エコポイント&スマートグリッド

省エネ家電買い替え促進で有名となったエコポイントとスマートグリッドの動向を追跡し、低炭素社会の将来を展望します。

政府の新成長戦略・イノベーション政策の盲点(今ある技術ボトムアップ・アプローチ&エコポイントが必要)

2010-10-31 08:26:41 | Weblog
政府の成長戦略の盲点として、グリーンイノベーションを「革命」と言える現象に発展させるために必要なアプローチが十分ではないこともあげられます。グリーンイノベーションは、IT(情報通信技術)とET(エネルギー技術・環境技術)が融合したST(スマートテクノロジー)による変革です。では、この変革を「革命」にまで発展させるために最も必要なことは何でしょうか?技術開発やそのための実証事業が必要なことは論をまたないのですが、いまの政府の対応がその点だけに集中していることに問題があります。
私は、「革命」を起こすためには、①ユーザ指向のボトムアップのイノベーションの創生、②テクニカルエンジニアリングよりも重要なソーシャルエンジニアリングの実行、③プロシューマ(生産消費者)を主体とする自律分散協調系の構築の3つがいまの政府の対応に加えて必要であると考えます。IT革命が「革命」と言える現象になったのは、この3条件が初期段階で整備され、膨大な数のユーザがネットワークに容易に参加できる状況が生まれたことにより、「ムーアの法則」(半導体の性能対価格比が18カ月ごとに半減するという現象が長期にわたって継続するという経験則)と「メトカ―フの法則」(ネットワークの価値は参加するユーザの数の2乗に比例して相乗効果で高まっていくという経験則)が作用したからです。

たとえて言えば、インターネットのネットワーク環境として光ファイバーや無線ブロドバンドが整備されたから「IT革命」が起こったわけではありません。ダイアルアップの下でもメール送受信、ホームページ閲覧、電子商取引、テレコミューティング、遠隔教育などができることを実証して膨大な数のユーザに使用させ、それにより膨大な需要を創出して需要と供給との好循環のサイクルを作り上げ、その上で速度が遅いので何とか早くしてほしいとのユーザの切実なウォンツに基づいて、ADSL、光ファイバーや無線ブロドバンドへとネットワーク環境をグレードアップしてきたから、ITという変革が「革命」になったのです。「ダイアルアップ→ADSL→光ファイバーや無線ブロドバンド」という発展パターンであって、その逆ではありません。いまの政府のグリーンイノベーションへの対応は、いきなり光ファイバーや無線ブロドバンドの段階に行こうとして技術開発やそのための実証事業を偏重しているところに問題があります。
そのIT革命勃興時においては、シリコンバレーにおいて誕生した「スマートバレー公社」(ジョン・ヤング会長(元ヒューレット・パッカードCEO)、ビル・ミラー副会長(スタンフォード大学教授)、ハリー・サール社長(起業家))がインターネットの民生利用のパイロット&ファシリテーターとして機能し、この3条件を整えました。「スマートバレー公社」は非営利の民間会社として認められた簡素で柔軟な組織体であり、数名の事務局で構成されていました。実際の活動は、「コマースネット」(インターネットを活用した商取引)、「スマートスクール」(インターネットを活用した教育)、「テレコミューティング」(インターネットによるテレコミューティングの促進)などのプロジェクトをコンソーシアム方式で推進することで遂行されました。
では、グリーンイノベーションにおいて、IT革命のダイアルアップやそれを前提とした「革命」の演出に相当するものとは具体的にどのようなことなのでしょうか?
私は、HEMS、BEMS+V2Gにおける通信方式の標準化(このことは政府も進めていますが、そのために、家電エコポイント制度や住宅エコポイント制度の要件として一定の標準対応の機器であることを入れて、家電エコポイント制度や住宅エコポイント制度をそのために活用することを推進すべきです)、多種の通信方式の下でもネットワークにつながったさまざまな機器のインターオペラビリティを確保するための共通モジュールの普及などがその典型であると考えています。
いま時代は、IT革命からそれを包摂する「ST革命」への移行という大変革期にあります。私が代表を務める一般社団法人スマートプロジェクトは、スマートグリッドの進化モデルに基づき、「ST革命」のパイロット&ファシリテーターとして「スマート国民総発電所構想」を実現するためのフラッグシップ・プロジェクト等を推進し、政府や官民の推進組織である「スマートコミュニティ・アライアンス」による取り組みを補完して、IT革命時の「スマートバレー公社」に相当する機能を果たすことを使命としています。

「スマートグリッド革命」(シリーズ;「スマートグリッド革命」の雇用創造力)

2010-10-30 00:51:49 | Weblog
スマートグリッドの登場は、新しい職種である「グリーンカラー」(Green Collar)を創造するという意味でも「革命」と称しうるものです。
今や、グリーン・ニューディールによりグリーンジョブの創出を目指すことは各国共通の政策目標となっています。オバマ政権下でグリーン・ニューディールを推進している米政府は、今後10年の間に1500億ドルをクリーンエネルギーに戦略的に投資して500万人の雇用を生み出すことを目指しており、「アメリカ再生・再投資法」(American Recovery and Reinvestment Act of 2009:以下「ARRA法」という)に基づく09年会計年度における280億ドルの政府による投資と関連する520億ドルの民間投資により、スマートグリッド分野で10万4000人、再生可能エネルギーをはじめとするエネルギー関連全体で90万人のグリーンジョブが創出されると試算しています。スマートグリッド以外では、再生可能エネルギーの研究開発240億ドルにより72万2000人、エネルギー製造技術の開発23億ドルにより5万8000人という内訳になっています。
アメリカでは製造業のブルーカラーは減少のトレンドにありますが、それを再生可能エネルギー、スマートグリッドや省エネなどのグリーンカラーで吸収し、さらに雇用を拡大していこうという考えが強くなっています。Amerian Solar Energy Society and Managementの分析によると、グリーンカラーは07年時点で約400万人ですが、それが30年には1950万人まで増大すると見込まれています。内訳としては、省エネが最も雇用吸収力が高いとされています。
また、欧州の再生可能エネルギー政策は雇用増加を高める政策としての意義を有しています。09年6月EU委員会の報告書によると、20年までに再生可能エネルギーの割合を20%に引き上げることにより再生可能エネルギー部門における雇用を約140万人から約280万人に拡大することができるとしています。このような雇用拡大を目指すことは韓国も同様であり、韓国の「グリーン成長国家戦力および5カ年計画」によると、5年間で156万から181万人の新規雇用の創出を目標としています。

政府の新成長戦略・グリーンイノベーション政策の盲点(消費にこそ着目した成長戦略でなければ意味がない)

2010-10-29 07:02:06 | Weblog
以前のブログでは、「消費にも着目した成長戦略でなければ意味がない」として、政府の新成長戦略・グリーンイノベーション政策の盲点を指摘しましたが、今回は、「生産年齢人口の減少→就業者数の減少→消費の減退」が、日本経済が「失われた20年」を経験した本当の原因であり、「消費にこそ着目した成長戦略でなければ意味がない」ということを指摘してみたいと思います。この観点からも、消費の喚起のためには消費者に退蔵されるマネーではだめであり、有効期限があり、かつ、名目金利がゼロで貨幣の流通速度を格段に上げるエコポイントを活用すべきだという結論になります。
日本では95年頃を境として生産年齢人口の減少がおこり「生産年齢人口の減少→就業者数の減少」が起こっています。この人口トレンドは中長期的に継続します。10~15年には、史上最大勢力の団塊の世代が65歳を超え、これからの5年間こそ日本が最大の「人口オーナス」を経験する時代です。さまざまなモノの価格が低下し、税収が落ち込み 住宅、オフィス、土地の供給過剰がさらなる価格低下を生むことになります。その先も生産年齢人口の減少と75歳以上の後期高齢者の増加し、25年に団塊の世代が75歳以上となっても、生産年齢人口の減少は続きます。そして、50年には団塊ジュニアまでもが75歳以上となり、生産年齢人口は今の6割程度となります。
年齢別の一人当たり消費を観察すると、どこの国でも40~50歳代の年齢で一人当たりの消費がピークになる「逆U字曲線」が観察されます。このため、「就業者数の減少→消費の減退」がおこります。政府の新成長戦略の基礎となっている経済理論では、GDPを成長させることができれば、いくら生産年齢人口や就業者数の減少が起ころうと、個人所得、個人消費、企業業績も良くなると教えていますが、これは事実と反します。96年から02年にかけての「戦後最長の好景気」の中では、輸出は伸び、GDPは回復しましたが、このことは起こりませんでした。国内新車販売台数、小売額、雑誌書籍販売部数、国内貨物総輸送量、自家用車による旅客輸送量、たんぱく質や脂肪の摂取量、国内酒類販売量、一人当たり水道使用量などは、96年から02年にかけての「戦後最長の好景気」の中でも減少しました。生産年齢人口の減少こそが日本経済を苦しませているデフレの真の正体です。
私が指摘したい正しい経済理論は、生産年齢人口の減少する経済においてはデフレが常態化し、個人所得、個人消費、企業業績が落ち込み、GDPの維持や成長は極めて難しいとするものです。たとえて言えば、生産年齢人口の波は潮の満ち引き 景気の波は普通の波であり、生産年齢人口の減少による大きなインパクトを補い、経済を成長させるためには、景気という小さな波では力不足です。よく、生産年齢の減少は生産性の向上でカバーできると主張されますが、生産性向上では「生産年齢人口の減少→付加価値額の減少」を原理的に補いきれません。それは、労働生産性=付加価値額(企業の利益+人件費などのコスト)÷労働者数であり、生産性をあげるために人を減らせば、分母のみならずその過程で分子も大なり小なり下がることになります。生産性をあげること時代が自己目的化すると、人員整理で逆に付加価値を下げてしまうことになりがちです。
政府の成長連略の中では、インフラ、スマートグリッド、原発、新幹線などのシステムを輸出して外貨を稼ぐことが対策として掲げてあります。しかし、を日本経済の問題は外貨を稼ぐこと自体ではなく、稼いだ外貨を国内で回すことなのです。日本には、優れた技術力のおかげで国債となっている分を除いても400~500兆円の個人金融資産が蓄積されています。また、毎年十数兆円の金利配当も流れ込んできます。

この状況の下で必要なのは、輸出に一層の目を向けるのではなく、バランスの取れた行動、つまり生産年齢人口の減少が引き起こす消費の減退という問題を直視し、消費を直接増加させるための対応です。以上の考察からも、エコポイントを成長戦略として活用すべきだということになります。

「スマートグリッド革命」(シリーズ;スマートグリッド革命の市場創造力)

2010-10-28 20:56:44 | Weblog
「You Energy」のパラダイムをもたらすスマートグリッドの登場が「革命」とされる理由の一つは、インターネットの100~1000倍の空間が出現してスマートグリッド市場が急速に拡大し、「ビジネス革命」により新産業創出や雇用創出に多大な効果を及ぼすためです。
この点に関して、パイク・リサーチ社(エネルギー産業から製品市場や消費者動向まで広範な調査・分析を行っているアメリカの地球環境保護関連市場の専門調査会社)のスマートグリッド市場に関する調査レポートは、「スマートグリッドはおそらく21世紀最大の技術革新であり、現行のインフラを変革するに当たり膨大な機会を提供している。スマートグリッドの重要な目標は、電気の使用に関して消費者の『情報に基づいた選択』(informed choices)を可能にすることである」として、今後の市場の動向を鋭角的に分析しています。重要なポイントは次のとおりです。
①スマートグリッドの市場規模は、09年の100億ドルから13年には350億ドルに達するが、このうち、HEMSの市場は今後5年から10年の間に急成長する。スマートグリッドの技術は、ノード間の情報の流れの双方向化を可能にするものであり、EIDs(energy management and energy information displays)がスマートグリッドの“顔”であると考えることができる。当面は、電力会社がEIDベンダーの販売チャネルになると考えられるが、ゆくゆくは標準化、インターオペラビリティの確保が進み、EID小売市場が形成される。EIDは、12年までに毎年数百万台の規模で出荷されるようになり、15年には500万台のEIDが主としてアメリカ市場と欧州市場において出荷されることになるだろう。15年までには、1110万人以上のユーザがウェブでつながり、260万人以上のユーザがモバイルでつながれることになるだろう。
②スマートメーターの割合は、現状において3.5%にすぎないが、15年までには18%以上に達するだろう。15年までには、スマートメーターの市場は4倍以上に成長し、380万ドル以上に成長する。09年から15年まで2億台以上のスマートメーターが出荷されるだろう。北米市場においては、12年にスマートメーターの出荷がピークに達し、1500万台以上が出荷される。欧州市場においては、14年から15年にかけてピークに達するであろう。アジア市場においては、15年ころまではピークに達することはないであろう。

③BEMSの市場も急拡大し、10年から20年の間には79億2000万ドルに達するであろう。ゼロエミッションビルの動きが加速されるとともに、ビルによる需要応答 が進展する。需要応答の規模は、20年までに57.5ギガワット(GW)から81ギガワット(GW)にまで拡大するであろう。エネルギー使用効率化の最大の余地は、公共施設、学校、病院にある。

④太陽光発電は、09年には経済危機により小休止したが、今後5年間は再び急拡大し、アメリカは14年までに太陽光発電市場の最大の市場となるだろう。風力発電に関しては、08年に年率50%の伸びを示し、8ギガワット(GW)の発電量が増えて累積では25ギガワット(GW)となったが、09年には経済危機により小休止した。今後の見方に関しては楽観論と悲観論があるが、今後は08年までの伸びではないにしても、15年までには80ギガワット(GW)以上の発電能力に達するであろう。これに伴って、アメリカ市場における風力タービンの売り上げは年率9.7%以上の伸びを示し、15年までには年間の生産量が8000台に達するであろう。

⑤プラグインハイブリッド車と電気自動車に関しては、近い将来はプラグインハイブリッド車が主力になるであろう。これに伴って、15年における充電ステーションの数は世界で530万以上となり、蓄電池市場は10年の8億7560万ドルから15年までに80億ドルに達するであろう。蓄電池の寿命の長期化と価格の低下が急務であるが、リチウムイオン電池価格は15年までに半分程度となり、1kWh当たり470ドルとなるであろう。プラグインハイブリッド車と電気自動車のいずれが市場で拡大するかどうかは、走行距離が長いが価格が高いものを選ぶか、走行距離が短いが価格が安いもののいずれを消費者が選ぶかについて、12年の市場動向がかぎになる。

「スマートグリッド革命」(シリーズ;石油企業は生き残る道を見つけられるか)

2010-10-27 00:02:23 | Weblog
「スマートグリッド革命」のインパクトに対して、ガス会社以上に危機感を持っているのが石油会社です。石油会社は、08年9月のリーマンショック後の世界不況、人口減少などによる需要低迷の打撃を強く受けて苦渋しています。09年3月に資源エネルギー庁が策定した13年度までの5年間の石油製品需要見通しでは、年平均で3.5%減、5年間全体で16.4%減と予測していましたが、消費者の「車離れ」、「石油離れ」のマインドは根強く、09年秋の時点ですでに5年後の需要レベルに落ち込む状況になっています。
石油企業にとって収益基盤の柱であるガソリン販売も上向かない中、過剰設備対策、収益性の高い石油化学部門の強化などの経営努力とともに、10年4月の新日本石油と新日鉱業ホールディングスの経営統合を始めとした合従連衡、業界再編をさらに加速化させなければいけない状況になっています。
問題はもっと深刻です。「ピークオイル」の到来や地球温暖化問題は石油企業の足元そのものを揺るがしており、さらに前述した電気自動車時代の到来は、自動車業界のみならずガソリンを供給する石油企業に対してもビジネスモデルそのものの変革を迫っています。
今や石油企業の収益基盤の屋台骨がぐらついているのが実情で、再生可能エネルギーの導入を加速することで、石油に代わる新たな収益源の確保・ビジネスモデルを早急に構築することが生き残りの前提となっています。既に石油元売り会社では、昭和シェル石油や新日本石油(10年4月に持ち株会社であるJXホールディングスが発足しており、その下に7月よりJX日石日鉱エネルギーが発足することになっています)などが太陽電池事業の展開、急速充電池の開発・実証、バイオ燃料への取組みなどに向けて動き出しており、たとえば新日本石油は、ガソリンスタンドを活用して電気自動車用のインフラを整備する実証事業を行っています。電気自動車に急速充電をする設備を設置し、複数の人で車を共同利用するカーシェアリングの実験も実施しています。新日本石油は、将来の水素社会をにらんだ燃料電池や大型照明やディスプレイ用の有機ELの開発も積極化させています。
またコスモ石油は、10年3月に風力発電国内4位のエコ・パワー(東北、北海道などの25拠点で計117基、約12万キロワットの風力発電設備を運営。加えて、愛媛県で12基が運転を開始)を買収し、風力発電事業に進出することを決定し、エコ・パワーの親会社、荏原から保有する全株式を1円で取得しました。エコ・パワーの売上高15億円程度ですが、08年度は15億円程度の最終赤字です。09年度は黒字転換する見込みですが、累積負債約100億円を抱えています。今回のコスモ石油の決定は、1円で買収する代わりに負債をすべて引き受けるもので、縮小する石油関連事業に対するコスモ石油の危機感を象徴しています。
 しかし問題は、こうしたビジネスモデルの転換が間に合うかということです。需要が5年間で16.4%減少するということは、国内第3位の昭和シェル石油の取扱量がそっくりそのまま消える規模です。さらに、「ピークオイル」の到来が12年ごろ、遅くとも20年までと言われる状況下で、変革のスピードが問われています。石油企業が生き残るかは、戦略展開の俊敏性いかんにかかっていると言えます。

政府の新成長戦略・グリーンイノベーション政策の盲点(エコポイントの活用を)

2010-10-26 00:00:59 | Weblog
自然利子率を高めるためには、「真のイノベーション」を起こすべく、「アニマルスピリット」を高めてリスク・テイクを増やす環境を整えるとともに、マネーによる購買力の退蔵を回避して消費を喚起する手段を登場させることが必要です。前者で重要になるのは、期待収益率を高めるための政府による明確なコミットメントや技術開発促進策とスマートレギュレーション(賢明な規制)ですが、後者に関しては、現在の家電エコポイント&住宅エコポイントを発展させて新エコポイントを流通させることが処方箋となります。エコポイントは、巷間考えられているようなイメージとは異なり、「真のグリーンイノベーション」を実現する手段です。
エコポイントには、利子がつかないすなわち名目利子率ゼロであり、ポイントの有効期限が設定されているというマネーとは異なる性質があります。「流動性の罠」の下ではマネーは家計等に退蔵されてしまい消費が喚起されません。現に、前麻生政権下で実施された2兆円の定額給付金によって増えた消費支出はわずか6300億円で、名目GDPに占める割合は0.13%にすぎません。これに対してエコポイントは、利子を生まないので長期保有のメリットがなく、逆に有効期限が来ると価値を喪失しまうので、次に使われることを想定した価値媒体であると言えます。したがって、「流動性の罠」の下でも貨幣の流通速度を上昇させることにより(現在の日本経済における貨幣の流通速度は0・7程度ですが、90年出し後半に登場した地域通貨に関する実証分析では、7倍以上高まることが明らかにされています)、消費財に関する消費貯蓄選択を刺激して消費需要を増大させることができます。そうなれば、経済において消費と投資は同時決定なので、投資需要も喚起されます。

具体的には、太陽光発電、電気自動車、エコキュート、エネファームなどの個人の省エネ・創エネを促進するために交付されている補助金の一部をマネーではなくエコポイントで交付することが考えられます。先例としては、08年度より開始されている「京都エコポイント」において、京都府の太陽光発電導入補助金(国の補助金の上乗せ補助)が「京都CO2削減バンク」を通じてエコポイントとして交付され、エコポイントは京都商店街(合同会社KICSの加入メンバーである1200店舗)でのお買い物、各種私鉄を利用する際の運賃をして活用できるようにしているケースがあります。これは、私が手掛けた05年愛・地球博において成功をおさめたEXPOエコマネーを京都に移植した「電車deエコ」のスキームを発展させたものです。
また、私は「家庭・オフィスCDMとエコポイント」というスキームを提唱しています。この「家庭・オフィスCDMとエコポイント」は、HEMS(Home Energy Management System)やBEMS(Building Energy Management System)を基礎としたスマートグリッドの構築と合わせて、国内クレジット制度を活用します。家庭やオフィスにおけるCO2削減分(省エネ・創エネ分)について、

① スマートプロジェクトに設置される「エコポイント・バンク」(民間機関とも連携)が仲介して、大企業が排出クレジットとして取得し(大企業のクレジット購入費は税法上損金参入可能とし、温暖化対策防止法上の報告制度上のインセンティブも付与する)

② 大企業から「エコポイント・バンク」に渡ったマネーは「エコポイント・バンク」においてエコポイントに変換なされてCO2削減主体にわたる

③ CO2削減主体は、受け取ったエコポイントを電子マネー、商品券等に交換して公共交通機関の利用、地域商店街でのお買い物等に消費することにより景気浮揚効果、経済活性化効果も期待できるように制度を工夫します。

 このスキームの下では、エコポイントの原資は国ではなく排出クレジットを取得する大企業となるので国に財政負担が生ずることはありません。また、大企業が国内クレジット制度を活用して排出クレジットを取得することは、京都CDMの活用スキームの発展形と言えますが、これにより、海外への資金流出を抑制することもできます。
さらに、再生可能エネルギーの全量固定価格買取り制度を活用した「エコポイント・マネー」が考えられます。太陽光発電などの売電対価や各種ポイントを現金化したお金が専用の「エコポイント・バンク」に開設される口座に入金され、エコ商品・サービスの購入や電気自動車に充電する場合の支払い手段としてエコポイント・マネーが利用されます。また、口座を利用して決済する場合にエコ消費用のポイントが付与されます。

 エコポイントは入り口(エコマネー獲得時)だけがエコですが、エコポイント・マネーは入り口のみならず出口(エコポイント・マネーの使用時)もエコという性格を有します。エコポイント・マネーの名目利子率もマネーのそれとは異なってゼロなので、エコポイントと同様貨幣の退蔵は起こりません。しかも、エコポイントと異なって取引金額全体をカバーするので、消費の活性化、それによる経済の成長を促進する効果ははるかに大きくなります。

「スマートグリッド革命」(米国ではグリーンジョブの創造でも効果を発揮)

2010-10-25 00:00:05 | Weblog
米連邦政府によるグリーンイノベーションの推進は、グリーンジョブの創造という効果をも発揮しつつあります。クリーンテクノロジー分野(再生可能エネルギー技術、省エネルギー技術、廃棄物関連技術、再生可能材料技術など)についてみると、アメリカ国内クリーンテクノロジー分野の07年の被雇用者数は約77万人(ガス・電気事業などを含む既存エネルギー産業の被雇用者数は約130万人)で、被雇用者総数の0.5%ですが、1998~07年にかけてクリーンテクノロジー分野の被雇用者増加率は年率約9%で、全米の平均増加率の約4%に比べ倍以上高くなっています。
その中で特に被雇用者数の増加が著しいのは太陽エネルギーで、続いてバイオ燃料・バイオマテリアル、省エネルギー、スマートグリッド、風力エネルギーの各分野です。地域別では、サンフランシスコ近辺がこの分野の雇用が最も活発で、続いてロサンゼルス近辺、ニューヨーク・ニュージャージー・ロングアイランド地域、ボストン近辺、ワシントンDC・ボルティモア近辺と続きます。
大統領経済諮問委員会(CEA)報告は、グリーンジョブの創出効果についても特別に分析しています。それによると、クリーンエネルギーの雇用創出効果としては、事業の進捗がまだ初期段階にあることもあって、09年第4四半期時点で、関連事業の直接的な雇用増が5万2,000人、これらの雇用増によって生み出された消費増などによる間接的な雇用拡大が1万1,000人と小規模にとどまっています。ただし、事業の実施が今後さらに進めば、12年末までに72万人の雇用創出を見込めるとしており、ARRA法全体の雇用創出効果680万人の10%超がクリーンエネルギー関連で生み出されると期待しています。

「スマートグリッド革命」(効果を上げつつあるアメリカのグリーンイノベーション)

2010-10-24 08:51:15 | Weblog
日本では新成長戦略でうたわれたグリーンイノベーションがデフレ状況の下で「逃げ水」のような状況になっていますが、 米連邦政府によるグリーンイノベーションは、着実に効果を上げつつあります。このことは、まず、09年12月15日バイデン副大統領がオバマ大統領宛てに提出した『進捗報告:クリーンエネルギー社会への移行』(Progress Report:The Transformation to A Clean Energy Economy)においてうかがい知ることができます。報告は、オバマ政権が発足から約1年間に講じたクリーンエネルギー関係の施策とその成果をまとめたものです。
報告によると、ARRA法のクリーンエネルギー関連予算として約800億ドルが充てられました。これと民間などからの投資を合わせて1500億ドルのクリーンエネルギー事業が創設され、また、既存のプログラムによってさらに約900億ドルの事業が創設されたということです。
再生可能エネルギーに関しては、ARRA法の234億ドルによって、25万3000人の雇用創出が見込まれています。また、これに合わせて行われる民間などからの投資430億ドルによって、さらに46万9000人の雇用が創出される見込みです。これらの施策によって、再生可能エネルギー利用発電量を09年当初の27.8ギガワットから12年には55.6ギガワットに、国内の再生可能エネルギー利用装置の製造能力を09年当初の6ギガワットから12ギガワットに、ともに倍増を目指しています。
スマートグリッドについては、ARRA法による約40億ドルの助成により、4万3,000人の新たな雇用が創出されました。また、民間などからの約57億ドルの投資により、さらに6万1,000人の雇用創出が見込まれます。スマートメーターについては、現在の倍以上に当たる1800万台のスマートメーターの普及が見込まれます。さらに、公的資金と民間投資によって設置台数は、13年までに2600万台、15年までに4000万台に達する見込みです。また同法によって、送配電網の信頼性向上とセキュリティ確保のためのセンサを、13年までに現在の5.5倍に当たる877万台設置する予定です。
また、エコカーについては、プラグインハイブリッド車、電気自動車、充電施設などインフラ整備、新たなクリーン燃料などへの投資として160億ドルのプログラムを発表しました。これにより、15年までに3つの新たな電気自動車製造工場が立ち上がり、バッテリなど30の自動車部品製造工場が生産を開始します。クリーン自動車関係のインフラ整備として、15年までに10数都市に1万ヵ所以上の充電施設を整備する予定です。
エネルギー効率の向上では、10年までに50万世帯、12年までに100万世帯の低所得者住宅について断熱材や二重窓の設置といった耐候性の向上を行うことになっています。また、ARRA法は住宅のエネルギー効率向上資金について、30%の税制優遇措置を用意しています(限度額は1件当たり1500ドル)。さらに、DOEが新設した「改善強化(Retrofit Rump Up)プログラム」は、地域や町単位の省エネのための修繕経費の負担軽減に貢献すると見込まれています。
家電などの省エネ基準策定について、前政権は年間平均1機種のペースで基準設定を行っていましたが、09年2月にオバマ大統領がDOEに対して、法令などが要請する20種あまりの機器の基準策定を急ぐよう指示し、8月から9月にかけて、食器洗い機と白熱灯、電子レンジと電気・ガスキッチンレンジ、蛍光灯と白熱反射灯、商用ボイラーと空調装置、冷蔵飲料自動販売機の5種の機器の省エネ基準が発表されました。
科学と技術革新分野では、10年度に126億ドルを主要な国立研究所や大学などでの先進的研究開発に充てています。また、ARRA法の4億ドルの資金によって、再生可能エネルギー利用発電、エネルギー貯蔵やバイオ燃料などの先進的エネルギー技術の研究開発ペースを加速するプロジェクトを助成します。
さらに、大統領経済諮問委員会(CEA)は10年1月13日、ARRA法の経済効果に関する2回目の報告書をまとめ、公表しました。それによると、総額7,870億ドルのうち約3分の1に相当する2,633億ドル(減税も含む)が支出され、さらに、総額の2割弱に相当する1,497億ドルも支出可能になっており、全体の過半の実行にメドが立っているとのことですが、今回の報告は、オバマ政権が特に力を入れるクリーンエネルギー関連の施策の実施状況を特別に取り上げて分析しているのが特徴です。
その分析によると、クリーンエネルギー関連の施策は約900億ドル(支出60億ドル、減税295億ドル)で、対策総額の11%に達します。09年12月末時点で総額900億ドルのうち、既に割り当てが決まったものは34%にとどまり、経済対策全体の進捗状況と比べると、遅れています。さらに実際に支出されたのは51億2,000万ドルで、予定総額の5.7%にとどまっています。分野別で最も実施が進んでいるのが省エネルギー関連事業で、支出予定額の60%、119億ドルの割り当てが決まっています。省エネルギー関連では、低所得者層が住宅の省エネ化に取り組む際に最大6,500ドル補助するプログラム(50億ドル)や、州・地方政府などが実施する省エネルギープロジェクトへの補助金(32億ドル)などが代表的です。

「スマートグリッド革命」(「電気経済」と巨大ネット空間の出現)

2010-10-23 01:03:55 | Weblog
日本経済の低炭素化、成長を支える“インフラ”が、スマートグリッドという新しい電力ネットワークです。エネルギー効率の向上やCO2排出削減のためには、電気に収れんさせたエネルギー需給構造にすることが合理的であり、「電気経済」が出現しつつあります。電気は電力網を通じてやり取りされるものであり、「電気経済」は本来的に「ネットワーク型経済」です。
しかも、スマートグリッドの基礎となる電力網には全世界で現在40億人の人々がつながれていますが、これは全世界でインターネットにつながっている10億人の人々の4倍に当たります。また、インターネットの場合は、一人ひとりがインターネットに接続しているのはパソコンなど特定の機器に限られます。これに対してスマートグリッドの場合は、サーモスタット、家庭の中のテレビ、冷蔵庫、エアコンなどの家電製品、照明などの個々の家電製品はもとより、電力メーター、ガスメーターなどの機器、プラグインハイブリッド車や電気自動車も接続され、オフィスの中では、さらに、さまざまな空調機器、サーバ、オートメーション機器などがつながることになります。世界中に張り巡らされている送電網、配電網につながっている個々の電力制御機器、ガス制御機器もスマートグリッドのネットワークで接続されることになります。電力を利用するすべての機器がネットワークのノードになるのがスマートグリッドの世界です。この巨大なネットワークの誕生と言うものが、インターネットを凌駕するほどのイノベーションが創造されるという根拠です。これは一種のパラダイム転換と言えるでしょう。
さらに、インターネットの変革が私たちに見せつけたことの一つは、ネットワークに加わるユーザの数の2乗に比例して相乗効果で価値を高めていくという「自己組織化」の現象(「メトカーフの法則」)です。例えばインターネットをベースに形成されていった「Linux」は、ネットワークで自己増殖し,利用が広がっていきました。
スマートグリッドも、ネットワークの規模が大きくなれば、こうした価値向上は無数の分野で生まれてきます。近い将来、インターネットの100倍~1000倍もの巨大なネット空間がスマートグリッドにより出現することは間違いありません。スマートグリッドの志向する巨大なネットワークがどれほどの価値を生み出すのか、まだ誰も正確に把握できていませんが、すさまじいインパクトがあることは確かです。
スマートグリッドというインターネットの100倍~1000倍もの巨大なネット空間は、その規模ゆえに巨大な需要を創出し、技術革新や雇用拡大に与えるインパクト、効果も絶大です。シリコンバレーでは、「エネルギー関連のイノベーションはインターネットを矮小化する」(Energy related innovation will dwarf the Internet.)とまで言われています。

経産省審議会、民生部門からのCO2排出削減の具体的な対応策を求める

2010-10-22 00:00:11 | Weblog
現在政府部内で、国全体でのCO2排出削減のための方策の取りまとめが行われていますが、分野別にみると、産業部門にも増して、CO2排出が増加傾向にあり、かつ、削減のための有効な対策が実行されていない民生部門での対応が重要になっています。
 この点に関しては、以下のように、民生部門からのCO2排出削減のための具体的な対応策の策定を求める声が経産省の審議会でも高まっています。

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総合資源エネルギー調査会総合部会第2回会合・基本計画委員会第4回会合合同会合 平成22年6月8日
茅委員(産業構造審議会環境部会地球環境小委員長)

民生の需要を抑えるということが非常に重要で、これは河野委員も言われたとおりですし、この資料の基本計画にも書いてあるんですが、ただ、将来を考えた場合、ほんとうに単純な規制だけで済むだろうかという問題があるわけです。と申しますのは、家電機器、あるいは車の効率というのは単調によくなっているわけですね。しかし、それにもかかわらず、家庭のCO2が増えていたというのは、1つにエネルギーが増えているんですね。つまり、実際には機器が大型化する。例えばテレビが大きなサイズの画面のものをみんなが好むというふうになったり、数が増えたりということで、現実にそれぞれの機器の省エネルギーと需要との間にギャップがあるからなんです。
こういった民生需要における基本の問題について、何らかの手当てを今後考えていくべきだと。これは単純な規制でもできないと思いますけれども、いずれにしても、そういったエネルギーと省エネルギーの原単位の改善とのギャップをどうやって埋めるかという問題にぜひ手をつけてほしいと思います。

産業構造審議会環境部会地球環境小委員会政策手法ワーキンググループ 平成22 年9 月13 日(月)
逢見委員(連合副事務局長)

特に私はもう1つ評価したいのは、家庭部門、民生部門、ここも国内クレジットの中で有効であるということを出したことでありまして、なかなか家庭部門の排出の中の有効な手法というのが見出せずにいたわけですけれども、ここでこういう家庭部門の削減をクレジットで活かすという、こういう手法によってうまく削減が可能であるとすると、これは国際的に見ても日本が発信していく有効なものとして効果があるのではないか。その可能性をさらに吟味しながら、民生部門、家庭部門の有効な削減策も政策手法の中に取り入れていく必要があるのではないかと思っております。

産業構造審議会環境部会地球環境小委員会政策手法ワーキンググループ 平成22 年10 月13 日(月)
松橋委員(東京大学大学院教授)<議事要旨>

私自身以前より主張しているとおり、また、本日の産業界のプレゼンテーションでも明確化されたように、技術的に見て、我が国の製造プロセスにおける、削減余地の少なさは明白。キャップをはめても削減につながるものではない。他方で、本日のプレゼンテーションにもあったとおり、我が国の優れた低炭素製品による家庭や業務部門等での削減は、大きな余地がある。今後のボトムアップ方式の検討の中で、我が国独自の制度である、国内クレジット制度の活用を一層拡充していくことで、対応が可能ではないか。