大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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A,日々の出来事

☆( 1年間366日分の日々の出来事  )

B,日々の恐怖

☆( 日々の恐怖 )

C,奇妙小説

☆(  しづめばこ P574 )                          

日々の恐怖 6月30日 兄貴の友人

2014-06-30 19:20:44 | B,日々の恐怖



    日々の恐怖 6月30日 兄貴の友人



 7年前、年が3つ上の兄貴が大学に通っていた頃に聞いた話です。
兄貴は大学の理工学部なんだけど、よくオカルト好きな友人を家に招いては、霊や超常現象の話題で盛り上がっていた。
科学的な観点から、霊や超常現象の正体は何かと、酒を飲みながら結構真剣に話していたのを覚えている。
 兄貴が大学4年になったあたりから、そのオカルト好きな友達がぱったりと家に来なくなった。
なんでも、病気になったらしくて、大学も辞めて入院しているらしい。
 それから数カ月経ち、俺は兄貴のオカルト好きな友人のこともすっかり忘れていたある日のこと、兄貴がふと思い出したように、その友達の話を始めた。

「 そういえば、久しぶりに、あいつが俺の家に来たよ。」

内容はこうだ。
 その友達はガンだったらしく、余命半年と宣告をうけ、しばらくの間病院で治療を続けていたが、最近は自宅療養になった。
久しぶりに会う友人は、抗がん剤のせいなのかひどくやつれ、髪も眉毛もなく、身体も青白くやせ細っていたが、やけに目だけは生き生きとしていた。
 久しぶりに会ったというのに、その友人は挨拶も早々に、

「 実は話したいことがあるだよ!」

と、嬉しそうに話し始めた。

「 この世は、永遠に回り続けるビデオテープみたいなものなんだ!
そして常に録画されていて、常にそのテープには、今という瞬間を過去の上から重ね録りされているんだよ!」

兄貴は意味が分からず、唖然とするしかなかった。
友人はそれを気にすることなく話を続けた。

「 テープが一回りする周期が、どのくらいかはわからない。
1年か1カ月か1週間か。
もしかすると1時間、1秒かもしれない。」

なんとなく兄貴も、その話に興味を持ちはじめた。

「 人間の身体は、微弱な電気で動いているのはお前もすでに知っているだろ?
普段は微弱だけど、精神的、心理的に何か強い思いが・・・。
つまり・・・、喜びや悲しみ、後悔や無念、怒りや憎しみ。
その感情が強ければ強いほど、微弱だった電気が強力な何かになり、時にはその何かが、場所や空間に感情の痕跡を残すことがあるんだ。
 感情の痕跡が深く刻まれると、先に話した重ね録りをしても消えないんだよ。
ほら、たまに重ね録りしたビデオテープ再生したら、前の映像がうっすら映ってたり音が残ってたりするだろ?
それだったんだ!
霊や超常現象の正体は!
魂や怨念なんかじゃないんだ!
ただの痕跡なんだよ!
おい○○(兄貴の名前)!わかるよな!」

突然感情的になった友人に、兄貴は話の整理ができないまま、うんうんとうなずくことしかできなかった。
 その瞬間、

「 おぉぉぉぉぉ!解明できたぞ!うおぉぉぉ!」

友人はいきなり立ち上がり、歓喜のような雄たけびあげた。
まるで試合に勝ったボクサーのように、拳を天に突き上げていた。
 あまりに突然の友人の変貌ぶりと行動に、兄貴はその場から動くことができず、なぜか笑ってしまった。
その様子を見た友人は涙を流し一言、

「 ありがとな。」

笑顔でそう言って、帰って行ったそうだ。
 兄貴は話し終えるとハハッと笑いながら、

「 変な奴だよな。
元理工学部のくせに、言ってることが科学的じゃない。
言い回しがそれっぽいってだけで、言ってること目茶苦茶。
だけど不思議なことに、あいつがしゃべったこと一語一句覚えてるんだよ。」

その後、その友人は病院のベットで静かに亡くなったそうだ。
 兄貴は、それからしばらくしてから、ときどき自分の部屋で、亡くなった友人の姿を見るようになった。
あの時のように、歓喜の雄たけびをあげ、拳を天に突き上げているらしい。











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日々の恐怖 6月29日 おじさん

2014-06-29 19:02:43 | B,日々の恐怖



   日々の恐怖 6月29日 おじさん



 俺が小学2年生の時の話だ。
ある日、熱が出て学校を早退してきた俺。
学校と家が近い、父は仕事、母は出かけていた為、歩いて帰って来た。
 二階の部屋で寝ていると、一階から物音が聞こえた。
母ちゃんが帰って来たのかなと思って一階に行ってみると、隣の家のおじさんがいた。
手には包丁持ってて、昼間に家にいる俺を見てびっくりしてた。
それで、「おじさんがいたこと、内緒にしてくれるやんな?」って言ってきて、包丁に釘付けな俺は、むちゃくちゃ怖くてうんうんと頷いた。
親に言いたかったけど、殺されるかもしれないと思って言えなかった。
 それから月に一回、おじさんが沢山のお菓子を持ってくるようになった。
笑顔で「これ、食べや」って渡してくるおじさん。
なんでお菓子を持ってくるのかわかんなかったけど、おじさんの笑顔が怖くて、毎回硬直して受け取ってた。
母は「この子、恥ずかしがり屋で……。」って笑ってた。

 その後、数年経って、おじさんが亡くなった。
そのとき、やっと自由になったと思った。
 この前、村の呑み会の昔話で、おじさんのことを耳にした。

・おじさんは競馬やパチンコが大好きな人だった。
・おじさんはアル中で、よくいろんな家の酒を呑みに出没していた。
・おじさんが亡くなってから、多発していた窃盗事件がぱったりとなくなった。

未だに、あの時のおじさんの顔と包丁がトラウマになっている。











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しづめばこ 6月29日 P315

2014-06-29 19:02:19 | C,しづめばこ
しづめばこ 6月29日 P315  、大峰正楓の小説部屋で再開しました。


小説“しづめばこ”は読み易いようにbook形式になっています。
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小説“しづめばこ”



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日々の恐怖 6月28日 楽園

2014-06-28 19:57:12 | B,日々の恐怖




    日々の恐怖 6月28日 楽園




 ちょっと化け物たちの楽園の話になってしまうんだけど、昔よく週末になると新宿二丁目に飲みに行っていた頃の話です。
先に書いておくけどオネエとか言われる人種は“二丁目に捨てる者なし”と言われるくらいガリやデブ、イケメンやブサイク、善良や性悪、棺桶に片足突っ込んだ老人や、今となっては犯罪レベルの低年齢まで、どんな人間でも必ず一人は好いてくるのがいるという不思議な土地で、冗談抜きで“タイプだったら幽霊でもいいわぁ”とか言う人間の集まりという感じで、少々の心霊現象には動じない連中ばかりだった。

 ある時、そんな新宿二丁目で“あの店は行かない方がいい”という話を聞いた。
そんなのは日常茶飯事なので、どうせまた言い出した奴にとって店員が気に食わないとか、どこそこ関係の人間が出した店だとか、そういった話なのかと思って、いつものように、

「 今度はどうしたの?」

って聞くと、

「 ・・・出るのよ。」

としか言わなかった
それで、他の集まってた子たちに、

「 行って見てみようか?」

と聞くと、どうも全員すでに見ていて二度と見たくないと言い出した
 この時点で目の前で飛び降り自殺を見ようが、誰も出入りしないでドア付近に誰もいないのに勝手にドアが開こうが、真っ黒い顔付近を覗いても一切顔が見えない変な人が来て酒を飲もうが、マツコやミッツやIKKOを見ても動じもしない連中なのに変だと思ったので、そこまで行きたがらない店というのも珍しいから一人で行ってみようと思った。

 その店は同じビルに有名な店も入っていて立地は悪くないのに、同じ階の別の店とは違ってドアからすでに辛気臭さが滲んでいた。
 ドアを開けて、まずビックリした。
何故なら部屋の片隅、天井と三角になっている部分に髪を長く垂らした目の下にクマのようなメイクを施した、青白い顔のヴィジュアル系のマネキンのような物が置いてあったからだ。
中の店員は俺がドアを開けたのを見てドアの外以上の辛気臭さで、

「 いらっしゃい・・・・。」

と消え入るように言った
 その店員は何でも2、3日前に急に雇われたらしく、店長(二丁目で言うところのママ)はずっと休んでいるらしい。
 席に腰掛け、部屋の片隅を気にしながらも、他愛も無い話題を続けて店員の機嫌を取った。
彼はいわゆるその手の店員経験があったようで、独りで店を回すのも慣れていたようだった。
 店員も機嫌よく明るく話すようになってきたので、本題を振ってみた。

「 ところで、あの天井の隅に飾ってあるマネキンって何?
噂の幽霊避け?」

ところは答えは思ったよりキツかった

「 いや・・・、あれがそうなんです・・・・。」

ここまで読んでいた人は当然そうだと思ったかもしれないが、実際に見た感想は、あまりにハッキリと見えすぎていて、しかも生気を感じない作り物のようだったので本当にマネキンだと思っていた。
 でも、幽霊なんだし、生気なんか感じなくて当然な訳だ。
飾りの作り物でも悪趣味だと思ったけど、あれが幽霊だと言われれば確かに酒を飲んでもいい気分にはならない。
何と言うか、それ以前によくあった“生前の習慣を何となく死んでも続けている”という可愛げのようなものが全く無く、ただ蜘蛛のように天井の隅に張り付いてこっちを見ていた。
 ここで一応作り物かどうかを確認する為に、店のホウキの柄で突いてみた。
なるほど、確かに本物の幽霊らしく、ハッキリ見えているのに感触が全く無かった。
そこで店員に店を閉める予定が無いのか聞いたら、何でも契約期間が残っていたらしくどうせ金を払ったならという事で営業していたらしい。
こういう金に汚い所はオネエらしいというか、店員を雇ったりとかするのを考えたら損をする事に気付かない抜けた所もオネエらしいというか。
 店員が

「 なんとか、なりませんか・・・?」

と言った。
 そこでとりあえず幽霊には塩という事で塩を貰ってぶっ掛けた。
結果は落ちてきた塩を自分が顔から被って痛い思いをしただけだった。
天に唾を吐くってこういう事かと思った。
 そんな事をしているうちに遅い時間になったので、店員に、

「 噂も広まって客も来ないだろうし、店を閉めたら?」

と促してみた。
店員も同じように思ったようで、

「 そうですね、もう辞めようかと思いました。」

と言って、何となく流れで一緒に別の店に飲みに行く事になった。
 その後はずっと閉店状態となった後に、契約が切れたからか看板も外れていた。
もちろん、新規の店が入るのは、俺が行っていた頃には見ていない。
あのテナントビルは、もちろん今でもあるだろうけど、店は入ったのだろうか?
特に曰くとか何も聞いていなかったのに、あんな幽霊がいつくのは不思議なものだ。












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日々の恐怖 6月27日 友人

2014-06-27 19:04:53 | B,日々の恐怖


   日々の恐怖 6月27日 友人


 ちょっと前にニュースにもなってたんだけど、俺の友人の子供が公園の雲梯で遊んでたんだけど、ランドセル背負ってたので首が挟まって死んだんだ。
 友人は最初会社に勤めながら、出勤前と出勤後に市を批判するビラを配ったり、訴訟の準備とかしてた。
俺も友人があまりにも真剣に語ってくるので、かわいそうに思ってビラ配りを何回か同僚と一緒に手伝ったりもしてた。
 最初は多少興味を持ってくれる人もいたんだけど、日が経つごとに立ち止まる人はいなくなった。
かわいそうだけど、当然のことだと俺は客観的に思ってた。
 これじゃ子供は報われないと、駄目だと、友人は会社を辞めて、一日中妻と一緒にビラ配りを始めた。
友人が会社を辞めてからも、ビラ配りを一緒にして欲しいと何回も電話があった。
 仕事中、深夜も、一日に何回も続いた。
こっちはストレスが積もった。
着信拒否をしたけど、会社への電話は止まらない。
職場の人たちにも同じようなことをしていたらしい。
 着信拒否の設定ができない同僚もいたので、俺は同僚たちと一緒に一回友人と話し合って、電話をやめてもらう様に話し合いに家まで行った。
出てきた友人はひどくやつれていて、表現するならまさに死人のようだった。
 案内された家の中はひどい有様で、たんすは倒れているし、割れた食器が散乱している。
ひどい状態にあっけを取られる中、同僚が今回のことを話した。
 そうすると友人は、今までの死人から豹変した。
妻は大声で泣き出した。
友人の眼は完全に逝っていて、奇声を上げだしたので急いで逃げた。
 同僚の一人が110番入れようとしたけど俺は止めた。
その後は、酒席でたまにその時のことが話題になるくらいで、友人がどうなったかは誰も知らない。
もちろん気になるけど、一生かかわりたくないと思ってる。











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日々の恐怖 6月26日 一人

2014-06-26 18:29:19 | B,日々の恐怖



     日々の恐怖 6月26日 一人



 俺が中学1年の頃の話です。
その頃俺は、某県某市(西の方ね)の団地の4階に、家族4人(両親と弟)で住んでいました。
 団地は街の隅っこの山の上にあったんだけど、この団地が今考えても結構不気味でさ。
ボロいわ、汚いわ、入居者もいないのに棟数だけはやたら多いわで、ぱっと見で廃墟みたい。
敷地が無駄に広い上に、すぐ後ろは山、前は寂しい住宅街だったから、夜中になったらもうゴーストタウン同然なんだよ。
夏休み中も、近所のガキが肝試しに使うような場所。
エヴァンゲリオンの綾波レイの住んでいる所みたい、って言ったら分かる人いるかも。
いないか。
 まあそんな所だから、廃棟の屋上に人影が見えるとか、人魂が漂っているとか、そういう怪談話には事欠かなかったよ。
そういうの、俺は結局一度も見えなかったけど。
 で、俺が変な体験したのは11月の頭。
その日俺は風邪をひいて、学校を休んだ。
熱なんてほとんど無かったはずなんだが、とにかく気分が悪くて、何を食ってもゲロ、何を飲んでもゲロ、って状態だったと思う。
それと、耳鳴りがヤバかった。
 テレビとかで放送禁止用語に被せる「ピー」ってSEがあるけど、あれに良く似たヤツが、耳の奥でちっちゃく鳴り続けている感じ。
後にも先にもあんな耳鳴りは初めてだったから、良く覚えている。
 平日だったから親父とおふくろは仕事、弟は小学校へ行き、一人っきりになった俺も、午前中は黙って寝ていたんだけど。
吐き気と耳鳴り以外に体の変調も無かったし、昼過ぎにはもう退屈して起きちまった。
で、テレビみたり漫画読んだりゲームしたりしながら、時間をつぶしていたんだ。
 変な出来事が起きたのは、4時40分ジャストくらい。時間は多分正確だと思う。
弟がなかなか帰ってこなくて、「遅ぇなぁ」って窓際の時計を見上げた記憶があるから。
 だから、外の天気もはっきり覚えている。
気持ち悪いくらい西陽が眩しかった。
独りきりの夕方って、夜中なんかよりもよっぽど静かなんだよな。
昔の人が逢魔ヶ時って呼んでいたのも分かる気がする、不気味な空気が漂っているというか。
あの時も、早く弟に帰ってきて欲しかったんだと思う。
 そん時俺は、セガサターンのバーチャファイターに興じていたんだけど、突然テレビが、音飛びと同時にノイズまみれになったんだ。
ノイズって普通、画面全体をザァーって覆うと思うんだけど、そん時のノイズはなんか変で、モニターの真ん中から発生して同心円状に広がっていくっていうのかな。
 うまい事言えないんだけど、池に石を投げ込んだら波紋が広がる、って感じに似ていた。
ちょっとしたらノイズは消えるんだけど、しばらくしてまた真ん中が歪む⇒ノイズが外側へ向けて広がっていく、ってのが何度か続いた。
 最初はテレビの故障かなとも思ったんだけど、あんまし規則的に続くもんだから不気味になってきて。
それでテレビ消そうと思ったら、俺が触るより早く突然電源が落ちた。
 もうこの時点で泣きそうになった(と思う)んだけど、電源が落ちた途端に耳鳴りの音が急にデカくなって、思い出して勝手に鳥肌立ってきたんだけど。
耳鳴りの音質が明らかに変わったんだ。
「ピー」っていう高音から、「ブーン」っていう低音に。
 ともかく、子供心にもこりゃヤバいって気がして、テレビから離れようとしたんだ。
そん時、窓の下に何か黒っぽい塊が見えた。
そこは団地と団地の間に挟まれた中庭みたいな所で、小さな公園になっているんだけど、公園の隅っこに1台、真っ黒でバカでかい車が止まっているんだよ。
街宣車にそっくりだったのをハッキリ覚えている。あの軍歌とかゴジラ流しながら爆走しているヤツね。
 ただ、ボディペイントとか日の丸なんかは全く何もなくて、ただ真っ黒なだけ。
それが西陽の中で、捨てられたように佇んでいるんだ。
 で、魅入られたみたいに眺めていると、暫くしてスピーカーから音が流れ出してきたんだ。
流れてきたのは軍歌でもゴジラでも無く、陰気な声だった。
『チチ(父?)は…○○○、ハハ(母?)は…○○○(○は意味不明)』みたいな事をブツブツ呟いていた。
 何度もチチとハハって言葉が聞こえたから、同じフレーズを繰り返していたのかもしれないけれど、なんせ声は小さいし、低くこもっているし、意味は全く分からなかった。
声と連動して耳鳴りも段々大きくなってきて、唸り声みたいになってくるし。
 その後なんだけど、耐えられなくなった俺が泣きながら布団に頭突っこんで、耳塞いで「あー」って怒鳴って、耳鳴りの音を掻き消しながら暫く耐えていたら、やっと弟が帰ってきた。
弟に布団を引っぺがされた瞬間は、心臓が止まるかと思ったけど。
 で、気付いたら耳鳴りは止んでいて、窓の外を見ても街宣車の姿はどこにも無かった。
弟に聞いてみても、ありがちなオチだけど、そんな声も車も知らないって言われた。
以上が俺の経験した中身です。
 俺個人としては、メチャメチャ怖い出来事でした。
結局、あの車が何だったのか分からずじまいですが、今でも街宣車と夕焼けは苦手です。
団地にはもう誰も住んでいませんが、物自体はまだあります。













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日々の恐怖 6月25日 家

2014-06-25 18:41:55 | B,日々の恐怖



    日々の恐怖 6月25日 家



 俺がいたと、昔言われたことがある。
父親や同級生が同じ時間帯に、私を家の近所で見たと言われたが、その時間帯は家で母親の手伝いをしていたから、外に出ていない。
父親も同級生も、声掛けたけど特に何も反応無かったって言ってた。
父親はその日に、同級生は翌日学校に行ってから言われたから、ほんのり怖かった。

 その当時、住んでた家がオカルト満載な家だったのも影響しているかも知れない。
そこは割と大きな一軒家で、前の住人の老人夫妻が住んでいた時に、おばあちゃんが入院中におじいちゃんが亡くなる→死後3日だったか経過した後に見つかった。
これは、近所のおばちゃんから聞いた。
 家で写真撮れば、おじいちゃんの姿が映るとか、あり得ないものばかり映った。
当時の学校の先輩などが写真見たけどビックリして、知り合いの寺に写真を持って行ってくれた。
 室内に真っ黒な招き猫や前の住人の写真が出て来たり、逆さまの何のお札か分からないお札が、あちこちに貼られていた。
 ある日突然、何とも言えない異臭がして、家族揃って異臭の元を探すが見つからず、換気したが異臭が暫く取れなかった。
 家族で外出中に飼い猫が、何故か1匹だけ風呂場で溺死していたことがある。
発見者は自分で、今でもトラウマ状態だ。
その風呂場のドアは閉めてあって、猫が入らないように猫の柵が取り付けてあった。
足も掛けれない形状の柵だったのに。
数年ほど住んだけど、家族仲がおかしくなった。
 引っ越しした後、そこは暫く空き家になって、数年後に取り壊しされた。
そこの家の近所で、じいさんが孫を殺害したって言う事件起きたりしてて、土地的に良いもんでは無かったみたい。
逆さま札を剥がした兄弟が、おかしな人生歩んでるのが後味悪い。












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しづめばこ 6月25日 P314

2014-06-25 18:41:24 | C,しづめばこ
しづめばこ 6月25日 P314  、大峰正楓の小説部屋で再開しました。


小説“しづめばこ”は読み易いようにbook形式になっています。
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小説“しづめばこ”



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日々の恐怖 6月24日 ツレ

2014-06-24 19:01:19 | B,日々の恐怖



    日々の恐怖 6月24日 ツレ



 俺のツレの話なんだけど、いいかな。
金のないツレが駐車場代を浮かす為に、世田谷区の空き地に違法駐車していた。
大晦日午前5時頃から、実家の大阪に車で帰省すべく、荷物をせっせと運んでいた。
 さあこれで三往復目って時に、道の先に若い男を捉えた。
フードをかぶった、片方の手には白くて丸いもの?を持つ男。
ツレは、

“ きっとこの近所の人だ・・・。”

と戦慄。

“ 路駐してることがバレて通報されたらどうしよう・・・。”

 若い男とまもなくすれ違うって距離になった時、互いの目があった。
目が合ったまますれ違った。
ツレは、

「 俺と同じぐらいの身長だった(180cm)、多分自分より若い。」

 元旦、大阪の実家でテレビを見ていると、気になるニュースが流れた。
世田谷一家殺害事件。
なんとツレが違法駐車していた空き地は、被害者宅の目と鼻の先。
あの一軒家の前を通過して、対面の空き地へと抜ける。
 どうしようか散々迷った。

“ 違法駐車がバレてしまうかもしれない・・・。”

でも、お節介気質の方が勝ったのか、警察に連絡した。

「 不審者ではないかもしれないけど、すれ違った男がいた。」

数日後、携帯番号を教えていた警察から電話があり、

「 できればもう少し話しをきかせてくれないか?」

とのことだったので、

「 多分、来週水曜日には東京に戻ると思う」

と伝え、同時に住所も教えた。
 水曜日に戻るはずだったが、実際は月曜日早朝に帰京。
アパートのドアを開け中に入ると、ドアを叩く音。
出ると警察だった。

「 なぜ水曜日ではなく、月曜日に戻ってきたんですか?」

 その日から約半年間、警察がツレをマーク。
ツレはそれが原因で鬱病になってしまった。
もちろんツレが犯人ではないんだけど、ツレが目撃した“片方の手に白くて丸いものを持っていた”という証言が、マークされるきっかけとなったようだ。
 最初の頃に報道されなかった、犯人は手を怪我しており、バスタオルを手に巻いて現場から立ち去った、という情報。
マークされていた人物はツレ曰く、

「 少なくとも最低5人はいたと思う。」

とのこと。

「 すれ違った男は、この中にいるか?」

などの面通しもあったそうだ。












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日々の恐怖 6月23日 白いもの

2014-06-23 20:24:41 | B,日々の恐怖


   日々の恐怖 6月23日 白いもの


 私が学生の時に経験した話です。
その当時の女友達は、ちょっと不思議な人でした。
 弟さんが亡くなっているんですが、彼女の家に遊びに行くと、どこからかマンドリンの音が聞こてくるのです。
すると、

「 あー、またあの子が弾いている。」

と、彼女もお母さんも当たり前のことのように言うのです。
 そのころ私は頻繁に奇妙な夢を見ていました。
彼女に似た丸い顔をした男の子が、十字架に掛かっているという夢でした。
その話をすると彼女は、

「 弟は白血病で死んだので、薬の副作用で顔が丸くなっていた、それは私の弟だ。」

と言って泣くのです。
 そのうち、夜になると私の家でも何かが侵入してくるような気配が感じられるようになり、彼女にお札をもらって、部屋の四隅に張ったりしていました。
でもまだ若かったせいか、そういうことも別段異常なことだとは思わずに日々を過ごしていました。


 大学2回生の夏に鳥取まで遊びに行ったとき、そんなことを言っていられない目に遭いました。
みんなで車に乗り、山を越えるときには夜になっていました。
 山中の夜のドライブというだけで十分恐い気もしていたのですが、山の途中で車がガタガタいいだし、止まってしまいました。

“ え、こんなところで、どうしよう・・・?”

と思ったのもつかの間、彼女が運転席で、

「 誰かを乗せてしまったみたい。」

と言いました。

「 え、うそ?」

と私はパニック状態に陥りました。
 私は助手席に乗っていたのですが、恐くて後ろを見ることができません。

「 どこか行きたいところがあるみたいだから、送ってあげる。」

彼女がそう言ったとたん車がまた動きだし、しばらく走った後ガタガタといって止まりました。

「 ここみたいね。」
「 そんな落ち着いた声で恐いこと言わないでちょうだい。」

という私の言葉も聞かず、彼女は冷静に

「 降りてください。」

と、ドアを開けて言いました。
私はもう、

“ 神様仏様、お願いですから降りてもらってください。”

と念じるだけ。
 必死の願いが通じたのか、車の後部座席から何か白いものが、飛ぶような速さで前方の一角に消えました。
彼女がライトで照らすと、そこにはお地蔵さんがありました。

「 ここに来たかったのね。」

と彼女は言いました。
私はもう何も言えず、とにかく山を越えて、無事目的地に着くことばかりを祈っていました。
 鳥取では砂丘を見て海で泳ぎ、平穏に過ごしました。
帰りは格別恐いこともなく、無事に家に到着しました。
 彼女とはその後、だんだん疎遠になってしまいました。
それ以後、私の夢に彼が現れることもありませんでした。












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日々の恐怖 6月22日 漫画家

2014-06-22 18:10:53 | B,日々の恐怖


    日々の恐怖 6月22日 漫画家


 4年ほど前、某マイナー系の雑誌でそこそこに人気のあった漫画家さんのところに、3日間という約束でアシスタントをしに行ったときの話です。
 引っ越したばかりの、狭いながらも新築で綺麗で清潔そうなマンションで、その漫画家先生も修羅場の割には穏やかだし、先輩のアシスタントも気さくで良い人たちで、とても気持ち良く仕事が出来ました。

 それで、2日目の夜です。
皆で眠い目と脳を熱い日本茶で覚ましつつ、少し休憩していた時のことです。
誰かがその部屋に元からついているという有線をつけ、ちょっと懐かしめの歌が聞こえるチャンネルに合わせました。
 皆疲れているので、無言でそれを聞いていました。
すると、音が大きくなったり、雑音混じりに小さくなったりし始めました。

「 かえって気になって仕事にならないね。」

と漫画家先生が消しに立ち上がった瞬間、

「 てすと。」

と、滑舌の良いはっきりした子供の声がしたんです。
全員、

「 何のこと・・?」

と漫画家先生の方を見ましたが、先生は首を振るだけ。

「 聞こえたよね?」

と誰かが言うと、

「 混線したんじゃない?」

と誰かが答え、先生は有線を消して、皆で仕事に戻りました。
 それから緊張の続く中、1時間ほど作業をしていると、今度は天井の方から、

「 てすと。」

というさっきと同じ声がして、続けざまに、隣に座っていた先輩アシスタントの後ろの壁、私の足元に同じ声が聞こえました。
 それでも手は離せない私達アシは、震える手を無理に押さえて、叫びたいのを我慢して仕事をしていました。
 しばらく間があいて、またあの声が聞こえました。
それと同時に、先生が悲鳴をあげて飛び上がりました。

「 肩に抱きついてる!」

先生は懸命に背中のモノを振り払おうとしましたが、それでもその最中に、

「 てすと。」

という滑舌のいい子供の声が、本当に先生の方から何度も聞こえました。
 生まれて初めてそういうモノを見た私は、ビックリして気を失ってしまったようで、その後の騒動は覚えていません。
 目が覚めたら、他のアシスタント達はなにもなかったように、電話の応対をしていたり、朝食を作ったりしていましたが、先生は寝室から出てきませんでした。
ちなみに私のギャラは、ちゃんと日払いでいただきました。
 ただ、その先生は、その号の原稿を落としただけじゃなく、そのまま連載も休載から打ち切りになり、最近では見かけなくなりました。
その後は、消えた漫画家なんてサイトで時々見かけるぐらいになってしまいました。
あの先生もアシスタントの皆も、あの子供の声から解放されて無事に過ごしていますように祈るばかりです。












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日々の恐怖 6月21日 受験

2014-06-21 19:17:38 | B,日々の恐怖


   日々の恐怖 6月21日 受験


 これは大学の先輩が体験した実話です。
その先輩は沖縄の人で、東京の大学の受験のため上京していた時のこと。
特に東京近郊に知り合いもいなかったので、都内のホテルに一人で宿泊していた。
何校か受験するため、2週間くらいの長期滞在だ。
 そんな中のある日、試験を終えて試験会場からホテルに戻ると、フロントの人に呼び止められた。

「 A様でらっしゃいますよね。」
「 はい、そうですが・・・。」
「 実はA様宛に、他のお客様よりお預かりものがあります。」
「 えっ?誰ですか、それ?」
「 さあ・・・、他の従業員が対応しましたのでわかりかねます。」

 先輩は状況が理解できなかった。
なぜなら実家の親以外に、彼がこのホテルに宿泊していることは誰も知らないはずなのだから。

「 人違いではないですか?」
「 いいえ。お客様はA様ですよね?でしたら間違いございません。
確かにA様宛に、お預かりしたものでございます。」
「 他のAという名前の人ではないでしょうか?」
「 いえ、当ホテルでは現在A様という名前のお客様は、あなた様だけですので。」

 先輩はわけがわからなかったが、とりあえず自分宛だという謎の預かり物であるB5サイズの茶封筒を受け取った。
 部屋に戻って、先輩は中身を開ける前にとりあえず実家に電話してみる。
しかし当然、実家の親はそんなもの知らないと言う。
やっぱり人違いでは・・・先輩はもう一度フロントに言いに行こうとしたが思いとどまった。
 先輩のAという名字は大変珍しい名前であり、その名前で確かに届いていたのだから、他の誰かと間違うはずもない。
ついに、恐る恐るその封筒を開いてみる。
すると中からは、一枚のレポート用紙が出てきた。
 そこにはサインペンで、手書きの地図のようなものが描かれいた。
現在いるホテルから3つ先の駅から道が伸びており、簡略に描かれた道を順にたどって行くと、ある道の傍らに斜線で記された場所があり、そこに矢印がしてあって、その横に『ココ』と小さく書いてある。
 封筒をもう一度のぞくと、中には何やら家の鍵らしきものが一緒に同封されている。
先輩はもう完全にわけがわからない。
同時にものすごく恐くなり、その封筒に中身を戻すと、無理矢理フロントに押し返した。
もちろん、その地図の場所に行ってみようなんて気にはとてもなれない。
 幸いにも受験校は翌々日の1校を残すのみであったが、そのことが頭から離れず、試験にまったく集中できなかったそうだ。
 先輩はその試験を終えると、当初は受験を全て終えた後の骨休めとして、東京見物をするためもう何泊かする予定であったが、それらをキャンセルして、逃げるように沖縄に帰った。
以上です。
 実話だけに、これ以上のオチはありません。
でもその先輩は、いまだにそのことは全くの謎であり、思い出しただけでも恐くなると言っています。










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しづめばこ 6月21日 P313

2014-06-21 19:17:12 | C,しづめばこ
しづめばこ 6月21日 P313  、大峰正楓の小説部屋で再開しました。


小説“しづめばこ”は読み易いようにbook形式になっています。
下記のリンクに入ってください。(FC2小説)

小説“しづめばこ”



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日々の恐怖 6月20日 沖田総司と黒い猫

2014-06-20 19:31:02 | B,日々の恐怖


   日々の恐怖 6月20日 沖田総司と黒い猫


 沖田総司は死ぬ三日程度前、俄にひどく元気になって、お昼頃、突然庭へ出てみたいという。
姉のお光が、新徴組にいる婿の沖田林太郎と一緒に、御支配の庄内へ行った留守で、介抱の老婆がいたが、心配して頻りにとめるけれども、聞かなかった。
 いいお天気の日で、蝉の声が降るようだ。
丈の高い肩幅の広い総司が、白地の単衣を着て、ふらふらと庭へ出る。
すぐ前の植溜の、大きな木の根方に、黒い猫が一匹横向きにしゃがんでいるのを見た。

「 ばぁさん、見たことのない猫だ、嫌な面をしている、この家のかな?」

と訊く、そうじゃなさそうだと答えると、

「 刀を持ってきて下さい、俺ぁあの猫を斬ってみる。」

と言う。
 仕方がないから納屋へ敷きつめの床の枕元に置いてある黒鞘の刀を持って来てやると、柄へ手をかけて、じりじり詰め寄って行く。
もう二尺という時に、今まで知らぬ顔をしていたその猫が、軽ろくこっちをひょいと見返った。
 老婆が見ると、総司の唇は紫色になって、頬から眼のあたりが真紅に充血して、はぁはぁ息をはずませている。
総司は、

「 ばぁさん、斬れないーーーばぁさん斬れないよ。」

といった。
それっきり、如何にもがっかりしたようにひょろひょろと納屋へ戻ってしまった。
 次の日も、またいいお天気。同じ昼頃になって、

「 あの黒い猫は来てるか、ばぁさん?」

と聞いた。
 婆さんが出て行ってみると、不思議な事に、昨日と同じ梅のところに、その黒い猫がまた横向きにしゃがんでいる。
しかし、それをいったら、総司がまた出る、出てはからだに良くないと思ったので、

「 猫はいませんよ。」

と答えた。
総司は一度、

「 そうか。」

といったが、暫くするとまた、

「 ばぁさん、どうも俺ぁあの猫がいそうな気がする、もう一度見てくれ。」

という。
 婆さんが出てみるとどうも不思議だ。
やはり猫はじっとしてそこにいる。
今度は、婆さんもどういううものか居ませんよとは言えなかったので、

「 来ています。」

と言った。

「 そうかーーーやはり、そうだろう。
ばぁさん俺ぁあの猫を斬ってみる。水を一杯くれ。」

納屋の出口へ突っ立って、婆さんの持ってきた水を、ごくごく喉を鳴らして飲んだが、顔を斜めにして眼だけは、じっと、その黒い猫を睨んでいる。
すでに血走って、頬のあたりが、時々びくびく痙攣していた。
 背中を円にして、腰を落として、また小刻みに猫に近寄ったが、やはり二尺位のところで、猫は、昨日と同じに軽ろくこっちを向いた。
その猫の目を、総司はいつまでもいつまでも睨んでいる。
 そして、ものの二十分も経つと、

「 ああ、ばぁさん、俺ぁ斬れない、俺ぁ斬れない。」

と、悲痛な叫びをあげると、前倒るように納屋へ転げ込んで、そこへぐったりと倒れてしまった。
 婆さんの知らせで、すぐに医者を呼んで手当をしたが、総司はそれっきり、うつらうつらと夢を見ているようであった。
 翌日の昼頃眼を閉じたまま、

「 ばぁさん、あの黒い猫は来てるだろうなぁ」

といった。
 これが総司最後の言葉であった。
息を引き取ったのは夕方である。

この話は、介護の老婆から、後に沖田林太郎夫婦に語った実話である。











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日々の恐怖 6月19日 柿の木

2014-06-19 19:25:37 | B,日々の恐怖


  日々の恐怖 6月19日 柿の木


 木守りという風習を御存知でしょうか。
実った木の実を全て取り入れてしまわず、いくつか残す風習は昔からあって、取り入れずに残した実のことを木守りと呼びます。
諸説ありますが、来年もまた沢山の実をつけてくれるように、という願いを込めた行為です。
 これは、私の祖父の姉が子供の頃に体験したお話です。
祖父の家の裏山には、大きな柿の木があります。
その柿は渋柿で、毎年干し柿をたくさん作っています。
祖父の家では、一本の縄に10個ずつ柿を吊るします。それがズラーッと並ぶと壮観です。
良い具合に干された頃に、猿がやってきて盗んで行く事もあるそうです。
毎年、学校から帰ると、お婆ちゃん(祖父の祖母)と姉、弟と一緒に干し柿作りをしていました。
 その年の秋も、裏山の柿の木は鈴生りに実を付けていました。
お婆ちゃんは風邪をこじらせ寝込んでしまっており、祖父と姉が干し柿作りを任されました。
柿の実は父親が取り入れてくれており、皮を剥いて縄に吊るすだけです。
祖父と姉は数日掛かりで作業しました。
 そろそろ終わりに近付いた頃、姉は柿の実の数が足りない事に気がつきました。
柿が7個しかありません。几帳面な姉は、木にいくつか残っていた事を思い出して見に行きました。
ちょうど3個残っています。姉は少し考えたんですが、区切りが良いので取ることにしました。
 家に戻って竹の棒を持ち出し、竹の先の切れ込みに柿の枝を挟んで捻ると簡単に取れます。
3個目の柿を取った時に、「ギャ-ッ」という鳴き声が聞こえたそうです。
驚いて怖くなったんですが、きっと鳥の鳴き声だろうと思い、家に帰りました。
翌日、父親から柿を全部取ったことをきつく叱られたそうです。
 秋も過ぎて山の木の葉も全て落ち、もうじき雪が降り始める頃の事です。
裏の畑に大根を取りに行った姉は、ふっと山の柿の木に違和感を感じました。
柿の実が一つ木になっています。
全部取ったはずなのにおかしいな?と思った姉は、木の近くに見に行きました。
じっと柿を見ると、突然柿が能面のような真っ白い女性の顔に変わり、

「 お前の右足を食べたいねえ。」

と言った途端にポトリと落ち、コロコロ転がってきて、真っ赤な口を開けて、姉の右脛に齧り付きました。
姉は痛みと恐ろしさで、夢中で家に駆け戻りました。
 家に入り足を見ても何もなく、不思議と傷も付いていなかったそうです。
母に話したのですが、気のせいだと笑って聞き流されてしまいました。
 翌日、友達何人かと一緒に学校から帰る途中の事です。
通学路の途中にある桜の木の下に差し掛かった時、
上から「ギャ-ッ」という鳴き声が聞こえたので、パッと目を向けた瞬間、体中動かなくなりました。
 枝に柿が二つぶら下がっています。
柿を見たまま動けないでいると、昨日のように一つが真っ白い女性の顔に変わり、

「 お前の右足は美味かったよ。」

そしてもう一つが白髪の老婆に変わり、

「 私は左足を食べたいねえ。」

と言って二つともポトリと落ち、コロコロ転がってきて、 真っ白い女性の方は姉の右脛に入ってしまい、白髪の老婆の方が、真っ赤な口を開けて姉の左脛に齧り付きました。
痛いと感じた途端に体が動くようになり、左足の老婆も消えていました。
 周りを見ると、友達はポカンとこっちを見ています。
姉が声が聞こえなかったかと聞いても、

「 何も聞こえなかった。」

と言い、 柿がなかったかと聞いても、

「 何もないよ。」

と言います。
それよりも、急に立ち止まったので、お腹でも痛くなったのかと心配したと言います。
 恐ろしくなった姉は急いで家に帰り、お婆ちゃんに昨日、今日の事を泣きながら話しました。
話した後も恐ろしくてたまらないので、布団に入って泣きながら震えていました。
 これはただ事じゃないと思ったお婆ちゃんは、寺の住職に相談に行きましたが、まともに取り合ってもらえませんでした。
他に頼る当てもなく、途方にくれたお婆ちゃんは、その日一睡もせずに仏壇の前で御先祖様に、

「 何とか姉を助けて下さい。」

と繰り返しお願いをしたそうです。
 お婆ちゃんがお祈りしている晩、姉は夢を見ました。
暗闇の中から真っ白な着物を着た男の人が現れ、姉の前に正座して深々とお辞儀をした後、こう言いました。

「 力が及ばず誠に申し訳ない、全部許してはもらえなかった。」

そして、また深々とお辞儀した後、ゆっくりと立ち上がり、また暗闇の中に消えて行きました。
 翌日、目が覚めた後、お婆ちゃんに話をすると、姉を抱きしめて泣き出し、

「 ごめんね、ごめんね、何もしてやれずにごめんね。」

と、姉と一緒に大泣きしたそうです。
 それから、何をするにも姉にお婆ちゃんが付き添いました。
ところが、おかしな事は昨日を最後に全く起こりません。
1ヶ月が過ぎ、2ヶ月が過ぎても何も起こらないので、段々とお婆ちゃんとも離れ、以前の生活に戻りました。
 3年目の夏、お婆ちゃんは肺炎にかかって亡くなりました。
そして秋になり、柿の実が色付いてきた頃、姉は裏で畑仕事の最中に右足で釘を踏み抜いてしまい、その傷が化膿してしまって、右足の膝下を切断しました。
ただ、それ以降は無病息災で何事もなく平和に生活できました。

 その姉も、2007年8月に83才で大往生いたしました。
自宅で寝ている最中に自然と息を引き取ったので、天寿を全う出来たのだと思います。
姉のお婆ちゃんの命日と1日違いなのは、ただの偶然でしょう。
姉の生前の口癖は、

「 私は欲をかいたばっかりに、右足を無くしたんだよ。
御先祖様とお婆ちゃんの力が無かったら、生きていないかもしれない。
お前たちも、足るを知って慎み深く生きなさい。」

私の祖父はもちろん、姉の子供たちも繰り返し聞いた言葉です。
私も自分の心に刻んで、大切に守っていこうと思います。












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