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わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

ジャーナリストの矜持と信念!「スポットライト 世紀のスクープ」

2016-04-15 16:30:08 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

 今年開催された米アカデミー賞で、作品賞とオリジナル脚本賞を獲得したのが「スポットライト 世紀のスクープ」(4月15日公開)です。監督(兼共同脚本)を手がけたトム・マッカーシーは、移民問題を扱った人間ドラマ「扉をたたく人」(07年)でインディペンデント・スピリット賞の監督賞を得た社会派だ。今回のテーマは、新聞ジャーナリズム。2002年1月、アメリカ東部の新聞ボストン・グローブの一面に全米を震撼させる記事が掲載された。地元ボストンの数十人もの神父による児童への性的虐待を、カトリック教会が組織ぐるみで隠蔽してきたという衝撃のスキャンダル。マッカーシー監督は、2003年にピュリッツァー賞を受賞したこの調査報道を映画化するにあたって、関係者への入念なリサーチを行って事実に忠実な映像化を試みたといい、結果、正統派の力作となった。
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 2001年夏、ボストン・グローブ紙にマイアミからやって来たアウトサイダーの新編集局長マーティ・バロン(リーブ・シュレイバー)が着任する。彼は、地元出身の誰もがタブー視するカトリック教会の権威にひるまず、ある神父による性的虐待事件を詳しく掘り下げる方針を打ち出す。担当を命じられたのは、独自の極秘調査に基づく特集記事欄《スポットライト》を手がける4人の記者たち。デスクのウォルター“ロビー”ロビンソン(マイケル・キートン)をリーダーとするチームは、事件の被害者や弁護士らへの地道な取材を積み重ねる。そして、大勢の神父が同様の罪を犯しているおぞましい実態と、その背後に教会の隠蔽システムが存在することを突き止める。やがて9:11同時多発テロ発生によって一時中断を余儀なくされながらも、チームは一丸となって教会の罪を暴くために闘い続ける…。
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 映画は、数少ない記者たちの地道な取材を丹念に追っていく。弁護士の事務所や裁判所に足繁く通い、重要な事実を掘り起こすマイク・レゼンデス(マーク・ラファロ)。紅一点で、被害者への粘り強いインタビューを試みる女性記者サーシャ・ファイファー(レイチェル・マクアダムス)。事件に潜む重大な法則―虐待を疑われる神父が“病気療養”や“休職中”などの名目で教区の転属を繰り返していることを発見するデータ分析担当マット・キャロル(ブライアン・ダーシー・ジェームズ)。彼らが、具体的な(あるいは暴力的な)妨害に遭うシーンがあるわけではない。だが、古くから地域社会に根ざした巨大権力・カトリック教会と、グローブ紙の定期購読者の53%がカトリック信者だという事実が彼らを圧迫する。
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 取材のきっかけとなった神父は、30年の間に80人もの児童に性的虐待を加えたとされる。また、虐待の被害者団体のメンバーは、性的虐待を犯した神父がボストンには少なくとも13人いると告げる。自らも被害者である人の、トラウマに満ちた沈痛な叫び。そして、複数の被害者からは、神父による巧妙かつ卑劣な虐待の手口と、彼らのせいで人生を狂わされた人々の悲痛な現実が浮上する。「貧しい家の子には教会が重要で、神父に注目されたら有頂天。自分を特別な存在に感じる。―神様に“嫌(ノー)”と言えますか?」。調査の結果、洗い出された疑惑の神父の数は、なんと87人。1000人以上の児童が被害を受けたという。それどころではない、その後に判明した虐待は全米・全世界に及ぶそうだ。こんなセリフが登場する―「神父の性的精神年齢は12~13歳だ。独身が多く、性経験が少ないから」と。
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 マッカーシー監督は言う。「出版・報道の自由は、権力を持つ組織をも制止することができる」と。ともあれ、その取材過程の裏には、関係者の取材拒否や9:11テロの発生などもあり、信念や正義を貫くことの困難さも語られる。だが映画全体は、どちらかというとディスカッション・ドラマの形で、ジャーナリストの矜持や信念をダイナミックにとらえる。演じる俳優も、リーブ・シュレイバー、マイケル・キートンら地味なスターが熱演、その他の役者も個性的だ。カトリック教会の闇の部分を暴いた《スポットライト》記事。映画のラストでは編集部に、信者からの苦情ではなく、被害者からの電話が多くかかってくる。最近のアメリカ映画のなかでは、珍しく硬派の社会派作品といっていい。(★★★★+★半分)
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熊本地震の被災者の皆さま、心から御見舞い申し上げます。
東日本大震災のときの恐怖と、その後の不安な日々の記憶がよみがえってきました。



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