山本五十六(1884~1943)は、1941(昭和16)年12月8日、日米開戦のきっかけとなったハワイ真珠湾攻撃の指揮をとった海軍の軍人である。「聯合艦隊司令長官 山本五十六‐太平洋戦争70年目の真実‐」(12月23日公開)は、彼の足跡を中心に、当時の日本の軍隊や世論の動きをとらえた戦争スペクタクルです。真珠湾奇襲攻撃、ミッドウェー海戦、ガダルカナル奪回作戦、そしてブーゲンビル島上空での撃墜死まで…日本と米国の国力の差を熟知していたという山本が、なぜ日米開戦の先鞭をつけたかがテーマになっている。
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暗雲垂れこめていた昭和初期、海軍次官だった山本は、日独伊三国同盟に対して強硬に異議を唱えたという。そうなると日米開戦が不可避になるからで、そこには欧米の文化を熟知していた開明派・山本の良識が投影されている。映画ではまず、そんな山本(役所広司)らに対する陸軍や世論の風当たりが描かれる。とりわけ、メディア(映画では東京日報)が好戦的な論調を展開するのが興味深い。それでも、ナチス・ドイツの侵攻によって欧州で第2次世界大戦が起こるや、日独伊三国軍事同盟が締結。やむなく山本は、戦争に勝つためではなく、敵の戦意を失わせるほどのダメージを与え、講和(和平)の道を探り、一刻も早く戦いを終わらせるために、海軍350機による真珠湾攻撃を行ったという。
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ここがドラマのポイントであり、また不可解なところでもあります。戦争を早く終わらせるために、後世まで恨みが残った真珠湾攻撃を行ったって? 一体、そんなことがあるだろうか。一歩退いて、山本五十六の苦渋の選択に思いを致すのだけれど、どうも映画では歴史のうねり(悲劇)と、日本が抱えていた矛盾の中での山本の苦衷の心情が描き足りていません。オールスター・ドラマのせいか、聯合艦隊、軍令部、海軍省、東京日報、山本の家族描写など、間口が広すぎて総花的になっている。肝心の真珠湾攻撃のスペクタクルも、なにか物足りない。観客は、この一点に興味を集中させるかもしれないのに。
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要するに、この作品は山本五十六に扮する役所広司の“顔”でもっている、といっても過言ではないでしょう。「常在戦場」(常に戦場にいる心構えで事に臨め)という四文字を好み、時に孤愁の陰りを漂わせる男。役所のほかには、山本に傾倒していく若い記者を演じる玉木宏、真珠湾攻撃の際に山本との確執の深さを見せる南雲忠一役の中原丈雄が好演。監督は「孤高のメス」「八日目の?」の成島出。「山本五十六」を発表している作家の半藤一利が監修者として参加。それにしても、なぜいま山本五十六であり、「坂の上の雲」なのでしょうか。本作のラスト、空襲で崩壊した東京のシーンが3:11の悲劇を思わせます。