ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

ダンスウィズミー

2019年11月25日 | 映画みたで

監督 矢口史靖
出演 三吉彩花、やしろ優、chay、三浦貴大、ムロツヨシ、宝田明

 タモリだったかな「ミュージカルって恥ずかしくないか。とつぜん歌って踊りだすんだから」確かにそういう面もあるだろう。「サウンド・オブ・ミュージック」のような名画でジュリー・アンドリュースみたいな名人がやるのならともかく、真面目な顔してしゃべってたヤツが、とつぜん立ち上がって歌いだすんだから違和感ありまくりである。ま、インド映画までいってしまうと、あれはあれで面白い。落語の「豊竹屋」は浄瑠璃大好きなだんさんが、なんでもとつぜん浄瑠璃にしてしまう。その面白さがキモの落語であるが、 そのミュージカルのおかしな所をそのまま映画にしたのが、この映画である。
 一流企業に勤める鈴木静香はミュージカルが大嫌い。ある日、静香は姪といっしょに遊園地に行った。そこで姪のつきそいで、あやしげな催眠術師の小屋へ入る。サクラと思われる女に玉ねぎをりんごだといって食べさせていた。姪はミュージカルをやりたいと催眠術師にリクエスト。この催眠術が静香にかかってしまう。それから音楽が耳に入ると、静香はとつぜん歌って踊りだす。会議の途中でも、レストランでデートしてる時でも。特にレストランでは大暴れ。店を盛大にぶち壊して、多大な弁償金を請求される。こんなんじゃ普通の生活ができない。心療内科に診てもらうが、かけた催眠術師に術をといでもらうしかないといわれる。
 こうして静香はサクラをやっていた女と二人、催眠術師を追う旅にでる。途中でおかしなストリートミュージシャンの女と知り合ったりして旅を続ける。
 ミュージカル大嫌いな主人公の映画であるが、主人公たる静香はいたるところで歌いまくり踊り狂う。だから、この映画、立派なミュージカル映画となっているて、矢口監督お得意の破天荒なコメディ映画に仕上がっている。
 なぜ静香はミュージカルが嫌いになったのか、子供のころの出来事がトラウマになっているのである。本人にとっては困った状況であるが、結果として彼女はトラウマを克服したのである。めでたしめでたし。
 主役をやった三吉彩花が魅力的。だまって立っておれば美人。動き出すとコメディとなる。それに宝田明。おん年85歳。これで歌って踊るんだから、その元気さにびっくり。実に楽しい映画であった。
 


新米を土鍋で炊きましょう

2019年11月23日 | 料理したで

 秋もだいぶん深まってまいりました。もうすぐ師走です。ご飯がおいしゅうございますね。いろいろな料理がありますが、新米が出回っているこの時期は白いご飯がなによりのごちそうでございます。和食のメインディッシュはお米のご飯でしょう。
 さて、ご飯を炊きましょうか。南魚沼のコシヒカリの新米を用意しました。量は5合です。
 まず、お米を洗います。ボールに水を張って、ざるにお米を入れて水につけます。水はミネラルウォーターを使いました。お米は乾物です。水につけた瞬間が最も水を吸うのです。さっとお米を水の中で回して引き上げます。これを2回ほど繰り返します。手のひらをついてお米を研ぐのもしますが、1度やれば充分です。最近は精米技術が進歩して、あまりていねいに洗米しなくてもいいんです。
 洗ったお米はビニール袋に入れて冷蔵庫に保管しておきます。よく炊飯器に水ごと入れてタイマーで予約する人がいますが、あれはお米が劣化してあまりよろしくありません。
 炊く30分ほど前にお米を袋から出して、水につけて浸水します。この水もミネラルウォーターです。
 さあ、いよいよ炊飯です。炊飯器で炊いてもいいんですが、せっかくですから土鍋で炊きましょう。お米と同量の水といっしょに土鍋に入れてフタをしめて火をつけます。中火です。蒸気がしゅうしゅう出てきたら、弱火にして12分ほど炊きます。この間フタを開けてはダメです。
 さて、12分経ちました。もしおこげがご所望なら、一瞬、強火にします。時間はお好みで。あんまり強火が過ぎると、くろこげぱんぞうになるので注意してください。
 これでできあがりではありません。フタもまだ開けません。そのまま15分ほど蒸らします。15分経ちました。いよいよフタを開けましょう。ほうら、おいしそうに炊き上がりました。なによりのごちそうです。

喜楽館でラジ関寄席を楽しむ

2019年11月19日 | 上方落語楽しんだで

 昨夜は喜楽館で行われた、「内海英華のラジ閑寄席」へ行ってきました。神戸の放送局ラジオ関西の寄席番組の公開録音です。
 幕が上がる前に、司会の内海英華姐さんがお出ましになりました。前ふりのおしゃべりです。相変わらず色っぽい英華姐さんです。
 開口一番は笑福亭呂好さんの予定でしたが、都合で桂弥っこさんがつとめました。吉弥門下の次男さんです。吉朝師匠の孫、米朝師匠のひ孫弟子です。
「石段」のお囃子で高座に上がった弥っこさん。まくらは乗り物の話題。乗り物の噺というと「三十石」か「いらち俥」か「稲荷俥」かな。「三十石」みたいな大ネタをこんな前座ではやらないでしょう。「稲荷俥」をやるには弥っこさんは若いです。となると「いらち俥」では?正解でした。弥っこさんもいってたのですが、こういう乗り物の噺で「昔の汽車はのんびりしててよろしかったですな。新幹線は風情がおません。乗ったら、すぐ『東京東京』」新幹線ができて、どれぐらい経ったと思う。新幹線の速さをくすぐりのネタにするのは、もうダメ。いっこも笑えない。弥っこさん、まくらを工夫すべし。落語は師匠から教わったことをそのまま演じるのも大切ですが、自分なりの工夫(とくにまくら)を施すのも大切です。
 二番目は六代目笑福亭松喬師匠の末っ子笑福亭風喬さん。風喬さん似顔絵の名人だそうで、風喬さん描くところの上方落語家の似顔絵がいっぱいのクリアファイルがあって300円だそうです。また、今度買いましょう。
 大店の若ぼんが病でふせっている。なんかで思い悩んでいる。どうも誰かに恋い焦がれているらしい。と、ここまでで「千両みかん」「千早ふる」かと思いましたが、風喬さんがやったのは「擬宝珠」橋の欄干なんかにある擬宝珠をなめるのが大好きなぼんです。このぼん、天王寺の五重塔の先端の擬宝珠をなめたいと思い悩んでいたわけです。で、ほんとうに天王寺に頼みこんで五重塔の周りに足場を組んで若ぼんに擬宝珠をなめさせるわけです。いかにも落語らしいバカバカしい噺です。
 3番手も末っ子さんです。といっても芸歴30年の大ベテランです。笑福亭鶴二さん。六代目笑福亭松鶴師匠最後のお弟子さんです。「算段の平兵衛」桂米朝師匠が得意としてはった噺ですが、悪人が活躍するピカレスク落語です。数ある上方落語の登場人物の中で、この平兵衛が一番頭が良い人物でしょう。鶴二さんオチを変えてはった。米朝師匠のは最後に平兵衛が按摩の徳の市にゆすられるのですが、鶴二さんのオチは庄屋の死を不審に思った奉行所が動き出すのですが、その奉行所のお役人まで平兵衛に相談に行くというオチです。
 中入り後の最初は、笑福亭由瓶さん。鶴瓶門下です。笑福亭鶴瓶師匠の落語は聞いたことがありませんが、鶴瓶師匠、良いお弟子さんをたくさん育てておられます。由瓶さんがやらはったのは「持参金」番頭さんが借金取りに来ます。今日中に返さなくてはなりません。番頭さんと入れ替わりに金物屋の佐助さんが縁談を持ってきました。一目見たら忘れられない顔のお嬢さん。このお嬢さんお腹に子供がいるけど、持参金20円つけるから嫁さんにもらってくれへんか。で、このヤモメ持参金欲しさにOKします。ようは、この20円がぐるぐる回るわけですな。金は天下の周りもの、経済学の勉強になる噺です。
 さて、トリは笑福亭の大ベテラン笑福亭呂鶴師匠。年取って風格がいちだんと増して松鶴師匠によく似てきはりました。やらはったのは師匠松鶴お得意のお酒の噺。「ご酒家のおうわさです」という出だしは松鶴そっくりでした。「三人上戸」です。「にわとり上戸」「左官上戸」「くすり上戸」など、酔っ払いの描写で笑わせていただきました。「ご酒家のおうわさ」の定番うどん屋もちゃんと出てきて、酔っ払いが唐辛子でうどんを真っ赤にします。
 この時の呂鶴師匠の酔っ払いは神戸の三宮にも出没。「なんや。おおきなビルやな。デパートかいな。確か、ここにはそごうがあったはずやけど。ん、いつの間にか阪急になっとる」というくすぐりをいれてはった。
 さて、楽しい落語会も終わりました。内海英華姐さんに見送られながら喜楽館を出ました。

インビクタス/負けざる者たち

2019年11月18日 | 映画みたで

監督 クリント・イーストウッド
出演 モーガン・フリーマン、マット・ディモン
 
小生も案外ミーハーなところがあって、ラグビーのワールドカップを観てた。ちょっとだけ、にわかファンとなったしだい。なるほどサッカーなんかより面白い。と、いうわけでラグビー映画を観よう。選んだのが、この作品、クリント・イーストウッド+モーガン・フリーマンだから愚作にならないことは保証されているといっていいだろう。
 南アフリカ共和国は長い間アパルトヘイト政策をしいていた。白人と黒人は完全に分けられ、黒人は虐げられていた。黒人の活動家ネルソン・マンデラは27年獄につながれていた。
 そしてアパルトヘイト政策は廃止。マンデラは出獄、同国初の黒人大統領となる。戦々恐々とする白人たち。大統領府の白人職員たちは荷物をまとめて逃げ出す。
 マンデラが訴えたこと、それは「融和と許し」抑圧者であった白人を許す。黒人と白人の融和。国を一つにする。そのためスポーツを活用する。そのスポーツがラグビーというわけ。
 南アフリカのラグビーチーム、スプリングボクスは、当時は大変に弱く、南アフリカの恥とまでいわれていた。その南アフリカで1年後ワールドカップが開催される。マンデラはスプリングボクスのキャプテン、フランソワ・ピナールと会う。願いはワールドカップ優勝。
 さて、ワールドカップ開幕、スプリングボクスは快進撃。ちょうどこのたびのワールドカップの日本のように。そして決勝戦。相手は無敵のオールブラックス。ハカを舞うオールブラックス相手に一歩も引かない熱戦。試合は延長戦にもつれこむ。結果は史実の通り。映画みたいな話だが、これは映画である。
 そして2019年ワールドカップ日本大会の優勝国は南アフリカである。いささかベタではあるがイーストウッドらしい素直に感動する映画となっている。主役のモーガン・フリーマンはまさに適役。フリーマン以外でこの映画の主役をできる俳優はいない。


天下一の軽口男

2019年11月14日 | 本を読んだで


 木下昌輝           幻冬舎

 上方落語の祖米沢彦八の一代記である。毎年9月に大阪は生國魂神社で、上方落語協会主催で彦八まつりが行われるが、その彦八師匠が本書の主人公である。
 難波村の漬物屋の息子彦八はできの悪い子供であった。ぼんくらで、勉強きらい、手習いの寺子屋を何度もほうり出される。算盤ダメ読み書きダメ。家業の漬物作りも半人前、でも彦八はだれにも負けないことがある。人を笑わすこと。ま、ようするにいちびりでうかれだったわけ。
 そんな彦八は人を笑わすことで生きていこうと思う。特に幼なじみのガールフレンド里乃を笑わせたい。
 彦八は辻に立っておもろいことをゆうて銭を投げてもらうプロの笑話の芸人になる。難波村では難波村一のお伽衆といわれるようになった。彦八はそんなことでは満足せん。天下一のお伽衆になるべく江戸へ。江戸では大名や大店のお座敷に呼ばれて笑話をするのがステイタスであった。
 彦八は江戸で陰謀に巻きこまれ江戸に居られなくなり、上方へ戻る。生國魂神社の境内で小屋掛けして芸を披露。大人気となる。彦八は大名や大店のお座敷相手ではなく、侍から百姓町人だれにでも笑いを届ける笑話芸人となった。
 江戸落語はお座敷芸、上方落語は大道芸である。その上方落語の祖が米沢彦八なのである。
 米沢彦八没後300年。大阪の天満宮の境内に上方落語の定席ができた。天満天神繁昌亭である。さらにそれから12年後楠公さんの湊川神社のほど近く神戸新開地に上方落語二つ目の定席新開地喜楽館ができた。
 そして、ここは、冥土の興行街めいど筋にある上方落語定席めいどええとこ亭である。ここに4人の男が集まっている。
「ワシはあいつをば推薦したい」
 こわい顔だが愛嬌のある男がいった。大きな声である。
「ワシもおんなじや」
 二人目の男がねにょうとした声でいった。
「あいつ以外におらんやろ」
 三人目はしゅっとした男でぼそぼそと小さい声でいいながら、来ていた羽織を脱いだ。シュッと一気に脱ぐかっこいい羽織の脱ぎ方である。
「二代目はこの本にもでてるけど、三代目四代目はおったらしいけど、よう判らん。そやから五代目ちゅうことやな」
 四人目の学究肌の男がいった。
「ではそういうことで、よろしいな初代」
「ま、あいつやったらええやろ」
「ほな、現世に連絡しよ。今の会長はだれや」
「仁智や」
「あんたの孫弟子や。あんた電話してな」
「仁智かワシや。五代目米沢彦八が決まったで」

 202X年。11月吉日。〇〇〇〇〇改メ五代目米沢彦八襲名披露公演が天満天神繁昌亭からスタート全国を巡回することとなった。
 

アガサ・クリスティー ねじれた家

2019年11月11日 | 映画みたで

監督 ジル・パケ=ブレネール
出演 グレン・クローズ、マックス・アイアンズ、ステファー・マティーニ、テレンス・スタンプ

 大富豪のじいさんが死んだ。毒物による他殺だ。じいさんの孫娘から捜査の依頼を受けた探偵がお屋敷にのりこむ。遺族全員が容疑者。なんか横溝正史の「犬神家の一族」みたいな話や。ワシはSFもんにつきミステリはあんまり読まんのやけど、ミステリーにはこういうパターンはようあるのとちゃうやろか。
 屋敷にいるのは、じいさんの先妻の姉、長男夫婦、その子供3人、次男夫婦、若い後妻、この近親者にあとは長男の子供の家庭教師と乳母。容疑者はこれだけ。全員殺害の動機はある。一番疑われるの、一番遺産を多く相続する後妻、しかも後妻は家庭教師とできてるんじゃないかと疑われる。後妻と家庭教師との間で取り交わされたラブレターまで発見されて、二人は逮捕される。
 で、もちろん、この二人が犯人ではない。真犯人は、いささか掟やぶり的な人物。こいつが犯人でええんやろか。なんとも救いのないラストやし。面白かったけど後味の良い映画ではない。
 原作はアガサ・クリスティーやけど、探偵はポアロでもミス・マープルでもない。どうという特徴のない若い男。これで良かったのではないやろか。ポアロやコロンボ、金田一といった個性の強い探偵やったら主役が引き立たないやろ。この映画のほんまの主役は心のねじれた9人の容疑者なんやから。そんなかでも一番心がねじれてたのが真犯人や。


カレーうどん

2019年11月10日 | 料理したで

 カレーうどんや。ワシはうどんもカレーも大好きなので、それが合体したカレーうどんは、定期的に食べんと大きく健康をそこねるおそれがある。
 ま、ごたくはええから早よつくって食お。まず、出汁とりやな。うどんは出汁が肝心や。昆布と削り節でとるんやけど、こんぶは羅臼、削り節はヤマヒデの業務用削り節を使こうておる。これで出汁をとって、常備しとるかえしで味をつけるんや。これで出汁はでけた。
 カレー粉はインデアンのカレー粉に、クミン、ターメリック、カルダモン、オールスパイスなんかを自分で乳鉢で引いた特性スパイスをプラスしたもんや。
 具は牛肉、長ネギ、あげや。これらを煮てカレー粉で仕上げるんやで。それとワシは和風のカレーには味噌をちょっとかくし味に入れるんや。それににんにくをすって入れるとうまいで。
 あとはゆでたうどんを丼に入れて、具を煮たカレースープをかけたらできあがりや。フーフーゆいながら食おう。うまいで。

会社の宝

2019年11月08日 | 作品を書いたで
「あら、いっぱいだわ」
「ん。下土井さんは」
「さあ、トイレじゃない」
「どうしたの」
「段ボール捨て場がいっぱいよ」
「下土井さん、きのうお休みだったんじゃない」
「そっか。あ、帰ってきた」
「下土井さん、段ボール捨て場、掃除しといてよ」
 トイレから帰った下土井は、カッターナイフを持って、部屋を出ていった。廊下のつきあたりに、カゴテナーが置いてある。
 段ボール箱が乱雑に積み上げてあった。平たくしてカゴテナーに入れれば、もっと入るが、四角いまま放り込んであるからカゴテナーの外にまであふれている。
 四角い段ボール箱をカッターナイフで切って、平たくしていく。全部平たくすると段ボールはきれいにカゴテナーに入った。
 下土井の席は総務部の部屋の、入り口の一番手前。机の上の箱には郵便物がいくつか置かれている。会社から外部へ出す郵便物だ。昔は物品の発注は注文書を郵送していたが、今はメールで発注する。それでも紙の書類を取引先に送る必要があるときは郵送する。
 切手を貼って郵便ポストまで持っていく、その帰りに、郵便受けをチェック。宛先の社員に届けて回る。
 これが下土井の仕事だ。段ボールの整理、郵便物の発送と配布。この仕事を三〇年やってきた。下土井の今の肩書きは総務部庶務課庶務係だ。
 正午になった。
「横町にできた中華屋さん、冷やし中華がおいしいらしいよ。行かない」
「行こ」
「ちょいちょい行く酔龍伝ちゅう居酒屋があるやろ。あそこが昼定食はじめたで」
「昼はそこで食うか」
 部員たちが出て行き、ガランとなった総務に下土井がポツンとひとり残った。下土井を昼食に誘う人はいない。
 自席で弁当を開ける。小さめの弁当箱にご飯がいっぱい入っている。ご飯の上にトンカツが一枚。下土井の昼食は毎日こんな弁当だ。きのうはご飯の上にフライドチキンが一個ころんと乗っている。その前はご飯とツナ缶が一個。トンカツやフライドチキンは市販のモノだ。
 下土井の弁当を作る手間は弁当箱にご飯を詰めるだけ。
 お茶は給湯室から自分で汲んでくる。欠けた湯飲み茶碗でぬるい番茶をズズとすすり、トンカツをかじる。ご飯を食べる。食事は十五分ほどで終わる。
 自分の机で眠る。午後一時まで四十五分は午睡ができる。一時五分前に目が覚める。寝ぼけた頭が目覚めるころ、午後の業務開始のチャイムが社内放送で流れる。
「まいど。宅配便です」
 宅配便を受け取るのも下土井の仕事だ。ドライバーが差し出す端末に指でサインする。宛先は設計。中身は電子部品だ。三階の設計まで荷物を届ける。設計室の入り口の宅配便専用置き場に荷物を置いて自席へ帰ろうとすると呼び止められた。
 荷物の受取人だ。まだ若い設計の男だ。
「ちょっと待って、下土井さん」
 荷物を手に取り、包装のガムテープを手ではがそうとするが、うまくはがれない。
「下土井さん、カッターナイフ持ってきて。ぼくの机の筆立てにあるから」
「はい」
 カッターナイフを持ってきて設計男に手渡す。ガムテープを切ろうとするが、うまく切れない。
「刃を替えてきて」
 カッターの刃を新品と交換して持ってきた。
「下土井さん、開けてよ」
 ガムテープを切って梱包を開ける。中身は小さな基板用のコネクターだ。
「お、これこれ。待ってたんだ」
 そういうと設計男はコネクターだけ持っていった。空の段ボール箱と緩衝材のプチプチがそこに残った。
 下土井は段ボール箱とプチプチを持っていく。段ボールはカゴテナーにプチプチはゴミ箱に入れて、自席に戻った。
 ホッとしていると電話が鳴った。社長からだ。久しぶりだ社長からの電話は。
「はい。すぐうかがいます」
 社長室のドアをノックする。
「入りたまえ」
 社長と人事部長がいた。
「下土井さん。辞令です」
 人事部長が辞令を手渡した。
 下土井勝 品質管理担当取締役副社長を命じる。
「下土井くん。またまたまずいことになった。わが社の電源が発火して火事をおこした」
 下土井の会社はパソコン用電源を造っているが、パソコンを使用中に電源がとつぜん停止して、データがダメになったことが過去に何度かあった。そのたびに品質管理担当取締役副社長が記者会見を開いて謝罪を行う。この役職は常任ではない。必要に応じて適任者が任命され謝罪会見を行う。
 その適任者が下土井なのだ。なにもなければ総務部庶務課庶務係として勤務している。なにか会社に不祥事や不具合事故がおきると、下土井は品質管理担当取締役副社長に任命されて記者会見に出て、謝罪釈明の会見をおこなう。一度、下土井が入院中に社長が謝罪会見を行ったことがあるが、火に油を注ぐ結果となった。
 今までは電源不具合によるデータ損失といった事案であった。被害をこうむった企業はカンカンに怒って損害賠償を請求されたが、世間は関心を持たなかった。ところが今回は火災である。幸い死者はでなかったが、ケガ人がでた。世間に不安が広がっている。

「このたび、弊社製品の不具合によって、あってはならない事故を起こしまして、まことに申しわけございません。ただいま全力をあげて原因を調査中です。このようなことを二度と起こさぬよう、全社一丸となって再発防止に努める所存でございます。ケガを負われた方被害にあわれた方には誠心誠意対応させていただきます」
 しゃべりかた、表情、申し訳なさが全面に出て、口先だけではなく心底からの謝罪がだれにもよくわかった。
 下土井は頭を下げた。少しだけ髪の毛が残ったバーコード頭である。頭の下げる角度、時間は絶妙なものがある。
 下土井勝。謝罪記者会見の達人。この会社の宝である。

三国志(四) 臣道の巻

2019年11月07日 | 本を読んだで

 吉川英治         新潮社 

豪傑呂布、この巻にて退場。彼の愛馬、赤兎馬は曹操のものとなり、さらに曹操から関羽に贈られ関羽の愛馬となる。
 大臣董承、曹操暗殺を企てる。極秘裏に賛同者を集める。その計画に劉備も加担する。このクーデターは失敗。曹操は大粛清を実行。曹操の独裁体制はより強固になる。劉備は袁紹のもとに身を寄せ、張飛、関羽ともはなればなれとなる。関羽は曹操のもとへ。曹操、関羽にほれ込む。

眉村卓さんを偲ぶ

2019年11月04日 | いろいろ
私が初めて眉村卓さんのお名前を知ったのは、生まれて初めて買ったSFマガジン1967年9月号№98号の誌上であった。「EXPO‘87」の作者として眉村卓というSF作家を知った。連載の第2回であった。「EXPO‘87」連載終了後も眉村さんは同誌上で精力的に短編を発表された。私はそのすべてを読んでいるはず。当時はプロパーの専業SF作家は両手で足りるほどであった。眉村さんはその日本SFの貴重な戦力であった。
 眉村さんと私の作家と読者という関係に大きく変革をもたらしたのはラジオだった。当時私は深夜ラジオをよく聞いていた。確たる記憶は失ったが、確か1970年ごろだったと記憶する。深夜、ABCの「ヤングリクエスト」が終わってMBSにチューニングを合わせると、とつとつとしたおしゃべりの番組をやっていた。お名前が眉村卓さんとおっしゃった。最初は眉村卓?という感じだった。すぐSFマガジンでお名前をよく存じ上げている眉村さんだと判った。
 へー、あの眉村さんが。誠実な眉村さんらしいおしゃべりの放送であった。これが「チャチャヤング」だ。SF作家がパーソナリティをやっている番組である。SFファンである私は毎週聞くようになった。眉村さんは「消滅の光輪」や「引き潮の時」で代表される大長編の作者であると同時に、ショートショートの名人でもある。作品数は星新一よりも多い。そんな人がやっている番組である、ショートショートを投稿するリスナーが出てきた。それを眉村さんは紹介した。こうして自然発生的にショートショートコーナーができた。私も毎週投稿した。あのころは週に1本はショートショートを書いていた。毎週たくさんの投稿があった。これを眉村さんはていねいに論考され、ランク付けをして紹介された。Aランクは週に1本出るか出ないかだった。私も1度だけAをいただいたことがあった。
 こうして集まった作品は、傑作選として毎日放送が2冊の小冊子にまとめ、さらには講談社から単行本として出版された。私はその両方に作品を掲載していただいた。
 そして1972年に「チャチャヤング」が終了した。そして、常連投稿者たちは、このまま別れてしまうのは惜しいということで、集まることとなった。私も賛同した。
 西秋生、深田亨、小野霧宥、南山鳥27、大熊宏俊、岡本俊弥といった人たちと会った。この人たちは40年以上たった今も親しくご厚誼をいただいている。この最初の集会に眉村さんも来られた。私が初めて眉村さんとお会いしたのは、この時だ。
 このチャチャヤング卒業生たちは創作研究会を結成。私も末席に加えていただいた。その創作研究会の面々が、月に一度眉村さんの仕事場で、眉村さんを囲んで勉強会を行うようになった。その仕事場のマンションの名前から「銀座が丘集会」と呼ばれた。ある時の銀座が丘集会に星群の人たちがやってきた。第1回星群祭へ眉村さんゲスト招聘のお願いにきたのだ。眉村さんは快諾された。その場で私は星群の会に入会した。
 銀座が丘集会は、創作研究会のメンバーに星群の同人たちも加わり、場所を眉村さんのご自宅に変えて、ずいぶん長い間続いた。
 私は今、星群の会ホームページで「SFマガジン思い出帳」を連載しているが、最新のモノは1978年10月号を紹介している。この号で「消滅の光輪」は最終回だ。このころの銀座が丘集会で、ちょうど連載中であった「消滅の光輪」の今後の構想などを眉村さんは話された。それを次号のSFマガジンで読めるのだからたいへんに勉強になった。また、これに限らず眉村さんの話されることは示唆に富んでいた。私はこれほど眉村さんにいろいろ教えていただきながらさしたる作品も残していないことを申し訳なく思っている。この銀座が丘集会の出席者でプロの作家になったのは菅浩江だけである。
 眉村さんは毎年、夏の星群祭に来ていただき、また、チャチャヤング関係では、ごく最近まで酒宴につきあっていただき、40年以上にわたってご厚誼を賜っていた。眉村卓さんは、私の人生に大きな収穫をもたらせていただいた。こうして眉村さんを喪うと、あまりに大きな喪失感を感じて、戸惑っている自分がいる。
 

スパゲッティミートソース

2019年11月02日 | 料理したで

 料理には素人がやってはいけない料理と、そうでない料理がある。鮨や天ぷらは素人は絶対に玄人に勝てない。また、素人でも玄人を凌駕できる料理もある。
 小生はラーメンが好きで外でもよく食べるし、自分でも作る。外で食べるラーメンで小生のラーメンよりうまいのはあまりない。スパゲッティも同じである。
 ミートソース、ポロネーゼともいうな、は、外のパスタ屋であまりおいしいのに当たったことがない。市販の缶詰もよく有るが、市販のモノは酸味か甘味か、特定の味が強調されていてもひとつおいしくない。
 ミートソースはだんぜん手作りがおいしい。これといったコツもないし、簡単にできるからおすすめ。ただし1時間はかかるからそのつもりで。
 用意するものは、もちろんスパゲッティ。それから、あいびき肉、にんにく、ローリエ、玉ねぎ、にんじん、赤ワイン、ホールトマト缶、スープ、オリーブオイル、塩、こしょう、バター、ナツメグ、パルミジャーノレッジャーノ。
 まず、することは玉ねぎとにんじんのみじん切りをオリーブオイルで炒める。オリーブオイルは多い目がいいだろう。多いといってももこみちみたいにバカみたいに多く入れる必要はない。
 ひき肉を炒める。しっかりと丁寧に炒めよう。そこに赤ワイン投入。安い赤ワインでいいだろう。小生は酒は、ビール・日本酒、ウィスキーしか飲まない。ワインは飲まないから、調味料としてのワインとして赤白2本だけは置いてある。
 あとはホールトマトを入れ、スープを入れて煮込むだけ。アクを取りながら、弱火でコトコト煮込もう。最低1時間はかけて煮込みたい。それは鍋の中の水分を見て判断しよう。水分がだいぶんなくなってポタとしてきたらできあがり。
 ゆであがったスパゲッティにかけて、パルミジャーノレッジャーノをかけてドライパセリをふって食べよう。

 星群の会ホームページ連載の「SFマガジン思い出帳」が更新されました。どうぞご覧になってください。