わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

2015年 公開映画ベスト・テン

2016-01-02 13:01:46 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

新年、おめでとうございます。
恒例の2015年公開・外国映画&日本映画ベスト・テンを選んでみました。詳細は、以下の通りです。
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[外国映画]
①「ザ・トライブ」
(監督:ミロスラヴ・スラボシュピツキー/ウクライナ)
②「神々のたそがれ」
(監督:アレクセイ・ゲルマン/ロシア)
③「草原の実験」
(監督:アレクサンドル・コット/ロシア)
④「僕たちの家(うち)に帰ろう」
(監督:リー・ルイジュン/中国)
⑤「国際市場で逢いましょう」
(監督:ユン・ジェギュン/韓国)
⑥「おみおくりの作法」
(監督:ウベルト・パゾリーニ/イギリス・イタリア)
⑦「ロバート・アルトマン/ハリウッドに最も嫌われ、そして愛された男」
(監督:ロン・マン/カナダ)
⑧「ホワイト・ゴッド/少女と犬の狂詩曲(ラプソディ)」
(監督:コーネル・ムンドルッツォ/ハンガリー・ドイツ・スウェーデン)
⑨「雪の轍(わだち)」
(監督:ヌリ・ビルゲ・ジェイラン/トルコ・フランス・ドイツ)
⑩「黒衣の刺客」
(監督:侯孝賢 ホウ・シャオシェン/台湾・中国・香港・フランス)
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[日本映画]
①「駆込み女と駆出し男」(監督:原田眞人)
②「さいはてにて~やさしい香りと待ちながら~」(監督:チアン・ショウチョン)
③「海街diary」(監督:是枝裕和)
④「愛を語れば変態ですか」(監督:福原充則)
⑤「映画:深夜食堂」(監督:松岡錠司)
⑥「母と暮せば」(監督:山田洋次)
⑦「日本のいちばん長い日」(監督:原田眞人)
⑧「抱擁」(監督:坂口香津美)
⑨「百日紅(さるすべり)~Miss HOKUSAI~」(監督:原恵一)
⑩「ゆずり葉の頃」(監督:中みね子)
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 2015年は、ロシアと東欧の作品の実験的で斬新な映像に衝撃を受けました。ウクライナ映画「ザ・トライブ」は、登場人物すべてが聾唖者で、全編が手話のみで展開。聾唖者の寄宿学校を舞台に、族(トライブ)たちが犯す犯罪行為を主題に、主人公の若者の戸惑いと断罪を、疾走するカメラが追う。ロシア映画「神々のたそがれ」は、ある惑星を舞台に、圧政・殺戮・知的財産の抹殺が行われる混沌たる世界をとらえる。前者のM・スラボシュピツキー監督、後者のA・ゲルマン監督、ともに名門レンフィルムの出身だ。ともに、荒々しく反骨的な映像に魅了された。更にロシアの「草原の実験」では、一切セリフがない。少女と父親、少年たちとのひそやかな愛を描きながら、すべてが核実験によって吹き飛ばされる終幕がショッキングだ。新鋭A・コット監督は言う。「時に沈黙は、セリフよりもより多くのことを語ることができる」と。同感だ。この3作品は、考えられ得るあらゆるアングルから対象を切り取りながら、その底流には不条理な権力に対する限りない怒りがうねっています。
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 また、ユグル族の幼い兄弟が両親のもとへ帰るため河西回廊を旅する姿を追った「僕たちの家(うち)に帰ろう」は、中国が抱える矛盾を寡黙のうちに問う異色作。韓国映画「国際市場で逢いましょう」は、朝鮮戦争やベトナム戦争といった現代史を背景に、家族のために艱難辛苦する父親像をとらえる。U・パゾリーニ監督「おみおくりの作法」も心打たれる作品だった。身寄りがなくて亡くなった人々を親身に弔うロンドンの民生係の男。故人にあった弔辞を書き、葬儀にふさわしいBGMを選び、故人の知人を探して葬儀に招待する。独居老人の増加と、非情な肉親たち。カメラは静謐な映像で、民生係の男の誠意を追いながら、人間性が喪失した現代をあぶり出す。これらの作品を見ると、いま世界の映画界は更なる映像のルネッサンス期を迎えた、ともいえるでしょう。映画とは何か? それを構成するプロット、セリフ、音楽、カメラなどの要素の問い直しが、いま行われていると思います。
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 日本映画では、「駆込み女と駆出し男」「日本のいちばん長い日」を発表した原田眞人監督の活躍が印象的でした。井上ひさしの「東慶寺花だより」を原案にした前者は、駆け込み寺に救いを求める女性たちの姿を追いながら、江戸の風俗や文化をみごとに再現します。後者は、半藤一利原作の映画化。1945年(昭和20年)8月15日、終戦を知らせる昭和天皇の玉音放送が流されるまでの知られざる相克が描かれる。ポツダム宣言を受け入れようとする閣僚たち、対して徹底抗戦・本土決戦を主張する若い将校たち。この時は、日本が破滅するか、あるいは占領軍によって分断されるかの瀬戸際であった。映画は、そのあたりの確執を明快に解き明かす。原田監督は、以前は余り身の丈に合わない作品を手がけていたように思うが、60代半ばを迎えたいま、歴史を巧みに再現する知性と技術を身に着けたようだ。
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 また、台湾出身の女性監督チアン・ショウチョンの「さいはてにて~やさしい香りと待ちながら~」は、奥能登の海辺を舞台に女性の生き方をきめ細やかにつづる。是枝裕和監督「海街diary」も、鎌倉を舞台に4姉妹の生きざまを通して、家族の、人間の絆を問う、しみじみとした作品でした。同時に、新感覚を持つ監督たちの登場も印象に残りました。とりわけ、演劇界の鬼才といわれる福原充則の映画監督デビュー作「愛を語れば変態ですか」が新鮮。開店直前のカレー店を舞台に繰り広げられる男女の愛の葛藤。黒川芽以演じるヒロインが、愛のタブーを打ち破って男たちに挑むくだりが痛快だった。更に、故岡本喜八監督夫人の中みね子が、76歳にして「ゆずり葉の頃」で初監督(兼脚本)に挑戦。初秋の軽井沢を舞台に、淡い恋の追憶を蘇らせる老いた女性(八千草薫)の心理の移ろいを巧みに追う。日本映画界には、もっともっと新人が登場して、既成の映像作法を打ち壊して欲しいと思います。
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ともあれ、洋邦ともにバラエティーに富んだ作品たちに出会えて、幸せな年でした。
そして、昨年9月5日に亡くなった伝説の女優・原節子さん、永遠に! 同時代に生きた人ではなかったけれども、銀幕を通して彼女こそ常にナンバーワンのマドンナでした。
今年も、心を突き動かすような、見る者のアタマをどやしつけるような斬新なアート・フィルムに出会えますように!



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