高山由紀子の小説の映画化「源氏物語‐千年の謎‐」(12月10日公開)は、ユニークな構成で、豊かなドラマ展開を見せる作品です。架空の物語としての光源氏(生田斗真)の世界と、紫式部(中谷美紀)が「源氏物語」を執筆する現実世界が並行し、入り混じって描かれるのだ。平安王朝の時代、時の権力者・藤原道長(東山紀之)が一条天皇(東儀秀樹)に取り入るため、紫式部に執筆を命じる。いわば、ベースになるのは「源氏物語」誕生秘話。権力者に利用されながら、妖しげな作家ぶりを発揮する紫式部の描写が面白い。
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それに重なるように、源氏と義理の母・藤壺(真木よう子)との禁断の恋、正妻・葵の上(多部未華子)との冷たい関係、愛人の夕顔(芦名星)や六条御息所(田中麗奈)との愛がつづられていく。それに、源氏の父・桐壺帝(榎木孝明)と母・桐壺更衣(真木よう子=二役)、帝の第一妃・弘徽殿女御(室井滋)との複雑な関係。それに共鳴するかのような、平安朝の朝廷風俗、衣装、建造物、雅楽などの再現も見もの。加えて、陰陽師・安倍晴明(窪塚洋介)が時空を超えて怨霊と闘う幻術シーンもあり、見どころに事欠かない。
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監督は「愛の流刑地」の鶴橋康夫。なによりも女優陣が魅力的だ。中谷美紀の艶やかさ。真木よう子の危うい色気。悪霊に取りつかれる夕顔役の芦名星、生霊になる六条御息所役の田中麗奈も個性的。名女優・佐久間良子が藤壺の側近に扮しているのも懐かしい。また、時を超えて光源氏と紫式部が会いまみえるSF的な終幕も心に残る。でも、「ハナミズキ」で等身大の青春像をみずみずしく演じた生田斗真が、太宰治「人間失格」の主人公や光源氏に扮すると、にわかに表情を失うのはなぜだろう? かつての名優・長谷川一夫のように、黙って立っているだけで匂うような色気を発散する俳優はもういない、ということかな。