わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

巨大ヘリによる原発ハイジャック事件発生!?「天空の蜂」

2015-09-01 15:07:12 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

 東野圭吾が1995年に発表して話題になった小説「天空の蜂」が映画化されました(9月12日公開)。新型の超巨大ヘリコプターを乗っ取り、原子力発電所の真上に静止させるという最悪の“原発テロ”と、その危機に立ち向かう人々の姿を描いたスペクタクル・ドラマ。それが、映像技術の革新的な変化によって、20年の時を経て映画化されたわけだ。監督は、「明日の記憶」「悼む人」などの社会派作品から、「20世紀少年」「SPEC」シリーズなどを手がけてきた堤幸彦。高度800メートルの上空で繰り広げられるサスペンス。東日本大震災と原発事故を体験した現在の日本の状況と重ね合わせると、興味深いテーマではある。
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 1995年8月8日。防衛庁に納品されるはずの最新鋭超巨大ヘリコプター“ビッグB”が突然動き出し、子供をひとり乗せたまま福井県にある原子力発電所“新陽”の真上に静止する。遠隔操縦によるハイジャックという手口を使った犯人は“天空の蜂”と名乗り、全国すべての原発の破棄を要求。従わなければ、大量の爆発物を搭載したヘリを原子炉に墜落させると宣言。“ビッグB”を開発したヘリ設計士・湯原(江口洋介)と、原子力発電所の設計士・三島(本木雅弘)は、日本消滅の危機を阻止すべく奔走するが、政府は原発破棄を回避しようとする。そして、捜査の手は意外な人物に辿り着き、事件は予想外の展開を見せる。
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 コンピューターによる自動制御が搭載された怪物のようなヘリコプター(外観はCGで再現)。燃料が無くなるまで、残る時間は8時間。機内に取り残されたのは、見学にやって来た湯原の息子・高彦。同期の湯原と三島の確執。ラジコン操縦がプロ級で、原発のゴミ処理の下働きをしていたという実行犯・雑賀(綾野剛)。ヘリと新陽の設計会社の事務員で、三島の恋人である赤嶺(仲間由紀恵)が秘める謎。これらに、原子力発電所のメンバー、自衛隊・警察など大勢の登場人物が絡む。しかし、雑賀は単なる実行犯で、ヘリのデータ漏出を手伝い、雑賀を操っていた真犯人は他にいた、という設定がドンデン返しの結末となる。
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 原作が発売されたのは、阪神・淡路大震災が起こった年。2011年には東日本大震災が発生、福島原発のメルトダウンに至った。そして今年、鹿児島県の川内原発再稼働。このドラマが映画化されたのは、絶好のタイミングといえよう。アイデアは抜群だし、現実問題として身に迫ってくる。原子炉と、その真上にホバリングするビッグB。ヘリがドームに近づいていくカットや、上空のヘリから見下ろす俯瞰のカットなどはフルCGで制作された。脚本を手がけた楠野一郎は、この作品をある意味で怪獣映画だと捉えていたという。ビッグB対新陽という怪獣の激突映画だと。そういう面では、壮大なスペクタクルになっている。
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 まさに怪獣激突映画ではあるが、それだけにドラマ展開に不満が残る。出演者たちのオーバー・アクト、絶叫調のセリフのやりとり、大袈裟な音楽の使用(音楽:リチャード・プリン)。実行犯の主張“すべての原発の破棄”はアクチュアルだが、スペクタクルに主眼を置くだけに原発問題の論点が曖昧になってしまった。とりわけ、成人した高彦(向井理)が自衛隊員となり、2011年の東日本大震災で人命救助をするという結末は余計なことでは?と思われる。もっと粛々と(??)、静かなタッチで緊張感を盛り上げていくドラマ作りが出来なかったものか。結果、あざといパニック・スペクタクルになってしまった。(★★★)



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