ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

その果てを知らず

2020年11月26日 | 本を読んだで

 眉村卓                  講談社

 眉村さんの一周忌を過ぎて一か月ほどだ。おもえば、眉村さんとご厚誼をいただいて半世紀近い。昔は月に一度はお会いしていた。晩年には年に一度は酒席を共にしていただいた。(眉村さんは飲まれなかったが)
 SF作家とSFファンという関係ではあったが、そういう人を亡くした。大きな喪失感を感じている。
 その眉村さんの正真正銘の遺作である。死の直前までこの小説を書かれていた。ラストはご自分でシャープペンシルを持つこともかなわず、娘さんの村上知子さんが口述筆記をしたとのこと。
 人が死を身近に感じるとはどういうことか、重い病気にかかるとは、その病気が死病であるということは。その人が作家であり、なおかつSFを深く愛する作家であるのなら、そういう作家が、生涯でこれが最後の作品だと想い定めて書けばいかなる作品になるか。その正解がここにある。重病でなく、それが死病ではなく、作家であったとしてもSF作家でなかったとしたら、こういう作品にはならなかったであろう。
 そういう意味からも、この作品は眉村さんの真の意味での最後の作品であり、60年の作家人生のピリオドにふさわしい作品である。
 眉村さんは現役の作家のままご逝去された。あらためてご冥福をお祈りしたい。