呉勝浩 講談社
小説には主人公がいる。読者はたいていの小説の主人公に共感を持って、おおむね好感を感じながら読むもんだ。ところがこの作品の主人公には共感・好感をもっていいんだか判らぬまま読み終えた。
主人公はスズキタゴサク。本名かどうか判らん。酒の自販機を蹴って酒屋に暴力を振るったということで逮捕され取調室で尋問を受けている。話はほとんどこの取調室で進む。
スズキタゴサク。49才のおっさん。中年太りの肥満。頭に十円ハゲ。財布はから。態度は卑屈で低姿勢。どっから見ても風采のあがらない薬にも毒にもならんおっさん。
このおっさん、取り調べ中に刑事に「予言」をいい出した。秋葉原で事件が起きる。予言通りに秋葉原の廃ビルで爆発。人的被害なし。引き続き「予言」東京ドームシティで爆発。いあわせた夫婦が爆発に巻き込まれた。妻が死亡。おっさんは連続爆破事件の重要参考人となった。自供はしない。犯人は別にいるという。自分は「霊感」で「予言」しているだけだそうだ。
のらりくらりと言を左右するおっさんを相手に刑事たちが尋問する。なかなか決定的な証言を得られない。で、おっさんは重要なキーとなる人名をいう。4年前に自殺したあるベテラン刑事の名だ。そうこうしているうちの最悪の爆発が。被害者60人以上の大爆発。死者多数。スズキタゴサクなるおっさんは犯人か?