エコポイント&スマートグリッド

省エネ家電買い替え促進で有名となったエコポイントとスマートグリッドの動向を追跡し、低炭素社会の将来を展望します。

太陽光発電に注力するインド

2011-12-27 06:53:19 | Weblog
09年12月末時点で再生可能エネルギー源による累積発電量は1万6,052.87メガワット(MW)になっており、インド政府は09年度の再生可能エネルギー源が全発電量に占めるシェアは3.3~3.5%に達すると見込んでいます。
インド政府は10年1月、太陽電池市場・太陽光発電業界の発展に向けた長期計画「ジャワハルラール・ネルー・国家太陽光ミッション」を開始しました。この計画は、インドを太陽エネルギー産業で世界のリーダーとして位置付けることを主要目的とし、2022年までに電力ネットワークに接続される太陽光発電施設の容量を、現在の200メガワット(MW)から2万メガワット(MW)〔20ギガワット(GW)〕、電力ネットワークに接続せずに独立した施設の発電容量を2,000メガワット(MW)とすることを目標としています。
計画の第1フェーズである10~13年には、電力ネットワークに接続される太陽光発電容量を最低1,000メガワット(MW)まで増大させるほか、200メガワット(MW)の独立型発電も整備する目標を掲げています。インド政府は既に、第1フェーズに対して433億7,000万ルピー(1ルピー=約2円)の融資を承認しています。また、第2フェーズは13~17年とし、電力ネットワークに接続される太陽光発電容量を最低4,000メガワット(MW)まで拡大します。
インド政府は今後5年間で、在来型エネルギー総需要の少なくとも10%を省エネ対策の実施や再生可能エネルギーで賄う構想を掲げており、その一環として国内の34ヵ所を「ソーラーシティ」として開発する計画も立てています。

インドのスマートグリッドと日本によるモデル構築

2011-12-26 06:41:16 | Weblog
日本、インド両政府は、インドの首都ニューデリーと西部の商業都市ムンバイの間でインフラ整備と産業集積を進める「産業大動脈構想」について、日本のスマートグリッドなどの環境技術を導入し、温暖化ガスの排出を抑えた開発を目指しています。計画ではまず、「産業大動脈構想」の対象地域である6州に24の「モデル地区」を設定。電力需要を太陽光や風力、バイオ燃料など再生可能なエネルギーで賄う仕組みを導入し、スマートグリッドも推進します。自治体や企業向けの「環境ガイドライン」もつくり、温暖化ガスの排出などで新基準を採用する予定です。
貨物鉄道の建設費のうち第1期工事(約920キロ)については、日本政府はODAの円借款で拠出する方針です。周辺に予定されている工業団地や道路などのインフラ整備約900億ドルのうち700億ドルは民間資金を活用しますが、両政府は構想を推進するために共同で設立する1億5000万ドルの基金に、国際協力銀行が半額を拠出する契約にも調印しました。今度インドの他の地域のモデルとなるものと期待されます。
11年に開始する実証実験は、デリーとムンバイの付近にある2、3の都市が対象です。送電網の整備や通信機能付きのスマートメーターの設置などで1都市あたり数百億円を投じます。実験の結果を見極めたうえで、12年以降にはインドの十数の都市で実用化に踏み切る計画です。日本としては、インドでの実績を足がかりに、同事業の受注をアジアや中東などの国々にも広げたい考えです。


シンガポールのスマートグリッド

2011-12-26 00:25:56 | Weblog
09年11月シンガポールのエネルギー市場監督庁(EMA)は、スマートグリッド導入に向けた実証実験「インテリジェント・エナジー・システム(IES)パイロットプロジェクト」を開始しました。またシンガポール政府は、07年から太陽光発電を中心とするクリーンエネルギー産業の振興を進めており、政府の支援の下で建物への太陽電池パネルの設置も進みつつあります。EMAは、太陽光発電コストが低下すれば太陽電池の導入がさらに進むと見込んでおり、太陽電池や風力発電など電力供給が一定ではない再生可能エネルギー電力を既存の送電網につなげて電力の安定供給を図るには、電力の変動に対応できるスマートグリッドの導入は不可欠だとしています。
実証実験を行う拠点となるのが、国立の南洋工科大学(NTU)です。同大学にはスマートグリッド関連システムを研究する基盤が整備されているだけでなく、大学構内に導入済みの再生可能エネルギー電力を送電網に取り込むことができます。このほか、同大学に近接する場所に建設中のクリーンエネルギー専門の工業団地「ジャラン・バハール・グリーンテック・パーク」や一部住宅、商業ビルでも実験を行う計画で、さまざまな建物に対応できるスマートグリッドの構築を目指しています。
EMAは、スマートグリッドの構築は電気自動車の普及のためにも必要だとしています。EMAと陸上交通庁(LTA)は09年5月、電気自動車の実証実験のため経済開発庁(EDB)、科学技術研究庁(Aスター)など関連官庁で構成するタスクフォースを発足させ、実験に必要な車両や充電スタンドなどについて日産自動車・ルノー連合と地場電力会社ケッペル・エナジーと協力覚書を結びました。電気自動車の本格普及に伴う電力需要の増加に対応するためにもスマートグリッドは不可欠で、電気自動車が将来、電力需要のピーク時に電力を送電網に再売却するための蓄電装置として機能する可能性もあります。
シンガポールでは、スマートグリッドと情報通信Tネットワークとの相乗効果も期待されています。シンガポールは高度な情報通信Tネットワークを国家主導で整備してきていますが、国内の既存の送電網に加えて15年までに国内全土に超高速通信網(通信速度1Gbps以上)を整備しています。


韓国の「グリーン成長」国家戦略

2011-12-22 06:48:08 | Weblog
韓国のスマートグリッドの基礎にあるのが「グリーン成長」国家戦略です。09年7月、イタリアで開かれたG8拡大首脳会議で、韓国はスマートグリッド分野の先導国(リーディングカントリー)に選ばれました。韓国はグリーン成長プロジェクトに全力をあげており、首脳会議直前には「グリーン成長国家戦力および5カ年計画」を発表し、その後国会で「グリーン成長基本法」が成立しました。
 韓国政府の5カ年計画によると、GDPの2%にあたる額を毎年投入し、5年間で総額107兆ウォンの予算を投入する予定です。経済効果は182兆ウォンから206兆ウォン、156万から181万人の新規雇用を創出すると見込んでいます。投資先は主に、再生可能エネルギー、発光ダイオード(LED)、スマートグリッド、ハイブリッドカーなどのグリーンビジネスです。
 また、投資計画の一環として、政府が現代自動車起亜自動車などの自動車メーカーに対し、12年以降、平均燃費を1リットル当たり17キロメートル以上に引き上げるか、1キロメートル当たりの温室効果ガス排出量を140グラム以下に引き下げるかどちらかの措置を講じるよう求めるとしています。
 韓国は「グリーン成長」という国家戦略を通じて、一方で気候変動による環境リスクと資源枯渇という危機に備えつつ、他方で、低成長に悩む韓国経済に新しい成長動力を与え、経済成長のパラダイムシフトを起こすことを狙っています。 1970~80年代にかけて年間8%台の高度成長を遂げ、「アジアの4つの龍の中でも最高」と呼ばれた韓国経済の潜在成長率は3%台に低下していますが、グリーン成長プロジェクトが経済の潜在成長率を高め、韓国は20年には世界7位、50年には世界5位の「環境大国」になることを目標としています。
 このため韓国政府は、政府部内にグリーン成長プロジェクトを推進する機関を10カ所以上設置しました。大統領直属のグリーン成長委員会をはじめ、知識経済部、企画財政部、国土海洋部、環境部、農林水産食品部、金融委員会など、各省庁に推進部署が置かれています。
また、IT産業をグリーン成長の根幹と位置づけ、「グリーンIT国家戦略」も策定しています。Green of ITとGreen by ITの2本立てで、このうちGreen by ITにおいて、スマートグリッドにより国全体のエネルギー消費を30年までに6%削減するとともに、世界の市場の確保を目指すとしています。その他、ITによるオフィス環境の低炭素化(遠隔作業、テレワークなどによりCO2を315万トン削減。エネルギーマネージメント・システムの普及により13年までにエネルギー使用量を20%削減)、ITによる生活の対炭素化(遠隔教育による教育費用の10%削減、遠隔医療による医療機関訪問回数を20年までに30%削減。生ゴミ20%減量。新築住宅のエネルギー効率を13年までに20%向上)、ITによる製造部門の低炭素化(13年までにエネルギー効率を8%向上、CO2を172万トン削減)、スマートグリーン交通・物流体系への転換(交通渋滞を最小限にすることによりCO2を107万トン、物流の効率化によりCO2を172万トン削減)などが注目されます。

韓国のスマートグリッドは大規模かつダイナミック

2011-12-21 07:15:35 | Weblog
韓国では、韓国電力公社(KEPCO)が済州島で3000世帯規模のスマートグリッド実証事業の対象となる団地を選定して事業を推進しています。KEPCOはさらに,20年までに消費者による需要応答 などを盛り込んだスマートグリッドを構築する計画で、09年末から13年にかけ政府と民間の資金810億ウォン(約63億円)を投じ、各種のスマートグリッドの機能と効用を検証する作業を進めています。30年までに韓国全土でスマートグリッドの完全構築を目指しています。
韓国におけるスマートグリッドの開発と普及に関しては、アメリカとの官民協力でプロジェクトを推進していることが特徴です。このため、09年6月にスマートグリッド分野の業界団体である韓国スマートグリッド協会とアメリカのグリッドワイズアライアンスが共同投資フォーラムを開くとともに、協力了解覚書(MOU)を締結しました。韓国側はLS算電や韓国電力、現代重工業、暁星重工業、日進電気、SKテレコム、KTなど、アメリカはグーグルやIBM、ゼネラル・エレクトリック(GE)、PJMなどが参加しました。
その他アメリカとの連携としては、スマートグリッド関連業界団体(米・GridWise Alliance と 韓・Korea Smart Grid Association(09年8月設立))の協力、 企業間の技術協力(GEの韓・ヌリテレコムへのスマートグリッドに係る技術協力)、米韓FTAがあります。また、EUとの連携も進めており、欧州の技術・市場へのアクセスの足がかりとして、EUREKA(マーケット志向の研究開発協力を行う欧州のプロジェクト)への欧州圏外で初めての加盟(09年6月)、 EU-韓FTA仮署名(09年10月)があります。いずれも、FTAが絡んでいることがポイントで、アメリカ、EUいずれともFTA締結が遅れている日本は、スマートグリッドの国際連携でも、韓国の後塵を拝しています。 
韓国企業は海外でも積極攻勢に出ています。サムスン物産と韓国電力公社(KEPCO)の韓国コンソーシアムが、総額70億カナダ・ドル(Cドル、1Cドル=約84円)の大規模な風力・太陽光発電事業をオンタリオ州で開始します。風力発電に必要なタワー、ブレード、太陽光発電に必要なインバーター、モジュールを州内で生産し、同州の電力需要量の約4%に当たる2,500メガワット(MW)の電力発電を目指しています。1万6,000人もの雇用を生み出す大型プロジェクトです。韓国コンソーシアムは、第1段階としてオンタリオ州南部のチャタム・ケントとハルディマンドに400メガワット(MW)規模の風力発電施設を建設するほか、同州西部の農地を利用して100メガワット(MW)規模の太陽光発電施設を建設する予定で、どちらも12年の稼動を目指しています。

中国におけるエネルギークラスターとエコシティの建設

2011-12-20 06:44:29 | Weblog
中国では、エネルギークラスターの形成も進んでいます。その一つである遼寧省錦州市は、07年8月「国家火炬(たいまつ)計画」(1988年8月にスタートしたハイテク産業の開発、振興を目的とする一大国家プロジェクト。主な対象は新素材、バイオ、電子・情報、光・機械・電子一体化、新エネルギー、高効率省エネ、環境保全など)で太陽電池産業基地として認可された後、「太陽電池産業発展規画」(08~12年)を制定しました。
同市の「太陽電池産業基地建設に関する実施意見」では、太陽電池産業を強化し、産業チェーンを拡大し、太陽電池製品の市場展開に今後の産業指導の重点を置き、中国最大のシリコン材料生産基地を目指すとしています。現在、同市には太陽電池関連メーカーが23社あります。多結晶、単結晶、シリコンウエハー、太陽電池とそれに関連した材料などの製造・加工企業の進出により、産業クラスターが形成されつつあります。
また、中国では全国30都市で「生態城」(エコシティ)の建設が進められていますが、その一つ天津市では、シンガポール政府と共同で、野心的な「生態城」(エコシティ)の建設が進められています。計画では、10~15年以内に、天津市浜海区内30平方キロメートルの敷地に環境、資源の有効利用、社会の調和を重視した人口20万~30万人のニュータウンを建設します。これは、シンガポールのHDBフラット(公営住宅)をモデルとしており、中心部に池など湿地帯固有の自然を配置し、川や水路をエコ回廊と位置付ける計画です。また、街を4つの主要地域に区分して軽便鉄道で結び、通勤、通学距離を短くします。
日本総合研究所は、再生エネルギーなどに関するコンサルティング経験を生かし、同開発事業の目標とする環境に配慮した都市作りに向けてアドバイスを行っています。同事業では、①再生可能エネルギーの使用率20%、②一般ごみの無害化処理100%、③廃棄物のリサイクル率60%などの約20の環境指標を定めており、こうしたした指標を達成できるようアドバイスを行っています。いずれ、スマートグリッドの構築も射程範囲に入ってくるものと思われます。三井住友銀行と日本総合研究所が天津市からの委託を受けて、日本企業の進出をサポートしています。

中国政府の電気自動車普及策と蓄電池の新動向

2011-12-19 07:13:09 | Weblog
中国政府は、09年からプラグインハイブリッド車や電気自動車などの新エネルギー車の普及を目的に3年間の国家計画を推進しています。「十城千輌」(10都市1000台)プロジェクトと呼ばれるもので、1都市当たり1000台の導入を目指す重点都市が13指定されており(北京市、吉林省長春市、遼寧省大連市、山東省済南市、上海市、せつ江省杭州市、安徽省合肥市、湖北省武漢市、湖南省長沙市、四川省重慶市、広東省深セン市、雲南省昆明市、江西省南昌市)、当面は公用車やバスなどを中心に新エネルギー車の購入や社会インフラの整備運営に補助金を交付するというものです。補助金の上限は、たとえば乗用車ではプラグインハイブリッド車で5万元(約65万円)、電気自動車で6万元(約78万円)となっており、日本のエコカー前税や補助金の額を大きく上回るものです。
これら中央政府からの支援に加え、四川省重慶市や広東省深セン市など一部の地方政府では、個人の購入補助を行う動きも出ています。充電インフラの整備も同様で、09年12月深セン市に中国最大の充電スタンドが開業しました。その他上海市や天津市などでも充電スタンドの建設が進み、ネットワーク化されつつあります。中国国有の送配電会社である国家電網は、10年内に27都市で新たな充電スタンドを建設する計画です。
 こうした状況下で、中国の電気自動車メーカーは積極的なビジネス戦略を展開しています。BYDの動向に関しては第3章第2節で紹介しましたが、それ以外のメーカーも積極的な動きを展開しています。10年1月8日、中国地場の電池メーカー(蘇州星恒電源)と電気自動車駆動システム・メーカー(上海燃料電池自動車動力システム)の合弁企業として、「恒動自動車電池」が中国政府の支援を受けて上海新エネルギー自動車基地内に設立されました。地場初の電気自動車・ハイブリッド自動車用リチウムイオン電池システムの一貫メーカーで、上海市の新エネルギー自動車戦略にとっても同社の設立は重要な一歩になります。第1期工場は12年から生産開始予定です。
 恒動自動車電池は、蘇州星恒電源と上海燃料電池自動車動力システムの共同研究開発の成果を受け継ぎ、地場企業初の電気自動車・ハイブリッド自動車用のリチウムイオン電池のセルから電池システムまで一貫して開発・製造します。第1期工場は10年上半期から建設を開始し、11年末までに完成、12年から生産を開始する予定です。投資総額は3億元、年間生産能力は自動車電池2万システム。第2期工場は投資総額15億元、年間生産能力10万システムです。
 上海市は新エネルギー自動車という新分野でリードを保つため、09年7月、自動車・部品メーカーの集積している上海市嘉定区に上海新エネルギー自動車基地を設け、12年までに上海の新エネルギー自動車産業を900億元規模にする目標を立てています。このため、09年12月「上海新エネルギー自動車産業の発展を促進する政策」を発表しました。開発補助金や利子補助金などのかたちで、新エネルギー車の開発・生産企業に総投資額の最高10%、電池などのコア部品・技術の開発・生産企業に総投資額の最高30%の資金を支援するという内容です。前述の恒動自動車電池は、上海市政府から資金面で強力な支援を受ける予定です。

躍進する中国の太陽電池メーカー

2011-12-15 06:58:33 | Weblog
中国は太陽光発電に力を入れていますが、江蘇省は太陽電池産業が集積し、太陽電池の一大生産基地となっています。サンテックパワーをはじめとして中国大手企業8社のうち6社太陽電池メーカーが立地し、中国の太陽電池の60%を江蘇省で生産しているほか、民間団体である江蘇省太陽光発電産業協会が産学官連携の中核として活動しています。
このうち江蘇省無錫市に本社を置くサンテックパワーは、01年9月設立とその歴史は浅い企業ですが、その成長は驚異的です。赤字企業であったのは設立の翌年までで、その後は倍々ゲーム以上の成長を続け、07年12月期には売上げが13・4億ドル、営業利益が1・7億ドルとなりました。過去5年間で売上げは100倍、営業利益は220倍に急成長した計算です。05年に中国企業としてはじめてニューヨーク証券取引所に株式を上場し、従業員は全世界で1万人を超します。08年に世界シェアでシャープを抜き、09年は欧州市場の落ち込みなどにより売上げは減少したものの、シェアではドイツのQセルズを抜いて、アメリカのファーストソーラーに次ぐ世界第2位の企業となりました。
サンテックパワーは08年、日本の老舗太陽電池メーカーのMSKを買収し、09年にはMSKが得意としていた建材一体型の住宅向け太陽電池パネルの専用生産ラインを中国に導入し、欧州市場向けに輸出を開始しました。日本市場においても建材一体型の住宅向け太陽電池パネルが投入されているほか、09年よりヤマダ電機の販売チャネルでサンテック製の太陽電池パネルが販売されています。中国の太陽電池メーカーとしては、サンテックパワー以外にインリーが急成長を遂げています。

原発稼働とエネルギーシステムを巡る「不都合な真実」とスマートグリッド

2011-12-13 05:59:21 | Weblog
あまり指摘されていませんが、日本においては、遅くとも2020年までにこうしたエネルギー供給システムの大転換を行わなければならないという差し迫った事情があります。福島第一原発事故後、日本のエネルギー構成にあり方を巡って、政府の審議会、新聞、テレビなどのマスコミなど数多くの場で原発推進派と原発反対派との間で“ホット”な議論が展開されています。論点はいろいろありますが、最後まで残る論点は、安全性に関する判断や未来世代の負担という持続可能性に関する判断など価値判断に関わるものです。価値判断が伴う問題に対しては簡単には答えは出せませんが、ここで指摘したいのは、そうした価値判断の前にある冷徹な事実とそれに伴う事実認識の必要性です。事実として、使用済み核燃料の保管場所がなくなることが制約となって、2020年までにはいくら安全な原発であっても稼働しえない状況が生まれます。あと10年弱の短期間で、エネルギーシステムの大転換を成し遂げなければならないのです。

原発稼働に伴って出てくる使用済み核燃料に関しては、現在は日本各地にある原発の原子炉建屋内のプールに貯蔵されていますが、あと5年を待たずして満杯になる状況です。使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを抽出し、プルトニウムは高速増殖炉や軽水炉における燃料として利活用するとともに、抽出後の高レベル放射性廃棄物に関しては、地中深く地層処分するというのが政府の方針ですが、青森県六ケ所村にある再処理工場は稼働のめどが立たず、高速増殖炉のもんじゅは、度重なるナトリウム漏えい事故等もあり廃炉の可能性すら検討されている状況です。さらに、地層処分の最終処理場の選定や立地に関してはまったくめどが立っていません。そうすると、残る手段としては金属製のキャスクと呼ばれる容器に封入して貯蔵するしかありませんが、これとて原発の敷地内外の適地は次第に満杯になっていきます。現に敷地外の貯蔵地として中間貯蔵施設が青森県むつ市に建設されていますが、貯蔵能力に限界があり、福島第一原発事故後の原子力をめぐる厳しい地元世論の動向を見ると、新たな中間貯蔵施設の建設は無理な状況です。米国をはじめとする他の原発先発国においても、このような使用済み核燃料の保管場所がなくなるという限界に直面しています。

さらに、東日本大震災、福島第一原発事故がわれわれに突き付けた課題は、大規模・集中型エネルギーシステムではエネルギーの64%を捨てる構造となっており、その見直しが急務になっているということです。現状のエネルギーシステムでは、火力や原子力など発電段階でのエネルギー効率は40%。60%は熱として捨てています。さらに送電ロス、直流から交流、交流から直流への変換ロスをあわせて5%強が消え、家庭や産業などの需要家に届くエネルギーは元のエネルギーの36%程度に過ぎません。発電用に確保したエネルギーのうちの64%は、使わずに捨ててしまうわけです。これは日本に限った話ではありません。各国の状況を見ると、アメリカが約62%、イギリス63%、フランス72%、そして中国は79%と、いずれも非常に高い数字が出ています(データは「2005年エネルギー白書」)。

この構造を変えるのがスマートグリッドです。64%を捨ててしまう大規模・集中型エネルギーシステムの仕組みを根本から見直す。具体的には、エネルギーを電気だけではなく熱としても取り出すコジェネ、発電効率が飛躍的に向上するコンバインドサイクル発電(ガスタービン発電と蒸気タービンによる発電を組み合わせたシステムで、発電した後に排気されたガスの廃熱を使って、もう一度蒸気タービンを回す非常に効率の良い発電システム)の導入、太陽光や風力など小規模の発電システムを各所に設置する分散型電源を取り入れて、エネルギーロスの少ない小規模・分散ネットワーク型のシステムを整備していくことです。スマートグリッドというと、ともすれば、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの導入拡大の問題とリンクして捉えられることが多いのですが、単に再生可能エネルギーの導入拡大の問題にとどまることなく、広く、各種の分散型電源の導入拡大、発電効率の向上、電気だけではなく熱も考慮した総合エネルギー効率の向上などの多くの課題に対応するエネルギー網を構築するというものとしてスマートグリッドを捉える必要があります。

中国で加速化するスマートグリッド

2011-12-12 06:31:54 | Weblog
アジアにおいても、中国、韓国、シンガポール、インドなどでスマートグリッドへの取組みが展開しています。その中で日本は、インドにおいてスマートグリッドのモデルを構築し、それを他の国、地域に水平展開しようとしています。その背景にあるのは、発展する経済とエネルギー需要の増大です。
このうち中国では、スマートグリッドは中国政府の低炭素政策を支えるものとされています。中国は、05年に制定された再生可能エネルギー法に基づいて、「再生可能エネルギー中長期発展計画」を作成していますが、その中で太陽光、風力などの再生可能エネルギーや原子力の1次エネルギーに占める割合を20年までに15%にまで引き上げることを謳っています。また、再生可能エネルギー法と再生可能エネルギー発電価格と費用分担に関する管理試行弁法にもとづき固定価格買取り制度を導入するとともに、各種の補助金で助成しています。
このうち中国が力を入れている太陽光発電に関しては、08年3月国家発展改革委員会が作成した「再生可能エネルギー開発第11次5カ年計画」では、10年待つまでに太陽光発電の総発電容量を300メガワット(MW)に拡大すること、メガワット級の太陽光発電モデルを実施すること等が示されました。さらに具体的な政策として、09年5月国家エネルギー局は「新エネルギー産業振興策」の概要を作成し、その中で、再生可能エネルギー推進に1300億元(1元=約13円)を投入し、20年までに総発電容量を1万メガワット(MW)に引き上げ、そのため1740メガワット(MW)の太陽光発電所を建設するとしています。
10年3月に開催された全国人民代表大会(全人代)において、温家宝首相は11~15年の次期5カ年計画の主要事業としてスマートグリッドを位置づけ、国家エネルギー局が国内の大半の地域の送電を手がける国有企業、国家電網などと協力して整備を進める方針を明らかにしました。11~15年で2兆元、16~20年にも1兆7000億元の投資を計画しています。10年は準備段階として、天津市、南京市などで研究施設の開設や送電網の実験などを実施することとしており、2000億元超の資金を投じる予定です。
スマートグリッドに関する米中協力も推進しており、09年11月オバマ大統領と中国胡錦涛国家主席が、スマートグリッドに関する共同研究を含む「米中クリーン々エネルギー技術に関する共同イニシアティブ」を発表するなどの動きを示しています。この中では、米中再生可能エネルギーパートナーシップの立ち上げや、米中エネルギー協力プログラムの設置について合意しているます。民間ベースでは、既にアメリカのGE社は、スマートグリッドを含む業務提携の合意を取り付けています。インテルは、中国本土の80%と10億人のユーザをカバーすべく、State Grid Corp of China(SGCC)との間で、グリッドモデリングのためのシミュレーションソフトウェア、ネットワークの隔離と発電所の自動化、組み込み機器向け技術のアプリケーションの開発を行うための技術協力協定を結んで活動を展開しています。
また、中国政府とアメリカのソーラーメーカーであるファーストソーラーは、09年9月8日、内モンゴルの砂漠で2ギガワットの太陽光発電を行うための協定に調印しました。19年完成を目指すもので、これは、内モンゴルのオルドス市に11.9ギガワットの再生可能エネルギー発電パークを建設する計画の一環です。日本最大のメガソーラーは、現在シャープが堺市に建設しているもので28メガワットですので、今回のファーストソーラーものはシャープのものの71倍、原子力発電一基で1Gワット程度ですから、原子力発電の2基分に相当します。また、家庭の太陽光発電は一軒当たり通常3.5キロワット程度ですので、380万軒分に相当する巨大なものです。中国は現在原子力発電建設にも積極的に取り組んでいますが、原子力発電2基分に相当する巨大なソーラー発電への取組みは、中国政府の意欲的な電源開発への取組みを示すものです。