エコポイント&スマートグリッド

省エネ家電買い替え促進で有名となったエコポイントとスマートグリッドの動向を追跡し、低炭素社会の将来を展望します。

スマートイノベーション;日本のハンディキャップは「頭脳循環」

2013-03-11 00:16:50 | Weblog
 スマートグリッド、スマートコミュニティに関する新産業の創生やイノベーション(=スマートイノベーション)の5回目として、1.最新の経済地理学が教える産業競争力の決定要因 、2.「頭脳循環」によるシリコンバレーと強力な連携がポイント、3.ハンディキャップ”を抱える日本はどう対処すべきか 、です。
 全文は以下の通りです。ご関心があれば、お読みください。


●最新の経済地理学が教える産業競争力の決定要因

 アナリー・サクセニアン著『現代の二都物語』は、IT産業でのシリコンバレーの興隆とボストン128号線地域の(相対的)没落を分析し「ソーシャルキャピタル」の重要性を指摘しましたが、その後著した『最新・経済系地理学』においては、IT分野で、中国、インド、台湾、イスラエルがせいぜい10年の間になぜ驚異的な成長を遂げたのかを綿密な調査によって明らかにしています。
 原題は「The New Argonauts」。これらの地域の起業家を、金羊毛を求めて冒険の旅に船出したギリシャ神話の「アルゴ号遠征隊員」(The Argonauts)になぞらえています。その分析は、中国、インド、台湾、イスラエルと異なってなぜ日本における起業が低迷しているのか、従来の国際経済学の学説が説くところとは異なった最新の産業競争力の決定要因を知る大きな手掛かりになります。


●「頭脳循環」によるシリコンバレーと強力な連携がポイント
 『最新・経済系地理学』においても、サクセニアンが指摘している結論は単純明快です。いま、中国、インド、台湾、イスラエルなどの経済がダイナミックに発展していますが、それはかつてシリコンバレー流出していった人材が、2000年以降母国に戻って活躍しはじめたからこそ実現されたというのがその結論です。「頭脳流出」から「頭脳循環」の時代に入って新しいパラダイムが生まれたというのがサクセニアンの分析です。
 シリコンバレーからの帰国組みは、母国に戻ってもシリコンバレーとのパイプを断ち切りませんでした。彼らは帰郷してのち母国で起業しましたが、1980年代の日本企業のようにアメリカ企業と真っ向から勝負しようとはしませんでした。特定の分野に専門特化して、シリコンバレーで発展した水平分業の一翼を担うことを選んだのです。例えば、台湾に戻った技術者立ち上げた企業は、アメリカ企業が設計した最先端の電子機器を素早く製造することに特化しました。
 このように専門特化によって、シリコンバレーの企業との補完的な関係を築いている点は、中国、インド、イスラエルに戻った技術者たちの起業も同じです。彼らは、シリコンバレー流のオープンな産業システムを母国で広げたのです。見方を変えれば、シリコンバレーで発展したネットワーク型の水平分業体制が、アメリカの国境を越えて広がったと言えます。
 中国を例に取れば、と小平以降の改革路線が今日の経済発展への道を開いたことはよく知られていますが、これだけが成長の要因であったわけではありません。背後には、香港を中継基地とした台湾からの投資があり、さらにその背後には、シリコンバレーの経済や技術とのつながりがありました。すなわち、シリコンバレーと強力な連携こそが、上海や北京のハイテク産業拠点を発展させた最大の駆動力なのです。
現在中国やインドなどの新興国に移りつつあるのは数多くの技術者を必要とする応用技術の領域ですが、GEがインドで開発した心電図検査セットのように、新興国で製品開発をして先進国市場へと投入する「リバース・イノベーション」と呼ばれるものも増えています。


●“ハンディキャップ”を抱える日本はどう対処すべきか
 バンガロール(インド)、北京・上海(中国)、台北(台湾)、テルアビブ(イスラエル)などと産業・ビジネスネットワークを構築し、ネットワークのシナジー効果により、それぞれの地域の競争力を上昇させてきたのです。従来の国際経済学の学説では、産業の競争力は貿易の増加や多国籍企業の活動範囲の拡大によって向上すると説かれていますが、サクセニアンの『最新・経済地理学』は、このような「頭脳循環」に支えられた産業・ビジネスネットワークの存在が産業の競争力を決める決定要因であるという新しい理論を提示しています。
 日本には、このような「頭脳循環」によるシリコンバレーと強力な連携は存在しません。IT分野から環境エネルギー分野にもまたがったスマート分野において、日本のダイナミズムをいかに形成し、発展していくのかが問われています。次回の連載以降では、“ハンディキャップ”を抱えた日本はどう対処すべきかついてさらに深く考察することとしたいと思います。

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