ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

三体Ⅱ 黒暗森林

2021年01月26日 | 本を読んだで

劉慈欣      大森望、立原透耶、上原かおり、泊功訳     早川書房

 宇宙のかなたの三体文明を出発した地球侵略艦隊は400年後に地球に到達する。地球の科学力ではとてもかなわない。対策を考えるが、地球全域には三体文明が送り込んだスーパーミクロコンピュータ智子(ソフォン)に通信、会話が傍受され地球の考えることは三体に筒抜け。(しかし、もうちょっと別の訳語はなかったのかな。どうしても、ともこと読んでしまい、昔のガールフレンドの智子ちゃんを想い出してしまうではないか)
 これに対抗するために地球人類は4人の面壁者に運命を託した。彼らは自らの頭の中だけで対三体防衛策を考える。元アメリカ国防長官、元ベネズエラ大統領、イギリスの科学者で政治家、中国の天文学者で宇宙社会学者。人類の運命はこの4人に託された。
 面壁者の中で中心になって物語を駆動するのは中国人羅輯であるが、4人それぞれの立ち位置、キャラがうまく書き分けらえれていて面白い。
 と、いうわけで400年たった。羅輯たちは冷凍睡眠で生きていて、目覚める。三体の艦隊は太陽系の目前に迫っている。その三体の先発攻撃「水滴」1機によって地球防衛艦隊はボコボコにされる。まったく歯が立たない。三体艦隊本体がやってくる。さあ、どうする。これで、完結編三体Ⅲを読まずにがまんできるかな?

スペースカウボーイ

2021年01月25日 | 映画みたで

監督 クリント・イーストウッド
出演 クリント・イーストウッド、トミー・リー・ジョーンズ、ドナルド・サザーランド、ジェームス・ガーナ―

 あらためてイーストウッドの多芸多才ぶりに感心した。出発点の西部劇はもちろん、刑事アクション、純愛文芸もの、スポーツもの、ミステリー、戦記などあらゆるジャンルの映画で主演し監督してきたイーストウッド。こんどはSFだ。クリント・イーストウッドがSFで宇宙へ出向く。これが違和感がない。さすがというべきだろう。とはいいつつもイーストウッドはどの映画でもイーストウッドだ。西部のガンマンでも、サンフランシスコの乱暴な刑事さんでも、ゆきずりの恋に落ちる橋のカメラマンでも、ボクサーのトレーナーでも、頑固一徹、自分に厳しく、絶対妥協はしない。狷介な男を演じ演出してきた。この映画でも同じ。宇宙へ行ってもイーストウッドであった。
 40年前。ジェット機の創成期。超音速機のテストパイロット。空軍の腕っこき4人。チーム・ダイダロス。アメリカで最初に宇宙へ行くのは俺たちだと思っていた。ところが計画は中止。チーム・ダイダロスは解散。これから宇宙開発を担うのは新設されたNASA。そのNASAが最初の宇宙飛行士に選んだのは思わぬ人物(?)であった。4人のプライドは傷つけられた。
 あれから40年。4人ともじいさんになった。旧ソ連が打ち上げて今はロシアが使っている通信衛星が故障した。NASAに修理の依頼がきた。その衛星の制御装置は古いモノで、若い技術者では修理できない。その通信装置の元は4人のリーダーフランクが設計したのだ。若い技術者に修理方法を教えてくれと頼まれたフランク「俺がなおしに宇宙へ行く」かっての仲間に声をかけて、40年ぶりにチーム・ダイダロス復活。老骨にムチ打って若いもんといっしょに宇宙飛行の訓練にはげむ。
 宇宙へ行っても頑固じいさんはあいかわらずのイーストウッドであった。

長崎ちゃんぽん

2021年01月24日 | 料理したで

 お寒うございます。こないな寒い日の朝ごはんは、あつあつの麺がよろしいな。いろんな麺があるけど、新型コロナに負けんため栄養つけなくっちゃ。ちゅうこって、栄養満点なちゃんぽんを食べたで。
 麺は市販のちゃんぽん麺やけど、スープは鶏ガラをぐつぐつ煮だして作った。醤油ラーメンやったら澄んだスープにしたいから火かげんに気つけなあかんけど、ちゃんぽんのスープは濁ってもええから、ガンガン強火で煮だしてもええねん。でけたスープにちょっと牛乳を入れたらええ。
 スープがでけたら具を炒めるで。豚肉、かまぼこ、にんじん、きくらげ、長ねぎ、キャベツ。これを炒めてタイミングを見計らってスープを注ぐ。このスープを注ぐタイミングがキモやで。遅れるとキャベツに火が通り過ぎてやわやわになる。早すぎるとキャベツに甘みが出てへん。ここに茹でた麺を加える。もちろん、具を炒めるのんと、麺を茹でるのは同時進行やで。あとは茹でておいたきぬさやを散らしたらできあがりや。うまいで。あったまるで。

2020年に読んだ本ベスト5

2021年01月23日 | 本を読んだで
 困ったことに年を取って本を読むスピードが落ちる一方だ。小生、本は2冊を並行して読んでいる。一つの流れが、海外SF→日本SF以外→海外SF以外→日本SF→ノンフィクション→漫画というローテーションで、その合間に山田風太郎、西村寿行、大藪春彦、その他をはさむ。もう一つはこれとは別に適宜読む本。SFマガジンは最新の号と昔の号。昔の号はこのコラムを書くためである。あと雑誌は公募ガイド、本の雑誌、dancyuを定期購読している。単行本を読む冊数が増やせない。困ったもんだ。それはさておき、昨年2020年に読んだ本のベスト5は次の通り。

シャドー81
 旅客機がハイジャックされた。犯人は機内にいない。現実では起こりそうにないハイジャック事件。驚愕のラスト。

三体
 いま、一番元気な海外SFの代表選手。コンセプトはクラークと同じだが、現代ならではのくすぐりがいっぱい。今を生きるSFもんにうけるのも納得。

弧宿の人
 極悪非道。悪霊のような罪人をあずかった四国の小藩が舞台。捨て子同然の少女と大悪人の元幕府の勘定奉行。二人の間に心の交流が。

ザ・チェーン 連鎖誘拐
 こんなことを考え出すのは悪魔に違いない。娘を誘拐した。助けて欲しくば、よその子供を誘拐しろ。

暴虎の牙
 暴力した自己を表現するするすべを知らない男。ヤクザではない。ヤクザを食いもんにする愚連隊。シリーズ完結編。
 
 

夢の車

2021年01月22日 | 作品を書いたで
 道路が大きくカーブしている。ブレーキを踏んで減速。同時にクラッチ。シフトレバーを動かしてギアを二速に落とす。車はコーナーのクリッピングポイントを過ぎた。タイヤが小さく泣く。軽くドラフトしながらコーナーを回る。アクセルを踏む。加速しながらコーナーを抜ける。
 これから、しばらく大小のコーナーが続く。頻繁にシフトアップとシフトダウン繰り返す。
 この車を手に入れるまで苦労した。いま、日本を走っている乗用車の九〇パーセント以上がオートマチック車だ。新車を購入しようとしてもマニュアル車を設定している車種はごくわずか。しかもFF車がほとんどだ。FR車でマニュアルシフトとなると絶滅危惧種といっていい。
 散歩の途中に、こいつを見つけた。小さな中古車販売店の片隅に、こいつはいた。
 マツダRX-7。今はなきロータリーエンジン車。リトラクタブルヘッドランプの二シーターのスポーツカーだ。

 朝一番の講義が終わった。大学から阪急電車で宝塚へ。そこに駐車場を借りている。駐車場の一番奥にファミリアのライトバンが駐車してある。私の初めてのマイカーだ。マツダの初代ファミリアのライトバンだ。八〇〇CCで四速コラムシフト。この車で国道一七六を走る。三十分ほど走ると、国道沿いに小さな工場がある。親父がやっている工場だ。
 大手のコンデンサーメーカーを退職した親父はこんな田舎に小さな土地を買って工場を造った。元いた会社の大型進相コンデンサの部品や、M電機のコイルの下請け仕事をやっていた。
 近くの農家の主婦たちをパートで雇っていた。それでは人手が足りないから、母や、私が手伝っていた。
 工場の近くにマツダの販売所があったから親父が納品に使う車はマツダの初代ボンゴであった。いまでいうワンボックスカーで、未来的でかわいい顔をした車だった。このボンゴ、わかいいだけではなく、なかなかタフでよく働いた。
 親父の工場は、西宮市下山口という所にあった。いまは中国道ができて風景はまったく変わってしまったが、私の学生時代は大きな道は一七六号線しかなくひなびた町だった。 この国道一七六号線が、私の運転技術の道場であった。
 十代で運転免許を取った私は、そのころ運転歴一年ほど。運転することが楽しくってしかたがない時期だった。なんだかんだ理由を見つけて車を運転していた。
 工場の納品も私がボンゴを運転して納品に行っていた。納品先は二カ所。M電機の三田工場とS電機の西宮本社。
 M電機三田工場は、下山口から車で三〇分ほど走った ところ。S電機は神戸の自宅に帰る途中に立ち寄る。
 初代マツダボンゴ八〇〇CC三七馬力という非力な車だったが、大量の荷物を積んで実によく走った。
 ボンゴは納品材料引き取り用の仕事車だったが、私のマイカーはファミリア・バンだった。この車が私の運転の相棒であり師匠であった。
 国道一七六号線が私の道場だった。宝塚から下山口まで。対向二車線の国道である。山間部を走るこの道は、途中にヘアピンカーブもいくつかあり、追い越しをしようと思えば適当な直線もあって、ドライビングテクニックを磨くにはかっこうの道であった。
 宝塚を過ぎて、ウィルキンソンの工場のあたりで一七六号線から分岐して有馬の方へ行く道があった。途中、黒澤明の「隠し砦の三悪人」のロケ地となった蓬莱峡がある。そこを過ぎて登りを登り切ったところが船坂峠。ここに小さな集落がある。この集落の人が親父の工場にパートに来ていた。通常はバスでくるが、冬、雪が積もってバスが不通になると私が迎えに行った。途中、金仙寺湖というきれいな湖がある。ダム湖だ。あまり人に知られていないお花見のスポットだ。
 この金仙寺湖をすぎてくだり坂を下ったところが親父の工場だ。
 この蓬莱経、金仙寺湖ルートを通るのは、そういうわけで必ず冬だ。
 FRで八〇〇CCの非力なエンジン、しかもコラムシフト。雪道、従業員を乗せている。非常に事故を起こしやすい条件で、絶対に事故ってはいけないシチュエーションで運転した。
 私は生まれは西宮だが育ったのは神戸だ。神戸では雪はあまり降らない。降っても積もらない。と、いうのは六甲山の南側の話。六甲山の北側は昔は、けっこう雪が降ったし積もった。神戸の東灘で育って生活している私は雪道を運転する機会はあまりない。そういう私が、冬、蓬莱峡まわりのルートを走るときは、雪道の運転に慣れざるを得ないのである。
 こうして私はファミリアバンで国道一七六号線を走って運転の腕を磨いたのである。
 その後、私の愛車はファミリアが続いた。初代4ナンバーのファミリアのライトバンから5ナンバーのファミリア一三〇〇となった。そして私のマイカーは革新的な車となった。
 ファミリア・ロータリークーペ。画期的なエンジン、ロータリーエンジンを搭載した二台目の市販車である。最初のコスモスポーツは二人乗りの特殊なスポーツカーであったから、五人乗りで普通の人が乗れる一般的な車としては世界で最初の車だ。
 速い車であった。静かでよく回るエンジン。それまで乗っていたレシプロエンジン車がプロペラ機ならロータリーエンジン車はジェット機だ。速い車であったが、運転している自分はあまり速さを感じなかった。自分が速いのではない。他の車が遅いのだ。
 この車の運転席は、まさにジェット機のコクピット。T型で松本零士の漫画のようにアナログの丸いメーターがずらりと並んでいる。
 その後、私はマツダ党からホンダ派に浮気をし、ホンダ・インテグラに長い間乗っていたが、会社をリストラされ、経済的な理由から車を手放し、今は車を持ってない。
 ガソリン車、マニュアル車、それが私がマイカーに課す条件である。
 世の趨勢は、電気自動車、オートマチック、自動運転となっている。そんな車は欲しくない。私は、もう車を持つことはないであろう。冒頭に記したのは最近見た夢だ。 


2020年に観た映画ベスト5

2021年01月19日 | 映画みたで

映画はだいたい毎週土曜日の夜、家で観ることがほとんど。たまに映画館に行くこともあるが、小生の映画鑑賞の場は家だ。BSで放送されたものを録画したモノかDVDだ。そのDVDだが、手持ちのモノやツタヤのレンタルを観る。そのツタヤの店がどんどん減っている。以前は、小生の行動範囲に3軒あったツタヤが今は1軒しかない。その最後の1軒も今月閉店。ネット配信にすればいいが、パソコンに取り込んだ映像をテレビに映す方法を知らないし。どうしよう。
それはそれとして、昨年2020年に小生が観た映画のベスト5だ。順不同である。

翔んで埼玉
 なにごとも中途半端はいかん。徹底的にやらにゃ。この映画はその見本。バカバカしいこともこれぐらい徹底的にやると感動する。

舞踏会の手帳
 若くして夫を亡くした主人公。独身のころ舞踏会でダンスのパートナーとなった男たちを記録した手帳。彼女はその男たちを訪ねてあるく。幸せになった。不幸になった。死んだ。いろいろ。

ラストレター
 このSNSやらメールの時代で、想い人に恋文をしたためて想いをおくる。こんな平安時代みたいなことが違和感なく、とってもロマンティック。

キングコング
 2005年版である。ゴジラとともに世界で最も有名な怪獣。コングにあってゴジラにないもの。純愛。この映画もキングコングの純愛映画となっている。

チェンジリング
 たいへんに重い映画である。悲しい映画だ。でも、最後には勝利の爽快感を味わえる。
 

海底軍艦

2021年01月18日 | 映画みたで

監督 本多猪四郎
出演 高島忠夫、藤山陽子、田崎潤、上原謙、佐原健二、平田昭彦、小林哲子

 楽しいな。うれしいな。面白いな。東宝の特撮映画だ。海底軍艦だ。ガギのころにSFもんになったワシ。それからずっとSFもんとして生きておる。恩田陸師匠の常野物語かゼナ・ヘンダースン師匠のピープルシリーズのように、世を忍んでSFもんとして育ってきた。そんなワシが子供のころの一番の楽しみといえば東宝の特撮映画であった。近所の甲南朝日という映画館によく連れて行ってもらったもんだ。
 いろいろ観たが、この映画は特にお気に入りやった。男の子にとって、ものすごく強い兵器はあこがれだ。この海底軍艦は、そんな男の子の夢が具象化したような兵器だ。陸海空自由自在に活動でき、先端にドリルが付いてるから地中も進める。絶対零度にモノを凍らせる冷線砲を装備している。
 1万2千年前に太平洋の海底に沈んだムー帝国。そのムー帝国は太平洋の地下深くで生き残っていた。進化した科学力を持つムー帝国が地上に宣戦布告してきた。植民地になれと。ニューヨークと東京が攻撃された。ムーの潜水艦を追ったアメリカの最新の原子力潜水艦は深海の水圧に絶えられず撃沈。このままでは世界はムー帝国に征服される。
 こうなれば最後の望みは海底軍艦しかない。海底軍艦轟天号。旧帝国海軍の軍人にして天才造船技術者神宮寺大佐が、秘密裏に建造した万能戦艦。神宮寺はこの艦で敗戦国大日本帝国を復活させようと目論んでいた。轟天号はムー帝国と戦うためではない日本のための船だ。と海底軍艦出撃を拒否。しかしかっての上官たちの説得で、ムー帝国攻撃を承認。海底軍艦出撃。そしてムー帝国の心臓部に侵攻。ムーの心臓部を爆破。ムー帝国壊滅。
 ムーなきあと日本が世界の覇者となるであろう。たった1艦でムー帝国を壊滅した海底軍艦を擁する日本に手が出せる国はない。結局、大日本帝国復活という神宮寺の野望は叶うのだろうか。それとも海底軍艦は国連軍の所属になるのであろうか。気になる所だ。

運び屋

2021年01月14日 | 映画みたで

監督 クリント・イーストウッド
出演 クリント・イーストウッド、ブラッドリー・クーパー、ダイアン・ウィースト

 思えばイーストウッドとのつきあいも長い。ワシが子供のころ、テレビで西部劇がよく放送されていた。「ララミー牧場」「幌馬車隊」「ボナンザ」「拳銃無宿」「ローハイド」など。特にお気に入りは「ローハイド」だった。「ローレンローレン」というフランキー・レインの唄声が聞こえるとワクワクしたもんだ。その「ローハイド」の副主人公がロディ・エイツという若いカウボーイ。演じているのが20歳代のイーストウッド。あのころワシは小学生であった。それから幾星霜。イーストウッド90歳。ワシもこないな歳になってしもうた。ケホケホ。イテテテ。しかし、頼りなさそなあのあんちゃんがこないなエライ人になるとは思わなんだ。
 歳をとればとるほど良い映画を創り続けるイーストウッド。その最新作がこの映画である。これもなかなかの良い映画である。
イーストウッドは「人生の特等席」など、近年、家族の問題をテーマにする映画が多い。この映画も家族がテーマといえる。
 園芸家のアール・ストーンはデイリリーの栽培ではかなりの実績を持っている。その仕事に熱中するあまり、娘の結婚式を忘れてすっぽかす。娘にも妻にも愛想づかしされる。農園もネット通販に押されデイリリーが売れなくなった。とうとう差し押さえ。家族も仕事も失ったアールに車を運転するだけでけっこうな報酬の仕事が打診される。OKする。
 簡単な仕事だ。モノをこっちからあっちへトラックで運ぶだけ。想像以上の金をもらえた。アールは鼻歌混じりで運転する。
 そのモノは麻薬であった。捜査官は必死で捜査するが判らない。アールは絶対に事故や違反をしない。90歳の老人が運び屋とは思われない。アールも麻薬を運んでいるとの認識をしているが運び屋を続ける。
 いささか背が曲がってジジくさくはなったが、まだまだかくしゃくとしている。認知症の兆候はまったくない。イーストウッドは驚くべきじいさんだ。アールのやっていることは立派な犯罪であるが、シャンとしているイーストウッドが演じると犯罪をやっているように見えない。
 クリント・イーストウッドまだまだ元気。これから映画を創ってくれるだろう。楽しみなことである。
  

おうむの夢と操り人形 年刊日本SF傑作選

2021年01月05日 | 本を読んだで

大森望・日下三蔵 編        東京創元社

 12年にわたって刊行されてきた、このシリーズも今回が最終巻。なんせ日本で唯一のSF専門誌たる早川のSFマガジンが隔月刊となり、あのていたらくだから、このシリーズは国産短編SFを摂取するには頼りであった。ま、なにごとも終わりがある。この年刊傑作選は終わったが、さいわい東京創元社から「GENESIS」が定期的に出るとか。こんどからこのシリーズをひいきにしてやろうと思う。がんばってください小浜さん。
 さて、今回も分厚く698ページ。19編の作品が収録されている。印象にのこったのを紹介していこう。
「わたしとワタシ」宮部みゆき。わたし45歳のおばさん。ワタシ15歳の女子高生。わたしとワタシは同一人物。こんなおばさんになるのいや。
「リヴァイアさん」斉藤直子。アドバルーン監視員のおにいさんの会話。
「レオノーラの卵」日高トモキチ。レオノーラの産んだ卵は男か女か、それとも。
「検疫官」柴田勝家。ジョン・ヌスレは検疫官。仕事は病原菌を国内に入れないこと。「物語」という病原菌を。
「東京の鈴木」西崎憲。「トウキョウ ノ スズキ」から警視庁にメールが来る。そして事件が。
「四つのリング」古橋秀之。銀、鉄、金、プラチナ。四つの金属のリングを使って地球を救う。
「三蔵法師殺人事件」田中啓文。三蔵法師が殺された。犯人は悟空じゃない。
「スノーホワイト/スノーアウト」三方行成。「鏡よ鏡よ、鏡さん」童話白雪姫。大人の小人も出てくる。
「クローム再襲撃」宮内悠介。ウィリアム・ギブスンのアイデアを村上春樹の文体で書く。
「大熊座」坂永雄一。熊SF。
「『方霊船』始末」飛浩隆。「零號琴」のスピンオフ。
「幻字」円城塔。円城文字SF。
「1カップの世界」長谷敏司。難病少女が冷凍睡眠から目覚めると大富豪になっていた。
「グラーフ・ツェッペリン 夏の飛行」高野史緒。ツェッペリン号が爆発しなかった改変歴史もの。
「サンギータ」アマサワトキオ。ネパールの少女神クマリのキャラが面白い。