「男たちの挽歌」「チャイニーズ・ゴースト・ストーリー」シリーズなどのヒット作をプロデュースした香港のスピルバーグ、ツイ・ハークが監督として復活した。その話題の新作が、中国史上唯一の女帝(唐の時代)・則天武后(623?~705/在位690~705)をめぐるスペクタクル・ミステリー「王朝の陰謀/判事ディーと人体発火怪奇事件」(5月5日公開)です。原案となったのは、オランダ人作家で外交官でもあったロバート・ファン・ヒューリックの人気探偵小説「ディー判事」シリーズ。このディー判事は、紀元630年に生まれた実在の人物で、各地の知事を歴任後、則天武后に仕えて法務大臣にまでなったという。
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舞台は中国・唐の時代、洛陽の都。女帝・則天武后(カリーナ・ラウ)の即位を目前に、不思議な事件が続発する。人体が突如発火し、真っ黒な灰と骸骨だけを残して焼きつくされるという怪事件だ。しかも、7人の犠牲者はすべて政権を司る重要人物。その謎を解明するため、一人の男が指名される。彼の名は判事ディー・レンチェ(アンディ・ラウ)。優れた知性の持ち主で武術の達人でもある彼は、相棒となる司法官ドンライ(ダン・チャオ)、武后の美しい側近チンアル(リー・ビンビン)とともに捜査を開始。則天武后の権力の象徴として建造中の巨大な<通天仏>に隠された秘密と、王朝をめぐる陰謀にたどりつく…。
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久しぶりにツイ・ハークらしい、大がかりで痛快、才気に満ちた陰謀スペクタクル・アクションです。同時に、史実をからめた権力闘争ミステリーにもなっている。最大の見どころはクライマックス、則天武后の顔を模したという、天を衝くような巨大な仏塔<通天仏>の崩壊シーン。こんなスペクタクルは見たことがない、と思われるほどの荘厳な破壊場面だ。また人体発火のくだりも、妖しげで面白い。超常現象の要素が加わった独特な世界観を再現するために、最新のCG技術と、香港アクションを支え続けるサモ・ハン指導によるアクション・シーンが融合。ツイ・ハーク流のみごとな空間造形がなされている。
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中国と香港の合作で、双方から人気スターが出演。アンディ・ラウ(「インファナル・アフェア」)はもとより、則天武后役のカリーナ・ラウ(「2046」)、不気味な司法官に扮するダン・チャオ(「戦場のレクイエム」)が個性を発揮、とりわけ武后の側近を演じるリー・ビンビン(「1911」)が魅力的。そして、レオン・カーフェイ(「孫文の義士団」)が演じる、ディー判事の旧友で<通天仏>建立の現場監督シャトーがドラマの鍵を握る。彼らがユニークな武器を操って闘うくだりにも、キャラクターの多彩さが反映されている。2011年香港電影金像奨では、最優秀監督賞、主演女優賞(カリーナ・ラウ)などを受賞。(★★★★)