わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

またまた奇想天外なシンチー・コメディ登場!「人魚姫」

2017-01-12 14:34:41 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

 チャウ・シンチー監督・主演の「少林サッカー」「カンフーハッスル」は、破天荒な超アクション・コメディでした。彼が生み出す笑いの原点は、人間の肉体の強靭さや脆さを極端にパロディ化する点にあります。それはまるで、ちぎっては投げ、ちぎっては投げ、蝶のように舞い、蜂のように刺す(?)といった感じのスーパー・アクション。CGで創り上げた奇想天外な映像が哄笑・爆笑を生むのです。その彼の新作が、なんと中国・香港合作「人魚姫」(1月7日公開)。「この映画はコメディや愛を意識した映画であると同時に、我々が忘れてしまった環境保護へのメッセージをも含んでいます」と、チャウ・シンチーは言う。つまり単なるアクション・コメディではなくて、環境破壊をテーマにした人魚的寓話なのです。
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 青年実業家リウ(ダン・チャオ)は、美しい自然保護区域・青羅湾を買収。リゾート開発のため海中に設置した超強力ソナーで海洋生物を湾から排除、埋め立て許可を取り付ける。環境破壊のせいで行き場を失った“人魚族”は難破船に逃げ込み、絶滅の危機に瀕した。幸せな日々を取り戻すため、リーダーのタコ兄(ショウ・ルオ)の指揮のもと、一族は“リウ暗殺作戦”を決行。可憐な人魚シャンシャン(リン・ユン)を人間に変身させ、リウへの急接近を試みるが、あえなく失敗。だがリウは、横暴な女性投資家ルオラン(キティ・チャン)への当てつけにシャンシャンをデートに誘うと、純真な彼女に急速に惹かれていく。金だけが愛の対象だったリウと、なぜか彼を殺す気になれないシャンシャン。ふたりの思いとは裏腹に、人魚族は欲に駆られた者たちによる激しい武力戦に巻き込まれていく…。
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 映画は、シンチー流のアイデアと笑いで見る者を打ちのめす。とりわけ、各キャラがマンガチックでユニーク。難破船の暗がりで、人魚族が決起をはかるくだり。中国出身のリン・ユン演じる人魚姫が、はじめはシンチー流に不細工なルックスで登場するが、次第に無垢な愛らしさを発揮するくだり。彼女は、人間社会にデビューするため、尾びれを改造した足でヒョコヒョコ歩いてみせる。リン・ユンは、12万人の候補からヒロインに抜擢された新星だ。そして、ずば抜けて傑作なのが、台湾生まれのショウ・ルオ扮するタコ兄。どこにでも吸い付くタコの足を持ち、頭部と上半身は人間という巨大タコ。柔軟な肉体(?)を自由自在に駆使して、シャンシャンのボディガード役をつとめ、人魚族の蜂起を陰から支えるのだ。
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「この世から綺麗な水や空気がなくなったら、お金なんて意味を持たない」―冒頭、工場の煙突から立ち昇る煤煙や、汚染された海の映像が示される。シンチー自身が敬愛するブルース・リー主演作「ドラゴン怒りの鉄拳」メインテーマのアレンジ曲がオープニングを飾るのが傑作だ。単身で敵に立ち向かうブルースの鉄拳に託して、現代中国にはびこる拝金主義と環境汚染の問題に怒りと批判をストレートにぶつけるシーンだ。チャウ・シンチーは香港出身だが、ショウ・ルオ以外は中国生まれの俳優たち。実業家リウを演じるダン・チャオは舞台出身。偽物のチョビヒゲをつけ、歌いながら軽快にステップを踏む姿も披露。出演映画の総興行収入は90億元を突破し、多くの観客を呼べるトップ・スターだそうである。
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 さて、映画の結末はどうなるか?(見ていない人、ゴメンナサイ!)。ラスト、ルオラン一味が人魚族捕獲に乗り出す。対して改心したリウが立ち向かい、シャンシャンを助ける。同時に、人魚族の長老(老婆!)が巨大な尻尾で敵をぶっ飛ばす。最後にリウとシャンシャンは結婚し、そろって海中で遊泳。めでたし、めでたし、であります。あれ? 自然破壊の元凶が、このままでいいの? とは思うけれど、これがチャウ・シンチー流ハッピーエンディング。アクションあり、コメディ、ロマンスありのファンタジー。今回、チャウ・シンチーは出演せず、製作・監督・脚本に専念。代わりに意外なゲスト出演があるので、探してみたら? アジア歴代興行収入ナンバーワンを記録したというトンデモ作品です。(★★★★)



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