コリン・ファレルとキーラ・ナイトレイ共演の「ロンドン・ブルバード‐LAST BODYGUARD‐」(12月17日公開)は、歯切れのいいグッド・テイストなブリティッシュ・ノワールです。「ディパーテッド」で米アカデミー脚色賞を受賞したウィリアム・モナハンの監督デビュー作。同監督が、ノワールの詩人と呼ばれるアイルランドの作家ケン・ブルーエンによる、ハリウッドの名作「サンセット大通り」を下敷きにした小説「ロンドン・ブールヴァード」を自ら脚色した。映像とカット割りがシャープで、色彩の用いかたもグッドな作品に仕上がっている。
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3年の刑期を終えて出所したミッチェル(ファレル)は、裏社会から足を洗おうとしている。そんな時、彼はいまだにパパラッチに追われている元女優シャーロット(ナイトレイ)のボディーガードを務めることになる。だが、かつてのギャング仲間からの荒仕事も断りきれないでいる。そんな彼の仕事ぶりがギャングのボス、ギャント(レイ・ウィンストン)の目にとまり、ミッチェルを仲間に引き入れようとする。そして、手段を選ばないギャントの魔の手は、ミッチェルはおろか周囲の人々にまで迫っていく…。
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ドラマのもとになったビリー・ワイルダー監督「サンセット大通り」(Sunset Boulevard・1950年)の舞台はハリウッドのサンセット大通り。荒れた邸宅に、落ちぶれたサイレント映画時代の大女優ノーマ(グロリア・スワンソン)が、元夫で執事のマックス(エリッヒ・フォン・シュトロハイム)と住んでいる。女優復帰を夢見るノーマは、若い脚本家ジョー(ウィリアム・ホールデン)を寵愛、復帰作の脚本の修正を任せる。やがてノーマは、若い女性を愛するようになったジョーを殺害。狂ったノーマが、ニュース映画のカメラやフラッシュを本物の映画の撮影と思い込み、サロメの扮装で登場するラストが凄絶だった。
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これに対して「ロンドン・ブルバード」は、南ロンドンの裏社会と西ロンドンの上層社会を対照的にとらえる。更に、失業者、ホームレス、若者たちの暴力、セレブに対するパパラッチの執拗な追跡といった社会背景が織り込まれている。優しさと暴力性を併せ持つ孤高の元ギャングを演じるコリン・ファレルが、なんともカッコいい。また悩み戸惑いながら、ロサンゼルスでの女優復帰を望むシャーロット役のキーラ・ナイトレイの繊細さも素敵。音楽も、オリジナル曲のほかに、ヤードバーズやザ・ローリング・ストーンズ、ボブ・ディランらのヒット曲が用いられ、雰囲気を盛り上げている。唯一不可解なのは、邦題が「~ブールヴァード」ではなく「~ブルバード」になっていることです。