わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

アウトロー・カップルの愛の転変「セインツ-約束の果て-」

2014-03-21 19:22:06 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

Photo_2 1967年、アーサー・ペン監督の「俺たちに明日はない」がアメリカン・ニューシネマの口火を切った。男女の強盗、ボニーとクライドの壮絶な人生。クライマックス、官憲の銃弾を浴びて、ふたりがこと切れるシーンが“死のバレエ”と呼ばれて話題になった。この作品と設定が似ているのが、インディーズの若手監督(兼脚本)、デヴィッド・ロウリーの「セインツ-約束の果て-」(3月29日公開)です。ただし、こちらは男女の愛の転変を緻密に描いて、ボニーとクライドのケースとは似て非なるドラマに仕上がっています。
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 1970年代のテキサス。窃盗・強盗を繰り返すカップル、ボブ(ケイシー・アフレック)とルース(ルーニー・マーラ)。ルースの体に新しい命が芽生えたことをきっかけに、ふたりは最後の仕事をして真っ当な人生を歩もうとするが、ついに警察に逮捕される。ボブは、ルースの身代わりとなって刑務所入りするが、彼女が娘を出産したことを知って脱獄。警察や、かつて裏切った組織からも追われる。そんなボブを待ちながら、ひとりで大事な娘を育てるルース。更に、陰で彼女を見守り、ひそかな恋心を抱く地元の保安官パトリック(ベン・フォスター)。3人のそれぞれの思いが交錯し、彼らには切ない結末が待ち受ける…。
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 ボブとルースとの間に愛の結晶がもたらされ、異なる道を歩むふたり。かつてルースが放った銃弾に傷つけられた保安官パトリックの、彼女に対するひそかな恋心。加えて、ボブとルースの育ての親に扮しているキース・キャラダインの登場が懐かしい。歌手・作曲家の顔も持つキャラダインは、本作のエンディング曲を演奏している。保守的で閉鎖的なテキサスという風土の中で追い詰められ、それぞれの生きる道を求める男と女。久しぶりに見るアメリカのローカル・アウトロー・ドラマであり、サスペンスフルなラブ・ストーリーでもある。
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 デヴィッド・ロウリー監督は独学で映画作りを学び、“インディペンデント映画の新しい顔25人”のひとりに挙げられた。またバラエティ紙でも、2013年の“注目監督10人”のひとりに選出された。本作は、長編映画2作目となる。「この作品は、西部時代が薄れゆく時期を舞台に、無法なアメリカ人ふたりの破滅的な愛を描いている」と、同監督は語る。そして、登場人物の心理の推移を、静かなタッチで巧みにとらえる。彼らの素朴で、ひたむきな生きざまは、現代社会に対するアンチテーゼといっていいかもしれない。特に、ベン・フォスター演じる保安官のナイーブさが心に残る。(★★★★)


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