エコポイント&スマートグリッド

省エネ家電買い替え促進で有名となったエコポイントとスマートグリッドの動向を追跡し、低炭素社会の将来を展望します。

スタートアップ企業の雄、グリッドポイント

2011-10-31 07:00:30 | Weblog
続いて注目されるのは、スマートグリッドのスタートアップ企業の雄グリッドポイントです。
グリッドポイントは電力会社に対して、エネルギー効率向上、負荷マネージメント、再生可能エネルギーマネージメント、エネルギー貯蔵マネージメント、電気自動車pHEVマネージメントなどを行うモジュールやアプリケーションSmartGrid Platformを提供している企業です。また、グリッドポイントは消費者のエネルギーマネージメントを支援するオンラインのサイトを提供しています。
グリッドポイントは、スマートグリッド関係のスタートアップ企業のなかでも最も多くの資金を調達し、最も多く人々の話題に上った企業です。03年に設立され、2億200万ドル以上の資金を調達しました。本社はヴァージニア州のアーリントンに所在しています。09年2月Gridpointはソフトウェアの大企業OSIsoftとの戦略提携を発表しました。これによりSmartGrid Platformの拡張、強化が可能となるものと見込まれています。
08年9月グリッドポイントは、1億2000万ドルを調達してシアトルに本拠地のあるV2Greenを買収しました。これにより、プラグインハイブリッド車や電気自動車と電力ネットワークとの接続やピークバックなどの技術と技術スタッフを有することになりました。これを基盤として、グリッドポイントは車両に搭載する充電制御装置である「VCM(vehicle control module)」を開発しました。VCMを使えば、プラグインハイブリッド車や電気自動車の充電時間や充電量などを同社が管理するサーバで遠隔制御することができます。
また、同社は、ユーザが携帯電話から多数の急速充電器に関する空き情報を検索できるサービスを提供しているクーロン・テクノロジーと提携して、自社のネットワークとクーロン・テクノロジーのネットワークを連結するようにしました。これにより、家庭や個人はHEMSとV2Gを一体化させてエネルギー管理、CO2排出管理ができるようになりまりました。
さらにグリッドポイントは、09年11月、オフィスビルや工場などのエネルギーマネージメント・システムのトップ企業であるADMMicro社を買収し、この分野においても積極的に進出しています。電力会社との関係では、グリッドポイントはエクセルアネジーとのエネルギー貯蔵プロジェクト、デュークエナジーのプラグインハイブリッド車プロジェクトの2つのパイロットプロジェクトに参加しています。

活発な動き見せるインテルとオラクル

2011-10-27 06:48:59 | Weblog
インテルはハイテク企業の中では最も再生可能エネルギーの購入が多い企業として知られていますが、そのスマートグリッド戦略は、電力ネットワークをよりスマートにすることにより、自社のプロセッサの販路を拡大しようという「インテル・オープン・エネジー・イニシアティブ」が基本です。
この一環でIEEEの活動を支援するなどスマートグリッドの標準化にも取り組んでいます。また、アメリカの電力の76%は建物が消費し、CO2の43%は建物から発生していることから(データセンターが典型例)、スマートグリッドの鍵はスマートビルディングであるとして、スマート化されていない住宅と小規模な商用ビルにスマート化に注力しています。
このうち住宅に関しては、Tendrillと提携して、HEMSを消費者に提供しています。ディスプレイ装置としては、専用の家庭内ディスプレイとともに、インターネットTVを活用する方式を提案しています。10年1月インテルは、ホーム・エネルギーマネージメント・システムおよびダッシュボードを発表しました。Zigbee通信方式を採用し、サーモスタットによる室内の温度や湿度の表示、家電などのエネルギーの使用状況の表示や操作にとどまらず、ネットに接続し情報端末として機能して、家庭の電気料金が30%低減することを目標としています。また、商用ビルに関しては、傘下のIntel Capitalが出資しているArch Rock(超低消費電力のIPベースのセンサを開発)が商用ビルのスマート化を進めるためのAR Energy Optimizerを提供しています。
 これに続くのはオラクルです。
09年5月、オラクルは電力会社向けにスマートグリッド関連のエンド・トゥ・エンドのスマート・グリッド・ソフトウェア群を市場投入することを発表しました。これには、スマート・メーター・データ管理をはじめ、課金・顧客関係、負荷分析、規制遵守、労働力・資産管理を含む業務分野を広範に網羅しています。停電箇所を特定したり、配電自動システムに障害が生じたときにシステムを正常に戻す機能を有するソフトウェアMDMもあります。
 このためオラクルは、06年に電力会社の収入・事業管理を行うソフトウェアメーカーであるSPLワークグループを、07年にMDMの開発メーカーであるロードスター・コーポレーションを買収しています。この分野でオラクルは、IBM、SAPなどの大企業やe-Meter、エコロジック・アナリティックなどのスタートアップ企業と競争しています。


オールIPネットワークを推進するシスコシステムズ

2011-10-26 06:46:39 | Weblog
09年5月シスコシステムズは、『Cisco Smart Grid Solutions』を発表し、スマートグリッド市場におけるリーダーシップをとるための方針を表明しました。
シスコの戦略は、①送電・配電の自動化(Transmission & Distribution Automation)、②スマートグリッドのセキュリティ確保(Smart Grid Security)、③スマートメーター・最終端末通信(Smart Meter & Endpoint Communication)、④事業所・家庭エネルギーマネージメント(Business & Home Energy Management)の4つで構成されていますが、簡単に言えば、送電線網全体のコミュニケーションを実現するIPインフラの構築支援と言えます。すなわち、家屋に設置する高機能なメーター、伝送用ルーティング機器、そして送電線網自体の管理や監視を支えるソフトウェアの展開をIPベースで行おうというものです。このSmart Grid Solutions での戦略は、09年1月に発表されたCisco のネットワークの電力管理プログラム『Cisco EnergyWise』を発展させたものです。 
このためシスコは、ドイツの電力会社Yello Stormと共同で、70の家庭とオフィスビルを対象にしたオールIP実証実験を行っています。これにより、オフピークの最適制御、10%以上のエネルギー消費の削減などを期待しています。エネルギー分野におけるオールIPネットワークとしては、初めての試みとして注目されます。
電力会社との関係では、フロリダ電力会社の2億ドルの事業規模の「エネジースマート・マイアミ」(Energy Smart Miami)において、GEがスマートメーターを、シルバー・スプリング・ネットワークが無線通信のサービスを、シスコがネットワーキングを提供しています。これはシスコにとってはじめてのスマートグリッ関連プロジェクトです。さらにシスコは、より大きなスマートグリッ関連プロジェクトとしてデュークエネジーとのプロジェクトに取り組んでいます。これは10億ドルかけてデュークエネジーがスマートメーター、AMIを整備するものです。デュークエネジーは、過去5年にプラグインハイブリッド車とマイクログリッドなどの実証事業に取り組んできていますが、AMIのパートナー選定には慎重な姿勢をとってきました。そのデュークエネジーがシスコをパートナーに選定したことは、他の電力会社もその方向に動く可能性が大きいと専門家は分析しています。シスコは、この分野において、現在AMI事業のリーダー企業であるシルバー・スプリング・ネットワークと競争していくことになります。
09年9月17日、シスコはそのスマートグリッド基本戦略の体系化のメニューを公表しました。それによると、次の4本柱となっています。
① Cisco Smart Grid Ecosystemの形成:IPベースの通信方式の標準化とその拡大を図るため、コンソーシアムを結成。第1次としてArcadian Networks,Capgemini,Infosys,ITron,Ladis+Gyr,Secure Logix,Verizon,Wipro,Worldwide Technologiesの各社を結集しています。
② Cisco Smart Grid Techical Advisory Board:世界中の革新的な電力会社やエネルギー顧客を集め、顧客からCisco が提供すべき製品やサービスに対するフィードバックを受ける。
③ セキュリティサービスやソリューションの提供:新しいセキュリティ関係のサービスやソリューション群を提供します。
④ 互換性とIPベースの通信標識の標準化:シスコの最優先課題です。このためにZigbee Alliance参加し、Zigbee Smart Energy Profile 20の技術と製品を市場に供給しています。
アメリカの専門家の間では、シスコの参入は、「MicrosoftのWindows95やAppleのiPhone登場に相当するものだ」とか、「情報通信のWeb2.0や Telecom 2.0ように、次世代巨大インフラ(next vast infrastracture)であるスマートグリッドや新たな電力経済(electricity economy)の扉を開くものだ」という評価がなされています。

スマートグリッドビジネス総合戦略を展開するGE

2011-10-25 06:12:28 | Weblog
IBMに次いで注目されるのは、GEです。GEは、スマートグリッドに積極的なアメリカにおいても、もっとも早くからこのテーマに取り組んだ事業者の一つです。発電・送変電設備からエンドユーザ向け製品に至るまで、電力に関わるすべての領域においてフロントランナーである強みを生かした包括的なサービスの提供を推進しています。
 GEのスマートグリッド・サービスは、スマートメーター、制御・管理用ソフトウェア/ソリューション、モニタリング/センシング・システムの3つで構成されています。その中核であるスマートメーターは、様々な通信方式に対応したAMIソリューションとして、電力利用量、利用時間、電力消費サイクル・パターンなど、電力の利用状況をユーザが客観的に把握する数々のデータを提供するだけでなく、電力品質を監視するデータも取得することが出来ます。アメリカをはじめ、カナダ、中南米、オーストラリア、メキシコ、スウェーデン、イギリスなど、世界各国ですでに販売されており、着実に実績を上げています。
 09年7月GEは、10年に発売を予定しているスマートメーターと通信して電気をより安い料金で活用できる家電製品を発表しました。GEはまた「Home Energy Manager」も発表しました。このデバイスによって、消費者は電力消費量をより詳細に把握し、家電製品の設定をプログラムすることができます。例えば、電力会社がスマートメーターを介してピーク時価格適用中の信号を送ると、衣類乾燥機が「節約」モードに切り替わるといった設定が可能となります。GEは、こうした同社の需要応答家電製品のコストは10ドル程度高くなると予想していますが、市場性は十分あると見ています。
 09年8月GEは、「Net Zero Home Project」としてスマートグリッド対応製品を発表しました。これまでも展示会などでネットワークに接続されたアプライアンスが出展される例は日本を含め多々ありましたが、実際にスマートグリッドのサービスの提供が開始されただけに現実感があります。今後11年頃まで、少数の牽引者となるメーカーから少数機種のスマートグリッド対応製品が発表され、試行錯誤を経ながら機能が進化していくものと思われます。
 GEのスタートアップ企業に対する投資・提携戦略としては、GEは09年10月に、GEEnergy Servicesを通してGridnet に追加投資しました。Gridnetは、Wimax4Gを活用する次世代スマートメーターGE Wimax Smart Meter(IntelのWimax半導体チップセットを使用)に対してネットワークマネージメントのためのソフトウェアなどを提供している企業です。GE Energy Financial Servicesのほか、Intel Capital も出資しています。
08年以降Gridnetは、その技術をGE Energyにライセンスしています。Gridnetの活動はステルスモードですが、4つの電力会社との間でWimax4Gを活用するAMIの構築について協議を進めています。AMIのリード企業であるSilver SpringやTrilliantが使用している免許の必要のない900MHz帯の無線「メッシュ・ネットワーク」とは異なり、Wimaxは免許を取得した帯域で使用されるため、セキュリティ、信頼性に優れていると主張されています。また、他の無線方式に比して、消費電力が低いところが特徴です。
 GEは、この分野のスタートアップ企業であり、TREE(Tendrill Residential Energy Ecosystem;Zigbeeを活用したエネルギーマネージメントソフトを電力会社と消費者に提供するもの)で急速に市場に浸透しているTendrill Networksが行うエネルギー負荷制御やエネルギーマネージメントのアルゴリズム開発に関しても戦略提携を行っています。Tendril Networksは、スマートサーモスタット、スマートプラグなどのスマート機器を販売し、ウェブベースでiPhoneでも利用可能なHEMS表示サービスなどをも提供している会社です。GEのGridnetやTendrill Networksに対する投資・提携戦略は、多様なAMI通信方式が登場し、標準化、インターオペラビリティの確保が難しくなっている状況の下で、選択肢の多様化を図るものです。
GEは、クリーンエネルギー政策のロビー活動とスマートグリッド向けソフトウェアの開発でグーグルと協力関係にあります。GEとグーグルの技術連携のテーマのひとつは、地熱発電の中でも先端技術として注目されるEGS(Enhanced Geothermal Systems)関連技術の開発です。EGSは、地下にある高温の岩体を水圧で粉砕し、そこに水を送り込んで蒸気を得るというもので、熱水が乏しい場所でも発電が可能となるため、地熱発電の場所的制約を取り除く技術として期待されています。
技術面における連携の2つ目は、家庭のコンセントで充電可能なプラグイン電気自動車の実用化を促進することです。プラグイン自動車を電力ネットワークに統合する制御機器やソフトウェア、サービスの開発を目指しています。プラグイン自動車をソフトウェアによって管理し、オフピーク時を選んで充電するような賢い仕組みを作れば、電力供給の安定を保ったまま利用を拡大することができます。
発電・送変電の分野では、GEは,Hawaiian Electric Company(HECO)、Maui Electric Company(MECO)、Hawaii Natural Energy Institute(HNEI)、アメリカエネルギー省(DOE)と協力し,ハワイのマウイ島におけるスマートグリッドプロジェクトを手掛けています。現在、マウイ島のピーク電力需要は約200メガワット(MW)ですが、その内30メガワット(MW)をすでに風力発電で補うことに成功しています。同社は、このプロジェクトをさらに推し進め、再生可能エネルギーの効率的な活用技術の確立を目指していく予定です。
GEは海外でもスマートグリッド構築を推進しています。対象地域はインド、ノルウェー、アラブ首長国連邦と韓国などですが、このうちインドに関しては、GEはインドの電力会社North Delhi Power Limited(NDPL) に協力して、スマートグリッド構築に乗り出しています。またノルウェーでは、風力発電会社を買収し、洋上発電を戦力的に展開しようとしています。韓国では、大手通信事業者のNURitelecom Corp.と共同開発を行っています。


ICTパワーを全開させてスマートグリッドに取り組むIBM

2011-10-24 06:47:49 | Weblog
ここで活発化する米企業のスマートグリッドビジネス戦略を紹介しましょう。まずは、IBMです。IBMは、電気・ガス使用の抑制、CO2排出、データセンターのエネルギー、そして水資源の問題に取り組むために、06年に「Big Green Innovations」プログラムを立ち上げ、それ以降活発な活動を展開してきています。
 このうち電気・ガスに関係するものに関しては、電力・ガス会社に対してスマートグリッド関連プロジェクトを推進するために必要なさまざまなサポートサービスを提供しています。また、ソフトウェアの分野では、AMI需要応答、分散型発電と電力貯蔵、HAN、プラグインハイブリッド車などに関連したスマートグリッドの主要な市場において、システムアーキテクチャーと企業アプリケーションの両方を提供しています。
 消費者にとっては、スマートグリッドにより、リアルタイムで電力消費量を知らせるディスプレイやウェブサイトを家庭で利用できるようになります。07年に行われたIBMの「グリッドワイズ」(Grid Wise)のスマートグリッド試験運用の結果、適切な機器を利用することで消費者が電力会社の電力効率プログラムに参加でき、電気代を約10%節約することが可能であることが明らかになりました。 
IBMの電力・ガス会社との取組みに関しては、IBMは、テキサス州の電力会社センター・ポイント・エネジー、オハイオ州の電力会社アメリカン・エレクトリック・パワー、ミシガン州の電力会社コンスーマーズ・エネジーとの間でスマートグリッド関連のパイロットプロジェクトを実施するとともに、フランスの電力会社EDFとの間で共同研究開発を進めています。また、マルタ島において、5年契約を締結し、現在まで7000万ドルを投入してスマートグリッド関連プロジェクトを推進しています。
 09年6月IBMは、「グリーン・シグマ・コアリッション」(Green Sigma Coalition)と呼ばれる企業コンソーシアムをジョンソンコントロール、ハネウェルビルディングソリューションズ、ABB、イートン、ESS、シスコ、シーメンス、シュナイダー・エレクトリック、SAPとともに結成しました。コンソーシアム企業は、それぞれの製品やサービスをIBMのものと統合していくことを目指しています。さらにIBMは、電力配電網に対する新技術統合を加速する技術的フレームワークの整備をすすめています。これは、公益事業とスマートグリッドベンチャー企業が共通して利用する通信プロトコールとデータフォーマットを策定しようというものです。
 09年9月、IBMは電力会社がスマートグリッドソリューションのプログラムを構築し、中小ベンダーがスマートグリッド関係のアプリケーションやサービスを提供することを容易にするため、「Solution Architecture for Energy and utilities Framework」(SAFE)を提供すると発表しました。 SAFEの主要な機能は、①asset,device and service monitoring、②asset lifecycle management、③informed customer experience、④business process automation、⑤regulatory,risk and compliance management、⑥security solutionsです。SAFEの特徴は中小ベンダーをサポートする機能を充実させていることですが、その関係では、IBMとTrilliantが緊密なアライアンスを形成しています。その他、 BPL Global,Coulomb Technologies,eMeter,Enterprise Information Management,ITron,OSIsoft,PowerSense などもIBMのビジネスパートナーとなっています。
注目すべきは、IBMがこのような電気におけるスマートグリッドの動きを水に関しても展開していることです。この関連では、現在IBMはIT関連の水資源管理技術のポートフォリオを開発中です。今後5年以内に、同事業は200億ドルの規模に成長する可能性があると予測しています。その目標は、地球上の水資源でわずか1%しかない実際に利用可能な淡水を、より効率的に使用するために必要となる技術的なアーキテクチャーの構想を練ることです。このためIBMとIntelは、どのようにすれば情報と技術を水資源管理の改善に活用することができるかを研究する作業グループを結成しています。

米通信キャリアも積極的に市場に参入

2011-10-20 07:02:50 | Weblog
アメリカでは、通信キャリアもスマートグリッド、特にHANやHEMSの世界で積極的かつ意欲的な取組みを開始していますが、その背景には、トリプルプレイのビジネスモデルが価格だけの競争となり、低価格競争により収益をあげえなくなってきたことがあります。
トリプルプレイとは、音声(電話)・ビデオ(放送)・データ通信という3つの通信機能を1つの回線で提供するサービス形態のことです。通信事業者にとってFTTHやCATVなどを利用する収入源として注目されてきました。これまでは、音声による通信には電話回線を使用し、ビデオはテレビ放送やCATV、データ通信はISDN・ADSL・FTTHを使用するといったように、それぞれの通信は、異なる回線を使って提供されていました。しかし、どの通信においても競争が激しく、他社との差別化を図るためにも、これら3つのサービスを統合して提供することで将来の収入源を確保しようという動きが高まってきたために、通信業界で使われるようになったキーワードがトリプルプレイです。
 トリプルプレイには、テレビ番組の配信を行ってきたCATV事業者が、インターネット接続サービスやIP電話サービスを始めたり、インターネット事業者がIP電話やVOD(ビデオ・オン・デマンド)による映像の配信に力を入れるといった動きがありますが、様々な事業者がトリプルプレイのビジネスモデルで市場に参入したため、ポスト・トリプルのプレイビジネスモデルの差別化が必要となっています。
このような観点から、今やHEMSはアメリカのHAN市場においてキラー・アプリケーションとなっており、Verizon、AT&T、Nokiaなどの通信キャリアは、HEMSに関連した各種サービスを提供することにより、他社とは異なるビジネスモデルを構築しようというねらいで積極的なビジネス展開を行っています。 

頭角を現すスマートメーター企業

2011-10-19 06:17:57 | Weblog
さまざまなスマートメーター企業が頭角を現してきています。ITron、Landis+Gyr、Emeter、 Elster、 Sensus、GE(GE Energy)のスマートメーター大手6社を筆頭に多くのメーターメーカーがビジネスを拡大しています。メーター大手ITronは、デマンド・レスポンスのComvergeと提携しているほか、ホーム・グリッド分野ではGoogleとも提携しています。
これに加えて、スマートメーター・ネットワークを得意とするSilver Spring Networks、Trilliantなどは、無線の「メッシュ・ネットワーク」(免許のいらない900MHz帯を活用。通信機能を持った機器が相互にデータをバケツリレー式に伝送し、隣の端末へ、そのまた隣の端末へ・・・と転送を繰り返して目的の端末まで運ばれる方式)を独自に構築する方式でサービスを提供しています。この分野の花形は、何と言ってもSilver Spring Networksです。同社は、クライナー・パーキンスなどのベンチャー・キャピタルなどから資金を調達しています。また、同社はGoogleの投資先第1号でもあります。
Silver Spring Networks の前に立ちはだかっているのが、Cisco Systemsです。Silver Spring Networks とCisco SystemsはFlorida Power and LightのAMIプロジェクトで提携していますが、09年6月に発表されたDuke Energyの10億ドルを超える大規模なAMI構築でCisco Systemsがネットワークを単独で受注して以来、競争関係にあります。
スタートアップ企業としては、Control4とeMeterが注目されます。このうちControl4は、03年に設立された会社で、無線、有線のIPベースのホームオートメーション製品を提供しています。製品の中には、ホームオートメーションのあらゆる局面をサポートするソフトウェアであるThe Composerのほか、各種機器があります。Control4社のエネルギー管理ソリューションと双方向通信対応のスマートメーターを組合せることで,顧客は継続的な消費電力量とピーク時の消費電力量の低減を図れます。リアルタイムの消費電力量を基に室内温度や照明などを自動調整することで,消費電力量をコントロールできるほか,顧客が遠距離から変更を加えられるように、イベント・ベースで警告を発する機能も備えています。
eMeterは、MDMとAMIを統合した機能を有するスマートメーターからの膨大なデータ処理をするソフトウェアの供給を行っている会社です。そのソフトウェアはEnergy IPと呼ばれています。eMeterのソリューションは需要応答 を可能にします。eMeterはEnergy IPの提供のみならず、関連するコンサルティングサービスも提供しています。09年2月eMeterはCenterPoint Energyの200万のスマートメーターへのソフトを提供すると発表しました。その後Alliant Energy,Jacksonvill Electric Authority,カナダのOntario州とも取引の協議に入っており、スマートメーターの数は合計2000万に達します。
また、この分野で画期的な出来事は、SmartSynchが09年11月、フルIPベースのGrid Routerを開発したと発表したことです。アメリカの報道では、スマートグリッド上の文字をすべて解読することにつながるという意味で、「スマートグリッドのロゼッタストーン」と形容されています。

再生可能・分散型統合システムとウェストヴァージニア州の需要応答

2011-10-18 07:21:53 | Weblog
スマートグリットについては、特に再生可能エネルギーの導入に着目し、再生可能エネルギーとスマートグリットとをドッキングさせたシステムを開発するため、エネルギー省(DOE)は再生可能・分散型統合システム(RDSI:Renewable and Distributed Systems Integration)の実証事業を全米9地域で推進しています。RDSIは、スマートグリット、分散型発電、双方向のコミュニケーション、需要応答の4つを組合せたシステムで、15年までにピークロードを20%削減することを目的としています。
 9地域とプロジェクトの実施主体は、コロラド州フォートコリンズ(フォートコリンズ市)、イリノイ州シカゴ(イリノイ技術研究所)、ニューヨーク州ニューヨーク(統合エジソン)、ウェストヴァージニア州モーガンタウン(アレゲニー電力会社等)、ネバダ州ラスベガス(ネバダ州立大学ラスベガス校)、ハワイ州マウイ島(ハワイ州立大学)、カリフォルニア州サンディエゴ(サンディエゴ電力ガス会社)、カリフォルニア州アラメダ郡サンタリタ刑務所(シェブロン・エネルギー・ソリューションズ)、ユタ州プロモントリー(ATKスペースシステムズ)です。
このうち、最も早く取り組んだのは、ウェストヴァージニア州モーガンタウンです。ウェストヴァージニア州は25年までに電力に占める再生可能エネルギーの割合を25%に高めることを目標としており、全米で始めて州全体のスマートグリット推進計画を策定したところです。そのため、モーガンタウンにあるリサーチリッジ研究所において、アレゲニー電力会社、オーガスタシステムズ、国立エネルギー技術研究所、ウェストヴァージニア大学先端電力研究センター、ホライゾンエネルギーグループが参加して、08年2月よりスマートグリットの実証事業に取り組んでいます。

実証された需要応答の効果

2011-10-17 07:18:06 | Weblog
アメリカでスマートメーターによる需要応答の効果を実証したものとして、米DOEの国立研究所であるPacific Northwest National Laboratoryにより08年に行われたGridwise Olympic Peninsula Demonstration Projectがあります。これは、Pacific Northwest Gridwise Testbedというテストベットを活用して行われたもので、5分間隔のダイナミック・プライシングによる効果をブロドバンド環境で実証したものです。実証の結果、これによりピーク電力を15~17%減少させるとともに、平均的な家庭で15%電気料金を安くすることができるということが明らかになりました。こうしてアメリカでは、ダイナミック・プライシング(リアルタイム・プライシング、ピークカットに協力した際の時のリベート、ピーク時の電力使用の節減に同意した家庭に対する電力料金の値下げの3つを内容としています)の有効性が実証され、それが広範に普及される素地ができました。
需要応答の効果については、09年6月に発表された連邦エネルギー規制委員会(FERC)のスタッフ報告書は、19年に実現できる負荷平準として4つのケースを提示しています。それによると、①現状レベルの需要応答が継続された場合は38ギガワット(GW)(4%)、②現状レベルの需要応答がすべての州に拡大した場合は82ギガワット(GW)(9%)、③全世帯にスマートメーターが導入され、ダイナミック・プライシングが初期設定された場合は138ギガワット(GW)(14%)、④全世帯にスマートメーターが導入され、ダイナミック・プライシングを含めすべてのプログラムが実行された場合は188ギガワット(GW)(20%)の負荷平準が需要応答 により実現することができると報告されています。
 また、同スタッフ報告は、需要応答を実現するための課題として、①法的課題(卸売価格と小売価格の直接的な連結の欠如、計測と検証への取組み、リアルタイムでの情報共有の欠如、実効性の少ない需要応答プログラムの設計、需要応答のコスト分析に関する合意の欠如)、②技術的課題(AMIの基盤の欠如、コスト高、互換性やオープンな標準の欠如)、③その他の課題(顧客の認識と顧客への教育の欠如、環境への影響に対する関心)をあげ、これらの課題を早急に解決するとともに、ダイナミック・プライシングの価格体系の導入を全米レベルで行うことを求めています。
ここで興味深い調査結果をご紹介したいと思います。カリフォルニア州の電力会社PG&Eが、3年かけて2500人の顧客を対象に2000万ドル規模のパイロット事業を実施したところ、ピーク時の需要削減率は、使用時間による料金情報の場合で8%、ダイナミック・プライシング設定のシグナルの場合で13%、スマートサーモスタットの場合で27%なのに比し、ゲートウェイシステムを用いた場合は43%にもなることが判明しました。後述するOpen ADRとユーザによる負荷制御が可能な機器の普及重要になります。

3段階で進む需要応答への国家的取組み

2011-10-14 06:35:33 | Weblog
アメリカの国家的な需要応答(デマンド・レスポンス)の取組みにちてついて解説します。
アメリカの需要応答とは、発電事業者と小売事業者との間で電気が取引される卸売市場の需給の変化に基づき、小売事業者が需要家に電力消費量を変化させるインセンティブを提供することを意味しています。アメリカの電力業界に対しては、振興に関するものはエネルギー省(DOE)、規制に関するものは、卸売市場については連邦エネルギー規制委員会(FERC)、小売市場については州の公益事業委員会(Public Utility Commission)というように関係部署が分かれていますが、第2節で述べたように連邦政府により巨額の導入支援策が講じられているスマートメーターを活用した需要応答に関しては、これら組織を挙げて国家的取組みを進めています。
アメリカにおけるスマートメーターを活用した需要応答は、自動車の電動化、すなわちV2Gとの関係づけを明確に意識しています。前述のように、アメリカ政府はプラグインハイブリッド車を15年までに100万台普及させる計画を有しています。そうなると、大量のプラグインハイブリッド車が家庭などの電力ネットワークから充電することになりますが、そうなった場合でも電力ネットワークの安定化を図る必要があります。その際に、充電の開始時刻など需要側の負荷を制御する仕組みとして、発電側でも消費側でもリアルタイムの電力を監視するセンサ網や通信ネットワークの構築が必須であると考えており、その一部をスマートメーターに担わせるという考えです
 現行のアメリカの電気料金体系はこのような考慮がなされないフラットレートが通常ですが、05年エネルギー政策法は、DOEに対して需要応答を行うことの国家的な利益を数量的に特定すること等を求めました。これがアメリカの需要応答に対する取組みの最初です。
 これを受けて、06年2月に「電力市場における需要応答の利益とそれらを達成するための勧告」(Benefit of Demand Response in Electricity Markets and Recommendations for Achieving Them)と題する報告書がDOEによりまとめられました。これによると、需要応答 には「価格型需要応答」(Price-based Demand Response)(時間帯別に供給費用の違いを反映した電気料金を設定すること)と「インセンティブ型需要応答」(Incentive-based Demand Response)(プログラム設置者が需要家と契約を締結し、卸電力料金の高騰時または緊急時に、需要家に対して負荷制御を要請ないし実施する)の2種類があるとされており、日本の大口需要家との需給調整契約や家庭向けにも提供されている時間帯別料金といったものも含まれる非常に広い概念内容となっています。
 07年EISA法は、3段階で需要応答 を推進することを政府に求めています。第1段階は、州ごとに需要応答 の可能性をアセスメントすることで、この段階は09年6月に終了しました。第2段階は1年以内に推進計画を策定することで、すでに同年10月にドラフトが公表されています。第3段階は、これを受けて連邦エネルギー規制委員会(FERC)とエネルギー省(DOE)が議会に対して、具体的な実施提案を提出することになっています。
 またFERCは、NEPOOL(ニープール:ニューイングランド地域の市場)やPJM(ピージェーエム:東海岸州と中西部の州が加わるアメリカ最大の電力卸売市場)などの全米6つの卸売市場において、小売市場における需要応答 の動向を反映して電力卸売市場での価格形成(オークション方式)が進み卸売価格の低下につながるように、卸売市場を管理するRTO(Regional Transmission Operator)やISO(Independent System Operator)によるオープンで透明な価格形成が進むよう環境整備を行っています(07年の指令890など)。
 現在アメリカの各地域ではスマートメーターの導入やそれを活用したスマートグリッドの実証事業が急速に進んでいますが、それらの積極的な動きは、FERCや州の公益事業委員会のコミッショナーの全国団体であるNARUC(National Association of Regulatory Utility Commissioners)による競争的な市場環境整備とあいまって、需要応答というシステムを社会に構築しようという試みであると言えます。いずれ日本にも波及してくるものと思われます。