ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

快盗ルビイ

2024年05月27日 | 映画みたで

監督 和田誠
出演 小泉今日子、真田広之、水野久美、天本英世、吉田日出子、岡田真澄、木の実なな

 おしゃれで都会的なコメディだ。さえない若いサラリーマンのマンションの上階にちょっとかわいい女の子が引っ越してきたところから映画が始まる。
 なりゆきで女の子に部屋に招き入れられた。この娘、読書家と思われる。玄関の外には文庫本が積まれている。東京創元社の文庫だ。たぶん推理マークとSFマークと思われる。玄関を入ると、今度はハヤカワのポケットミステリーと、それから銀背がちらっと見えた。ようするに、この子は東京創元社や早川書房のミステリーやSFを読む女の子ということだ。だいたいこの映画の原作のヘンリー・スレッサーは星新一に影響を与えたアメリカの短編作家でハヤカワから短編集が出てる。
 原作はヘンリー・スレッサー、監督脚本は和田誠、主人公は東京創元社や早川書房の本を読んでいる女の子。そしてその主役が小泉今日子(小泉自身もけっこうな読書家)これは、もう、おしゃれで都会的な映画となることは約束されたようなモノ。
 サラリーマン林の上の階の女の子は加藤留美。スタイリスト兼コピーライター。人呼んでルビー。このルビー自称本職は犯罪者。泥棒詐欺を生業とすると自分でいう。さまざまな小犯罪を企てていやがる林をむりやり相棒にしたてて実行する。実行するがほんとはまぬけな二人。成功するはずがない。
 この映画がもし、岩波文庫や角川文庫を愛読している女の子が主人公で、川端康成や太宰治の愛読者で、地方出身者で近郊の信用金庫の事務員をやっている子で、主役が山口百恵だったら、小生は観てない。
 配給は東宝。いかにも東宝らしい映画である。東宝特撮映画でおなじみの怪獣女優水野久美やマッドサイエンティスト天本英世も出てるし、小泉がかわいいし、小生のお好みにぴったし。あなたがハヤカワや東京創元社の愛読者ならおすすめ。

可燃物

2024年05月24日 | 本を読んだで

米沢穂信              文藝春秋

 小生はSFもんにつき、ミステリーとか探偵小説についてえらそうなことはいえないがこの小説、分類分けするなら探偵小説のカテゴリーになるだろう。
 探偵小説というとホームズやポアロみたいな名探偵が、なに色か知らん脳細胞をフル回転させて、快刀乱麻難事件を解決して、「犯人はあなただ」で、一件落着。この小説はそういう探偵小説ではない。
 警察小説である。主人公は警官である。コロンボみたいなキャラの立った警官ではない。地味である。警視庁みたいな都会地の警官ではない。群馬県警捜査一課の葛警部が主人公だ。葛警部は決してイーストウッドのハリーやピーター・フォークのコロンボではない。マグナム44をぶっぱなすハリーみたいな乱暴でもないし、しつこく容疑者につきまとうコロンボみたいな粘着性も持ってない。扱う事件も社会を震撼させるような大事件でもない。殺人事件は有るが、地味な事件である。葛警部も決して名警部ではない。上司や部下から好かれてはいないけど嫌われてもいない。それでも地道に捜査をして、確実に事件を解決していく。
 決して派手な小説ではないが、「読ませる」小説である。米沢の筆力のたまものだろう。

グリーン・ディスティニー

2024年05月20日 | 映画みたで

監督 アン・リー
出演 ミシェル・ヨー、チャン・ツィイー、チョウ・ユンファ

 ワシはアクション映画が大好き。「エブリシング・エブリウェア・オール・ワット・ワンス」出色のSF映画でありつつ、まったく新しいSF映画を創出した映画として高く評価している。SF映画としては大満足だが、アクション映画ファンとしては、いささか不満が残った。現代のアジア人アクション女優№1ともいうべきミシェル・ヨーのアクションを堪能したいと思ったが、少々期待外れであった。なんせこのときミシェル・ヨーは60才。さすがに体力的にしんどいのでは。その点、この映画はヨーは40歳前。体力もあり大人の女性の美しもたっぷり。
暗殺」でも美女アクションは楽しめたが、この映画では、きれいなミシェル・ヨーと可憐なチャン・ツィイーの二人に焦点をしぼって、非常にきれいなアクションを堪能できた。
 チャン・ツィイーはヨーとのアクションだけではない。レストランで大男大ぜいを小柄なツィイー一人でやっつけてしまう。でかい金砕棒のおっさんもぶっとばす。痛快なり。出色は後半にチョウ・ユンファを相手に繰りひろげた竹林の上の立ち回り。
 重力を無視した、カンフーアクションを堪能。これは、もう、殺陣というより舞踏だ。もしメインストリーのスターウォーズ10作目が作られるなら、監督はアン・リー。お姫様はチャン・ツィイーにやってもらいたい。この映画でもフォースみたいなことゆうてるし。チャン・ツィイーにライトサーバーを持たせてみたい。

負けくらべ

2024年05月14日 | 本を読んだで
 
志水辰夫           小学館

志水辰夫は冒険小説ファンの小生が、そのうち読みたいと思っていた作家だった。で、初めて志水の作品を読んだわけ。ハードボイルド作家だとは聞いていたが、一読後の印象は小生の欲するハードボイルドとは少し違和感を感じたしだい。
 主人公は初老(60は超えているだろう)の男性介護士三谷。介護施設に属しているのではなくフリーの介護士だ。三谷は特殊な能力を持っている。対人関係能力、調整力、それに記憶力。舞台のそでからホールの客席を見る。それだけで客の顔をすべて覚える。
 三谷の知人に元内閣情報調査室の男がいる。その男に2枚の写真を見せられ、ホールの講演会にいって、2枚の写真に写る同一人物がホールにいるか判別する仕事を依頼される。
 ハーバード卒のIT企業家大河内牟禮。三谷は大河内に見込まれ仕事のパートナーとして大河内の会社に呼ばれる。この大河内の会社は東輝グループの傘下。巨大企業グループのオーナーは大河内の母の尾上鈴子。90才にして経営に辣腕をふるう化け物ばあさんである。
 この東輝グループ。尾上家、大河内家の骨肉の内紛に三谷は巻き込まれる。と、これをこってりと寿行的熱さで描いてくれたら、面白いと思うのだが、わりとサラサラと書いていた。これでいいのである。著者の志水氏は86才。ワシもこのトシである。若いころはこってり濃厚とんこつラーメンが良かったが、トシ取るとあっさりさっぱり盛りそばの方が口にあう時もある。とは、いいつつも、もちろんワシ=雫石はまだまだじいさんじゃない。こってい油ギトギトの揚げもんも大好きである。
 

極道めし

2024年05月13日 | 映画みたで

監督 前田哲
出演 永岡佑、勝村政信、落合モトキ、ぎたろー、麿赤兒、木村文乃

 小生は若いころコピーライターの経験がある。広告を制作する時、特に食品の広告を創る時によくいわれる言葉が「シズル感」を出す。ということ。ステーキを売ろうとする。ジュージューと音を立てて鉄皿にステーキが乗っている。ソースをかける。ぼわっと湯気が立ちえもいわれぬ香りが立つ。肉にナイフを入れると肉汁がしみ出る。どうです。おいしそうだろう。小生はもうコピーライターではない。もっと練達のコピーライターが書くと、ゴクリと思わずつばを飲むだろう。
 この映画は、その「シズル感」の映画である。それも2重構造のシズル感となっている。
 舞台は刑務所。とある雑居房。5人の囚人がいる。主人公は新入りの元ヤクザ。正月が近い。ことしもアレをやるかという話になった。アレ=おせち争奪戦のこと。
 いままで食べて来た中でいちばんおいしいモノの話をする。聞いてた者にごくりとさせたら1点。勝ったら、正月に出されるおせち料理の好きなのをもらえる。囚人たちがうまいもんの話をするわけ。ただたんにうまい食べ物だけではなく、その時のそれぞれの人生が語られる。このあたりの脚本の処理はうまい。食べ物でどう人生を表現するかだ。
 囚人がシズル感たっぷりに話す。それを審査役の囚人が、そのシズル感をどう審査するか。そして、それを観ているこの映画の観客がいかにシズル感を感じるかだ。シズル感の2重構造になっているのだ。
 しかし囚人たちが食べてる食事。刑務所の食事だから、いわゆる「クサイめし」なんだろうがけっこうおいしそう。病院の食事よりよっぽどおいしそうである。

8月の家族たち

2024年05月07日 | 映画みたで

監督 ジョン・ウェルズ
出演 メリル・ストリーブ、ジュリア・ロバーツ、ジュリアンヌ・ニコルソン、ジュリエット・ルイス

「まるで家族みたいだ」「家族どうぜん」こういうと「家族」はいいなあ。仲良く、助け合うモノだと思うだろう。おかあさんがいる実家に帰るとほっとする。が、しかし、この映画は家族はそんなもんではない。家族はいがみあい、すれ違うもんだ。実家は戦いの場だ、と、いうことを教えてくれる。
 おかあさんは癌を患っている。口が痛いので常に不機嫌で薬中毒。おとうさんはアル中。そのおとうさんが失踪する。最悪の事態となる。
 おかあさんには娘が3人いる。長女は夫と別居中。次女は近所に住んでいる。三女は自分勝手。
 久しぶりに三姉妹と親戚が、オクラホマのおかあさんの家に集まった。めちゃくちゃ暑い夏のことである。
 この三姉妹は、茶々、お初、お江の浅井三姉妹に劣らぬ、クセが強くただもんではない。さらには、おかあさんがこの三姉妹を凌駕するクセが強い。
 ともかく主演のメリル・ストリーブが強烈なおかあさんを怪演。口が悪く傲慢不遜なこのおかあさんは、いろんな映画でいろんなおかあさんを観てきたが最強の部類に入るだろう。そのストリーブのおかあさんを受けるのがおかあさんと同類のジュリア・ロバーツの長女。愉快な映画ではないが、強烈な印象を残す映画だ。 


ゴジラ×コング 新たなる帝国

2024年05月03日 | 映画みたで
監督 アダム・ウィンガード
出演 レベッカ・ホール、カイリー・ホットル、ブライアン・タイリー・ヘンリー

 ワシは西宮生まれやけど、神戸育ちや。長年神戸は東灘に住まいおる。その東灘に甲南朝日という映画館があった。東宝の封切り館で、子供のころよくこの映画館に連れて行ってもろた。ここで映画観て十二間道路の向かい側にあるナダシンで、おやつの餅を買って帰るというのんが休日のパターンやった。で、甲南朝日でどんな映画を観てたか。ゴジラが出て来る映画である。
 この映画を観てワシは、甲南朝日があった少年時代のことを思い出した。あのころよく甲南朝日で観た、昭和の東宝ゴジラ特撮映画が、最新のCG技術でリメイクされたんがこの映画やとゆうたら、ま、あたってるやろ。ゴジラ、コング、にモスラまで出て来るんやから。そのモスラを呼び出すんのは髑髏島の住民の女の子やけど、どうせならザ・ピーナツの小美人をCGで再現してあの「モスラの歌」を歌って欲しかったな。
 確かに最新のCGで創った映像はたいへんに良く出来ていて、地底世界の風景はきれいで怪獣プロレスも迫力があった。「映画は映像や」という人にはお勧めや。
 日本は東宝のゴジラ(特に第一作、シン・ゴジラ、ゴジラ-1.0)に比べて、このハリウッドのモンスター・ヴァースシリーズの怪獣はさほど怖くない。それは、日本の怪獣は、あんたやワシが住まいおる、この世界に、あないな人知を超えた大きな災厄が出て来るから怖いのや。ハリウッドのゴジラが出る世界は、ペルシダーかなんか知らんけど、地球の中に空洞があって、神戸にイノシシが出るがごとくに怪獣が出る。そんなワシらと縁もゆかりもない異世界に怪獣が出てもいっこも怖くない。
 うう。なんか甘いもんが食いたなった。ナダシンに柏餅買いにいこ。

電通マンぼろぼろ日記

2024年05月01日 | 本を読んだで

 福永耕太郎         三五館シンシャ

 だれでも知っている大企業でありながら、日本に害毒を流している企業はいくつかあるが、この本の著者が働いていた電通も害毒企業であることが、この本を読んで判った。
 電通はいうまでもなく広告代理店。クライアントから宣伝広告の依頼を受け、広告を制作して、新聞放送などのメディに流すのをなりわいとしている。このクライアントからの受注、メディへの提供といった時点で、よからぬ金品が動くようだ。ホイチョイプロダクションの「気まぐれコンセプト」という漫画。小生はあれは冗談だと思っていた。ところがこの本を読んで、あれはぜんぶ本当のことだと判った。本当、いや現実は漫画より悪質だ。
 宣伝広告をうちたい企業が、複数の広告代理店にプレゼンを要請する。プエレゼン合戦となる。こういう場合、よいプレゼンをしてよい広告を創れそうな広告代理店より、企業の宣伝担当者への接待で発注先が決まる。電通はその接待が一番盛大であったということ。創った広告はメディアに流さなければ一般消費者に届かない。どういう具合にメディアに流すか。ここで新聞や放送関係者がこんどは電通の担当者を接待する。
 パソコンメーカーのF社が新しいパソコンを発売する。広告をうたねばならない。テレビのCMもしよう。CMタレントはだれがいい。F社の広告担当重役が夫婦そろって「不器用な」大物俳優Tのファンだった。CMタレントはこの一件だけでTに決定。そのCMは今でも動画で見られる。
 一事が万事。日本の宣伝広告は情実、接待、担当者の個人的感情、好き嫌いで決まるらしい。そういう風潮を創ったのは電通である。
 この商品を売りたい。純粋に売れる広告をうつには、どこの広告代理店に任せるべきか。どういう広告が真に効くか。CMタレントに最適なのはだれか。こういうことを純粋に考えて広告を行うべきなのに、電通はそれを歪めてしまった。で、企業の宣伝広告費の多くがムダに膨らみ、それが商品価格に反映して、われわれ消費者に不利益をもたらしているのである。
 かって電通は社員の一人や二人が過労死するのが当たり前であった。高橋まつりさんの自死によって、さすがにいまのところは反省しているようだが、本当だろうか。だいたいが、こんなバカが社長やっていた会社である。ろくなもんではない。
 著者は高給を取っていたが、長年の電通マン生活で、アル中になって急性劇症膵炎になって、離婚して、自己破産した。自業自得である。電通は大学生の就職したい企業ランキングで上位だ。そういう大学生にこの本を読んでもらいたい。