わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

おばあちゃんたちの反乱!「シャーリー&ヒンダ ウォール街を出禁になった2人」

2015-09-17 14:19:59 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

「経済成長ってナニ?」―こんな疑問をぶつけて、ついにニューヨークのウォール街まで乗り込む2人のおばあちゃんたち。ノルウェー出身、ホバルト・ブストネス監督の「シャーリー&ヒンダ ウォール街を出禁になった2人」(9月19日公開)は、実在のおばあちゃんたちの反乱をとらえたドキュメンタリー映画です。シャーリー92歳、ヒンダ86歳、彼女たちは、活動組織“RAGING GRANNIES”(怒れるおばあちゃんたち)に所属。この組織は、歌とユーモアによって平和的に抗議活動を展開しているという。カナダ・ビクトリアの女性グループに端を発し、世界各国に広がっているとか。メンバーになるのに重要な資質は「ユーモアのセンスと、客観的な物の見方、他人と協力する際の歩み寄りの心」だそうである。
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 アメリカ・シアトルに住むシャーリーとヒンダは、30年来の大親友。最近の話題は「経済成長って、どうなの?」ということ。彼女らは、YouTubeで発見したロバート・F・ケネディの、アメリカ経済のあり方について疑問を投げかけた演説を聞き、大学生、大学教授、経済アナリストに「経済成長」について聞きまくる。バカにされ、門前払いをくらい、脅されても“知りたい”という欲求は止まらない。そして、ついに住み慣れたシアトルを飛び出し、世界経済の中心ニューヨークのウォール街へ。財界トップが集まるウォール・ストリート・ディナーに乗り込んで直接対決。電動車椅子で縦横に駆け巡り、疑問への回答を求める。
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 ブストネス監督は、偶然YouTubeで“RAGING GRANNIES”の動画を見て、同組織に連絡をとった。そして、メンバーの何人かに会い、その中でシャーリーとヒンダの掛け合いが面白くて、撮影したいと思ったそうだ。製作期間5年、ほとんどをリサーチに費やし、撮影に1年、編集に1年半ほどかけたという。同監督は言う。「彼女たちの個性、たどってきた人生、世界をよりよくしようと闘った姿。これこそが重要なポイント」と。そして、シャーリー&ヒンダのマイペースな主張をユーモラスに、じっくりとらえることに成功。ワシントン大学で聴講した際には教授に強制退出を命じられ、ウォール街の一流金融企業ではガードマンに「ババァお断り!」と罵られ、それでもめげない2人の姿に応援を送りたくなる。
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 とりわけ、ニューヨークでヒンダが風邪をひいて寝込み、シャーリーだけが電動車椅子でウォール・ストリート・ディナーに乗り込み「質問があります!」と壇上で問いかけるくだりがクライマックス。その結果、出た答えのひとつは、エコロジー経済学者の言うように、経済成長は資源の消費量とはイコールではないということ。エコロジー経済学とは、地球の生態系と経済のシステムの関係性を総合的にとらえる学問のこと。経済成長は、本当に人間の幸せに結びつくのか。貧困などの社会問題を、どう解決できるのか。「経済成長のためには、どんどん買い物をしろというけれど、物が増えて本当に幸せ?」と、ヒンダは問いかける。シャーリーとヒンダの素朴な疑問は、そんな庶民の生活をもとに引き出されたものです。
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 そして、2人の結論は「アメリカ(=世界)は死につつある!」ということ。ラスト、彼女らはワシントン大学の構内で、「いまこそ、世界が移り変わる時よ!」と拡声器で呼びかけます。本作では、マイケル・ムーアのアポなし突撃作品のような激しさは感じられないけれども、人生の大先輩であるシャーリー&ヒンダの行動にはアクチュアリティーがある。ブストネス監督は言います。「世界を変えたければ、何歳になっても間に合うんだ。だって、シャーリーとヒンダは絶対に諦めたりしない。持病のせいで、うまく歩けなくても、彼女たちは諦めない」と。日本でも“なんとかミクス”なんて訳のわからないことを主張している為政者がいるけれど、そんな曖昧で根拠のない概念は叩き潰さなければ、ね。(★★★★)



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