青春時代のバイブルだったスポーツ漫画「あしたのジョー」が、最新版で実写映画化されました(2月11日公開)。もとのマンガは、原作=高森朝雄(梶原一騎)・作画=ちばてつや。1967年12月15日から1973年4月20日まで「少年マガジン」に連載され大人気となる。以後、TVアニメ化、実写映画化もされ、劇場版アニメにもなった。下町の不良少年・矢吹丈が、徹底したハングリー魂でボクシングの世界に挑み、宿命のライバル・力石徹と対決する…。原作が登場したのは、日本中に安保闘争の嵐が吹きまくっていた頃。昭和でいえば40年代。ジョーの反抗精神が、当時の若者たちの共感を呼んだのでしょう。
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今回の実写版で矢吹丈を演じるのは、TVドラマや映画「クロサギ」で人気を得た山下智久。漫画版のジョーのような野性的な荒々しさは余りないけれど、下町に生きる、やるせないほど孤独で反抗的な少年像を好演。ライバルの力石徹に扮するのは、映画「十三人の刺客」やTV「龍馬伝」などでパワフルなキャラクターを見せる伊勢谷友介。漫画版の力石ほどの“いかつさ”は感じられないが、洗練された敵役ぶりを見せてくれる。だが、なんといっても傑作なのは、元ボクサーでジョーのパートナー・丹下段平を演じる香川照之だ。つるつる頭、左目に黒いアイパッチ、極端な出っ歯に、ナマズを思わせるヒゲ。原作漫画そっくりの扮装で、ドヤ街の橋の下に建てられた粗末なジムのオーナーを巧演します。
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監督は、「ピンポン」「ICHI」など特異な作風で知られる曽利文彦。舞台となる昭和のドヤ街を5000㎡のオープンセットで完全再現。リアルと最新CGの融合で、原作の実写化に挑んだ。主演の山下と伊勢谷は、数か月に及ぶ肉体改造で、体脂肪率4%前後のボクサー体型を獲得したとか。クライマックス、彼らの後楽園ホールでの対決が圧巻。ボクシンググローブがからみ合い、相手の顔面をとらえるシーンが、CGでダイナミックに映像化されている。時代は、日本でバブル景気が起こる十数年前。ビートルズが解散し、アポロ13号が打ち上げられた頃。ジョーが象徴する貧しさと、力石が所属する富裕階級の対比。そして、ドヤ街に住む人々の人情の豊かさなどが、映画のもうひとつの見どころになっています。