ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

ヒトラー最期の12日間

2021年09月28日 | 映画みたで

監督 オリヴァー・ヒルシュピーゲル
出演 ブルーノ・ガンツ、アレクサンドラ・マリア・ララ

 映画の冒頭、ドイツ人の老婦人が出てくる。「あの選択は間違っていた」ずいぶん昔のこと後悔しているようだ。老婦人は若いころ、ヒトラーの秘書をしていた。
 戦争。必ず敗戦国がある。第2次大戦では日本とドイツが敗戦国だ。敗戦まぎわ、その敗戦国の指導者は何を考え、何を決断し、どう行動したか。それを描いた映画がある。日本の敗戦まぎわを描いた映画として「日本の一番ながい日」がある。もう一つの敗戦国のドイツの様子を描いたのがこの映画だ。
 大戦中のドイツと日本の一番の違い。ナチスドイツは独裁者がいた。日本にはいなかった。日本は天皇をトップに頂いているが、実質国を動かしているのが、政府と軍だ。日本の場合、天皇も鈴木首相も阿南陸相も、この戦争を終わらせることは必要だとの認識があった。一部の陸軍の将校たちが徹底抗戦を叫んだが。
 ナチスドイツはご存じのようにアドルフ.・ヒトラーの独裁国である。ヒトラー一人が考え決断しみんなに指示を出す。ヒトラーは絶対に敗戦を認めず徹底抗戦を全軍に指示した。ベルリン市中にまでソ連軍が侵攻し、ドイツの反攻は不可能な形勢であることはみんな判っていた。その中ヒトラー一人が反攻は可能だと信じている。一人徹底抗戦を叫んでいる。
 日本は鈴木首相が敗戦を決断して天皇が玉音放送で国民に知らしめた。ヒトラーは最期まで敗戦を決断しなかった。決断しないまま自決した。日本は天皇も鈴木首相も敗戦後も生きていて、阿南一人腹を切った。
 頑迷な独裁者をいただくと国民は大変な苦労を強いられるということが、よく判る。阿南は一人で腹を切ったが、ヒトラーの後継者たるゲッペルスは家族全員で自決した。ゲッペルス夫人が子供たちに睡眠薬を飲ませて眠らせ、一人一人口に毒薬を入れて殺害していく。彼女はいう「子供たちがナチスでない世界で生きていくことは考えられない」子供全員を殺した後夫婦で心中する。
 一つの考えにこりかたまり、それ以外の考えは想像できない。その恐ろしさがよく判るシーンであった。
 戦争の怖さ愚かさ、軍隊という者の身勝手さがよく判った出色の反戦映画であった。


三体Ⅲ 死神永生

2021年09月24日 | 本を読んだで

劉慈欣  大森望、光吉さくら、ワン・チャイ、泊功訳      早川書房

 SFの本質はホラ話である。ホラをいかにもホラでございといったていで書いたんじゃ、ただのホラ話であって優れたSFとはいえない。そうはいいつつも、ホラをホラとして究極までいったラファティみたいな例もあるが。
 筒井康隆師匠も同じようなことをおっしゃってる。「SFの本質はホラである。ハードSFなんてのは、まじめな顔してヨタ飛ばすのである」
 というデンでいくと、この「三体」シリーズなどは大ボラの極致ともいえるSFだ。うるさい古狸SFもん(ワシもそのうちだが)の喝采をあびるのもむべなるかなだ。
 第1巻第2巻とホラは巻を追うごとにでかくなってきて、最終巻のこの3巻目で、とうとう行き着くとこまで行ってしもた。
 太陽系だの三体艦隊など小さい小さい。最初はほんの小さな始まりやった。それがあれよあれよという間に、どんどんでかくなって、最後は全宇宙まで手のひらの上のごとくあつかって、この壮大なホラ話は幕を閉じる。


スパイの妻

2021年09月21日 | 映画みたで

監督 黒沢清
出演 蒼井優、高橋一生、東出昌大

 最初は凡作かと思った。それでもわが故郷神戸が舞台の映画だから観ていた。どっかで見た建物や風景が出てくる。
 冒頭、陸軍の将校が貿易商社の社長福原優作にあいさつに来る。将校と優作は親しいらしい。将校は優作に西洋趣味の生活は慎むようにとの忠告をする。その雄作が映画を撮影している。妻の聡子が女優として出演。この映画、どうも優作が趣味として撮影しているらしい。将校と福原夫婦の関係、映画、この二つが後半の大きなカギとなる。
 優作が甥の文雄を伴って満州へ行って、謎の女と同じ船で帰国してからが、面白くなってきた。その女が死ぬ。どうも優作、文雄、謎の女の三人は、国家の重大な秘密を知ってしまったらしい。その証拠品のノートとフィルムは優作が持っている。妻の聡子もそれを知る。
 国家機密か人類普遍の正義か。優作は決断し、聡子はどこまでも優作についていく決心をする。
 とんでもない夫を持ってしまった妻。しかも困ったことに妻は夫を深く愛している。夫は本当に自分を愛しているのか?夫は敵国のスパイなのか?かようなことに、翻弄される妻を蒼井優が好演。その蒼井の好演を夫役の高橋が、見事な「受け」の演技をする。脚本、演出、主役二人の演技、映画の重要な要素が極めて高い水準に達した映画といえよう。 

折りたたみ北京

2021年09月17日 | 本を読んだで
ケン・リュウ編 中原尚哉・他訳       早川書房

 いま、最も元気なSF生産国は中国だ。その中国SFの短編を、デッド・チャンとならぶ中国系SF作家のトップランナーケン・リュウが厳選した短編集である。7人の作家、13の短編、それにエッセイが3本収録されている。収録されている作家と作品は以下のとおり。

陳楸帆
  鼠年
  麗江の魚
  沙嘴の花
夏笳
  百鬼夜行街
  童童の夏
  龍馬夜行
馬伯庸
  沈黙都市
郝景芳
  見えない惑星

  折りたたみ北京
糖匪
  コールガール
程婧波
  蛍火の墓
劉慈欣
 円
 神様の介護係

 あと、エッセイが3本収録されている。

 しかし、まあ、なんですな。少し前まで、海外のSFアンソロジーというと、ディックとかティプトリー、エリスン、などとカタカナが並んだもんやが、今はこうして漢字の名前が並ぶんですな。隔世の感がありまする。
 どれも面白かったが、三体の劉慈欣の2編が特に面白かった。
「円」王を暗殺に来た刺客は学者。刺客ではあるが王を尊敬する。王に命じられる。円周率を10万桁まで計算せよ。300万の兵士を与えられる。人間一人一人を素子とするコンピュータを創る。
「神様の介護係」宇宙から「神」がやって来る。各家庭で「神」をめんどうみることになった。
 あと、表題作の「折りたたみ北京」「沈黙都市」「コールガール」が面白かったな。
 

喜楽館名人寄席

2021年09月16日 | 上方落語楽しんだで
 長年の上方落語ファンのワシは月に一度は生の落語を聞かないと禁断症状が出る。と、ここでふと気がついた。落語は「聞く」でいいんだろうか?落語家は高座でしゃべるだけではなく、所作でも噺を表現する。というと、落語を「見る」でええんやろか。それでも片手落ちのような気がする。「聞く」「見る」をひと言で表現する言葉はないんやろか。
 以前は月に一度、「もとまち寄席恋雅亭」があったが、のうなった。それから、この新型コロナ騒動。ワシもワクチン接種の2回目もすんだし、禁断症状もだいぶん重症になったので、12日の日曜日、ごっつい久しぶりに生の落語を「聞きに」「見に」行ったというわけ。
「喜楽館 名人寄席」という落語会。会場はハーバーランドの松方ホール。「喜楽館 名人寄席」なのに、なぜ喜楽館ではなく松方ホールなのか?これひとつのふしぎ。
 さて、トップバッター林家染八さん。東の旅シリーズの「軽業」例の「いっけんのおおいたち」が出てくるやつ。まくらで染八さん、江戸落語と上方落語の違いを解説。江戸落語はお座敷芸、屋内でやる芸。上方落語は大道芸、野外でやる芸。道を行きかう人の足を止めるため、見台を置いて小拍子をカチカチならし、鳴り物を鳴らしてにぎやかに演じる。と、いうことで、今日ははめ
ものがようけ入る噺をやります。ちゅうことで「軽業」良いネタ選びやった。
 2番手は桂あおばさん。「脱ぐんやったら、初めから着てこんかったらええのにな」といいつつ羽織を脱ぐ。これはあおばさんの師匠桂ざこば師匠の常套句。師匠直伝のつかみである。まくらは大阪の西成ネタ。西成ではなんでも路上で売ってるそうな。本も売っている。まともな本ではない。
「釜なしで飯を炊く方法」「電気を使わず明かりを持つ方法」「若い女の子にキャーキャーいわれる方法」なんてことが書いてある。そう、あおばさんは「秘伝書」をやらはった。
 3番手は桂三ノ助さん。創作落語の大家桂文枝師匠のお弟子さん。三ノ助さんは、文枝師匠が三枝時代に創らはった創作落語「鯛」でご機嫌をうかがいはった。
この噺には人間は出て来まへん。登場人物(魚)はすべて鯛です。いけすの中で網ですくわれるの待って、すくわれたら活造りにされる。鯛にとってはずいぶん残酷な噺やが、残酷さを感じさせないように演じるのがだいじ。これは魚や人間やないと客に思わせなあかん。その点は三ノ助さんは合格やった。
 さて中トリは笑福亭松喬師匠。西宮生まれの松喬師匠は、阪神ファンやのうて阪急ファンにならはった。いまは亡き阪急ブレーブスやな。そやから今はオリックスバッファローズやそうです。と、いうことでまくらでオリックスを中心にパリーグ愛をたっぷり。松喬師匠の演目は「二人くせ」でした。
 中入りとなりました。ここ松方ホールは4階。広いベランダに出れます。場所がハーバーランドですから、港と造船所が見えて気持ちがええ。川崎の造船所でしょう。大きなガントリークレーンが並んでます。ワシは造船所には造詣が深いんや。お鉄ちゅうのんがおるけど、ワシはお船や。造船所マニヤやで。
 中入り後の最初は、5代目文枝一門の実力派桂かい枝さん。まずは夫婦ケンカのまくらから。夫婦がケンカして始まる噺。「天狗裁き」やろかと思うたら違った。「堪忍袋」やった。おとなしげなお嫁さんが堪忍袋を借りに来る。なんの不足もないやろと思う幸せそうなお嫁さん。堪忍袋を開けて「死ねえ。くそばばあ」大爆笑です。
 さて、トリ前は笑福亭智之介さん。マジックをやらはった。落語家の余芸ではなく智之介さんはプロのマジシャン。落語もできるマジシャンでありマジックもできる落語家なのだ。
 さて、トリは桂文之助さん。「星野屋」をやらはった。心中もんです。たいへんにトリッキーな噺やけど、さすが文之助さん。オチまで噺は自然にながれていった。
 いやあ、久しぶりの生の落語や。落語はやっぱ生で聞く/見るもんですな。


焼き鳥

2021年09月12日 | 料理したで

 ひさしく外に飲みに行ってない。このコロナ騒動が始まる前は月に一度は大阪でSFのお仲間と飲み会をやっていたが、神戸市民のワシは県境を越えて大阪に行くことは自粛してるのだ。
 そういうわけで自宅で焼き鳥をやった。炭火で焼けばおいしいことは判っている。以前は、炭火で自宅で焼き鳥をやったことがある。煙もうもう。酸欠で息苦しくなるは、火災報知器が鳴るわ、もうたいへん。炭火料理は屋内でやってはあかんのだ。いずれ、子の1365番があたるから、苦楽園か六麓荘に大豪邸を建てたら、広大なお庭で炭火焼き鳥をやろうぞ。
 電子レンジのグリル機能、ガスレンジの魚焼きグリル、フライパン。三つの加熱方法を駆使して焼き鳥を仕上げた。
 野菜はナス、椎茸、とうもろこし。左の皿の下はもも肉。今回はタレじゃなく塩でいただく。鶏もも肉はよくネギといっしょに串に刺してるが、野菜と肉は加熱具合が違う。それを同じ串で焼くのは不合理。ワシは肉と野菜は全く別に焼く。左の上は砂ズリ。こりこりした歯ごたえでワシの大好物。左の皿の右端はむね肉。ねり梅をつけてしそで巻いて食うとうまい。右の皿の肉は皮だ。ようけ食う健康診断の中性脂肪の項目にひびくぞ。ビールだ。

 星群の会ホームページ連載の「SFマガジン思い出帳」が更新されました。どうぞご覧になってください。

最後に出るんや

2021年09月10日 | 作品を書いたで
 神戸新開地ええとこ亭。ぼくのきょうの仕事場や。
神戸の新開地。かっては神戸、いや関西一の繁華街としてにぎわい、「東の浅草西の新開地」といわれたもんや。その後、神戸の中心地は東の三宮に移り、新開地はさびれてしもた。そして神戸の定席寄席の神戸松竹座ものうなったし、新開地の旗艦映画館とゆうてもええ聚楽館も閉じた。
 その新開地も地元の人たちの努力が実り、かっての賑わいを取り戻しつつある。そして二〇一八年松竹座閉鎖から四十二年ぶりに上方落語の定席がオープンした。それがここ、神戸新開地ええとこ亭ちゅうこっちゃ。かって聚楽館は「ええとこええとこ聚楽館」といわれた。それにちなんだネーミングや。
 ええとこ亭入り口で鳴っていた一番太鼓が終わり、二番太鼓も終わった。ぼくの出番や。石段の出囃子で高座へ上がる。
「石段」上方落語では前座専用の出囃子や。石段を上るように早く出世するようにというこっちゃ。ぼくも早く「石段」ではなく、ぼく専用の出囃子で高座に上がりたいもんや。
 見台ひざかくしの前に座る。目の前の幕が上がる。小拍子をパンと叩く。
「ようこそのお運びで。トップバッターはわたし欅小燕があい務めます」
「こんちは」
「お、こっち入り」
 きょうは「つる」をやる。こないだは「動物園」をやった。なんせ、ぼく、この二つと「時うどん」など前座噺を五つできるだけ。
「で、メンがどないしたんや」
「メンがだまって飛んできた」
 下げをいって下手へ下がる。幕はそのまま。お茶子さんがめくりをめくる。笑艶亭鷹三。笑艶亭の中堅鷹三にいさんの出番や。
 ぼくのとりあえずの目標は幕が開いた状態で石段以外の出囃子で高座に上がること。
ぼくは人間国宝欅麦秋師匠のひ孫弟子にあたる。ぼくの師匠の師匠三代目欅燕雀は浪速の爆笑王といわれたけど、癌で早世、師匠が四代目を継いだ。四代目燕雀師匠に入門して五年目や。
 師匠の叔父、三代目燕雀師匠の弟弟子で欅麦秋師匠の最後の直弟子欅麦助師匠がこのたび欅麦六を襲名することになったんや。麦六は麦秋師匠の俳号や。麦助師匠も俳句をやる。
「渡り鳥 串を打たれて 酒のあて」
 と、いう句がある。その麦助師匠が尊敬する師匠の俳号を襲名することになったんや。今後は高座に上がるときはもちろん、俳人としては二代目欅麦六と名乗らはるそうや。
 その二代目欅麦六襲名披露公演に出演を頼まれた。燕雀師匠ももちろん中トリで出はる。
「小燕、ワシの前やってえな」
 師匠からいわれた。師匠は中トリやから、ぼくの出番は二番手ということになる。やったあ。初めて幕があいたままの高座に上がれる。なにをやろう。「つる」や「動物園」といった前座噺ではのうて、もう少し重い目の噺がええな。二代目欅麦六襲名披露公演は、全国をめぐって十一ヵ所で行われるけど、ぼくは八月の兵庫県の芦屋での出演を頼まれた。
 セレブな街で知られている芦屋の芦屋川のほとりにある芦屋スターホールでの口演だ。このホールでは毎年四月麦秋師匠のご長男の五代目欅麦団治師匠が独演会をやらはる。いま、その麦団治師匠に「青菜」の稽古をつけていただいている。「青菜」は夏の噺や。「青菜」をやろう。
「うん。ええやろ」
 麦団治師匠の前で、「青菜」をとおしでやった。
「ほな、師匠、八月のスターホールでやってもええですか」
「ええで」
「ありがとうございます」
「ところでな、お前もそろそろ石段やのうて、出囃子なにがええか考えとき」
 噺家の出囃子はだいたい決まっている。桂米朝師匠は「三下がりかっこ」三代目桂春団治師匠は「野崎」やった。自分の好きな音楽を出囃子にしてもええんや。笑福亭仁智師匠は「オクラホマミキサー」笑福亭鶴笑師匠は「ハリスの旋風」を出囃子にしてはる。ぼくの出囃子は。

「震えるつま先高鳴る鼓動」
リンドバークの「every little thing every precious thing」だ。
元阪神タイガースの守護神藤川球児投手の登場曲だった。この曲が鳴るとぼくたち阪神ファンは勝利を確信したもんだ。
 幕があいた高座に上がる。ぼくも藤川投手みたいに最後に高座にあがれるようになるんだ。
 



ダイヤルMを廻せ

2021年09月09日 | 映画みたで

監督 アルフレッド・ヒッチコック
出演 レオ・ミランド、グレース・ケリー、ロバート・カミングス

 元テニスプレーヤーのトニーは妻殺しを企てている。妻マーゴはアメリカ人の推理作家マークとできている。どうもマーゴはトニーと別れてマークといっしょになりたいようだ。マーゴは金持ち。離婚されたら困る。なんとかマーゴの全資産をわがモノにしたいトニー。もう夫婦間は冷えている。マーゴが死ねば金は全部俺のもんだ。
 トニーは学生時代の同級生スワンを計画に引き込む。素行が悪いスワンの旧悪をあばきたててマーゴ殺しを請け負わせる。
 スワン、マーゴの首を絞める。苦しまぎれにマーゴはスワンの背中を刺す。スワン死ぬ。正当防衛が認められず、殺人罪でマーゴは死刑。
 これでマーゴは死んで財産は俺のモノだ。ところが天網恢恢疎にして漏らさず。トニーの犯罪が立証される。
 グレース・ケリーがたいへんにきれい。きれいすぎる。だからこの映画のグレース・ケリーはミスキャストだと思う。いくら浮気してても、あんなきれいで金持ちの奥さんを殺そうとおもうだろうか。ラストのトニーの犯罪の立証のくだりはミステリーとして良くできているが、こんなきれいな人が死刑になるのか。かわいそう。と、いうことに気がいってしまう。グレース・ケリーはミスキャストだ。

黒い十人の女

2021年09月06日 | 映画みたで

監督 市川崑
出演 船越英二、山本富士子、岸恵子、宮城まり子、岸田今日子

 女護が島の番頭になったよう。ある種の男の理想的境遇だろう。大勢の美女に囲まれて暮らす。ワシはそんなん、暑苦しくてごめんこうむりだが、期せずしてそないな境遇になってしまう男が、この映画の主人公。
 風松吉には本妻も入れて10人の女がいる。妻と愛人9人というわけ。この10人、それぞれの存在も松吉の行状も知っている。その愛人9人、妻双葉が経営する店に集まる相談がまとまる。なにを相談して、店でなにをするか。
 この女10人、双葉をリーダーに不思議な結束力を持っている。共通認識は松吉さんも困った人だ。松吉さんをどうしよう。だれいうともなく「殺しちゃうか」ということになったわけ。
 山本、岸、宮城の3女優の演技合戦となって、たいへんに面白い。日本の美人の代名詞のようにいわれていた山本富士子。きれいなだけではなくたいへんに上手い女優ということがよくわかった。
 松吉役の船越はまさに適役。人当たりは柔らかくだれにも親切。それが特に女性に特に親切。松吉は意図的になんぱしようよしているのではないだろう。自然と接触した女性とくっついてしまうのだろう。彼は女難の男ともいえる。