エコポイント&スマートグリッド

省エネ家電買い替え促進で有名となったエコポイントとスマートグリッドの動向を追跡し、低炭素社会の将来を展望します。

政府の新成長戦略・グリーンイノベーション政策の盲点(「イノベーションのジレンマ」への着目が必要)

2010-11-06 18:25:05 | Weblog
太陽光発電、自動車などにおいて日本企業が直面している競争環境の激変に関して有益な示唆を与えてくれるのが、1997年にハーバード大学教授のC・クリステンセンによって提唱された「イノベーションのジレンマ」(Innovator's Dilemma)と呼ばれる考え方です。
「イノベーションのジレンマ」は、優良企業は製品の性能向上を追求するあまり過剰品質に陥り、消費者がもっと安価で手軽なものを求めるようになっていること(需要曲線が下方にシフトする)に気づかなくなると指摘します。その間隙を突いて、これまでの技術の延長線上にない”破壊的イノベーション”が生まれます。それは、得てして単純で安価です。そして、最初こそニッチ市場でしか受け入れられませんが、下方シフトした需要曲線とは意外に早くミートし、まず、小さな市場拡大が起きます。さらに技術革新が進むと主流の需要曲線にもぶつかり、ほぼ7年間ごとに旧技術との世代交代が起きるというものです。
地球温暖化防止技術、エネルギー供給構造の自立化のため有望なのは、大きく言って、太陽電池、リチウムイオン電池、電気自動車の3技術です。太陽からの無尽蔵のエネルギーを効率よく電気エネルギーに変換するのが太陽電池であり、太陽電池による発電の不安定性を補うため蓄電を行うのがリチウムイオン電池です。また、ガソリンや軽油といった化石燃料を使わなければならなかった自動車を電気自動車に置き換えれば、高い省エネ、CO2排出削減を実現することができます。電気自動車にもリチウムイオン電池が使われます。実用化に近い順に並べると、太陽電池、リチウムイオン電池、電気自動車の順になります。
一般に工業製品には、「学習曲線」と呼ばれるように、累積設置容量が10倍になると価格が2分の1に低下するという経験則があります。その理由としては、技術の改良が加えられるということ、製造時の失敗が少なくなり歩留まりが上がること、効率のよい大きな設備に置き換えることができるようになること等があげられています。今までの太陽電池の価格低下は、生産量の増加の割合以上に価格が低下しています。この「学習曲線」を前提とすると、100倍つくれば価格は4分の1、1万倍つくれば価格は16分の1になります。
太陽電池、リチウムイオン電池、電気自動車にも「学習曲線」が当てはまり、市場価格が急速に低下していくことになります。それに伴って、「マーケット・ぺネトレーション・カーブ」(市場浸透曲線)というS字型曲線に従って市場に浸透し、拡大していくことになります。これらの新技術は、使い方が従来とは異なったものではなく、その点では従来の技術を置き換えるものです(太陽電池はこれまでの発電法に対する置き換え、リチウムイオン電池は鉛電池に対する置き換え、電気自動車は内燃機関自動車に対する置き換え)。このような置き換え技術は、ひとたび低コスト化、低価格化に成功すると、ほぼ7年でその前の古い技術に置き換わることになります。このことは、携帯電話、デジタルカメラ、CDなどの製品やIP電話、ADSLなどのサービスの普及で見られたことです。
さらに、これらの新しい技術の置き換えによる変化で注目すべきは、前の技術のマーケットの規模に比べて、新技術のマーケットの大きさが普及とともに圧倒的に大きくなることです。たとえば、デジタルカメラのケースで言うと、フィルムカメラの生産台数のピークが年間4000万台であったものが、デジタルカメラになった06年には8000万台まで増えています。これは、プリント代の低下に加え、機能的にも多くの画像が貯えられ、画質も次第に改善され、撮った写真の出来がその場で確認できるなどの理由によるものです。これにより、これまでカメラを使わなかった人が使うようになったり、カメラを複数持つ人が増えたことで、デジタルカメラの市場が大きく拡大しているのです。これと同様のことが、今後、太陽電池、リチウムイオン電池、電気自動車の順で起こります。
 小型ハードディスクやインクジェットプリンタを引き合いに出しつつこの「イノベーションのジレンマ」を解き明かしたクリステンセンは、『イノベーションのジレンマ』の最終章で電気自動車を”破壊的イノベーション”として取り上げています。このことは、エンジン車とハイブリッド車世界を席巻している日系自動車メーカーこそイノベーションのジレンマに陥る先頭に立つことを意味しますが、その先にはもっと混沌とした未来が待ちうけています。構造的にシンプルなプラグインハイブリッド車や電気自動車が台頭すれば、自動車市場への参入障壁は低くなり、シリコンバレーや中国などの海外ベンチャー企業のみならず、電機メーカーなどの異業種がどんと市場に参入する可能性が開かれます。こうなると、次の時代の車の”勝者”は、もう誰にもわかりません。このような自動車メーカーを取り巻く競争環境の激変は、一足先に太陽電池やリチウムイオン電池の分野でも起こることは疑う余地がありません。
 現在の”破壊的イノベーション”の代表例は、太陽電池、リチウムイオン電池、電気自動車ですが、LED照明もそれらに続くでしょう。時を経るに従って、燃料電池、燃料電池自動車なども”破壊的イノベーション”として続々と登場するでしょう。

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1 コメント

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内燃機関マニア (低フリクションピストンピン)
2017-06-19 00:19:52
島根大学の客員教授である久保田邦親博士らが境界潤滑の原理をついに解明。名称はCCSCモデル「通称、ナノダイヤモンド理論」は開発合金Xの高面圧摺動特性を説明できるだけでなく、その他の境界潤滑現象にかかわる広い説明が可能で、更なる機械の高性能化に展望が開かれたとする識者もある。幅広い分野に応用でき今後潤滑油の開発指針となってゆくことも期待されている。
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