第80回米アカデミー外国語映画賞を得た「ヒトラーの贋札」(07年)の製作会社とプロデューサーが手がけた新作が、オーストリア映画「ミケランジェロの暗号」(9月10日公開)です。物語の背景は、第二次世界大戦が始まりナチス・ドイツがヨーロッパ各国に侵攻した時代。ウィーン在住のユダヤ人画商一族・カウフマン家がひそかに所有するミケランジェロの貴重な絵画をめぐって、ナチスを中心に争奪戦が始まる。主人公は、一族の息子ヴィクトル(モーリッツ・ブライプトロイ)と、一族の使用人でナチスに傾倒するルディ(ゲオルク・フリードリヒ)。この二人の相克が、ドラマに彩りを与えている。
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脚本を手がけたのは、ウィーン出身でユダヤ人のポール・ヘンゲ。幼少時にナチスの脅威と第二次大戦を経験、その体験をもとに執筆した「僕を愛したふたつの国/ヨーロッパ ヨーロッパ 」(90年)で米アカデミー脚本賞にノミネートされた。監督は、オーストリアを代表するウォルフガング・ムルンベルガーで、緻密なサスペンス・ミステリーに仕上げている。400年前にバチカンから盗まれたというミケランジェロの素描は、一体どこに隠されているのか。ユダヤ人対ナチス・ドイツという深刻なテーマよりも、贋物と本物の絵をめぐって、まるで007シリーズのようにスピーディーな展開を見せるエンターテインメントになっています。
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欧米では、ナチス・ドイツによって過酷な迫害を受けたユダヤ人を描くことは微妙な問題を含んでいる。だが、ムルンベルガー監督は言う。「この時代を舞台にした映画は、いつもユダヤ人を犠牲者として描いてきた。本作では、強制収容所に収容されているユダヤ人は犠牲者ではなくて、ヒーローだ。そして、ヴィクトルはアドルフ・ヒトラーの時代を巧みに生き延びる」と。力強い生命力をもってナチスに対し、ナチスの軍隊に入ったルディと入れ替わったりする機転を見せるヴィクトル。そして、絵の隠し場所をめぐる意外な結末。アメリカ映画「マラソン マン」(76年)などでユニークなキャラクターを見せたマルト・ケラーが、ヴィクトルの母親役で出演しているのが懐かしい。
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