『子供たちにとっての本当の教科書とは何か』 ★学習探偵団の挑戦★

生きているとは学んでいること、環覚と学体力を育てることの大切さ、「今様寺子屋」を実践、フォアグラ受験塾の弊害

夢へのワープ  ②

2015年04月18日 | 学ぶ

人生を実況中継する
 数日後尋ねてきてくれたM君は小柄でナイーブそうで、ぼくが描いていたイメージ通りでした。表情や目の動きを見ても、鋭い感受性をもっていることがすぐ分かりました。

 ひとつ想像とちがったのは(「よい方に」ですが)、「ちゃんと『しつけをされて』育った「話の分かる子」だ」という手応えでした。「ゲームセンター通い」ということばから、もう少し鬱屈した面があるのではないかと危惧していたのです。
 そうであれば話は早い。軌道修正するには大きなアドバンテージにです。
 彼に「伝えること」。後悔していること、残念に思っていること・・・「人生の実況中継」が可能です。「幸せなことに?!」ぼくの場合、失敗例は山ほどあります。

 真実を伝えよう。感じていること、考えていることを正直に伝えよう。彼がちがう意見をもっていれば、「反面教師」にしてくれればよい。曲がりなりにも、一生懸命生きていることは感じてくれるはずだ。
 そして「生きていくこと」にまつわる「うれしいこと」「悲しいこと」「腹立たしいこと」・・・これらも日々押し寄せてきます。長い時間一緒にいれば、「それらと格闘する現状」を話すことで、「人生について考える機会」がふえ、「生きている時間のたいせつさ・かけがえのなさ」を感じてくれるだろう。(積み上げた学習経験はほとんどない。いわば0からのスタートですから、ぼくは「最高にうまくいって一年、順調で二年」と考えていました。)

 それらがわかったら、前を向いて歩くことが始まる。独り立ちできる。方向は決まりました。
 「日曜日以外、毎日来てくれていいよ。無理をすることはないが、学校に来るつもりで。一年間でクリアするつもりでやろう。現状を考えると、それくらいの勉強時間は必要になる。子どもたちとの課外学習も一緒に行こう。ぼくも助かるし…」。M君の指導はそこから始まりました。
OBのモチベーション
 以前紹介した『家庭教師をクビになった』T君曰く。
 「先生の話が、勉強するための、よいモチベーションになってくれました・・・」。
 
 また、今度紹介する機会もあると思いますが、やはり京大を卒業したK君も、みずからのモチベーションになったエピソードを話してくれたことがあります。そのK君のことも少し。
 「母を尋ねて三千里!」と、彼をよく茶化しますが、彼ほど純粋で優しい男の子に出会ったことはありません。ご両親がよくけんかをする(した)ので、お母さんが家出をして「北陸の海岸」に行き、「最後」のつもりで彼に電話をかけました。
 お母さん(どんな意味でも、子どものような人です)を説得し、彼は会いに行くまで待っていてくれるよう必死で引き止めます。決して裕福ではない中でためていた「お年玉」の入った貯金箱を叩き割り、小銭をいっぱいポケットに入れて、待っているお母さんのもとに「鈍行」を乗継ぎ乗り継ぎ、駆けつけ・・・一緒に帰ってきました・・・はにかみながら話してくれた実話です。
 明治や大正のことではありません。平成です。
 
 そのK君に、子どもたちが育てた精米したお米の引き取りを手伝ってもらう道すがら、
 「小学生時代、(ぼくの)話の中で一番印象に残っているのは何?」と聞くと、
 しばらく考え、
 
 「『君たちは仕事から帰ると、毎日ピーナッツや枝豆を食って、ビール飲んで野球中継かバラエティしか見ない人生を一生続けるのか?・・・』と話されたでしょう?  『それも、人生の選択肢の一つかもしれないが、他にも面白いことや、興味が尽きないこと、計り知れない価値のあることがいっぱいあるのに、何十年もそうして過ごすのか?』って・・・。ぼくは、そうなりたくないって思いました・・・ぼくは一生を、もっと大切にしたいって」。
 
 「知的なことにも、どんどん興味をもってもらいたい、君たちは大きな可能性にあふれているから・・・」と一生懸命話したことを思い出しました。ぼく自身の「後悔」からでした。何十年かの、「貴重な時間を無駄にしてしまったこと」を振り返った最大の反省事項でした
 
 京大を卒業して院にも行きたかったK君ですが、両親を養う方を選びました。中古の自動車を買って、時々競馬が好きなお父さんを『淀』まで連れて行ってあげてもいるようです。   
(ちなみに、以前のブログで、ぼくが写真に関わっていた頃購入した「すてきな(!)」写真集をプレゼントした際、「先生、袋に入れてくださいよ、おやじが興奮するといけませんから・・・(笑い)」と言ったK君です)
 K君は今、上司の信頼も厚く、新しい薬品の研究に日々没頭しています。
 
 一緒に生きている『仲間』。だからこそ言える「人生の正直な実況中継」は、子どもたちの心を大きく動かします。頭が良くてナイーブなM君にも、それが最も有効な方法だと考えました。  
 彼は「ゲームセンターの誘惑」に何度か負けそうになりましたが、根気よく「可能性」と「限られた時間の大切さ」を繰り返すことで、誘惑を数か月で断ち切ることができました。
 素質と可能性にあふれた子こそ、優れた環境と能力が高く前向きな人たちの中で、人格を磨き、力をたくわえてほしい。大きく育って社会に貢献してほしい。自らの人生を振り返って、心の底からそう願っています。これは「熟年(!)」になり、会社を辞めて塾を始めたときからの大きな目標です。

 ところで、M君が速やかに立ち直れたのは、素直さと純真さを持ち続けられたからです。前提として、小さいころからのお母さんの「しつけ」と一生懸命な子育て指導があったことを忘れることはできません
話を聴ける大切さ
 「しつけ」や「社会のルール」ということばが「子育て事典(!)」から消えてしまったのは、もうずいぶん前のような気がします。ちなみに「しつけ」は「躾」と表記しますが、こんなふさわしいつくりの字は他にないのではないでしょうか
 若いお父さん・お母さんの姿を見ていると、今は「しつけ」そのものがわからないように見受けられます。「しつけ」ということばを持ち出すだけで、反感を感じたり、古いと思ってしまったり、聞く耳を持たなかったり・・・そういうことはないでしょうか。
 行楽地への車中やテーマパーク・キャンプ地での親子連れのようすを見ていると、そう感じてしまうことがよくあります。

 「聞く耳」を持つように育てられていなければ、M君は話を聞いてくれなかっただろうし、「話を聞く習慣」が身に付いていなければ、授業は成立しません。理解して学習を進めることもできません。M君が「ゲームセンターから京大へワープする」ことも決してなかったでしょう。
 勉強ができない・わからない、という子が増えているのは、もちろん指導者側の力量不足もあるでしょうが、「人の話を聞かない」「聞けない」などの簡単な「しつけ」や基本的な生活習慣が定着していない子が、どんどん増えていることが大きな原因のひとつだと思います。小学生を指導しているとよくわかります。

 子どもたちのしつけや指導がわからない、目につかない。目につかなければ直せない、直らない。落ちこぼれや学力不振の大きな原因が、そんなところに潜んでいることに、そしてそれが直らなければ、『塾代』や『学費』や『税金(!)』が結局ムダになってしまうことに、みんなが早く気がつかなければなりません。


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