ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

喜楽館夜席元気寄席に行ってきました。

2023年03月31日 | 上方落語楽しんだで

 昨夜は喜楽館夜席元気寄席に行ってました。私は月に2度、生の落語に接しないと禁断症状を発症します。困ったものです。まったく。
 喜楽館で落語を楽しむときにはたいてい、グリル一平で食事をするのですが、あいにく定休日。吉野家で焼肉定食を食べました。入口のメリケンさんのひざをなでて入場です。
 開口一番は桂健枝郎さんです。6代桂文枝師匠のお弟子さんです。文枝師匠のお弟子さんは惣領弟子の桂三馬枝さんから桂三実さんまでずっと三の字がついていたのですが、一つ上の兄弟子桂文路郎さんから三の字がつきません。だからこの健枝郎さんは師匠が6代文枝になってからの入門でしょう。その健枝郎さん、師匠が三枝時代に創った「考える豚」をやらはった。私も長年上方落語のファンをやってますが豚が主人公の落語はこれしか知りません。健枝郎さん「石段」で上がらはる噺家にしては落ち着いた噺ぶりで安心して聞けました。
 2番手は笑福亭笑助さん。先日亡くなった笑福亭笑瓶さんのお弟子さんです。鶴瓶師匠の孫弟子、松鶴師匠のひ孫弟子ということになります。演目は「道具屋」です。いろんな客が素人道具屋をひやかしに来るのですが、客の描きわけをもう少しめりはりをつけた方が良かったですね。
 仲入り前の仲とりは桂三ノ助さん。お名前から判るように6代文枝師匠の三枝時代のお弟子さんです。開口一番の健枝郎さんの兄弟子です。なんでも三ノ助さんはこの喜楽館の地元新開地の住民なんですって。そのため師匠文枝に喜楽館館長補佐を命じられて、日々その職務に励んでおられるとか。夜中に喜楽館に異変があると飛んでこなくてはいけないかも知れませんね。ご苦労様です。
 その三ノ助さんがやったのは弟弟子健枝郎さんと同じ、師匠三枝作の創作落語「アメリカ人が家にやってきた」アメリカ人が家にホームステイに来るというので家中が英語で過ごすというお話し。
 さて、仲入りも終わってトリです。笑福亭鶴笑師匠です。いつものアニメ「ハリスの旋風」の音楽でお出まし。実はこのときの喜楽館は入場者が少なく、20人ほどでした。鶴笑師匠「これぐらいの人数でしたら、みなさん楽屋にいらっしゃい。車座になって落語しましょう」と、おっしゃった。それも面白かったかも知れません。こんどこんなんでしたら、ぜひその車座に入りたいです。実は私、落語家の車座に入ったことはありませんが、SF作家車座に混ぜてもらったことはあります。
 鶴笑師匠がやったのは、もちろんパペット落語。マクラは落語体操。ラジオ体操第一に古典落語のフリを当てて行くモノです。手水まわし、口入屋、つる、動物園、あたま山、親子酒なんかがどんな体操になってるかは、4月2日まで鶴笑師匠は喜楽館でトリをつとめはるので、ご自分で確認してください。
 落語は「立体西遊記」いやあ。いつものことですが大熱演です。大スペクタクルのワイドスクリーンバロック落語でした。面白かった。

2023年の阪神タイガースはどうかな?

2023年03月28日 | 阪神タイガース応援したで
 やれやれ、WBCの騒ぎも静まってきた感じ。なにはともあれ日本代表チームのみなさんにはおめでとうといわせてもらう。小生「侍ジャパン」といういい方は違和感がある。日本の国名は「にほん」「ニッポン」というのだろう。ジャパンはあくまで外国人が日本に対していっているいい方である。外国人がいっているいい方をなぜ日本人の私たちがいうのかよく判らん。日本人はアメリカのことを米国といってるけど、アメリカ人が自国のことを米国というか?「侍ジャパン」というのならアメリカ人自身がアメリカ代表チームを「カウボーイ米国」というか?
 それはさておき、中野、湯浅両名がケガなく無事にタイガースに復帰したことはなによりである。WBCを観戦してて思ったのだが、大山、佐藤がいないことがさみしい。村上、岡本、牧たち他球団の4番バッターたちは活躍してホームランも打っている。彼らの活躍を見て大山、佐藤の両名の今シーズンでの奮起を望む。
 大谷が決勝戦の前の円陣で「憧れるのをやめよう」といった。そのとおりだと思う。その大谷もそうだし、ダルビッシュ、吉田といった日本のプロ野球でスターになった選手たちはアメリカに行ってしまう。(大リーグとはいわない。それが大リーグならこっちは小リーグか?メジャーともいわない。こっちはマイナーか?)
 WBCで優勝オリンピックで金メダル。これで日本のプロ野球は実力は世界1であることが判った。これはひとえに選手、監督コーチといった現場の人たちの努力の賜物である。これからはアメリカの選手たちが日本のプロ野球に「憧れて」来るようにプロ野球の運営経営に携わる者が努力しなければならならない。
 さて、阪神タイガースである。今週の金曜日には開幕だ。楽しみ。去年と比べて一番変わったところは、いうまでもなく監督。矢野から岡田に替わった。この監督の交代が今年の阪神タイガースの一番の補強といっていいだろう。矢野前監督は不可解な選手起用が多かった。主戦投手、クローザー、正捕手、クリーンアップといった勝ち負けに直結するポジションの選手は固定すべきだと思う。矢野前監督はその大切な部分を触りすぎた。エースピッチャーは青柳。これはいい。クローザー守護神、2021年のスアレスはあまりに頼りになりすぎた。それの後遺症から固定できなかった。かってJFKを構築した岡田監督に、この部分は期待しよう。正捕手、これは梅野に固定して欲しい。
 クリーンアップ。これが一番の問題だ。大山、佐藤がWBCに出ていた各チームの4番ほど打っていたら阪神は優勝していただろう。この点の矢野前監督の触りすぎの悪影響が出た。この二人、守備位置打順がころころ変わった。あれじゃ守備も打撃も中途半端になってむべなるかな。佐藤3番3塁、大山4番1塁で一年間通して欲しい。
 外国人選手で残留は救援投手のカイル・ケラーだけだ。これでいいんじゃないか。昨年は8人もの外国人選手。多すぎである。阪神タイガースはこのところ韓国リーグから外国人選手をひっぱってきて失敗続きであった。韓国で三冠王のロサリオ、ロハス、韓国で20勝のアルカンタラ。韓国野球の実力はこたびのWBCで判っただろう。日本のプロ野球と比べてずいぶん格下。そんなところで活躍したって日本のプロ野球では通用しない。阪神も懲りたことだと思う。

阪神タイガース2023年開幕スタメン予想

1番 近本 センター
2番 中野 2塁
3番 佐藤 3塁
4番 大山 1塁
5番 ノイジー レフト
6番 森下 ライト
7番 小幡 ショート
8番 梅野 キャッチャー
9番 青柳 ピッチャー

2023年セリーグ順位予想
1位 ヤクルト
2位 阪神
3位 DeNA
4位 中日
5位 広島
6位 巨人

素晴らしき哉、人生

2023年03月27日 | 映画みたで

監督 フランク・キャプラ
出演 ジェームス・スチュアート、ドナ・リード、ライオネル・バリモア、ヘンリー・トラヴァース

 いかにもアメリカ人が好むファンタジー映画である。大昔、早川が「異色作家短編集」という叢書を出していたが、その中に入っていそうなお話しだ。
 天使のクラレンスは2級だから翼がない。上司の大天使からあの男を救ったら翼を与えるといわれる。その男ジョージはまもなく自殺する。クラレンスはジョージの守護天使となる。ジョージは今までいかなる人生を送って来たか、よく知っておくように。クラレンスは大天使にジョージの人生を照会される。
 桂米朝師匠がマクラによういわはるんですが「弱り目にたたり目。泣きっ面に蜂。ワラ打ちゃ手打つ。便所に行ったら先にだれか入っとる」ジョージの人生はまさにこの米朝師匠のマクラみたいな人生だった。
 冬、弟が池にはまった。弟は助けたが自分は左耳が聞こえなくなった。高校を卒業したら世界を旅行して大学に入って、建築家になって大きな仕事をしてやるんだ。小さな住宅金融会社を経営してた父が急死。会社は弟が継ぐはずだったが弟は結婚、妻の父の会社を手伝うことになった。急遽ジョージが新社長に。旅行と大学はパー。幼なじみの恋人のメアリーと結婚するが会社の資金繰りが苦しい。出資者に責められる。新婚旅行にも行けず。それでも4人の子宝に恵まれたが、最大の危機に。
 会社の重役としてジョージを支えてきた叔父が会社の金を紛失。どうも商売敵の因業家主のポッターの画策のような。その金がないと会社はつぶれジョージは逮捕される。もう死ぬしかない。米朝師匠の落語なら、ジョージは法螺尾福海、和屋竹の野良一、松井泉水、山井養仙の4人の亡者とともに人呑鬼相手に楽しく地獄めぐりするのだが。なんせこれはキリスト教色の強い映画。閻魔や人呑鬼、4人の亡者がいるような仏教色の地獄には行きません。
 2級天使クラレンスに助けられる。「そんなに死にたいのか」「ぼくなんかいない方がいいんだ」「ではきみがいない世界をみせてあげよう」
 ジョージのいない世界をジョージは見る。「ぼくの人生捨てたもんじゃないな」
ちゃんちゃん。おあとがよろしいようで。


きっと、うまくいく

2023年03月20日 | 映画みたで

監督 ラージクマール・ヒラーニ
出演 アーミル・カーン、R・マドファヴァン、シャルマン・ジョーシー、カリーナ・カブール、ボーマン・イラーニ、

 映画の面白いもんが全部ある映画だ。天ぷら、卵、かまぼこ、鶏肉、みつば、などなど。おいしいもんが全部のってる、全部のせといううどんがあるが、そんな映画である。
 友情、反目、危機、サクセスストーリー、イヤミなライバル、星一徹的がんこオヤジ、成績万能主義の先生、エリート学生、落第学生、金持ち、貧乏人、サスペンス、ロードムービー、謎の男、ヒロイン、ラブロマンス、「卒業」的花嫁拉致、若者の自殺、学歴社会、日本企業との競争、そしてインド映画のお約束歌って踊る、などなど、この映画にはみ~んなある。全部のせ映画なのだ。
 ランチョ―、ファルハーン、ラージューの3人は工学系のエリート大学ICE工科大学に入学した。学長はコンピュータウィルスとあだ名される成績万能主義の学長。入学式早々ランチョ―は学長のお言葉に異を唱える。ランチョ―は天才的な頭脳だが権威が大嫌いな自由人。ことごとく学長と対立する。ファルファーンはエンジニアになれとオヤジに強要されているが動物写真家になりたい。ラージューの家は貧しく父親は寝たきり病人。彼は絶対にいいところに就職しなければならない。こんな3人が学長ににらまれながらも学園生活を送る。
 金持ちのボンでイヤミなチャトル。成績はランチョ―についで№2。チャトルはランチョ―たち3バカトリオに10年後の再会を約束する。
 10年経った。チャトルは大会社の副社長に出世。豪邸に住みランボルギーニに乗っている。チャトル、ファルハーン、ラージューの3人が集まった。ところがランチョ―が来てない。ランチョ―に会いに行く。目的地にいた男はランチョ―と名乗る別人だった。
 このランチョ―という男は天才エンジニアで、不可能を可能にする。洪水が町を襲う。学長の娘ピアの姉が臨月。陣痛が始まった。救急車は来ない。停電。出産が始まった。医学生のピアがネット通信で助産のアドバイスを送る。こんな状況でランチョ―は無事出産をさせる。
 このランチョ―の呪文のことばが「きっと、うまくいく」とってもハッピーな映画であった。少し長すぎたけど。


酒の相手

2023年03月19日 | 作品を書いたで
「ボウモアおかわり」
「ストレートですか」
「いや。トワイスアップで」 
 冬の木曜。午後5時17分。男は一人でやって来た。バー海神。このような昼と夜の境目の時間は、常連客たちはまだこない。その男は初めての客だ。50代と思われる。ホワイトカラーだろう。大きな会社の部長クラスに見える。
「いい店だな」
「ありがとうございます」
「長いのか」
「30年をこえました」
 だれか人を待っているようだ。客はその客一人だ。マスターの鏑木は話し相手をしながらグラスを磨いている。
 カラン。入り口のカウベルが鳴った。男が一人入って来た。30少し過ぎ。その男も初めての客だ。ブルゾンにジーンズ。ラフなかっこうだ。ホワイトカラーではなさそう。グリースだろうか手首が少し油で汚れている。カウンターに座った。先客の隣だ。
「いかかがします」鏑木が聞く。
「ウィスキーはよく知らないんです」
「では飲みやすいスコッチは」
「それを水割りでお願い」
 鏑木はグレンリベットのボトルを出した。少しだけ首をかしげてグリンリベットの水割りを出した。若い男は水割りのグラスを傾けた。
 初めての客二人はしばらく黙ってグラスを傾けていた。二人の間に心地よい沈黙が流れている。その沈黙が静かに止まった。
「このお店は初めてですか」
 若い男が声をかけた。
「はい。君もか」
「ぼくもです」
 また沈黙。
「あまりウィスキーは飲まないのか」
「ぼく、ビールと日本酒がだめなんです。ときどきウィスキーは飲みます」
「そうか。じゃアイラを飲んでみるか」
「アイラってなんですか」
「スコットランドの島だ。マスター、アードベックの10年。ストレートで」
 鏑木がグレンケアンのテイスティンググラスを2個並べて、アードベックを30ccづつ入れた。
「なにかの縁だ。私がおごるよ。乾杯」
 若い男はアードベックを飲んで顔をほころばせた。
「うわっ。おいしいです」
「臭いは気にならないのか」
 スコットランドはアイラ島で蒸留されるモルトウィスキーはピート香が強く、独特な強烈な臭いがする。アードベックはその中でも特に臭いが強い。
「薬みたいな臭いがしますが、おいしいです」
 カラン。カウベルの音。女が入って来た。若い。
「おとうさん。お待たせ」
 カウンターに座った。
「それじゃ。ぼくは」
「いいじゃないか。もう少しいても」
「いえ。どうもごちそうさまでした。アイラウィスキーおいしいですね」
 若い男は店から出た。
「知ってる人?」
「この店で初めて会ったんだ。いい男だ」
「いい人でしょう」
「お前知ってる人か」
「ええ。私、あの人と結婚するの」
「そんな大事なこと、なんで早くいわん」
「だから今いったじゃない。今が早いのよ」
「・・・」
「いいでしょ」
「お前は30近い大人だ」
「今度の日曜、ちゃんと家に連れて行くわ」
「あいつにいっておけ。グレンリベットを水で割るな」
「いいじゃない。どんな飲み方でも」
「男の親は子供ができると、この子が成人すると酒を酌み交わすのが楽しみなんだ。ところがお前は酒を飲まん」
「良かったね。お父さん。お酒の相手ができて」
  

SFマガジン2023年4月号

2023年03月15日 | 本を読んだで

2023年4月号 №756    早川書房

雫石鉄也ひとり人気カウンター
1位 はじまりの歯   エマ・トルジュ 田辺千幸訳
2位 魔女たる女王になる方法 シオドラ・ゴス 原島文世訳
3位 タイムキーパーのシンフォニー ケン・リュウ 古沢嘉通訳
4位 イハイトの爪         津原泰水
5位 斜塔から来た少女       津原泰水
6位 Q市風説(斐坂ノート)    津原泰水

連載
戦闘妖精・雪風 第五部〈第6回 対話と想像(承前)〉 神林長平
マルドゥック・アノニマス(第46回)         冲方丁
空の園丁 廃園の天使Ⅲ(第16回)          飛浩隆
さやかに星はきらめき(第8回)            村山早紀
小角の城(第68回)                 夢枕獏
幻視百景(第42回)                 酉島伝法

津原泰水特集
 亡くなった津原泰水の追悼特集。こんな作家小生は知らぬ。SFマガジンが追悼特集を企画して掲載したのだからSFを書いていたと思われる。SFマガジンはSFあるいはSFと思われる作品を書いていた作家が死んだら、全部追悼特集するのか?もしそうでないのなら、どのあたりに線引きするのか。眉村卓さんが亡くなったときも追悼特集をした。あれは極めて当然だ。日本のSFを60年にわたって牽引してきた眉村さんと、この津原なる作家を同列に扱うのは、小生は納得がいかない。
 追悼特集がもう1本。追悼・鹿野司「サはサイエンスのサ」傑作選。小生はこの鹿野なるご仁は文章書きとして落第のらく印を押している
 
 

チョコレートドーナツ

2023年03月13日 | 映画みたで

監督 トラヴィス・ファイン
出演 アラン・カミング、ギャレット・ディラハント、アイザック・レイヴィア

 静かな怒りと大きな悲しみで、この映画は終わる。この世にある、あってはならない偏見と身勝手に対して、静謐な怒りとともに、深い感動をともなった哀しみに満ちた映画だ。
 ルディはゲイである。女装してゲイバーで歌っている。検事局に務める弁護士のポールと愛し合っている。ポールは検事局の上司には、ルディはホモの相手ではなく従弟だといっている。
 ルディのアパートの隣の女はろくでもない女。ダウン症の子供がいるが、クスリをやって逮捕される。ダウン症の少年マルコをかわいそうに思ったルディとポールは服役中の母親の同意を得て、マルコの面倒を見る。行政が強引にマルコを家庭局に入れる。
 マルコのは私たちで面倒を見ると、ルディとポールは訴訟を起こす。ホモの二人は偏見と闘いながら、検事や判事と対峙する。
 主人公の一人ルディを演じたアラン・カミングが好演。ルディがたいへんに魅力的な人物に見える。真に上質な人物とはなにか。ルディはゲイで、アパートの家賃も家主に督促されがちな貧乏人。マルコは母に捨てられた、知恵遅れのダウン症で肥満体の少年。母は薬物依存症、釈放されたその日に男を連れ込みクスリをやっている。マルコは母に捨てられた少年だ。彼はチョコレートドーナツが好きだ。たぶん肥満しているのは子供にモノを食べさせるのがめんどうな母に、チョコレートドーナツばかり食わされていたので肥満したのだろう。赤の他人のそんな子供をだれが親身に世話をする?ルディはそれができるのだ。ルディはゲイで貧乏で芸人としても下積みだけど、真に人間の優しさを持った上質な人間だ。

図書館の魔女

2023年03月10日 | 本を読んだで

高田大介        講談社

 ふうう。昨年の12月から読みはじめて、やっと読み終えた。足掛け2年。3か月もかかって読んだ本である。文庫本で4冊もある。
 異世界ファンタジーである。結論からいう小生の好みから外れた本であった。でも、こんな長時間かけて読めたのは著者高田の文章力があればこそだ。異世界ファンタジーというと壮大なロマンを期待するであろう。小生もそれを期待した。ことわっておくが、ロマンや叙事詩的なモノを求めてこの本をお読みになるつもりなら、おやめになった方がいい。そんなもんはこの本にはかけらもない。3ヵ月にわたる苦痛があなたを待っている。
 異世界ファンタジーというと、架空の土地が舞台である。その土地でどんな国をつくり、どんな人々をつくってもいいのである。ぱっと思いつくのはE・R・バローズの火星シリーズである。火星なるよく判らん土地(当時は)が舞台だから、どんな波乱万丈な物語をつくってもいいのである。
 大平原に展開する大軍勢。2大強国が国の存亡を賭けて、真正面から激突する。血の嵐が吹く大合戦が始まる。どうだ。ワクワクするだろう。
 高い塔の一番上の部屋に美しきお姫さまが捕らわれている。塔の入り口に立った、大だんびらをぶら下げた筋骨隆々の豪傑。姫を助けるには塔を登って行かなくてはならない。塔の中には摩訶不思議な魔法を使う魔道士。猛毒を持った毒蛇の群れ。それらの化け物を倒さなくては上の階に行けない。やっと姫を助けたら、火を吹く怪龍が襲ってきた。姫の衣装は怪龍の爪で引き裂かれてボロボロ。ほとんど裸の美しき姫を守りながら豪傑は怪龍と戦う。
 と、いうようなことは、この本には一切書かれていない。大軍勢が大平原で激突しない。血の雨は降らない。魔女と呼ばれる少女は出てくるが。魔法は使わない。姫ではない。主人公図書館の魔女ことマツリカは「姫」と呼ばれたら不機嫌になって怒る。可憐な少女だが、口がきけないし、手話で話す言葉はにくまれ口が多く、まったくかわいげがない。だいたいが魔女と呼ばれるが魔法なんてものはバカにしてる。膨大な蔵書量の図書館の管理責任者だが。「秘伝書」とか「魔道の書」なんて本はない。「秘伝」とか「魔道」なんてバカなもんはこの世にないという。
 では、図書館の魔女マツリカは何をするのか。一の谷、ニザマ、アルデシュの3国。一触即発の戦争の危機にある。マツリカは戦争を回避し和平を実現させる。武器はマツリカの口(彼女は口はきけない。実際にしゃべるのは通訳兼ボディガードの少年キリヒト)豊富な知識と洞察力を持っている。この小生意気な小娘にみんな味方してしまう。図書館の二人の司書キリンとハルカゼは元々は王宮と元老院から送り込まれたお目付けであったが、今はマツリカの忠実な部下。ニザマの天帝とかアルデシュの陸軍司令官といったエライ人もマツリカの味方になってしまう。
 このマツリカをロシアとウクライナに派遣すればいい。プーチンやゼレンスキーごときはいちころで説得されて、たちまち和平が実現する。なんなら胴乱の幸助のおやっさんもつけるで。

グォさんの仮装大賞

2023年03月06日 | 映画みたで

監督 チャン・ヤン
出演 シュイ・ホァンシャン、ウー・ティエンミン、リー・ビン

 何人かの人々が一つの目標を達成する様子を描いた映画。これは映画の黄金パターンともいうパターンだ。黒沢明「七人の侍」それのリメイク「荒野の7人」や「ナバロンの要塞」もそうだ。で、まずどんな目標にするか。どんなメンバーが事にあたるか。どんな苦労があるか。こういう映画はそれで評価が大きく定まる。まず目標目的「七人の侍」や「荒野の7人」は野武士や野盗を退治する。「ナバロンの要塞」は敵方の要塞を爆破する。どんなメンバー。侍やガンマン、それに軍人などが行動する。
 さて、この映画の場合。どんなメンバー。老人ホームに入居している老人たち。どんな目標目的。テレビの仮装大賞にでること。どんな困難。目的地の天津が遠い。ホームの院長が反対する。
 グォさんは孫とは関係良好だが息子とおりあいが悪い。家を出て老人ホームに入る。そこには古い友人のチョウもいる。病人もいる。認知症の人もいる。身寄りのない孤独な老人もいる。貧乏人もいる。みんなお迎えが来るのを待つだけ。なんの楽しみもない。
 チョウさんがいい出した。「みんなで仮装大会に出よう」
 院長は許可しない。院長の目を盗んで練習する。許可しないのなら脱走しよう。おんぼろバスを都合して、元運転手のチョウさんとグォさんが運転して天津をめざす。
 後半は老人たちがバスで旅するロードムービーとなる。ここで中国大陸の素晴らしい風景が満喫できる。馬の群れと並走するシーンは圧巻。でて来る老人たちが個性的で面白い。ラストは少々ベタだが涙をさそう。
 ともかく老人たちがいい。老人を楽しむ映画だ。