エコポイント&スマートグリッド

省エネ家電買い替え促進で有名となったエコポイントとスマートグリッドの動向を追跡し、低炭素社会の将来を展望します。

画期的なアメリカのスマートグリッド促進税制と日本への提言

2011-03-31 00:18:20 | Weblog
アメリカ国内で再生可能エネルギー導入を進めるためにとられている税制上の措置にPTC(Production Tax Credit)があります。これは、再生可能エネルギー設備の最初の10年間の稼動に対して1キロワットアワー当たり1.8セント(インフレ率により毎年調整される)の税金が控除されるというものです。
 さらに、2005年連邦エネルギー政策法(Federal Energy Policy Act of 2005)によって、住宅部門やビジネス部門における再生可能エネルギー導入のための投資に対し30%の税額控除を認めるという画期的な税制上の措置であるITC (Investment Tax Credit)が導入されました。税額控除(tax credit)は支払うべき税額から控除額を差し引くもので、今回のcreditは事業費の30%のためこの30%分の税金がまるまる安くなるもので、税率を掛ける前に控除額を差し引くdeductionよりも減税額が大きくなります。
 PTCとITCは選択制です。また、PTCにしろITCにしろ、税額控除制度は企業収益が黒字の場合に効果を発揮し景気動向に影響されるものであるため、太陽光発電、風力発電、バイオマス発電、地熱発電に限り、投資される資産価値の30%に相当する助成金を交付する制度もスタートしています。
 ITCに関しては、当初の有効期限が2008年末となっており期限切れが強く懸念されましたが、08年10月に太陽光発電に関しては8年間、風力発電に関しては2年延長されました。また、電力会社にも始めて適用され、メガソーラーの導入に対しても優遇措置がとられることになりました。これにより設置コストが30%も軽減されるので、電力会社の投資判断に決定的な影響を与えます。
 さらに、2010年1月8日オバマ大統領は、スマートグリッド、ビルに省エネ・エネルギーマネージメント、太陽光、風力関連の製造業への投資に対する最大23億ドルのITCを通じて1万7000人、関連する民間投資54億ドルで4万1000人、計5万8000人の雇用を創出する考えを示しました。対象事業は2014年までに施設建設に着手することが求められていますが、対象事業の3割は10年中に着手予定です。控除額の合計は23億ドル、事業者側の負担と合わせると77億ドル規模の事業への投資となります。。
 今回の助成対象事業は、風力、太陽光・太陽熱発電関連装置、変圧器やスマートメーターなどのスマートグリッド関連装置、省エネ型の照明や空調機器などの省エネ関連装置、高効率なタービンなどの産業用装置、電気自動車やバッテリー関連装置、原子力関連装置、二酸化炭素回収・貯留(CCS)関連装置など、極めて広範にわたる装置の製造施設の建設です。
 今回の対象事業の募集に当たっては予想を上回る総額約80億ドル、500件を超える申請があったため、政府は今回対象とされなかった事業のうち有望なものを支援するため、バイデン副大統領は09年12月、減税枠の50億ドル程度の上積みに向けて議会と調整する考えを示しています。
 日本でもITCのように、住宅部門やビジネス部門における再生可能エネルギー導入のための投資に対して税額控除を認める制度を構築すべきです。また、PTCは再生可能エネルギーによる発電に関するものですが、住宅部門やビジネス部門における省エネに関しても、将来スマートメーターの導入をイギリスのようにすべての家庭やビルを対象にするように拡大し、PTCと同様の考え方に基づいて、省エネ1キロワットアワー当たり○円(銭)という税額控除制度を創設すべきです。

米国では、スマートメータの次はOpen ADRと負荷制御が可能な機器の普及

2011-03-30 00:43:35 | Weblog
アメリカの需要応答は、スマートメーター導入から、Open ADRとユーザによる負荷制御が可能な機器の普及へと進んでいます。これによって、電力会社などが機器ごとの電力消費量や消費パターンを把握することができ、需給に応じたリアルタイムの電気料金設定が可能となります。これがアメリカで目指されている最終的な需要応答です。こうした需要応答は今後アメリカ市場で急速に拡大していくことが見込まれており、コロラド州にある専門調査会社であるパイク・リサーチ社は、15年までに62500メガワット(MW)に達するものと予測しています。
 現在の市場でのリーダー企業は、EnerNOC、Comverge、CPowerなどですが、パイク・リサーチ社によると、それらのリーダー企業は潜在需要の14%のシェアしか抑えておらず、今後ESCO事業者が市場に参入してくることが予想されます。ただし、ESCO事業者は独自のアルゴリズムを保有していないので、その際、大きな効果を発揮すると期待されるのが、Lawrence Berkeley National Laboratoryが開発したOpen ADR(Open Automated Demand Response)です。Open ADRは、Lawrence Berkeley National Laboratoryがカリフォルニア州エネルギー委員会(Califorinia Energy Commission)の支援を受けて開発したもので、現在民間団体Open ADR Collaborativeにより普及活動が行われていますが、さらにNISTによる標準化の対象として採択されたことから、今後急速に普及することが予想されます。
これを見越してGEは、10年にユーザによる遠隔制御可能な家電を発売しました。全米最大の家電メーカーであるWhirlpoolも、11年には同種の家電を発売しました。10年1月インテルは、ホーム・エネルギーマネージメント・システムおよびダッシュボードを発表しました。普段はiPhoneによって操作する有機ELのタッチスクリーンに時計が表示されていますが、起動させると家庭のさまざまな機器の情報を表示する操作パネル版に変化します。Zigbee通信方式を採用し、サーモスタットによる室内の温度や湿度の表示、家電などのエネルギーの使用状況の表示や操作にとどまらず、ネットに接続し情報端末として機能します。これにより、家庭の電気料金が30%低減することをねらっています。このホームエネルギーマネージメント・システムは、まだ研究開発中のものですが、Control4のほかOpenPeakなどのスタートアップ企業も、電力会社を通じてかGE、Whirlpoolなどの機器メーカーを通じて、同様のシステムを研究開発しており、いずれ市場獲得を目指して競争が激化することが予想されます。

3段階で進む米国の需要応答への国家的取組み

2011-03-29 06:34:07 | Weblog
アメリカのスマートグリッドの進化は、国家的需要応答への取組みに端的に表れています。アメリカの需要応答とは、発電事業者と小売事業者との間で電気が取引される卸売市場の需給の変化に基づき、小売事業者が需要家に電力消費量を変化させるインセンティブを提供することを意味しています。アメリカの電力業界に対しては、振興に関するものはエネルギー省(DOE)、規制に関するものは、卸売市場については連邦エネルギー規制委員会(FERC)、小売市場については州の公益事業委員会(Public Utility Commission)というように関係部署が分かれていますが、連邦政府により巨額の導入支援策が講じられているスマートメーターを活用した需要応答に関しては、これら組織を挙げて国家的取組みを進めています。
アメリカにおけるスマートメーターを活用した需要応答は、自動車の電動化、すなわちV2Gとの関係づけを明確に意識しています。前述のように、アメリカ政府はプラグインハイブリッド車を15年までに100万台普及させる計画を有しています。そうなると、大量のプラグインハイブリッド車が家庭などの電力ネットワークから充電することになりますが、そうなった場合でも電力ネットワークの安定化を図る必要があります。その際に、充電の開始時刻など需要側の負荷を制御する仕組みとして、発電側でも消費側でもリアルタイムの電力を監視するセンサ網や通信ネットワークの構築が必須であると考えており、その一部をスマートメーターに担わせるという考えです
 現行のアメリカの電気料金体系はこのような考慮がなされないフラットレートが通常ですが、05年エネルギー政策法は、DOEに対して需要応答を行うことの国家的な利益を数量的に特定すること等を求めました。これがアメリカの需要応答に対する取組みの最初です。
 これを受けて、06年2月に「電力市場における需要応答の利益とそれらを達成するための勧告」(Benefit of Demand Response in Electricity Markets and Recommendations for Achieving Them)と題する報告書がDOEによりまとめられました。これによると、需要応答 には「価格型需要応答」(Price-based Demand Response)(時間帯別に供給費用の違いを反映した電気料金を設定すること)と「インセンティブ型需要応答」(Incentive-based Demand Response)(プログラム設置者が需要家と契約を締結し、卸電力料金の高騰時または緊急時に、需要家に対して負荷制御を要請ないし実施する)の2種類があるとされており、日本の大口需要家との需給調整契約や家庭向けにも提供されている時間帯別料金といったものも含まれる非常に広い概念内容となっています。
 07年EISA法は、3段階で需要応答 を推進することを政府に求めています。第1段階は、州ごとに需要応答 の可能性をアセスメントすることで、この段階は09年6月に終了しました。第2段階は1年以内に推進計画を策定することで、すでに同年10月にドラフトが公表されています。第3段階は、これを受けて連邦エネルギー規制委員会(FERC)とエネルギー省(DOE)が議会に対して、具体的な実施提案を提出することになっています。
 またFERCは、NEPOOL(ニープール:ニューイングランド地域の市場)やPJM(ピージェーエム:東海岸州と中西部の州が加わるアメリカ最大の電力卸売市場)などの全米6つの卸売市場において、小売市場における需要応答の動向を反映して電力卸売市場での価格形成(オークション方式)が進み卸売価格の低下につながるように、卸売市場を管理するRTO(Regional Transmission Operator)やISO(Independent System Operator)によるオープンで透明な価格形成が進むよう環境整備を行っています(07年の指令890など)。
 現在アメリカの各地域ではスマートメーターの導入やそれを活用したスマートグリッドの実証事業が急速に進んでいますが、それらの積極的な動きは、FERCや州の公益事業委員会のコミッショナーの全国団体であるNARUC(National Association of Regulatory Utility Commissioners)による競争的な市場環境整備とあいまって、需要応答というシステムを社会に構築しようという試みであると言えます。日本では、このようなアメリカの国家的な動きはほとんど注目されていませんが、いずれ日本にもインパクトを与えてくるものと思われます。

需要応答の効果をどうかんがえるか

2011-03-28 00:04:07 | Weblog
スマートメーターは、日本においても大量に導入されつつありますが、アメリカは、スマートメーターによる需要応答に関して国家的取組みを進めています。07年EISA法は、3段階で需要応答を推進することを政府に求めています。第1段階は、州ごとに需要応答の可能性をアセスメントすることで、この段階は09年6月に終了しました。第2段階は1年以内に推進計画を策定することで、すでに同年10月にドラフトが公表されています。第3段階は、これを受けて連邦エネルギー規制委員会(FERC)とエネルギー省(DOE)が議会に対して、具体的な実施提案を提出することになっています。
スマートメーターを積極的に導入しているカリフォルニアSCE社の試算では、スマートメーターの導入効果(26年の効果を現在価値に換算)として電力業務の効率化効果と省エネ効果だけを見込んだ場合には費用の方が効果を上回るが、洗練された需要応答効果を見込むことでその効果が現行の運営費用を上回り、総じて、効果の方が費用を上回るとされています。
これを前提に考えると、需要応答効果を洗練した形態でうまく発揮することが、スマートメーター導入の成否を左右するポイントとなります。日本でのスマートメーターの導入は、電力業務の効率化効果と省エネ効果に着目して進んでいますが、本来は洗練された需要応答効果をいかに生み出すかというユーザの視点から取り組まれる必要があります。 

「スマートコミュニティ革命」(シリーズ;中国では太陽光発電産業連盟が設立)

2011-03-22 00:01:05 | Weblog
中国政府は、太陽光電池への投資過剰を防ぐため、サンテックなどのメーカーに太陽光発電産業連盟を設立させました。サンテック(Suntech)、インリ(YingLi)、トリナソーラー(TrinaSolar)などの大手23社が加盟しており、これらメンバー企業の09年の多結晶シリコン生産量は全国の7割、太陽光電池の生産量は全国の5割以上を占めます。
中国メーカーの生産能力の急速な拡大は続いており、工業情報部と国家発展改革委員会の調査によると、09年10月時点で国内の太陽電池生産メーカーは約120社、生産能力は年間5,600メガワット・ピーク(MWp)です。さらに、建設中の新規工場の生産能力は合計8,300MWpに達し、現生産能力の1.48倍に相当します。また、多結晶シリコンの生産量も急増しており、多結晶設備技術国家工程実験室の発表によると、生産量は06年の287トンから、07年は4倍の1,156トン、08年はさらに07年の3.7倍の4,300トン、09年は08年の4.7倍の20,230トンに拡大しました。
中国太陽光産業連盟の発表によると、中国の太陽光電池産業は生産能力に比して技術力がまだ弱く、特に薄膜シリコン太陽光電池、多結晶シリコンのコア生産技術力を高める必要があります。また、同産業の省エネ基準、体積基準、環境保護基準など一連の工業規格を制定することも重要な役目となります。

「スマートコミュニティ革命」(シリーズ;中国の太陽光発電導入政策と中国メーカーの動向)

2011-03-18 00:02:32 | Weblog
中国は、2005年に制定された再生可能エネルギー法に基づいて、「再生可能エネルギー中長期発展計画」を作成していますが、その中で太陽光、風力などの再生可能エネルギーや原子力の1次エネルギーに占める割合を2020年までに15%にまで引き上げることを謳っています。また、再生可能エネルギー法と再生可能エネルギー発電価格と費用分担に関する管理試行弁法にもとづき固定価格買取制度を導入するとともに、各種の補助金で助成しています。
 このうち中国が力を入れている太陽光発電に関しては、2008年3月国家発展改革委員会が作成した「再生可能エネルギー開発第11次5カ年計画」では、10年待つまでに太陽光発電の総発電容量を300メガワット(MW)に拡大すること、メガワット級の太陽光発電モデルを実施すること等が示されました。さらに具体的な政策として、2009年5月国家エネルギー局は「新エネルギー産業振興策」の概要を作成し、その中で、再生可能エネルギー推進に1300億元を投入し、20年までに総発電容量を1万メガワット(MW)に引き上げ、そのため1740メガワット(MW)の太陽光発電所を建設するとしています。
 このような中で、江蘇省は太陽電池産業が集積し、太陽電池の一大生産基地となっています。サンテック・パワーをはじめとして中国大手企業8社のうち6社太陽電池メーカーが立地し、中国の太陽電池の60%を江蘇省で生産しているほか、民間団体である江蘇省太陽光発電産業協会が産学官連携の中核として活動しています。
 このうち江蘇省無錫市に本社を置くサンテック・パワーは2001年9月設立とその歴史は浅い企業ですが、その成長は驚異的です。赤字企業であったのは設立の翌年までで、その後は倍々ゲーム以上の成長を続け、07年12月期には売上げが13・4億ドル、営業利益が1・7億ドルとなりました。過去5年間で売上げは100倍、営業利益は220倍に急成長した計算です。2005年に中国企業としてはじめてニューヨーク証券取引所に株式を上場し、従業員は全世界で1万人を超します。08年に世界シェアでシャープを抜き、09年は欧州市場の落ち込みなどにより売上げは減少したものの、シェアではドイツのQセルズを抜いて、アメリカのファーストソーラーに次ぐ世界第2位の企業となりました。
 サンテック・パワーは2008年、日本の老舗太陽電池メーカーのMSKを買収し、09年にはMSKが得意としていた建材一体型の住宅向け太陽電池パネルの専用生産ラインを中国に導入し、欧州市場向けに輸出を開始しました。日本市場においても建材一体型の住宅向け太陽電池パネルが投入されているほか、09年よりヤマダ電機の販売チャネルでサンテック製の太陽電池パネルが販売されています。中国の太陽電池メーカーとしては、サンテック・パワー以外にインリーが急成長を遂げています。

「スマートコミュニティ革命」(シリーズ;中国は「モノのインターネット」を強力に推進)

2011-03-17 00:39:29 | Weblog
中国では19の技術標準組織が共同で、「モノのインターネット連合標準グループ」を設立しました。19技術標準組織は、それぞれ国家標準化管理委員会、工業情報化部や国家暗号管理局など11の政府部門に属し、分野は工業プロセス制御、知能建築、物流、電力、医療、音声・画像、デジタル家電など多岐にわたります。
また、19技術標準組織は、モノのインターネット((Internet of things、IOT)はあらゆるモノをRFID、インターネットなどの電子・通信技術でつなぎ、モノ同士やモノと人間との情報交換を実現する新技術で、幅広い分野で応用できる将来の基盤技術と認識されています)に関する技術は、①モノの情報を感知するセンサー技術、②センサーやコンピューターなどをネットワークするネット化技術、③実用化開発の3分野に大別され、今後、「モノのインターネット連合標準グループ」の技術開発・標準制定作業はこの3分野を中心に計画的に展開するとしています。
(注)19の技術標準組織は以下のとおり。
全国工業プロセス測量・制御標準化技術委員会、全国知能建築・住宅デジタル化標準化技術委員会、全国知能運送システム標準化技術委員会、全国コンテナ標準化技術委員会、全国電力システム管理と情報交換標準化技術委員会、全国家電標準化技術委員会、全国安全生産標準化技術委員会、中国急診医者協会技術標準委員会、工業情報化部電子バーコード標準グループ、工業情報化部情報資源共有サービス標準グループ、工業情報化部ブロードバンド無線IP標準グループ、工業情報化部デジタル音声・画像コーデック技術標準グループ、工業情報化部家庭ネットワーク標準グループ、全国情報技術標準化委員会センサーネットワーク標準グループ、人民解放軍総後勤部情報化専門家コンサルティング委員会標準化専門委員会、衛生業界RFID(無線ICタグ)とモノのインターネット標準グループ、商務領域RFIDデジタルデーター標準グループ、国家暗号管理局電子バーコード暗号応用研究専門グループ、香港物流供給チェーン管理応用技術研究開発センター。

福島原発事故を乗り切るため「エネルギーのインターネット」の構築を!

2011-03-16 06:57:07 | Weblog
(福島原発事故が提起している「スマートソリューション」の必要性)
首都圏で使われる電気の約4割が、新潟県の柏崎刈羽原子力発電所、福島県の福島第一・第二原子力発電所と3ヶ所の原子力発電所における発電でまかなわれています。今回の福島原子力発電所の事故は、われわれのライフラインのあり方を痛切に考えさせる契機となりました。
実は私は、以前2年間原子力安全(国際関係担当)をやったことがあります。その過程で07年7月に起こった地震による柏崎刈羽原子力発電所の運転停止問題も経験し、IAEA(国際原子力機関)における津波に関する国際安全基準の作成等にも関与しました。08年5月には、ワシントンでのNRC(米原子力規制委員会)との協議、ウィーンにおけるIAEAでの国際会議後、ウクライナのチェルノブイリを訪れました。86年にメルトダウンを起こした人類の原子力史上最悪の事故の現場です。早朝キエフのホテルを出発し夕方戻るまで1日間の行程でしたが、原子力発電所があったサイトではメルトダウンを起こした場所から200メートルのところまで接近しました。
チェルノブイリで問題となったロシアのRBK炉とフェールセーフ構造になっている日本の軽水炉とは話は異なりますが、今回の事故を契機として、ハードかソフトか(原子力か、自然エネルギーか)、ホットかクールか(化石燃料を含め費用対効果を重視するか、否か。最近金谷年展さんの『クールソリューション』という本が出版されました)という軸を超えて、「スマートソリューション」が必要なように思っています。
ここで、私が「スマートソリューション」というのは、ハードかソフトかあるいはホットかクールかという単純な二項対立でこの問題を考えるのではなく、スマートな規制の枠組み(スマートレギュレーション)の下で、エネルギーの地産地消、ユーザ指向の問題の解決、技術エンジニアリングのみならずソーシャルエンジニアリングを重視して「エネルギーのインターネット」を構築するアプローチのことです。この点については、10年8月の情報処理学会誌(「エネルギーの情報化」特集号)に小さな論考を寄稿していますので(http://www.smartproject.jp/wp-content/uploads/pdf/100820_141340_001.pdf)、是非ともお読みください。

(安政の大震災を乗り越え明治維新を実現した日本人の覚悟と構想力)
今後日本は「国難」とも言える状況の下で、被災者の救助、震災からの復興、国土の再建という課題に取り組まなければなりません。国民の心が一つとなり、一丸となって「国難」を乗り越えていかなければなりません。これは、1853年黒船の来襲ののちの1854年に大地震が東海(M8.4)・南海(M8.4)豊後と愛媛(M7.4)を、1855年に安政の大地震が江戸をそれぞれ襲ったにもからわらず(M6.9)、当時の民衆が藩への帰属意識から日本国民としてのアイデンティティを確立し、幕末期の「国難」を乗り越えて明治維新を成し遂げたことを思い起こさせます。
厳しい財政事情、税と社会保障の一体改革、TPPへの参加問題など、先延ばしできない課題も横たわっています。しかし、これらは従来の取り組み姿勢では解決できなかったのではないでしょうか。大変な「国難」ですが「国難」であればこそ、上述のわれわれのライフラインの再設計を含めてわれわれの子孫に「未来」を残す覚悟と構想力が求められているのではないでしょうか。

(福島原発事故は世界の環境エネルギー政策の動向を左右する)
今、今回の大震災の罹災者は一刻も早い水、食料、エネルギーの提供を求めています。水、食料、エネルギーのライフラインの問題は、14日以降、幸いにして罹災しなかった人々の生活にも影響を与えます。東京電力管内の需要は4100万キロワット、供給は3100キロワットで、14日から会社設立以来初めて計画停電に踏み切ります。50kHz(東日本)と60kHz(西日本)の2つの周波数があり、周波数変換所の変換能力が120万kWしかない構造上のぜい弱性も露呈されました。
その中で福島原発の事故は、過去のスリーマイルアイランド原発事故(79年)、チェルノブイリ原発事故(86年)後の状況に鑑みると、国内的のみならず、世界的にも「原子力ルネッサンス」の下で原子力推進を図ろうとしていた新興国、途上国、先進国の動きに対して、見直しの気運が起こる可能性があります。その意味で、原子力先進国である日本が今回の福島原発の事故をうまくマネージできるかどうかは、世界の環境エネルギー政策の動向を左右することになるでしょう。それほど福島原発の事故はインパクトのあるものだと思います。

(改めて問われるトリレンマに対する日本の選択)
ここでは、従来の原発反対派と賛成派の対立とは別の次元で、問題の真の所在を考えて見たいと思います。実は、国民の生活の質の維持・向上、地球温暖化防止・エネルギーセキュリティの確保、原子力の推進は、原子力というエネルギーをどう考えるかによって、ある種のトリレンマの関係にあります。この世の中には絶対安全ということはありませんが、原子力の安全性やセキュリティの確保に関しては、かなりな程度解決されてはいるものの、高レベル放射性廃棄物などいまだ解決策を持ち得ていないものがあります。原子力アレルギーは別として、日本において一般の人々は、このようなエネルギーとしての原子力に真正面から向かい合おうとはしなかったのです。
トリレンマに対するわれわれ日本の選択は、生活の質の維持・向上を前提として、地球温暖化防止・エネルギーセキュリティの確保、原子力の推進をも図るというものでした。ご承知の通り、チェルノブイリ原発事故の後「脱原発」という別の道を選択したドイツは、その後選択の重みに苦悩しています。ここ数年では「脱原発」を軌道修正して原発の稼働期間の長期化などを行ってきていますが、最近では、環境保護派との妥協から原発の稼働期間の延長を認める代わりに税金を徴収し、その税収を再生可能エネルギーの開発に充てるという新しい方針を出しました。

(「エネルギーのインターネット」構築への道)
仮に原子力に見直しの気運が起こったとき、日本はどのような選択をするのかが問われます。そのときは、国民の生活の質の維持・向上と地球温暖化防止・エネルギーセキュリティの確保という解決困難なディレンマに直面することになります。「スマートなソリューション」という私の発想(http://www.smartproject.jp/wp-content/uploads/pdf/100820_141340_001.pdf)は、こうしたトリレンマ、ディレンマという袋小路に入り込むことなく、エネルギーの地産地消、ユーザの視点と選択、技術エンジニアリングのみならずソーシャルエンジニアリングという別の次元で、周波数問題への対応、原子力の活用を含めた全体最適を追求する道を構築しようというものです。
ただし、民主主義のあり方とも関係する問題ですので、転換には時間がかかることを忘れてはなりません。必要なことは、全体最適を追求するグランドデザインの構築は早期に行い、それに基づいて国民の合意の下に中長期的なロードマップを作成し、ステップ・バイステップで着実に新しいエネルギーのライフラインとして「エネルギーのインターネット」を構築していくことだと思います(2011年3月12日記す)。

「スマートコミュニティ革命」(動向;アメリカのBEMSは学校と病院から)

2011-03-15 06:09:23 | Weblog
BEMSについて、先行しているのはアメリカです。アメリカでのBEMSの端緒となったのが、学校と病院のエネルギーマネージメントです。このうち学校のBEMSに関しては、08年に学校のスマ-トエネルギー化、グリーンスクール実現を支援する法律(Green Performing Public School Act)が制定され、5年間で2兆円規模の資金を投資して学校の省エネを推進しています。環境教育の推進とともに、モデルとして、1学校あたり年間1000万円の節約、これにより教師の増員、新しいPCの導入、図書の購入を促進するというものです。また、08年7月米エネルギー省(DOE)は、病院のエネルギーマネージメントを進めるというイニシアティブを発表しています。これは、病院のエネルギーコストが50億ドル、商用オフィスビルに比べて単位あたりのCO2排出量が2.5倍であることにかんがみ、既設の病院については20%、新設の病院に対しては現行基準より30%省エネを促進しようというものです。
さらにアメリカでは、最終エネルギー消費量のZEB(Net Zero Site Energy)を目指すZEB(Net-Zero Energy Buildings)への投資が政府を中心に行われています。08年8月米エネルギー省(DOE)は、「07年エネルギー自給・安全保障法」(Energy Independence and Security Act of 2007:以下「EISA法」という)に基づき「Net-Zero Energy Commercial Buildings Initiative」を発表し、ZEBを目指したBEMSへの取組みを開始しました。その内容は、30年までに新築されるすべての業務ビルをZEB化する、2040年までに既存の業務ビルの50%をZEB化する、50年までにすべての業務ビルをZEBとするための技術・慣行・政策を開発・普及するというものです。また、アメリカ政府はARRA法に基づき、例えば45億ドルの連邦政府ビルの省エネ改修を予算に盛り込みました。
 またアメリカでは、アメリカグリーンビルディング協議会(USGBC)が自主評価システムであるLEED(Leadership in Energy and EnvironmentalDesign)の「Green Building Rating System」を運営管理しています。LEED評価システムでは、用地設計、室内環境の品質、エネルギー・建材・水の有効利用という大きく5つのカテゴリーについて、グリーン建築の指定基準を満たしているかどうかにより点数化されます。LEED評価が高いということは、優れたグリーンビルディング設計である証しで、州政府機関や地方自治体、さらには民間団体からさまざまな財政面、規制面の優遇措置を受ける資格が得られるようになっています。

福島原発事故に思う「国難をいかに乗り切るか」(その2)

2011-03-14 00:37:42 | Weblog
(今回の地震に罹災された方々に心よりお見舞いを申し上げます)

今回の大震災の罹災者は一刻も早い水、食料、エネルギーの提供を求めています。水、食料、エネルギーのライフラインの問題は、14日以降、幸いにして罹災しなかった人々の生活にも影響を与えます。東京電力管内の需要は4100万キロワット、供給は3100キロワットで、14日から会社設立以来初めて計画停電に踏み切ります。50kHz(東日本)と60kHz(西日本)の2つの周波数があり、周波数変換所の変換能力が120万kWしかない構造上のぜい弱性も露呈されました。

その中で福島原発の事故は、過去のスリーマイルアイランド原発事故(79年)、チェルノブイリ原発事故(86年)後の状況に鑑みると、国内的のみならず、世界的にも「原子力ルネッサンス」の下で原子力推進を図ろうとしていた新興国、途上国、先進国の動きに対して、見直しの気運が起こる可能性があります。その意味で、原子力先進国である日本が今回の福島原発の事故をうまくマネージできるかどうかは、世界の環境エネルギー政策の動向を左右することになるでしょう。それほど福島原発の事故はインパクトのあるものだと思います。

ここでは、従来の原発反対派と賛成派の対立とは別の次元で、問題の真の所在を考えて見たいと思います。実は、国民の生活の質の維持・向上、地球温暖化防止・エネルギーセキュリティの確保、原子力の推進は、原子力というエネルギーをどう考えるかによって、ある種のトリレンマの関係にあります。この世の中には絶対安全ということはありませんが、原子力の安全性やセキュリティの確保に関しては、かなりな程度解決されてはいるものの、高レベル放射性廃棄物などいまだ解決策を持ち得ていないものがあります。原子力アレルギーは別として、日本において一般の人々は、このようなエネルギーとしての原子力に真正面から向かい合おうとはしなかったのです。

トリレンマに対するわれわれ日本の選択は、生活の質の維持・向上を前提として、地球温暖化防止・エネルギーセキュリティの確保、原子力の推進をも図るというものでした。ご承知の通り、チェルノブイリ原発事故の後「脱原発」という別の道を選択したドイツは、その後選択の重みに苦悩しています。ここ数年では「脱原発」を軌道修正して原発の稼働期間の長期化などを行ってきていますが、最近では、環境保護派との妥協から原発の稼働期間の延長を認める代わりに税金を徴収し、その税収を再生可能エネルギーの開発に充てるという新しい方針を出しました。

仮に原子力に見直しの気運が起こったとき、日本はどのような選択をするのかが問われます。そのときは、国民の生活の質の維持・向上と地球温暖化防止・エネルギーセキュリティの確保という解決困難なディレンマに直面することになります。「スマートなソリューション」という私の発想(http://www.smartproject.jp/wp-content/uploads/pdf/100820_141340_001.pdf)は、こうしたトリレンマ、ディレンマという袋小路に入り込むことなく、エネルギーの地産地消、ユーザの視点と選択、技術エンジニアリングのみならずソーシャルエンジニアリングという別の次元で、周波数問題への対応、原子力の活用を含めた全体最適を追求する道を構築しようというものです。
ただし、民主主義のあり方とも関係する問題ですので、転換には時間がかかることを忘れてはなりません。必要なことは、全体最適を追求するグランドデザインの構築は早期に行い、それに基づいて国民の合意の下に中長期的なロードマップを作成し、ステップ・バイステップで着実に新しいエネルギーのライフラインを構築していくことだと思います。