わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

一青窈の名曲をモチーフにした愛の物語「ハナミズキ」

2010-08-20 19:11:21 | インポート

Img314 新垣結衣と生田斗真主演の「ハナミズキ~君と好きな人が百年続きますように」(8月21日公開)は、一青窈の名曲をモチーフにした、10年間に及ぶ大河メロドラマの力作です。ヒロイン・紗枝(新垣)は、幼いころに父を亡くし、北海道で母(薬師丸ひろ子)と暮らしている。家の庭には、父が娘への思いを込めて植えたハナミズキが大きく育っている。高校生になった紗枝は、別の高校に通う康平(生田)と出会って恋におちる。紗枝の夢は、海外で働くこと。彼女は大学に合格し東京へ、康平は地元で漁師の生活をし、二人の遠距離恋愛が始まる。だが、互いを思う気持ちは変わらないのに、彼らの気持ちはすれ違っていく。やがて、紗枝の前に報道カメラマンを目指す大学の先輩・北見(向井理)が出現し、彼女の心は揺れ動く…。
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 舞台は更に、紗枝と北見が再会するニューヨークへ、紗枝の生まれ故郷で彼女の父の思い出の地であるカナダにまで及ぶ。いわば、10年という時の流れの中で展開される女と男の出会い、別れ、すれ違い、挫折のドラマだ。一青窈が作った「ハナミズキ」の歌詞は、01年9月11日にニューヨークで起こった同時多発テロをテレビで見て、書きつづった散文詩がベースになっているとか。曲に込められたのは、平和への願いと愛の尊さ。脚本担当の吉田紀子は、それをもとにドラマを構築、「いま、会いにゆきます」(04年)、「涙そうそう」(06年)の土井裕泰が監督を手がけた。その結果、主人公二人の人生の紆余曲折が、イラク戦争まで背景に絡ませて、きめ細かく描きこまれ、壮大なラブストーリーに仕上がった。
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 この作品を見終わったとき、韓国の異才クァク・ジェヨン監督、ソン・イェジン主演の「ラブストーリー」を思い出した。母娘二代にわたる運命の愛のドラマ。そういえば、新垣結衣はソン・イェジンに似ているような気がしませんか。それに生田斗真も、夢を追い求める恋人を優しく見つめながらも、苦悩する青年を好演。彼が「人間失格」で扮した主人公には感心しなかったけれど、等身大の若者を演じるとバツグンに爽やか。また、紗枝の母親役の薬師丸ひろ子の感情表現も豊かだ。また、彼らをめぐる家族や、友人との人間関係も的確に描きこまれている。さらにカメラは、各ロケ地の風土をしっかりととらえる。特に、釧路界隈を中心にした道東の風景や漁の光景が効果的。ハナミズキの花言葉は「返礼、感謝」。愛と情感に満ちたラストには、思わず胸がつまってしまいます。


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