ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

地球防衛軍

2020年11月30日 | 映画みたで

監督 本多猪四郎
出演 佐原健二、平田昭彦、白川由美、河内桃子、志村喬

 小生、生まれは西宮だが、三つの時からずっと神戸は東灘の住民である。その東灘に甲南というところがある。六甲山の南である。JRにも甲南山手という駅があるし、甲南大学もある。その甲南に甲南朝日という映画館があった。東宝の封切館で、ここでよく東宝の特撮映画をよく観た。
 トシを取ると幼いころのことが懐かしく思い出される。甲南朝日でいろんな特撮映画を観たが、とくに印象に残っているのが「地球防衛軍」だ。このたびDVDを買った。観た。
 製作田中友幸、監督本多猪四郎、特技監督円谷英二、音楽伊福部昭。出演佐原健二、平田昭彦。子供のころこういう陣容の映画を何本も観たことか。それが長じたらこういうおっさんになったわけだ。これらの人たちが創る映画は決してSF映画ではない。空想科学映画なのだ。そうだ小生は実はSFファンではないのだ。空想科学小説ファンなのである。バラード、ムアコック、シッシあっち行け。ハミルトン、スミス好き好きなのである。
 もうすぐ正月。大昔、昭和の時代の新聞の元旦企画といえば「未来の日本」とかいって明るく希望に満ちた未来を想像するモノであった。小松崎茂が描く日本の未来。東京大阪を3時間で結ぶ夢の超特急。四国と本州に夢の懸け橋が架かる。こんな素晴らしい未来が来るのかとワクワクしながら見たもんだ。この「地球防衛軍」はその小松崎茂がデザインの設定をやっている。あの小松崎茂の絵が実写で動くのである。
 甲南朝日で観た東宝特撮映画はあまたあるが、この映画はごく初期であった。そりゃ今のCGやらデジタルやらで創った映像もすごいが、この昭和の特撮映画は手作りの工芸品を見るような味わいがある。
 火星と木星の間には小惑星がたくさんある。あれは一つの惑星であった。ミステリアンというその惑星の住民の一部は火星に逃れ、月の裏側に基地を作って、地球上空に宇宙ステーションまで作っている。そのミステリアンが冨士山麓に基地を作った。巨大なドームが地上に出ている。空飛ぶ円盤も飛ばし、怪ロボットも繰り出してきた。要求は土地と地球人の女性。そんな要求はのめるわけがなうい。戦いとなるが、地球の兵器では歯が立たない。
 という、空想科学な映画である。とつぜんミステリアンに対抗できる兵器が出てきたり、たった一人で乗り込んだ若手科学者の活躍で拉致された女性たちが救出されたりとか、都合よくお話は進むが、そこはそれ、ご愛敬というもの。押入れの奥から小さなころ遊んだおもちゃ箱がでてきた。ひっくりかえしたら楽しいモノがいっぱい。そんな映画である。

定吉七は丁稚の番号

2020年11月28日 | 本を読んだで

 東郷隆      講談社

 小生、上方落語ファンで、007(ショーン・コネリー版限定)好きである。そういう人間が、この定吉七番シリーズのファンになるのは必然。全巻持っていたが、阪神大震災で書棚が全壊して手放した。後悔している。
 おりあるたびに古本屋を探していたが、なかなかない。第一作の「定吉七は丁稚の番号」だけを大阪の古本屋で入手した。さっそく読んだ。あと、「ロッポンギから愛をこめて」「角のロワイヤル」「ゴールドういろう」「太閤殿下の定吉七番」を引き続いて探していたがない。ネットで入手できることは知っていたが、それじゃ面白くない。探してる本は苦労して見つけるのが楽しい。で、ない。あきらめてネットで買った。
 と、いうわけで、このシリーズ最初から読み直してやろう。第1巻のこの本を読んだわけ。いやあ、あいかわらず面白い。関西人のツボをくすぐりまくりである。

その果てを知らず

2020年11月26日 | 本を読んだで

 眉村卓                  講談社

 眉村さんの一周忌を過ぎて一か月ほどだ。おもえば、眉村さんとご厚誼をいただいて半世紀近い。昔は月に一度はお会いしていた。晩年には年に一度は酒席を共にしていただいた。(眉村さんは飲まれなかったが)
 SF作家とSFファンという関係ではあったが、そういう人を亡くした。大きな喪失感を感じている。
 その眉村さんの正真正銘の遺作である。死の直前までこの小説を書かれていた。ラストはご自分でシャープペンシルを持つこともかなわず、娘さんの村上知子さんが口述筆記をしたとのこと。
 人が死を身近に感じるとはどういうことか、重い病気にかかるとは、その病気が死病であるということは。その人が作家であり、なおかつSFを深く愛する作家であるのなら、そういう作家が、生涯でこれが最後の作品だと想い定めて書けばいかなる作品になるか。その正解がここにある。重病でなく、それが死病ではなく、作家であったとしてもSF作家でなかったとしたら、こういう作品にはならなかったであろう。
 そういう意味からも、この作品は眉村さんの真の意味での最後の作品であり、60年の作家人生のピリオドにふさわしい作品である。
 眉村さんは現役の作家のままご逝去された。あらためてご冥福をお祈りしたい。

グッド・ライヤー 偽りのゲーム

2020年11月23日 | 映画みたで
監督 ビル・コンドン
出演 ヘレン・ミレン、イアン・マッケラン、ラッセル・トーヴィー

 途中で主役が替わる映画である。だれが本当の主役かはここではいえない。ネタバレになる。映画を観てほしい。
 ロイ・コートネイは詐欺師。かなりの老齢だが、腕っこきの詐欺師。かなりのワルで殺しも平然とやる。そんなロイの今回のターゲットは出会い系サイトで知り合った老婦人。待ち合わせの場所へ行くと、上品な老婦人が待っていた。世間知らずでウブそうな婦人。深窓の令嬢がそのまま年取ったような美老婦人。オックスフォードで教職についていた。夫と死別し、今は孫と二人暮らし。ロイの見たところかなりの資産がある。
 言葉巧みにロイは老婦人ベティ・マクリーシュに取り入る。ベティもロイを気に入ったようだ。都合の良いことにベティは持病を持っていて、あまり長くないという。さてさて、ベティはロイにだまされて財産を取られてしまうのか。
 と、いう詐欺話だが、そんな単純なものではない。もっと奥の深いはなしである。ロイのイアン・マッケランとベティのヘレン・ミレンがうまい。だまされるのはベティだけではない。

五目炒飯

2020年11月22日 | 料理したで

 世に腹立たしいことはたくさんある。料理を趣味とする者、特に中華を調理するのが好きなご仁にとって、小生もそうだが、家庭用のガスレンジほど腹立たしいモノはないだろう。
 今の家庭用ガスレンジには、SIセンサーがいやでもついていて、こやつが勝手に火力を弱める。いい調子で高火力で炒めモノをしていたら、知らぬ間に弱火になっておる。
 紅蓮の炎を噴き上げつつ中華鍋を振るって炒飯をつくる。見果てぬ夢である。かようなマネは高火力の業務用レンジが必要だし、それだけのガスを供給してもらおうとすれば大がかりなガス配管の工事が必要だ。
 果たせぬ夢を追ってもせんなきこと。なんとか工夫してそれなりの中華料理を調理しよう。
 小生は炒飯専用にひと口コンロを持っておる。これならSIセンサーが付いてないから、火力が勝手に弱まることはない。でも、そこから出てくるガスは同じである。どうするか。鍋ふり厳禁である。炒飯というと盛大に中華鍋を振るって飯が宙を舞う、というのをしたいだろう。あれをぐっとがまんする。鍋は振らない。鍋はレンジに乗せたまま。鍋の温度が下がらないようにするのが肝要である。
 鍋を振るということは、鍋の底が火から離れるということ。すると鍋の温度が下がる。だから鍋は絶対降らない。じっとさせておく。鍋の温度が下がらないというわけ。飯を攪拌するのは中華おたまではなくヘラをつかう。おたまだと飯粒が壊れる。で、できたのがこの五目炒飯だ。たぶん、そのへんの中華料理屋には負けてないはず。

SFマガジン2020年12月号

2020年11月17日 | 本を読んだで

 2020年12月号 №742         早川書房

ごろりんひとり人気カウンター

1位 女童観音            篠たまき
2位 人生              劉慈欣  泊功訳
3位 我らの科幻世界         宝樹   阿井幸作訳
4位 生存実験            王晋康  大久保洋子訳
5位 地下室の富豪          査杉   及川茜訳 
  『万博聖戦』第二章トルエンの雨/1969は未読

連載

小角の城(第62回)          夢枕獏
アグレッサーズ第三話カーリー・マー戦闘妖精雪風第4部  神林長平
マルドゥック・アノニマス(第33回)  冲方丁
空の園丁 廃園の天使Ⅲ(第5回)   飛浩隆
幻視百景(第28回)         酉島伝法

 中国SFの特集である。中国SFをリードしてきた雑誌「科幻世界」と、日本のSFをリードしてきたSFマガジンが提携して企画した特集である。
 さすが現代の世界のSFで最も活発な中国SFである。掲載作4編は、いずれも大変に面白く満足だ。
 SFはその時の国の勢いと比例している。1950年代、アメリカが最も勢いがあった時代はアメリカのSFが、また、1960年から70年代にかけて、日本が希望に満ちあふれていた時代には、日本SF第1第2世代が出てきた。 
 冷戦時代、アメリカと対抗する国としてソ連があった。そのソ連にもSFがあった。エフレーモフ、ストルガツキー兄弟など優れたSF作家もいた。ソ連も中国も社会主義国で共産党1党独裁の国だが、ソ連SFに比べて中国SFの方がはるかにエンタメ性が強く面白い。ソ連は政治も経済も社会主義であったが、中国は政治は社会主義だが、経済は自由主義だ。そのちがいだろうか。
 その面白い中国SFをおさえて、1位になったのは「女童観音」耽美的で少しエロでグロなとこもありホラーっぽくもある。この篠たまきさん、知らない女性作家だが、楽しみな人が出てきた。篠さんの「人喰い観音」も読みたい。

2020年の阪神タイガースをふりかえる

2020年11月16日 | 阪神タイガース応援したで
 新型コロナウィルスに振り回された2020年もあと2ヶ月足らずとなった。その新型コロナの影響を大きく受けた2020年のプロ野球も終わった。12球団のうちでわが阪神タイガースは、もっとも新型コロナウィルスの被害を受けた球団といえよう。藤浪、長坂、伊藤らが合コンをやって感染者となり、シーズン中には福留が中心になって選手同士で酒宴を開き、陽川、糸原、岩貞、岩崎らが感染、濃厚接触者となって登録抹消。さらには矢野監督が一部の選手スタッフらと酒宴。矢野監督はおとがめなし、福留はお仕置きを受けた。この件に関してチーム内で不協和音が出ているとのこと。
 さて、肝心の阪神タイガースの成績であるが、2位。60勝53敗7分。阪神ファン諸賢にはこの成績にご不満のムキもおられようが、小生は合格点をやろうと思う。巨人に大差をつけられて優勝させたのが許せないのであろう。でも、阪神は巨人以外の4球団には勝ち越しているのである。これで不満をいえば、この4球団に失礼であろう。今年のセリーグは巨人が強いというよりほかの4球団が弱すぎたというわけだ。
 さて、昨年の秋の記事でこんなことをいってる。課題は守備力と得点力だ。得点力はボーア、サンズの両外国人、大山の成長によって増した。大山はホームラン王を狙えるまでに成長したわけだ。得点力アップの課題はとりあえずクリアしたといってもいいかもしれない。
 もう一つの課題、守備力。これはもう去年より悪化している。特に内野の守備の乱れは目をおおうばかり。外野も年齢からの衰えか糸井の緩慢な守備によって、記録には残らないミスがいくつかあった。
 ミス、エラーが多いのは選手の責任ではない。選手はやりたくてエラーしているのではない。選手を指導するコーチの責任である。ところが守備コーチを務める久慈、藤本両コーチは留任とのこと。エラー大量生産の戦犯ともいう二人を残すのは理解できない。もっと厳しく守備の指導をする人、例えば宮本慎也さんあたりを守備のコーチで呼べばいいのでは。
 ホームランは確かに増えたが、「あと1本出えへん病」で負けた試合がいくつあっただろうか。チャンスをいくつムダにしたことか。残塁の山である。ここは、ひとつ忍術学園の食堂のおばちゃんに打撃コーチをお願いしよう。「お残しはゆるしまへんで」が口癖の食堂のおばちゃんがベンチにおれば、残塁すればひどい目にあわされるから選手たちは必死でタイムリーを打つだろう。宮本慎也、食堂のおばちゃん、両氏には来期にはぜひ阪神のコーチになってもらいたい。
 さて、投手に関してだが、先発は結局、頼りになるのは西と青柳、秋山の3人だけであった。当初、ガルシア、藤浪もローテーションに入っていたが、ガルシア不調、藤浪はリリーフにまわったため、あと一人は高橋遥人が務めた。その高橋も素晴らしいストレートを持っているがもひとつ不安定。来季を考えると、西、青柳、秋山だけでは先発ピッチャーが足りない。あと3人欲しい。ガルシアはもういないし、藤浪は先発でない方がいいと思う。高橋遥人の成長を待つか。
 リリーフは先発に比べて人材豊富だ。藤川球児は引退したが、岩崎は健在だし、馬場も頼りになってきた。あと外国人ピッチャーのガンケル、エドワーズ、先発から回ってきた岩貞、それに藤浪。藤浪はぜひリリーフで使ってもらいたい。藤川球児の後を継ぐ守護神は藤浪で決まり。守屋も島本も復活するだろうし、桑原もいる。これだけいれば岩貞を先発に戻してもいいだろう。
 今年は外国人が8人もいた。このうち阪神に来て一度も1軍登板がなかった呂彦青は退団もやむ得ないが、あとの7人は残しておいてもいいのではないか。まず、投手3人、セーブ王スワレスは当然として、エドワーズは7回か8回を投げる、ガンケルは先発も中継ぎもできる、そして退団濃厚なガルシアは先発はダメでもリリーフなら仕事ができるだろう。次に野手、こちらも退団濃厚なボーアは日本の野球に慣れた来年は今年以上の働きができるだろう。サンズは残るだろう。マルテはケガさえしなければクリーンナップを打てる実力を持っている。

 阪神タイガース2020年MVP
 投手 西勇輝 先発の大黒柱である。
    次点  ロベルト・スアレス
野手 ジェリー・サンズ 後半に調子を落としたが、6月の開幕ダッシュ失敗を取り戻したのは7月8月のサンズである。
   次点 大山悠輔 来年はぜひ打点・ホームラン2冠を。

特別功労賞 藤川球児、能見篤史、福留孝介


暗闇にレンズ

2020年11月15日 | 本を読んだで

 高山羽根子    東京創元社

 街中にカメラがあって映像があふれている現代。映像といえばのぞきからくりか、せいぜい幻灯器ぐらいしかなかった明治時代。この過去と現代を入れ子のように組み合わさってできた作品だ。
 明治の横浜、娼館夢幻楼の娘嘉納照は単身渡欧。パリで映像撮影技術を学ぶ。照の養女未知江、未知江の娘ひかり、その養女ルミ、女4代、映像にかかわり続けた嘉納家の女の年代記。「映像」を芯に壮大な大河小説のようなおもむきがある。

暴虎の牙

2020年11月12日 | 本を読んだで

柚月裕子            KADOKAWA

孤狼の血」「凶犬の眼」に続く柚月版「仁義なき戦い」か「県警対組織暴力」ともいうべきシリーズ3冊目。これで完結。第1作「孤狼の血」の主人公は大上章吾。第2作目「凶犬の眼」は日岡秀一。大上も日岡も警察官だ。両作の副主人公の一之瀬守孝と国光寛郎はヤクザ。警察官もヤクザも警察、組という種類は違うが組織に属する人間。今回の主人公は警官でもヤクザでもない。組織に属さない人間である。
 沖虎彦はヤクザでシャブ中のろくでなしの父親を持つ。そのためヤクザを嫌っているが、自分を表現する手段は暴力しか知らない。暴力しか知らずヤクザが大嫌いな沖は何になったのか。愚連隊、今でいう半グレである。
 沖は幼なじみの三島考康、重田元とともに愚連隊「呉寅会」を結成する。呉寅会は極道の組ではない。沖がリーダーだが上下関係はない。近郷近在の不良少年や沖が刑務所で知り合った半端もんたちが沖をしたって集まって来る。
 彼らはカタギには手を出さない。極道のシャブを横取り、賭場に乱入して金を奪う。「お前ら誰に手を出しとるのかわかっとるのか」「極道にケンカ売ってタダですむと思うな」「極道がなんぼのもんじゃい」と、ヤクザをヘとも思わん度胸の良さ。こんな沖虎彦を大上は気に入る。
 その大上も死んだ。沖も40を超えた。そんな沖の前に現れたのが大上の弟子日岡。呉寅会内部にサツやヤクザに情報を流しとる裏切り者がいる。そいつを突きとめるのが沖の生きがいとなる。
 暴力しか生きるすべを知らない不良が、ただただひたすら突っ走る。疾走感あふれる小説であった。

私のちいさなお葬式

2020年11月09日 | 映画みたで

監督 ウラジミール・コット
出演 マリーナ・レヨーロワ、アリーサ・フレインドリフ、エヴゲーニー・ミローノフ

 ロシア映画である。ロシアの小さな村に住む元教師のおばあさん。心臓に病を持っていて、いつ死んでもおかしくないといわれる。
 彼女には息子が一人いるが、彼は有能なビジネスマンらしく多忙をきわめ、めったに会いに来ない。忙しい息子の手を取らせたくないと、自分で自分の葬式の算段を始める。死亡診断書、埋葬許可から棺桶も買って、葬式の料理の準備まで行う。万事、怠りなし。これでいつ死んでもいい。
 小さな村の学校の先生だったから、あちこちに元教え子がいる。検視官の元教え子にむりやり頼みこんで死んだことにしてもらう。また、釣り好きな元教え子は、いらんゆうのにむりやり釣った鯉をくれる。この鯉がこの映画で重要な脇役を務める。そういえば、冒頭に出てきておばあさんの心臓の診断をした医者も元教え子。
 日本ではどうか知らないが、ロシアでは本人が生きてても死亡診断書があれば埋葬許可が出るらしい。私は死にましたから、私の埋葬許可を下さいと死んだ本人が役所に手続きにやってくる。まるで落語の「そこつ長屋」みたいな話だ。
 主役がおばあさんであるからして、魅力的なおばあさんが出てくる。終活するおばあさんもそうだが、隣のおばあさんも面白い。口は悪いが気立ては良さそう。このばあさん二人のやりとりがたいへんに面白い。
 年寄りが死んでいこうという映画ではあるが、決して暗くはなく、みょうに明るい映画であった。
 この映画のテーマ音楽のように使われている曲はザ・ピーナツの「鯉のバカンス」だ。

カレーパン

2020年11月08日 | 料理したで

 カレーパンである。ワシはイスズベーカリーのカレーパンが好きで、ときどき食べているが、アレを自分で作れないだろうかと考えて造ったのがこれ。
 生地はピロシキと同じ。ピロシキにはパン粉はつけないが、カレーパンにはパン粉をつけた方がいいだろう。
 中身の具はシンプルでいく。牛肉、玉ねぎ、にんじん。これだけ。牛肉はミンチを使うのだが、市販のミンチではなく牛肉のかたまり肉を買って来て、フードプロセッサにかけて自家製のミンチにする。最近は市販のミンチを使うことはあまりない。市販のミンチはどんな肉が混ぜてあるかわからんから少し不安。これ、お試しあれ。市販のミンチより自家製のミンチの方がだんぜんうまい。
 牛ミンチ、玉ねぎ、にんじんのみじん切りを炒めてカレー粉で味つけをする。
カレー粉はインデアンのカレー粉を愛用している。あと仕上げに自分で作ったカレー粉を加える。クミン、カルダモン、シナモン、コリアンダー、クローブ、ターメリック、シナモンの粒のもんを乳鉢でゴリゴリして作ったカレー粉である。
 さて、生地に具を包んで加熱するわけだが、ここは揚げずに、オーブンのグリル機能を使って焼く。
 できた。食べる。うん、イスズベーカリーに負けてへんぞ。

二回目の別れ

2020年11月06日 | 作品を書いたで
搬入して四九日目。大きな電力を使うため、電力会社に依頼して大容量の電力線を引いてもらった。それの工事と並行してメインプログラムの調整とデータを入力するのに四〇日かかった。そのデータの微調整に九日。そして49日目の今日、「ミツコ」は完成した。ちょうどみつ子が亡くな49日目だ。
 アクセルとブレーキを踏み間違えた暴走車が信号待ちをしていた人たちに突っ込んだ。死者3人重傷5人の大惨事だった。その3人の中にみつ子がいた。
 四九年。これだけの時間を共有した最愛の妻が亡くなった。
 本来は会社の経営判断に使うため導入したスーパーコンピュータだ。本社の社長室に設置して私の秘書にするつもりだった。搬入当日の朝、妻の死を知った。半日泣いた。スーパーコンピュータのハードはその日の夕方搬入の予定であった。搬入先を社長室から自宅に変更した。ハード、ソフト、それに関する支払いの請求先を会社の経理から私個人に変更した。それと同時に社長を退任。所有する私の会社の株すべてを次期社長に譲った。
 私には財産を残すべき子供はいない。私一人が生きていき、私の個人所有となったスーパーコンピュータの購入費と維持費を賄えるぐらいの金は有る。
 みつ子が亡くなって49日目。スーパーコンピュータミツコを起動させる。
 40日間、3人のシステムエンジニアが私のもとへ通った。私はその3人にみつ子のすべてを話した。彼女の両親はまだ健在だ。みつ子が生まれた時から、幼稚園、小学校、中学、高校、大学。どんな女の子であったのか。こと細かく聞き出してメモしてそれをエンジニアに伝えた。学校の同級生から先生にも会って話を聞いた。
 みつ子は、取引先の社長の娘であった。会社を興してすぐのときに、お見合いして結婚した。子供はできなかったが四九年間幸せだった。
 みつ子がかかった医者も可能な限り会って話を聞き、彼女の身体のデータが残っているモノはすべて提供してもらった。
「ウチは患者さんのデータはすべて電子化して保存しています」
 みつ子の主治医だった富山医師は、そういってUSBメモリーを手渡してくれた。
「この中には健康診断の結果、病歴、奥さんの医学的なデータがすべて入ってます」

「ただいま。あなた」
 ミツコのメインスイッチをON。起動するとただちに3Dホログラムが稼働して、そこにみつ子が現れた。
「みつ子」
「はい」
「もう、どこへも行ってダメだぞ」
「どこにも行かないわ」

 社長を退任し会社を完全に手放した。現社長に相談役にと乞われたが断った。私もそれなりの年だ。残された人生をみつ子とともに過ごそうと思っている。
 みつ子は死んでいない。手で触れることはできないが、みつ子はこの部屋にいる。
「おはよう」
「おはよう、あなた」
「きょうはなんの日か判るか」
「もちろんよ。結婚記念日じゃないの」
「そうだ。50年目だ。金婚式だ。おまえと初デートの時の食事憶えてるか」
「憶えてるわ。数寄屋橋のお鮨屋さんだったわ」
「今晩、あの時のお鮨屋のご主人を呼んで、二人だけに握ってもらうんだ」
「うれしいわ。楽しみ」
 東京の数寄屋橋から鮨職人を呼んだ。みつ子は喜んで鮨を「食べた」
 昨日も、今日もみつ子との「生活」は続いた。明日も続くだろう。
 みつ子が浮かない顔をしている。食欲もなさそうだ。
「どうした」
「なんだか、お腹が痛いの」
 富山医師から電話があった。
「申しわけありません。いい忘れてたことがあります。奥様の健康診断のデータで、一昨年胃の内視鏡をしたとき生検をしましたがステージ3の胃癌の所見があったのです」
「そのデータもUSBメモリーに入ってるのですか」
「はい」
スーパーコンピュータのミツコは、みつ子を正直に再現している。みつ子のすべてを。
 みつ子は死んだ。二回目だ。二回目の別れだ。富山医師が、生検の結果を忘れないで私にいったとしたら、私はどうしていただろう。
 

喜楽館で「米朝ウィーク」桂米朝五年祭特別公演

2020年11月04日 | 上方落語楽しんだで
 昨日の休日は喜楽館に行っておりました。喜楽館では11月2日から11月8日まで「米朝ウィーク」桂米朝五年祭特別公演をやっております。桂米朝師匠が彼岸に旅立たれて5年なんですね。と、いうわけで米朝一門の落語家さんがぞろぞろ出てまいります
 まず、開演前の一席、露払いをつとめたのは桂二豆さん。桂米二師匠の3番目のお弟子さんです。「煮売り屋」をやらはった。この噺、「東の旅」の発端で「七度狐」の冒頭部分です。若い落語家さんがよくやる噺ですが、二豆さんは無難に演じてはった。
 さて開口一番は二豆さんのお姉さん弟子桂二葉さん。例によって高い声でごあいさつ。「上方落語界の白木みのる」だそうです。「てなもんや三度笠」を知ってる人はかなりのお年ですね。二葉さんも見たことないと思いますが。
 演じはったのは「つる」です。この二葉さん、女性落語家というくくりでくくらなくても上方落語界でアホやらせたらかなり上位にはいるでしょう。二葉さんのアホは突き抜けた異次元のアホになります。二葉さん、かわいい♡
 二番手は桂歌之助さん。あの「死神歌之助」さんは2代目ですが、この歌之助さんは3代目です。3代目歌之助さんが落語会をやっても大惨事はおきませんからご安心を。
「片棒」をやらはった。ケチで名高い大店の旦那が自分の死後どの息子に跡目を相続せるか、どんな葬式をやるかで決める噺です。どれほどバカバカしい葬式にするかが演者の工夫でいくらでも面白くなる噺です。歌之助さんはさすがに派手に陽気なお葬式を演出してはった。長男、次男、三男と三つのお葬式案があるのですが、この時は次男の分までで半ばでした。トリならばフルでできるでしょうが2番手では時間が足らないでしょう。
 色もんは豊来家一輝さんの太神楽です。見事な芸ですが、ちょいちょい失敗しはるのはご愛敬。
 さて、中トリは米朝一門のベテラン桂勢朝さん。まくらで大阪府知事吉村さんの替え歌を。早速都構想断念をネタにしてはった。コロナ禍のこのご時世、こんな噺をやってええんやろかという噺をします。と、いってはった。いま「きめつのやいば」ちゅう映画が当たってますが、この噺は「ひまつのやばい」です。前列の人は気をつけてください。今から大声をだします。と、いうことで「餅屋問答」です。後半の禅問答のシーンは大きな声です。大爆笑でした。
 中入り後、トリ前は桂雀三郎師匠。医者が出てくる噺です。落語に出てくる医者にはろくな医者はいません。手遅れ医者、ご寿命医者、葛根湯医者。一番一般的なのは藪医者です。上方落語の藪医者といえば赤壁周庵先生。この先生の手にかかると健康な者は病気になる、病人は死ぬ、という医者です。その赤壁周庵先生大活躍の噺「ちしゃ医者」をやらはった。雀三郎師匠、枝雀師匠によく似てきました。
 トリは米朝師匠の実子の桂米團治師匠。歌舞伎役者のマクラです、芝居噺です。「七段目」です。米團治師匠の芝居噺は派手で華やかでトリにふさわしいです。こちらは米朝師匠によく似てきました。はっぱりお弟子さんは師匠に似てくるのですね。
 

上方落語ノート 第一集

2020年11月02日 | 本を読んだで

桂米朝       岩波書店

 桂米朝師匠の代表的な著作の第一集である。上方落語を愛する者ならば必読の書といえよう。上方落語に軸足を置いて、上方の古い芸能にまつわるあれこれを米朝師匠が書き残してくださった。
 古い資料、文献を読み解き、古老の話を米朝師匠みずから聞き、記録して整理して、こうして1冊の本となって残った。
 資料文献なら一次資料が後世に残るが、古老の頭の中にあるモノは、だれかが古老から聞いて書いて保存しておかなければ永遠に失われてしまう。そういう意味からもこれは貴重な本である。
収録されている「花柳芳兵衛聞き書」は貴重かつ興味深い。花柳芳兵衛は元は落語家だった。初代桂小春団治。舞踏家に転身し花柳芳兵衛となって落語家をやめる。この芳兵衛師匠本人はもとより、古い落語家とも多く交流があった人なので、その芳兵衛師匠から米朝師匠がいろいろ聞き出し、こうしてここに残してくれる。ありがたいことですじゃ。
大昔、「素人名人会」という視聴者参加番組があった。その名の通り素人が落語や歌など芸を披露する番組。司会が西条凡次。落語の審査員が米朝師匠、舞踏の審査員が花柳芳兵衛師匠だった。この本を読んでそんなことを想い出した。

なめらかな世界と、その敵

2020年11月01日 | 本を読んだで

 伴名練          早川書房

 作者は京大SF研出身の若い作家。大学のSF研出身ということは、首までどっぷりとファンダムの沼に漬かって、そこから発芽して花を咲かせた蓮のような作家といえる。だから腰巻に「2010年代、世界で最もSFを愛した作家」とのコピーがあるが、世界中のSF作家を全員インタビューして確かめたのかと、このコピーを書いたヤツに聞きたくなるが、伴名がSFが好きなのが、よくわかる作家であることは理解できる短編集といえる。
 小生もSF好きになって久しい。半世紀以上SF好きをやっている。で、SFとはなんぞやと考えてみるに、SFはSFでしか表現できないアレコレを記述した文芸作品であると小生は思う。SFは文芸なのである。SFのアニメや映画などの映像、漫画や音楽などもあるが、あれらはあくまでSFのサブジャンルである。SFの本筋は文芸、文字で読んで摂取するのがSFだ。
 と、いう意味かから考えると本書に掲載されている作品はいずれも、文字で読んで面白さが味わえる作品ばかり。だからこそ、ハヤカワが頼んだSF好きどもが決める「SFが読みたい2020年度版」で、本書が国内1位になったことは納得がいく。