わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

小惑星探査機・宇宙の旅「はやぶさ/HAYABUSA」

2011-10-07 19:14:15 | インポート

3 米メジャーの20世紀フォックスが企画開発から指揮をとった初の邦画プロジェクトで、堤幸彦が監督した「はやぶさ/HAYABUSA」(10月1日公開)。果たして、その出来は如何?と楽しみにしていたが、いささかガックリしました。03年5月に打ち上げられ、昨年6月に奇跡の帰還を果たした小惑星探査機<はやぶさ>。その7年間に及ぶ60億キロの宇宙の旅のVFXによる再現は、あくまで想像上のものながらワクワクさせられる。小惑星イトカワへの不時着と、2度目のタッチダウン、サンプル採取。そして、帰途での通信途絶とエンジン停止…。<はやぶさ>の飛翔は、まるでSF映画を見ているようにスリリングだ。
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 だが、<はやぶさ>のミッションを支えるプロジェクトチーム(宇宙科学研究所:現JAXA宇宙航空研究開発機構)のメンバーによる、肝心のドラマ部分が総花的で散漫に感じられる。物語は、研究生として<はやぶさ>の運用や広報の仕事に携わるヒロイン・水沢恵(竹内結子)の目を通して語られる。だが、多くの女性スタッフをミックスして造形されたという彼女の試行錯誤も、西田敏行、髙嶋政宏、佐野史郎ら、他のキャストの陰に隠れてしまった感じ。もっと彼女に密着したドラマ作りが出来なかったものか。子供向けの解説書「ミューゼスC君の冒険日誌」を書き始めた彼女こそ、素人である観客の代表なのだから。
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 更に、ドラマの語り口は全体的にセンチメンタル、登場人物だけが喜んで軽く演じているような気がする。また、パソコンの前で<はやぶさ>の動向を四六時中チェックするオタクおじさんの登場や、メンバーの家族の中途半端な描写などの枝葉部分も多すぎる。それによって、<はやぶさ>の旅の迫力も薄められてしまうのだ。つきつめれば、これらの欠陥は脚本の段階でのテーマの絞りかたの問題だと思う。関係者への取材や資料をもとに実際の施設や運用の様子を再現、JAXAの全面協力を得たこの作品。3:11の災害を乗り越えてクランクインしたという壮大なプロジェクトだけに、ちょっと残念な仕上がりです。

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秋天に 頭を垂れる 萩二色

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