私も何度も使っているが、実に牧歌的な場所だ。
広いリンゴ畑と、その先に見える青い山々、晴れた日など、歩いていると気分のいい場所である。
 ただ、そこは昔から犬の死ぬ道といわれて、犬を飼っている人には避けられている道だった。
その道を犬が通ると、決まって翌朝には犬が死んでいる、そういう道だった。
犬死にの道、などと呼ぶ人もいる。

「 誰も教えてなかったんか?」
「 そんな意地悪せんよ。
ちゃんと言ってあった。」
「 んじゃ、信じなかったんかな?」
「 じゃないかねえ・・・・。
都会の人からしたら、しょうもない話に思えたのかもしれんね。
可愛いワンちゃんだったのにねえ・・・・。」

と、犬好きの母は残念そうに言った。







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日々の恐怖 6月10日 おっかねえ神様(1) 

2021-06-10 11:23:57 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 6月10日 おっかねえ神様(1) 




 大学生一年生の頃だ。
夏休みに帰省すると、道で見知らぬ若い夫婦と会った。
 田舎生まれの人ならわかるだろうが、人の少ない集落では誰もが顔見知りである。
だから余所から来た人はすぐにわかる。
 特に若い人は珍しいから、なおさらである。
私もその例に漏れず、見知らぬ夫婦が余所から来た人なのはすぐにわかった。
旅行客が来るような場所ではないし、迷子らしくもない。

「 まさか移住者か・・・・?」

と一緒にいた妹に聞くと、

「 そうだ。」

という。

「 先月から住みだした人だよ。」
「 へえ・・、こんなクソ田舎に移住とは、酔狂な人だな。」
「 移住っていうか、奥さんのほうの実家があるんだって。」

聞けばその奥さん、私もよく知る爺さんの孫にあたる人らしい。
 その爺さんはもう何年も前に亡くなっていたのだが、家だけはずっと残っていた。
夫婦は、そこに引っ越してきたという。
 奥さん自身はこちらの出身ではないが、子供のころから何度も訪れていて、田舎暮らしに憧れていたのだそうな。
 その時は、

「 へえ・・・・・。」

と思っただけだった。








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日々の恐怖 6月5日 沈丁花(5)

2021-06-05 16:39:38 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 6月5日 沈丁花(5)





 先ほどの祖母の話では、子どもたちの母親が毎年新調しているはずなのですが、目の前にあるそれらは、もう何年も取り替えられていないことが明白でした。
色褪せ、汚れ、あちこち擦り切れています。

「 それなぁ、何年か前に、おかあさん亡くなったんやっち。」
「 それなら、誰かが作り直してあげんと。」
「 いや、それがな。」

そこで、祖母はなぜか小さく笑いました。

「 近所ん人もばあちゃんも、みんな新しいのを作っちあげたんで。
ところが、作っても作っても、気に入らんとお堂の外に放り出されるの。
やっぱり、おかあさんが作ったものがいいんやなぁ。
いくつになっても、子は子、親は親なんやなぁ。」

みんなにお参りされるお地蔵さんの子どもっぽい一面に、私も祖母につられて笑ったのでした。
 あれから、20年近くが経ちます。
沈丁花の香りを嗅ぐと、今でもあのときの祖母との会話を思い出します。
 実はあのとき、訊き損ねたことがありました。
幼い頃の記憶の中で、見知らぬ子どもは3人いたのです。
ふたりはお地蔵さんだとして、男か女かも思い出せないもうひとりは、誰なのでしょう。
 後年になって改めて祖母にそれを尋ねると、

「 よう覚えちょってくれたなぁ。」

となぜか嬉しそうに笑うだけで、教えてはくれませんでした。
 ですが、ポツリと一言、

「 あんたに、そう遠くはない人よ。」

と、意味深に呟きました。
 祖母の言葉の意味は、当時はともかく今となっては想像に難くありません。
ですが祖母は亡くなり、真実はわからずじまいです。
きっと、無理に暴く必要もないのでしょう。
 あのお堂は今もあり、誰がお参りしているのか、お花もお菓子もいつも新しくお供えされています。
色褪せた頭巾とよだれかけは、不思議なことに20年前と変わらないままです。
お地蔵さんたちは、どうしてもそれを手放したくないのかもしれません。
散歩中、ついついそこを素通りしてしまう私は、いつも一緒に歩く息子に、

「 ダメ!」

と叱られます。
そして、子どもに倣ってお堂の前で手を合わせます。
沈丁花の香りの中で一緒に遊んだ、懐かしい友だちを思い出します。









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日々の恐怖 6月2日 沈丁花(4)

2021-06-02 15:38:32 | B,日々の恐怖



 日々の恐怖 6月2日 沈丁花(4)




 事故から十数年が経った頃、例の池は埋め立てられました。
近くに、事故の危険のない地下防火水槽が設置されたのです。
 それまでも、池の周りには柵が巡らされ、子どもが間違って落ちることがないよう対策がされていました。
それでも、池がなくなったことで安心したのか、亡くなった子どもたちの両親はそのすぐ後に家を離れました。
亡くなった子どもたちの兄にあたる長兄から、かねてより都会に出てきて一緒に住もうと誘われていたそうです。
 出て行く際、母親が言いました。

「 このお地蔵さまたちは、もう私の息子ではなく、みなさんにお祀りされて本当のお地蔵さまになった。
連れて行くことはとてもできないが、どうか、毎年頭巾とよだれかけだけは、私に新調させてください。」

その言葉通り、毎年年末になるとお堂の近所の家宛に、手作りの赤い頭巾とよだれかけが届くようになったそうです。

「 このお地蔵さんが、そんなやなんて、知らんかった。」

私は祖母の話にポツリと呟きました。

「 昔は、ようお地蔵さんと子どもたちは一緒に遊びよったんよ。
あんたたちもそうやし、あんたたちのお父さんたちもな。
今はもうすっかりそんなの見らんごとなってしもうたけど。
あんたが覚えちょって、ばあちゃんびっくりしたわ。」

祖母はそう言って、

「 今はもう、このお地蔵さんに参る人も減ったけんなぁ。」

とため息をつきました。

「 でも、むかぁしは、子どもはよう死ぬもんやったんよ。
事故や怪我や病気なんかで、すぐにな。
お腹の中でよう育たん子も多かった。」

祖母は、お供えされた花の向きを整えながら、独り言のように言いました。

「 今のごと、お参りせんでも子どもが健やかに育っちくれることは、いいことやねぇ。」

いいこと、と言いながらも、祖母の顔は少し寂しげで、それを見なかったふりをしようと私は話題を変えました。

「 ところで、この頭巾とよだれかけ、かなり色褪せちょんやん。
新しいの、来よらんの?」








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