わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

ウディ・アレンの心の解放区!?「ミッドナイト・イン・パリ」

2012-05-23 18:16:00 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

Photo ウディ・アレンは、アメリカ映画界では孤高の存在です。現在76歳だが、いまだに才気は衰えていない。新作「ミッドナイト・イン・パリ」(5月26日公開)は、お気に入りのパリを舞台にしたコメディーで、今年開催された米アカデミー賞では脚本賞を得た。ハリウッドの脚本家が、ゴールデン・エイジと言われる1920年代のパリにタイムスリップする、というアイデアで魅せる異色作だ。そして、当時のパリの社交サロンに、有名作家、画家、その他の芸術家が登場し、現代人の主人公と交わることで軽妙な笑いをもたらす。
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 ハリウッドの売れっ子脚本家ギル(オーウェン・ウィルソン)は、人生の絶頂期にある。代わり映えしない娯楽映画のシナリオで高額ギャラを得、セクシーで洗練された美女イネズ(レイチェル・マクアダムス)と交際中。そして2010年の夏、イネズとの婚前旅行を兼ねて憧れの街パリにやって来る。だがギルは、どこか満たされない。彼の夢は、本格的な作家に転身し、ボヘミアン的な人生を送ることなのだ。そんなある日、彼は深夜0時を告げる鐘の音に導かれるように、芸術・文化が花開いた1920年代パリのサロンにタイムスリップする。夢か幻かと驚くギルの前に、敬愛する作家・画家・美女が次々と現れて…。
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 モンターニュ・サント・ジュヌヴィエーヴ通りを走る旧式の黄色いプジョーが、ギルを別世界に誘う。5夜に及ぶこの幻想行に登場するのは、アーネスト・ヘミングウェイ、F・スコット・フィッツジェラルド、パブロ・ピカソ、コール・ポーター、ガートルード・スタイン(キャシー・ベイツ)、サルバドール・ダリ(エイドリアン・ブロディ)ら、そうそうたる芸術家たち。ギルは、ピカソの愛人アドリアナ(マリオン・コティヤール)にひと目惚れし、ガートルード・スタインに自身の処女小説をチェックしてもらう。更に、アドリアナと馬車でベル・エポックの1890年代にタイムスリップ。そこで出会ったロートレック、ドガ、ゴーギャンらと、ルネッサンス時代の素晴らしさを語り合う…。
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 ドラマの論点は、ふたつある。まずは、アレン自身のハリウッドを拒否する姿勢。主人公ギルは、ビバリーヒルズの豪邸に住む高額所得者だが、ワンパターンの娯楽映画のシナリオ書きに虚しさを感じている。こんな彼の内面の相克に、生粋のニューヨーカーで、アカデミー賞授賞式には必ず欠席するアレンの心境が投影される。また、ギルと一緒にパリに旅するリッチな恋人イネズ一家の凡庸な言動を強調することで、アメリカ人のスノビズムを皮肉る。要は、本作もアレン流の諧謔に満ちている、ということ。ギルが骨董店でコール・ポーターの古いレコードを購入するくだり、またイネズと別れて骨董店の娘と再会するラストに、ウディ・アレンの心の解放区が存在するような気がします。(★★★★)


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