エコポイント&スマートグリッド

省エネ家電買い替え促進で有名となったエコポイントとスマートグリッドの動向を追跡し、低炭素社会の将来を展望します。

「スマートグリッド革命」(シリーズ;ICTパワーを全開させてスマートグリッドに取り組むIBM)

2010-12-28 00:02:00 | Weblog
米企業IBMのスマートグリッドビジネス戦略を紹介しましょう。IBMは、電気・ガス使用の抑制、CO2排出、データセンターのエネルギー、そして水資源の問題に取り組むために、06年に「Big Green Innovations」プログラムを立ち上げ、それ以降活発な活動を展開してきています。
 このうち電気・ガスに関係するものに関しては、電力・ガス会社に対してスマートグリッド関連プロジェクトを推進するために必要なさまざまなサポートサービスを提供しています。また、ソフトウェアの分野では、AMI需要応答、分散型発電と電力貯蔵、HAN、プラグインハイブリッド車などに関連したスマートグリッドの主要な市場において、システムアーキテクチャーと企業アプリケーションの両方を提供しています。
 消費者にとっては、スマートグリッドにより、リアルタイムで電力消費量を知らせるディスプレイやウェブサイトを家庭で利用できるようになります。07年に行われたIBMの「グリッドワイズ」(Grid Wise)のスマートグリッド試験運用の結果、適切な機器を利用することで消費者が電力会社の電力効率プログラムに参加でき、電気代を約10%節約することが可能であることが明らかになりました。 
IBMの電力・ガス会社との取組みに関しては、IBMは、テキサス州の電力会社センター・ポイント・エネジー、オハイオ州の電力会社アメリカン・エレクトリック・パワー、ミシガン州の電力会社コンスーマーズ・エネジーとの間でスマートグリッド関連のパイロットプロジェクトを実施するとともに、フランスの電力会社EDFとの間で共同研究開発を進めています。また、マルタ島において、5年契約を締結し、現在まで7000万ドルを投入してスマートグリッド関連プロジェクトを推進しています。
 09年6月IBMは、「グリーン・シグマ・コアリッション」(Green Sigma Coalition)と呼ばれる企業コンソーシアムをジョンソンコントロール、ハネウェルビルディングソリューションズ、ABB、イートン、ESS、シスコ、シーメンス、シュナイダー・エレクトリック、SAPとともに結成しました。コンソーシアム企業は、それぞれの製品やサービスをIBMのものと統合していくことを目指しています。さらにIBMは、電力配電網に対する新技術統合を加速する技術的フレームワークの整備をすすめています。これは、公益事業とスマートグリッドベンチャー企業が共通して利用する通信プロトコールとデータフォーマットを策定しようというものです。
 09年9月、IBMは電力会社がスマートグリッドソリューションのプログラムを構築し、中小ベンダーがスマートグリッド関係のアプリケーションやサービスを提供することを容易にするため、「Solution Architecture for Energy and utilities Framework」(SAFE)を提供すると発表しました。 SAFEの主要な機能は、①asset,device and service monitoring、②asset lifecycle management、③informed customer experience、④business process automation、⑤regulatory,risk and compliance management、⑥security solutionsです。SAFEの特徴は中小ベンダーをサポートする機能を充実させていることですが、その関係では、IBMとTrilliantが緊密なアライアンスを形成しています。その他、 BPL Global,Coulomb Technologies,eMeter,Enterprise Information Management,ITron,OSIsoft,PowerSense などもIBMのビジネスパートナーとなっています。
 注目すべきは、IBMがこのような電気におけるスマートグリッドの動きを水に関しても展開していることです。この関連では、現在IBMはIT関連の水資源管理技術のポートフォリオを開発中です。今後5年以内に、同事業は200億ドルの規模に成長する可能性があると予測しています。その目標は、地球上の水資源でわずか1%しかない実際に利用可能な淡水を、より効率的に使用するために必要となる技術的なアーキテクチャーの構想を練ることです。このためIBMとIntelは、どのようにすれば情報と技術を水資源管理の改善に活用することができるかを研究する作業グループを結成しています。

「スマートグリッド革命」(シリーズ;リチウムイオン電池は家庭用にも用途拡大)

2010-12-27 07:07:10 | Weblog
 リチウムイオン電池の家庭用2次電池としての用途が新しいフェーズに動き出しています。家庭用リチウムイオン電池の最近の動きとして報道されたのは、三菱重工の「エコスカイハウス」(横浜)や新日本石油(現JX日鉱日石エネルギー)の「創エネハウス」ですが、いずれも、家庭用リチウムイオン電池の役割が電力単価の安い夜間電力を充電して昼間に使うという光熱費節減型です。これに対して、東北大学の田路教授が環境省の「エコハウスプロジェクト」の支援を受けて主導しているのは、太陽光発電(3・8kW)で発電した直流の電力をリチウムイオン電池(10kW)に貯めておき、直流のままLED照明や液晶テレビ、パソコンなどの情報機器に電力を供給する仕組みです。パナソニック電工に依頼して直流配電盤が完成し、10年3月に竣工しました。
家庭用リチウムイオン電池に関しては、10年1月から伊藤忠商事が太陽光発電と組合せたシステムを導入した分譲マンションの販売を開始していますが、本格的な普及は家庭用太陽光発電がグリッドパリティに到達する15年頃と想定されています。ただ、再生可能エネルギーエネルギーの全量買取り制度の内容によっては、自家消費分の多いビルや4500万世帯の日本の一般世帯に太陽光発電が急速に浸透する可能性もあり、むしろ、市場を先取りする対応が必要です。特に、アメリカでは電気自動車普及への超難問(conundrum)として、リチウムイオン電池の家庭・オフィスにおける2次利用の際の市場創出、そこにおける価格形成の必要性が指摘されています。これは、リチウムイオン電池生産世界一、巨大な市場を有する日本がイニシアティブをとって推進すべきでしょう。
 今後のリチウムイオン電池の用途は自動車用や家庭用に限りません。今はニッチ市場的な色彩がありますが、バックアップ電源、建設機械、鉄道車両など産業用リチウムイオン電池も着実な需要拡大が見込める市場として有望です。中長期的には、太陽電池や風力発電に併設される電力貯蔵用のリチウムイオン電池の市場拡大、現在主流のNAS電池の代替としての期待もかけられています。

「スマートグリッド革命」(シリーズ;躍進する中国の太陽電池メーカー)

2010-12-26 00:08:48 | Weblog
中国は太陽光発電に力を入れていますが、江蘇省は太陽電池産業が集積し、太陽電池の一大生産基地となっています。サンテックパワーをはじめとして中国大手企業8社のうち6社太陽電池メーカーが立地し、中国の太陽電池の60%を江蘇省で生産しているほか、民間団体である江蘇省太陽光発電産業協会が産学官連携の中核として活動しています。
このうち江蘇省無錫市に本社を置くサンテックパワーは、01年9月設立とその歴史は浅い企業ですが、その成長は驚異的です。赤字企業であったのは設立の翌年までで、その後は倍々ゲーム以上の成長を続け、07年12月期には売上げが13・4億ドル、営業利益が1・7億ドルとなりました。過去5年間で売上げは100倍、営業利益は220倍に急成長した計算です。05年に中国企業としてはじめてニューヨーク証券取引所に株式を上場し、従業員は全世界で1万人を超します。08年に世界シェアでシャープを抜き、09年は欧州市場の落ち込みなどにより売上げは減少したものの、シェアではドイツのQセルズを抜いて、アメリカのファーストソーラーに次ぐ世界第2位の企業となりました。
サンテックパワーは08年、日本の老舗太陽電池メーカーのMSKを買収し、09年にはMSKが得意としていた建材一体型の住宅向け太陽電池パネルの専用生産ラインを中国に導入し、欧州市場向けに輸出を開始しました。日本市場においても建材一体型の住宅向け太陽電池パネルが投入されているほか、09年よりヤマダ電機の販売チャネルでサンテック製の太陽電池パネルが販売されています。中国の太陽電池メーカーとしては、サンテックパワー以外にインリーが急成長を遂げています。

「スマートグリッド革命」(シリーズ;求められる総合エネルギー企業への脱皮)

2010-12-25 00:05:10 | Weblog
スマートグリッドの進展による「電気経済」の出現に関しては、「電力会社の一人勝ち」の構図のように見えますが、決してそのように単純な話ではありません。20年の中期あるいは50年の長期に向けて電力会社の存立基盤を含めた見直しが必要になるからです。
というのは、エネルギー源が化石燃料から再生可能エネルギー(および原子力)に変わると、エネルギーの供給体制が変わることになります。メガソーラーを除けば、太陽光発電、風力発電等の普及とは、自家発電の拡大にほかなりません。これは、従来電力会社が行っていた発電用エネルギー源の調達が需要家サイドに移行することを意味します。
これまでのエネルギー業界は、電力会社、ガス会社、石油会社という縦割り構造の中で「仕切られた競争」(compartmentalized competition)を行ってきました。そこでは、電力会社は送配電網を使って電気を、ガス会社はガス配管を使ってガスを、石油会社はガソリンスタンド等を通じて需要家にエネルギーを供給し、境界を越えて競争することはありませんでした。しかし、再生可能エネルギーの広範な導入や1995年以来の電力自由化の進展により、こうした「仕切られた競争」に基づいた業界秩序が崩れつつあります。
燃料や供給プロセスの転換といった根本的な変化が起こる中で、従来の業界ごとの垣根に基づいたサプライサイド指向の体制では、市場のニーズに柔軟に応えることは難しくなります。例えば、自家発電設備を持っている需要家に対するサービスは、系統電力と自家発電が連携したほうが顧客のニーズに対応しやすいはずです。しかも、20年あるいは50年に向けて、人口の減少に加えて、産業部門の省エネ、家庭やオフィスにおける省エネ・創エネ機器の導入が急速に進むことなどを考えると、エネルギーに対する需要量は大きく減少していくことが予想されます。
 こうした中で新しいエネルギー体制として求められているのは、低炭素、低コストなどの顧客のニーズを起点として、顧客にソリューションを提供するようなビジネスモデルへの転換です。海外での発電事業やガス供給事情に進出するというグローバル戦略の本格的展開も必要となります。電力会社、ガス会社、石油会社は、エネルギー分野の垣根を越えた総合エネルギー企業へと脱皮し、顧客ニーズに的確に対応するという今までにない構造転換が求められています。

「スマートグリッド革命」(シリーズ;米連邦政府機関は率先垂範してCO2削減)

2010-12-24 00:08:39 | Weblog
10年1月29日、連政府の35機関が排出するCO2を20年までに08年比で28%削減するという目標が取りまとめられました。これには、連邦政府自らがCO2排出削減の模範となり、アメリカ全体の取組みをリードしていくねらいがあります。連邦政府機関の電力・燃料費は08年に245億ドルにも達していますが、オバマ政権は、この削減目標を達成することで、石油に換算して年間2億500万バレルのエネルギーを削減し、20年にかけて80億~110億ドルのエネルギー経費が削減できると試算しています。
 これを実施するための大統領令「環境、エネルギーおよび経済パフォーマンスにおける連邦のリーダーシップ」は、各連邦政府機関に対し、排出削減目標の提出のほか、目標達成のための年次計画の策定や、物品供給者などの直接的に管理を行っていない排出源からのCO2排出削減目標についても報告するよう求めています。今後は、行政管理予算局(OMB)が各機関の年次計画の内容などを確認・評価し、進捗状況を毎年公表するとしています。

「スマートグリッド革命」(シリーズ;グリーンジョブの創出が目的)

2010-12-23 01:27:15 | Weblog
アメリカの「グリーン・ニューディール」の大きな目的の一つが「グリーンジョブ」の創出です。アメリカでは「グリーン・ニューディール」よりも「グリーンジョブ」という言葉がよく聞かれるくらいです。「グリーンジョブ」に関して、09年12月バイデン副大統領は、ARRA法に基づく09年会計年度における280億ドルの政府による投資と関連する520億ドルの民間投資により、スマートグリッド分野で10万4000人、再生可能エネルギーをはじめとするエネルギー関連全体で90万人のグリーンジョブが創出されるとの試算を公表しました。スマートグリッド以外では、再生可能エネルギーの研究開発240億ドルにより72万2000人、エネルギー製造技術の開発23億ドルにより5万8000人という内訳になっっています。 また、バイデン副大統領は、09年から12年までの間で、再生可能エネルギーの発電量と関連する製造能力が倍増するとの見通しも明らかにしました。
アメリカでは失業率が10%を超えるなど厳しい雇用情勢が続いています。この状況にかんがみ、オバマ大統領は09年12月8日、雇用対策案を発表しました。このうち、「グリーンジョブ」に関するものとしては、①消費者がエネルギー効率化機器を家庭に導入する際の奨励金の創設し、消費を喚起することにより雇用拡大を図ること、②ARRA法で実施していた、エネルギー効率化やクリーンエネルギー関連製造業に対する支援を強化することが盛り込まれています。①は、日本のエコポイント制度と同様の発想に基づくものです。また、②は、従来ARRA法においてクリーンエネルギー支援のためのファンド組成に大掛かりな投資を行ってきましたが、民間投資のテコ入れと雇用の創出を図るため、これらの産業への投資に加えて、税制の優遇を与えるものです。
この「グリーン・ニューディール」と「グリーンジョブ」の中核となっているのがスマートグリッドです。オバマ政権は、総額110億ドルもの予算をスマートグリッドプロジェクトの支援に割り当てました。これはグリーン・ニューディール関連予算の18%以上に相当する大きな金額です。
 スマートグリッド関連の研究やプロジェクトとしては、Grid Wise(グリッドワイズ)、Intelli Grid(インテリグリッド)、Moderngrid Initiative (モダングリッド・イニシアティブ)、Advanced Metering Infrastructure(アドバンストミータリング・インフラストラクチャ)など様々なものがありました。しかしオバマ政権誕生後、スマートグリッドは一気にエネルギー政策、地球温暖化対策の中核として位置づけられるようになりました。

「スマートグリッド革命」(シリーズ;プラスエネルギー都市を目指すフランス自治体)

2010-12-22 00:07:35 | Weblog
再生可能エネルギー導入を目指すフランスの地方自治体の中でもっとも野心的な取組みを行おうとしているのが南仏のペルピニャン市と周辺23市町村です。ペルピニャンの計画では、年間消費電力を上回る再生可能エネルギー発電の拠点の設置を目指しています。環境・持続可能整備開発省は、この取組みへの支援を決定し、再生可能エネルギー生産の「世界の見本」とすべく、09年1月18日にペルピニャン市ならびに周辺市町村と枠組み合意を交わしました。
この「グルネル合意2015」は、太陽光、風力、排熱利用など、複数のエネルギー資源を利用しながら、100%再生可能エネルギーによって、地域の消費量を上回るエネルギーを生産することを目的としています。ペルピニャンのエネルギーは、風力発電機40基、太陽光発電所3基、市北部のカルス焼却施設の排熱利用、公共建物の屋根にソーラーパネルの設置を進めることで確保します。さらにサン=シャルル市場(地中海沿岸産の野菜や果物を扱うヨーロッパ流通拠点)の屋根に、総工費5,500万ユーロをかけて、7万㎡のソーラーパネルを設置する予定です。
計画では、地域全世帯の電力消費量43万6,000メガワット(MW)hに対して、再生可能エネルギーによる年間電力生産量は44万メガワット(MW)hになります。ここに産業用電力消費量30万メガワット(MW)hが加わります。ペルピニャン市は、さらに再生可能エネルギーによる生産量が消費量を上回る「プラスエネルギー都市」をめざすとしています。
ペルピニャン市ならびに周辺市町村と、環境・持続可能整備開発省の間で交わされた枠組み合意には、市町村境界付近の農業開発や、地元産の野菜や果物を地域に流通させる地産地消ルートの整備も盛り込まれています。
また、フランスボルドー市では、見本市会場の大駐車場の屋根(合計面積9万2000平方メートル)に、約6万枚の太陽光パネルがを設置する計画です。都市圏の建造物に併設される太陽光発電拠点としてはフランス国内最大となります。10年初に着工しており、同年末には完成、年間12メガワット時の電力を発電する予定です。 

「スマートグリッド革命」(シリーズ;新成長戦略の目標を実現するスマートグリッド)

2010-12-21 00:00:01 | Weblog
 政府の「新成長戦略」においては、環境エネルギー分野での「グリーンイノベーション」により、20年までのCO2「90年比25%減」とともに、①50兆円超の環境関連新規市場、②140 万人の環境分野の新規雇用を実現することを目標として掲げています。また、日本国内でのCO2削減に関する新中期目標にとどまらず、日本の民間ベースの技術を活かして世界の温室効果ガス削減量を13億トン(日本全体の総排出量に相当)以上削減するという目標を掲げていることも注目されます。
 「You Energy」のパラダイムをもたらすスマートグリッドに関しては、「日本型スマートグリッドにより効率的な電力需給を実現し、家庭における関連機器等の新たな需要を喚起することで、成長産業として振興を図る。さらに、成長する海外の関連市場の獲得を支援する」として、「グリーンイノベーション」の中核として位置付けるとともに、地方から経済社会構造を変革するモデル作りの有力なツールとしてもとりあげているのが特徴です。
特に関心を引くのは、エコ住宅の普及、再生可能エネルギーの利用拡大、ヒートポンプの普及拡大、LEDや有機ELなどの次世代照明の100%化の実現などにより、住宅・オフィス等のゼロエミッション化を推進するとしていること、家庭部門でのゼロエミッション化を進めるため、各家庭にアドバイスをする「環境コンシェルジュ制度」を創設するとしていることなどです。
  地方とスマートグリッドに関しては、09年12月22日に発表された総務省の「原口ビジョン」の中で推進するとされた「緑の分権改革」の実現の中でも取り上げられています。この中で、地域におけるクリーンエネルギー資源の賦存量の調査とフィージビリティ調査、固定価格買取りの仕組みや住民共同出資の活用等も含めた事業化方策についての先行実証調査を全国的に展開(10年度第2次補正予算)、再生可能エネルギーの「地産地消」プロジェクトを全国50地域で創出(15年)、売電収入(ポイント)をエコ商品の購入、電気自動車への充電対価等にあてる「グリーン・コミュニティマネー」の全国展開完了(20年)が謳われています。

「スマートグリッド革命」(シリーズ;自動車メーカーも大競争時代に突入)

2010-12-20 00:14:53 | Weblog
「スマートグリッド革命」の下で、自動車メーカーも“大競争”時代に突入しています。09年10月に放送されたNHKスペシャル『自動車革命』でのシリコンバレー、中国などの“Small Hundreds”と呼ばれる中小自動車メーカー群の登場は衝撃的でした。
韓国の電気自動車ベンチャーも登場しています。韓国のCT&T社は、2人乗りのEV「e—ZONE」を09年11月から日本市場にも投入していますが、驚くのはその価格です。鉛電池搭載の場合167万円、政府の購入補助金を使えば、100万円。リチウムポリマー電池を搭載した場合も、補助金を使えば130万円強です。先行して発売する三菱自動車の「i—Miev(アイ・ミーブ)」の320万円(補助金利用時)の半値以下です。最高速度は70キロメートル程度、1回の充電による走行距離も70〜120キロメートルですが、圧倒的な低価格路線で勝負しようとしています。
日本でも電気自動車を普通の乗り物として定着させようという草の根レベルの取組みが始まっています。例えば、埼玉県秩父市にある電気部品メーカーである埼玉富士は、新潟県長岡市の人間行動科学研究所」所長から指導を受けてガソリン車の中古を改造してEVの試作車を完成させました。同社のEVはセカンドカーとして、買い物や届け物、農作業などにちょっと行くときの「ちょい乗り車」という発想のものです。8時間フル充電で時速40キロの場合、連続40キロの距離を走れます。今のところ、改造費用を合わせた車の値段は120万〜130万円ですが、将来は100万円以下にすることを目指しています。このように、時代は確実にガソリンに支えられた20世紀の自動車文明の終焉を告げていると言えるでしょう。
こうした”破壊的イノベーション”であるプラグインハイブリッド車や電気自動車が今後普及すると、自動車業界を取り巻く環境は激変します。最大の変化は、自動車の動力源や動力機関です。動力源については、ガソリンなどの化石燃料がパワーバッテリによって供給される電気へと替わり、動力機関については、メカニクス技術・部品の代表格である旧来型内燃機関(ガソリンエンジンなど)が、動力モーターやインバーターなどのエレクトロニクス技術・部品へと替わります。
プラグインハイブリッド車や電気自動車普及のインパクトは、こうした製品のアーキテクチャーレベルの変化に留まりません。動力機関の変化に伴い、自動車メーカーの開発・生産・調達モデル自体が変わります。
メカニクス主体からエレクトロニクス主体への動力機関の変化は、これまで日本企業が得意とされてきた「すり合わせ型の垂直統合産業モデル」を、PCや液晶テレビ、携帯電話などのデジタル製品に代表される「モジュール型の水平分業産業モデル」へと変える可能性があります。部品点数の大幅な減少と主要部品の相互依存関係が簡単となり、部品のデザインルールが企業内で共有される「クローズドモジュール」から産業全体で共有される「オープンモジュール」へと転換する可能性すらあります。それにより、自動車メーカーを頂点とするピラミッド構造を形成してきた現在の自動車産業において、産業構造全体に及ぶ変化が起きる可能性も否定できません。
また、「車両は販売し、バッテリはリースする」という新規ビジネスモデルが成功すれば、これまで所有・保有することを前提とした自動車に対するユーザの価値観も革命的に変化することでしょう。その段階においては、消費者の自動車に対する役割・付加価値が、快適なモビリティ空間というものから、モビリティの原点としての移動手段というものへ回帰することとなります。そうすると、これまで自動車業界特有の仕組みだった「メーカー系列販売店による販売・サービス形態」も、同様に革命的変革を受けることになります。すでに家電製品に代表される他産業で主流となっているメガリテーラーや、ネットによる販売に主軸を移した販売・サービスモデルなどへ移行する可能性も出てきます。

「スマートグリッド革命」(シリーズ;欧州グリーンカーイニシアティブ)

2010-12-19 11:45:01 | Weblog
欧州では、加盟各国が次世代のエコカーの開発、普及のため積極的なイニシアティブを展開していますが、EU全体としても、環境に優しい車の開発、普及を目指す「欧州グリーンカー・イニシアティブ」(European Green Car Initiative:EGCI)が開始しています。これは、EU委員会が経済再生計画の下で開始している3つの官民パートナーシップ(Public-Private Partnership:PPP)、すなわち未来の工場(研究開発予算:12億ユーロ)、エネルギー効率のよい建物(研究開発予算:10億ユーロ)、グリーンカー(研究開発予算:50億ユーロ)の1つとして位置づけられているものです。
 05年時点で、EUにおける温室効果ガス排出の19%、CO2排出量の28%が運輸部門からのもので、CO2排出量の90%以上が道路輸送からとなっています。EGCIは、こうした状況に対応してディーゼル車の燃費性能の改善で環境対策を強化するという従来の方針を転換し、高密度電池、電気モーター、スマートグリットおよびそれと車とのインターフェイスの研究開発のほか、バイオメタンの利用に関する研究、物流・輸送システムの最適化に関する研究等を行います。研究開発資金50億ユーロのうち、10億ユーロは加盟国および民間企業からの資金、40億ユーロは欧州投資銀行(European Innestment Bank:EIB)からの融資でまかなわれることになっています。
また、EU内では地域ベースの電気自動車導入イニシアティブも始まっています。例えば、ドイツは09年8月に「エレクトロ・モビリティー国家開発計画」を発表し、20年までに100万台の電気自動車を国内に普及させる目標を立てていますが、この目標達成のために国内に8ヵ所の「e-モビリティーモデル地域」を指定し、各地域に達成目標を割り振っています。ノルトライン・ウェストファーレン州はその1つとして連邦全体の目標の25%を担い、「マスタープランe-モビリティ」を策定して20年までに25万台の電気自動車を普及させる方針です。
 具体的には総額5,000万ユーロ(連邦と州で折半、約60億円)の助成金を用意し、プロジェクトの提案を募り、州内の6ヵ所の地域で実証を行っていく計画です。技術分野は、大きく分けてバッテリ技術、車両技術、インフラ技術の3つで、どの分野に重点を置くかは地域によって異なります。また、デュッセルドルフ市は09年夏からフィアットの車を改造した電気自動車をPR用に導入するとともに、充電ポイントなども実験的に整備しています。