『子供たちにとっての本当の教科書とは何か』 ★学習探偵団の挑戦★

生きているとは学んでいること、環覚と学体力を育てることの大切さ、「今様寺子屋」を実践、フォアグラ受験塾の弊害

勉強のできる子を育てるには23

2017年04月15日 | 学ぶ

 「『手間がかかる・時間がかかる』という状況を克服すること・スピード優先、それが文明の進歩・科学の発達である」とぼくたちは考えてきました。しかし、その効率化で「手に入れた『余裕』をどう使い、どう処理しているか」と振り返れば、暗澹とした気持ちになります。
 かつて時間など意識せず、「出きるだけ上手に」・「思い通りに」と自ら手造りで作り続けたおもちゃは、その「出来栄え」で「努力することのたいせつさと意味」を教えてくれました。失敗の連続で「あきらめ」ではなく、「我慢すること」がわかりました


 たとえばキャンプ地に行くのに、車に大量の荷物や食料を積み込み、出来合いのおもちゃをもって、高速道路にのり、あっという間に到着の目的地で、そそくさとビールや焼き肉でバーベキューの支度をし、いつもより広い空間で、開放感や高揚感は多少はあるものの、帰りは渋滞でイライラしながら帰ってくる…。スピードに足を引っ張られています。
 自然体験で子どもたちの「環覚」、気づく心・見つける心を養うためには「ゆっくりズム」が欠かせません。車中で「窓外」にハイスピードで流れるガードレールや防音壁の連続の中での行き帰り。それだけではせっかくの機会が「環覚」の育成とは無縁になります。ふだんから、「宝物」は周りにあるのです。

 「何か」を求めて「効率化」を優先したはずなのに、実際に何が得られたのか? ほんとうに手に入ったものはあるのか? 特に子どもたちにとって「見掛け倒しの似非体験の繰り返し」になってはいないか? そんな疑念が浮かんできます。

環覚の育成に寄せて
 明日はみんなで、「デッカイ筍掘り」の課外学習に出かけます。「米作り」でお世話になっている前川さんの紹介で個人所有の竹藪を紹介してもらい、毎年この時期に実施しています。筍栽培用ではなく、イノシシも荒らしている自然のまま放置されている竹やぶです

 朝、出かけると、すでにあちこちボコボコに掘り返され、無残に食い散らかされた筍が散らばっていることも珍しくありません。小さいころ、ぼくは、ほとんど毎日こうした竹藪に出入りし、手作りおもちゃの材料を探し回りました。
 タケノコが満足にとれなくても、筍を探しまわることが「遊び」であり、「探検」であり、「自然の学習」なのです。「けもの道」がわかるし、周囲の小さな川辺にはセリやミツバが生えているし、日当たりのよい道脇にはノビルやイタドリも出始めています。陽のあたりにくい山裾では陰樹のアオキがよく見られ、シダも頻繁です。こうした環境の体験と印象が植物の進化や成長の学習のバックグラウンドとして機能します

 河岸段丘を挟んだ対面の小高い丘には「クワガタ探し」の課外学習で宿泊する祝戸荘を見通せます。周囲には棚田が広がり、レンゲや菜の花も散見します。「受験参考書や塾のテキストのペラペラページを人工照明の中で暗記する学習」とは「正反対の分厚い学習」が広がります。こうした学習指導法を実践するのはおそらく僕だけなので、ブログで紹介しても、同級生の先生仲間にさえ、あまり(真意を)理解してもらえません。
 「仮説実験授業なんかやろ? むかし俺もよくやった」「ハイキング、おもしろそうやなあ」「喜ぶやろ?」・・・ちゃう、ちゃう! ちゃうねん。

 「『校庭での田んぼ』で米作り」の「勘違い」もそうですが、「小さいころから自然の中で遊びほうけた経験がなければ、感覚がつかめません。だから、「たいせつさもわからない」のでしょう。「自らの体験の範疇からは推し量れないから」です。昔何かで読んだ、「象のからだのあちこちを探ってはみたが、結局全体像がつかめなかった」という話を思い出します。

学習のBGづくり
 さて、「筍掘り」は竹の子だけでは終わりません。いつも、なにがしかの「サブテーマ」を用意します。もちろん、そのテーマはシチュエーションやタイミングと切り離せません。
 今回は先週紹介しました手作りの紙飛行機を「飛鳥の空」に飛ばし、飛行距離の競争をしようと思います。高台から危険なく遠くまで飛ばせます。自ら手造りすることで飛び方や工夫の手ごたえがつかめるだろうし、風や上昇気流に目を向けることが出来ます。「空気」に対する意識です。開けて見通しの良い田園風景や棚田はうってつけです。「遊びと学習(気づき)のリンク」は、こうして「手作りで飛行機を作るから」可能になります

 そして、竹細工の材料確保。竹の枝を切り取り持ち帰り、後日の「竹の昆虫づくり」の準備です。太い茎を割って胴体を細工し、節のある枝で脚をつくります。カブト・クワガタ・バッタ・カマキリ、さらに昆虫ではありませんが、カニやエビなど、思い思いに工夫してチャレンジします。

 飛行競争には商品を用意しています。小さいころぼくたちが夢中になったゴム動力の「手作り飛行機キット」と「紙飛行機で知る飛行の原理」(小林昭夫著講談社ブルーバックス)です。「ゴム動力は工作では一段上のステージ」だし、その先には「飛行機が飛ぶ理由」「うまく飛ばせる原因」が待ち構えています。それが能動的な学習です。子どもたちが『経験したとき、興味をもったとき、好奇心をもたせたとき』に次のステップを開示することがたいせつです。
 「子どもたちの学習を遊びとリンクさせること」、「日常生活の後ろに隠れている意外性の発見―例えば生物や物理や化学の真理」、それらが「ふだんから(日常生活の中で)顔を出してくれること」で、子どもたちの心に「学習の『テーマパーク!』」が育っていきます

 飛行機で風や上昇気流の知識に触れれば、次は天気や気象の世界が待っているかもしれません。その成り立ちとしくみに目が向けば、雲や雨の学習が容易になるでしょう。なお、余談ですが、ブルーバックスの「図解 気象学入門」(古川武彦・大木勇人著)は素晴らしい本です。気象についての様々な疑問が氷解します。子どもたちの「環覚」育成のテーマを見つけるのにも最適です。
 

さて、「デッカイ筍掘り」では、もちろんスライド学習をしますが、今回は現地の飛鳥で前川さんのお店の2階の部屋を借りて学習することにしました。そのテキストから学習テーマを紹介しておきます。
 まず季節柄のどかな田舎の雰囲気と音楽に浸ってほしいので、早春賦・おぼろ月夜・ふるさとの唱歌三曲を映像とBGMで紹介します。続いて竹林のようす、タケノコの生え方を地下茎とともに、タケノコの採り方、いろいろな竹の種類、特に孟宗竹・真竹・女竹の紹介。

 エジソンがフィラメントに日本の竹を使ったエピソード、女竹で団員が作る工作、釣竿・弓矢・吹き矢・紙でっぽうの紹介、クマザサ・歌舞伎と隈取、日本人の生活と切り離せなかった竹・竹細工・慣習、それを証明する竹にまつわる漢字の多さ。
 イネと竹の近しさ、生物の系統と分類の仕方、生きものの親戚調べ、イネと竹の仲間たち、単子葉類と双子葉類、草本だけではない単子葉植物、木本と草本の違い、竹は木なのか草なのか、単子葉植物と双子葉植物の特徴、植物の大きくなり方・肥大成長、タケノコ料理数々。
 これらをすべて子どもたちは学ぶわけです。イネ(単子葉植物)とインゲンマメ(双子葉植物)だけではありません。おそらく受験生の半分以上は、双子葉植物と単子葉植物の区別は「草の区別だろう!」という認識でしょう。そういう中途半端で片手落ちな暗記学習・受験知識がまかり通っているのが現在の(受験)学習の現状です

 学習は、ひげ根と主根・側根、平行脈と網状脈で終わりではありません。ぼくが子どもたちに手に入れてほしいのは、「子どもたちとぼくたちの歴史に息づいてきた竹の全体像」に対する「気づき」なのです。それでタケは「身近に」なります。もちろん、単子葉植物と双子葉植物やそれぞれの特徴も確実に身に付きます。「『ひげ根や主根・側根』の頁は紙飛行機にして飛ばしましょう!」(ハハハ)。

読書授業
 以前から「読書をしないので」という相談を受けて、「何とか本を読むようになってほしい」という願いを聞いていました。立体授業や課外学習・学習指導などを含めて、すべて一人での取り組みなので、気持ちはあってもなかなか思うに任せず、指導を始められなかったのですが、今月から月1~2回を目途に、みんなで本を読み始めることにしました。

 お父さん・お母さんへのアドバイスは、まず「難しいのは承知の上で、冗談ではなく」『できれば家に本があって、お母さん・お父さんが、いつもおもしろそうに読んでいる』という環境を用意することがベストです。自分たちがまったく本を読まずに「読みなさい」と云っても、「『仕事ができない上司』や『いつもサボっている二代目社長』が『しっかり仕事をしろ!』と云ってるのと同じ」で、他で本との幸運な出会いがなければ、あまり多くは望めません。

 おもしろくなければ、誰も本なんか(!)喜んでは読まないので、「本はおもしろいものである」と気づくきっかけが必要です。家庭に本がなければ、おもしろいかどうかもわかりようがありません。つまり、「家には本がない・周りも読まない」では「おもしろさのわかりようがない」「好きになりようがない」わけです。子どもがおもしろがるような本・子どもの興味を引きそうな本を検索して、それとなく子どもの目につく机の上に置いたり、書店や図書館に連れて行って、根気よく気に入るものを選ばせるのもよい方法です。本も自然も近くになければ、良さやおもしろさはわかりません。

 さて、団では、古い本で今絶版になっているようなのですが、まず「植物は不思議がいっぱい」(春田俊郎著 PHP文庫)を少しずつ読みはじめることにしました。子ども向けに書かれた本ではないので、一人で読むには少しむずかしいのですが、一緒に読むとついていけます。そして、本は子ども向けより、大人の方がおもしろいものが多いはずです。きっかけさえつかめば、ぼくはおもしろさを頼りに、ドンドン読んでいける(読んでいく)と思っています。ノーベル賞学者(益川さん)が認める「天才中の天才」ファインマンがそうだったように。
 とりあえず、まず「植物は不思議でいっぱい」がスタートです。きっかけづくりです。


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