わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

衝撃の実話の映画化「死にゆく妻との旅路」

2011-02-24 18:45:22 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

Tabiji_1_1b 1999年12月2日。一人の男が逮捕された記事が、新聞の社会面に小さく掲載された。罪状は“保護責任者遺棄致死”。男は末期癌の妻をワゴン車に乗せ、9か月もの間、日本各地をさまよったあげく、妻の死に直面する。2000年秋、その清水久典氏の手記が月刊誌に掲載されて反響を呼ぶ。2003年に発行された文庫版も、ひそかに大ヒット。事件の裏には、報道されなかった夫婦の深い愛の物語があった。この実話の映画化「死にゆく妻との旅路」(2月26日公開)は、清水夫妻の272日、6,000キロに及ぶ旅の再現ドラマとなっている。
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 石川県七尾市で小さな縫製工場を営む清水久典(三浦友和)は、結婚して20数年、平凡な家庭を築いていた。だが、バブルの崩壊とともに工場経営が傾き、4千万円の借金を抱える。そして逃げるように故郷を飛び出し、金策に回る。いっぽう、11歳年下の妻ひとみ(石田ゆり子)は、大腸癌の手術をしたばかりで、娘夫婦のアパートに居候して夫の帰りを待つ。やがて、金策も職探しもゼロに終わった久典と再会したひとみは、「オッサンの好きにしたらええ」と微笑み、1999年3月から12月まで、夫婦での職探しの旅が始まる。
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 懐には、なけなしの50万円のみ。移動手段は青いワゴン車。キャンプ用のコンロで煮炊きをし、後部座席に敷いた一組の布団に二人で寝る。旅のルートは、東尋坊、姫路城、鳥取砂丘、明石海峡大橋、亀岡、三保の松原、そして山梨などを経て石川へ。観光地を回れば、住み込みの仕事は必ず見つかる…。だが、行く先々でハローワークを訪ねても、50歳以上の求人は見つからない。「オッサンと離れるのはいやだ!」と半ば強引について来た妻の慰めの言葉が唯一の救いだ。だが、旅を重ねるにつれて、ひとみの病状が悪化していく。
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 監督は、「初恋」(06年)の俊英・塙幸成。「きわめて普通の市井の人の、愚かしいほどに純粋な選択に惹かれた」という。思えば、清水夫妻の旅の軌跡は、バブル崩壊後の市井の人々の苦しみと重なり合う。経済破綻、そして就職難と高齢化社会。夫妻の行動の良し悪しは、他人があれこれ詮索すべきではない。真夏の太陽のもと、あるいは雪降りしきる海岸で、ワゴン車生活の中、夫にすがる妻、妻の苦しみに直面する夫。夫妻を結びつけるのは、不器用で、ひたむきな愛だけだ。ぎりぎりの状況に追い込まれたとき、人は愛する者になにをしてあげられるのか。そんな切ない思いにかられる感動ドラマです。


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